「人生100年時代」に向けた老後資金の設計

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「人生100年時代」に向けた老後資金の設計

ここ最近、「人生100年時代」という言葉を目にしたり、耳にしたりすることが増えてきました。

寿命が延びることは結構なことですが、その分想定している老後のための貯蓄額も増えることになります。現役世代はこの「長生きリスク」にどう対応していけばよいのでしょうか。

人生100年時代

そもそも「人生 100 年時代」とは、リンダ・グラットン氏共著の『WORK SHIFT (ワーク・シフト)』『LIFE SHIFT (ライフ・シフト)』という本の中で提唱されたキーワードです。ベストセラー本ですから、お読みになった方、興味を持たれた方も多いのではないでしょうか。

リンダ・グラットン氏は「ライフシフト」の中で、「2007年に日本に生まれた子どもの50%は107歳まで生きる」「生まれてくる子供たちの半数は、100歳以上の人生を生きる」と紹介しています。

実際、厚労省が出しているデータをみても、日本の寿命は純粋に延びていますが、この寿命が延びていることと、社会のしくみの間でミスマッチが生じ始めています。そのミスマッチが、現役世の代(私たち)将来に、かなり大きな影響を与えるだろうとクローズアップされ、内閣府、経産省なども「人生100年時代」を意識するようになっています。

ただ、人生100年時代と言われても、現役世代にとっては、日々の生活が忙しく、老後やその先のことを考える余裕はなかなかないかと思います。しかしながら、「100年生きること」と向き合わなければならなくなっています。

男性は4人に1人が、女性は2人に1人が90歳まで生存する。

突然ですが、皆さんのまわりに100歳に近い方はいらっしゃいますか?

というのも、私の周りには100歳に近い方がいらっしゃらないので、「人生100年時代」って言われても正直なところ、半信半疑なのです。

高齢化社会

そこで、まずは厚生労働省のデータ「平成29年簡易生命表」で「人生100年時代」が現実の話なのか調べてみました。

▼(図表1)90歳・95歳まで生存する人の割合は?

厚生労働省「平成29年簡易生命表の概況」より作成

平成29年簡易生命表の概況

図表1は、65歳まで生きた人が90・95歳まで生存する割合を示した厚労省の調査結果です。

データによれば、男性は4人に1人が90歳まで、女性の場合はさらに長寿で、4人に1人が95歳まで生きることが予測されています。これからも日本人の寿命は延びていくそうですから、私たち現役世代の将来は本当に「人生100年時代」と言えるのかもしれません。

平均寿命推移

かつて、人生は80年時代と言われ、55歳で定年を迎えるのが当たり前でした。

その後、1986年の高年齢者雇用安定法で60歳定が努力義務化になり、定年年齢が60歳まで引き上げられています。現在は、高年齢者雇用安定法の改正によって60歳まで雇用されていた人は、希望すれば65歳までは継続雇用制度により働く機会を得ることができるようになっています。

「人生80年時代」であれば、余生は20年くらいと考え、老後設計モデルは「60歳で定年退職」→「65歳まで再雇用で働く」→「65歳から年金生活」という単線的なシングルステージの人生でも十分対応可能だったわけです。

そのため、現在の一般的なマネープランニングは、「定年を迎える65歳までに老後資金としていくら準備しておくべきか」という考え方が主流となっています。

しかしながら、人生100年時代に突入すると、定年後は35年もあります。

「100年なんて冗談じゃない!」と思われる方も中にはいらっしゃるかもしれませんが、今の現役世代は、昔に比べるとはるかに「長生きする可能性」が高く、安心して老後を暮らしていくには最低でも90歳、場合によっては100歳まで生きることを前提にした老後資産準備が必要になりそうあなのです。

親世代の発想のままだと、「寿命が延びた分たくさんお金を準備する」となりますが、ほぼ現役時代と変わらない年数を公的年金と貯蓄だけで生き抜くのは相当厳しいでしょう。

今までのように、寿命が延び「長生きするようになった分、たくさんお金を準備する」ではなく、「長生きするようになったからお金の準備のやり方を変える」へ発想を大きく転換していく必要があるのではないでしょうか。

年金生活30年で、必要な貯蓄額は3,000万円以上!?

寿命が延び「長生きするようになった分、たくさんお金を準備する」ではなく、「長生きするようになったからお金の準備のやり方を変える」とはいったいどんな方法がよいのでしょうか。

年金

まずは、一般的な老後設計モデルで考えてみたいと思いますが、「長生きするようになった分、たくさんお金を準備する」のであれば、老後資金としていくら必要になるのでしょうか。

▼一般的な老後設計モデル

一般的な老後設計モデル

老後にいくら必要か?については、金融機関や保険会社、ファイナンシャルプランナーが様々なケースで試算していますが、一例として、三井住友信託銀行さんの2018年の試算によると、夫婦ともに健康な世帯でおおよそ2,200万円になるそうです。(生存年数30年の場合)

ちなみに、この金額は現行の年金制度を前提とした試算結果だそうで、公的年金の見直しによって年金給付額が引き下げられれば、準備すべき老後の生活資金は3,000万円まで増加するとのこと。(所得代替率62.7%→50%に引き下げの場合)

つまり、生存年数30年として、我々は定年時点までに、現行の公的年金制度下では、2,200万円、年金給付額引き下げが実施された場合は3,000万程度を準備する必要がある、ということになります。

お勤め先に退職金制度があるかないかにもよりますが、もし退職金制度がない場合、22歳の新卒からまじめに貯蓄したとしても(利息等は考えずに)毎月6.5万円を積立しないと3,000万円には届かない計算になります。

少しでも増やすために「投資」をすればよいか、というと必ずしもそうではないようです。

40代以下の老後資産形成に赤信号?

とある信託銀行のレポートによると、夫婦ともに健康な世帯で準備すべき老後の生活資金はおおよそ2,200万円、将来的に年金給付額引き下げが実施されると3,000万程度を準備する必要があるとか。(生存年数30年)

赤信号

さて、同レポートによると、現在のリタイア層である60~70代の貯蓄残高は、何とか2,200万円の水準をクリアできているそうです。

むしろ、問題なのは現在の30代~40代で、貯蓄残高が2,200万円に到達しないまま、年金生活に突入する可能性があるのだとか。

なお、2,200万円という額は、現行の公的年金制度が維持された場合、かつ夫婦ともに要介護状態にならないという前提ですから、本当に最低必要な金額が超えられない30~40代が多発する可能性がある、ということになります。

なぜこうも40代以下の世代の資産形成が進んでいないのか?というと、「貯める」ことと「増やす」こと両方の環境に要因があるそうです。

まず、賃金の伸び悩みや、税・社会保険料の増加によって、今は昔よりも可処分所得が減っているので、これが30代~40代の「貯める」を阻む要因となっているのです。

それに加えて、資産運用が期待できないという運用環境が「増やす」の足を引っ張っており、「貯める」ことができず、「増やす」こともできないという状況なのだと、レポートされています。

確かに、現在60代以上は、資産形成期にあたる30代~50代のころに、過去に株高や高金利、不動バブルを経験しています。今の若い人には信じられないかもしれませんが、日経平均が3万8千円を超え、郵便局の定額預金が8%で回った時代がありました。10年物定期に預けると、文字通り100万円が200万円になった時代です。

一方で、現在40代以下の世代は、資産形成期に入ったのが概ね2000年以降のため、超低金利環境。預貯金による資産増加は期待できず、長期保有を視野に入れた株式や投資信託での運用が資産を増やす数少ない選択肢となっています。

賃金の伸び悩みと税・社会保障負担の増加で「貯める」ための原資が十分でないうえ、低調な運用環境により「増やす」こともままならず、退職金や親から受け取る遺産の減少で「ラストスパート」も簡単ではないなど、現在30代~50代の世代は資産形成が非常に困難な環境下にあるといえます。

さらに予想以上に長く残された余生があるとなれば、既にリタイアしている世代と同じような老後準備のやり方では、老後の生活資金の確保は非常に困難を極めます。

では、現役世代はどのようなマネープランで対応していけばいいのでしょうか。

目指すは阪神タイガーズの「JFK」?

筆者は野球に詳しくないのですが、かつてプロ野球の阪神タイガーズには「JFK」、ロッテには「YFK」という盤石なリリーフ陣がいたそうですね。

老後の資産形成の考え方でも、この阪神の「JFK」を参考にしたほうが良いのだとか。

野球

阪神の「JFK」とは、2005年シーズンにおける阪神の岡田彰布監督が、セットでリリーフ起用した3人の投手の頭文字(ウィリアムス、藤川・久保田)からきているそうです。このシーズンの阪神は、試合中盤までに先行し、残り数イニングをこの3投手の継投で逃げ切るという勝ちパターンを作り上げ、その年の優勝を果たします。

私は、偉大なる先発三本柱、槙原・斎藤・桑田の90年代巨人で野球知識が途切れているので、投手は、先発完投を目指し、中継ぎはやや格下扱いという印象を持っていたのですが、いまや鉄壁のリリーフ陣次第でペナントの行方を左右するほど重要視されていることを知りました。

最近では、国・会社・個人の年金制度を野球の「JFK」継投策にたとえて、長く働く (Work longer)、私的年金 (Private pensions)、公的年金 (Public pensions) の「WPP」 で行くべきだという方もいらっしゃいます。

継投モデル

「WPP」の戦略で最も重要だと筆者自身が考えるのは、これまでのような、65歳で定年し、公的年金と貯蓄などで終身まで持たせるという考えではなく、まず長く働く、ということです。

長く働くことができれば、たとえ高額でなくとも勤労収入を得ることによって家計は安定します。人によっては老後資産の積み増しも可能となります。

そして、できる限り公的年金の受給開始年齢を繰り下げる(遅らせる)ようにします。公的年金の受給開始年齢を繰り下げることにより、年金額を増やすことが可能だからです。

原則65歳の支給開始年齢を1ヵ月遅らせるごとに0.7%増額、年間8.4%を5年間(70歳まで)繰り下げることで年金額が約42%増加となりその金額は一生続きます。
※70歳まで繰り下げた場合と65歳受給と比較し、受給期間12年前後が損益分岐点となる。また、割球年金(およそ年額40万円)受け取りに支障が出るケースには注意が必要。

それでも公的年金を貰い始めるまでに「空白期間」が発生することもあるので、就労期間を長くすることと、セットアッパーとして、退職金や貯蓄のほか、確定拠出年金など税制優遇の手厚い制度である確定拠出年金などで不足を補いつつ、最後の抑えとして繰り下げ増加した公的年金で逃げ切る、という戦略です。

もちろん、公的年金の繰り下げルールが将来的に変わる可能性がゼロではありません。また個々のニーズ(住宅ローンの返済等)やライフプランなどの要素も絡んでくるため、唯一絶対の正解ではないですが、「WPP」の3本柱による継投で老後に備えるという考え方は、「長生きするようになったからお金の準備のやり方を変える」方法の一つとして、少し考えを巡らせてみてもよいのではないでしょうか。

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江六前 加代子
コンサルタント株式会社ネクストプレナーズ
【退職金・企業年金コンサルティングサービス担当】 新規制度構築だけでなく,企業年金制度を使った退職金制度の見直し支援をしています。長年DC投資教育に携わり,気付けば200社以上の講師実績を持っていました。退職金や企業年金に関するお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

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