【解説】労働基準法の概要と変遷

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労働基準法 - 【解説】労働基準法の概要と変遷

「働き方改革」という言葉が浸透し、2019年4月1日(一部の中小企業は2020年4月1日)から、働き方改革関連法案が順次施行されています。

働き方改革関連法案とは、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できるような労働社会を実現するために、長時間労働の是正、さらには雇用形態に関わらない公正な待遇の確保等を定めた関連法案ですが、その中心となる法律が「労働基準法」です。

人事担当者は日常的に労働基準法に関わっていますが、その一部分は理解しているものの、全体についてはあいまいになっている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は労働基準法の概要について紹介していきたいと思います。

労働基準法の概要

労働基準法とは、労働条件に関する最低基準を定めた法律で、国家公務員等一部の方を除いて日本国内のすべての労働者に原則適用されます
日本の民法では「契約自由の原則」を基本原則としていますが、労働基準法第13条は「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。」とし、強行法規的な性格を有しています。

労働法とは

労働に関する法律、雇用に関する法律を総称して「労働法」と呼んでいます。
具体的には以下のような法律です。

・労働基準法
・労働組合法
・労働関係調整法
・最低賃金法
・男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
・育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)

中でも労働基準法は、各種の労働法の中でも最も重要かつ基本的な法律です。

労働基準法の内容

労働基準法は13章にわたって労働条件の決まりについて定めています。原則のみ示して、詳細は他の法律の定めに依っている章もありますが、ここでは、その基本的な規定について紹介します。

1章 総則

労働基準に関する最も基本的な事項が定められています。労働者と使用者は対等であること、憲法上の平等権(国籍・身分・男女等の差別の禁止など)や強制労働の禁止などが定められています。

2章 労働契約に関すること

労働契約上明示しなければならない事項(契約期間、賃金、労働時間など)や解雇に関する事項が定められています。

3章 賃金に関すること

いわゆる賃金支払いの5原則(通貨で、直接、全額を、毎月、一定の期日を定めて支払う)について、また休日出勤の賃金などについて定められています。

4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇に関すること

労働基準法上最も重要で、改正が多い事項で、週40時間の労働時間、年次有給休暇の取得、時間外労働の取得上限、また時間外労働をさせた場合の割増賃金のルールなどが詳細に規定されています。

本規定を超えて労働者に労働をさせる場合は労使間協定である「36(さぶろく)協定」(労働基準法第36条に基づく協定であることからこう呼ばれる)を締結しなければならない、という有名な規定も労働基準法の中心的な規定です。

5章 安全及び衛生に関すること

労働者の安全及び衛生に関しての記載でしたが、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に定めることにより削除されました。

6章 労働者に関すること

年少者、妊産婦の労働(労働時間の制限等)に関する規定です。

7章 技能者の育成に関すること

技能者を育成するという理由で、強制労働やパワハラの禁止等について規定です。

8章 災害補償のこと

業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合の使用者の責務に関しての規定です。

9章 就業規則に関すること

社内規程の中でも特に重要性の高い就業規則ですが、労働基準法によって作成・届出が義務付けられる会社の基準、そして就業規則に定めなければならない事項が規定されています。

10章 寄宿舎に関すること

労働者が会社の寮などに住んだ場合、私生活の自由を侵してはならない等の規定です。

11章 監督機関に関すること

いわゆる労働基準監督局に関する規定です。

労働基準法は上記の通り、労働基準に関するルールを包括的に定めています。
参考:厚生労働省・労働基準法

労働基準法の変遷

労働基準法2 - 【解説】労働基準法の概要と変遷

労働基準法は昭和22年に制定された、歴史のある法律です。太平洋戦争敗戦後間もないころ、日本の産業復興に向けて制定された労働法の中でも基本となる法律でした。

当初は、主な内容として、労働時間は週48時間、割増賃金は2割5分以上、そして労働時間が不規則になりやすい職種のための変形労働時間制(4週間を平均として週48時間以内の労働)が定められるにとどまるものでした。

しかし、労働基準法はグローバル化の到来、情報化社会の発展に伴い、時代の要請に合わせてその姿を変えていきます。改正点の多くは、労働時間に関する点と賃金に関する点です。

以下では労働基準法の変遷について、主な改正点とその時代背景をご紹介します。

昭和62年改正

労働基準法が大きく変わったのは昭和62年です。このころまでは、週休2日制という言葉もなく土曜日も「半ドン」(午前のみ出勤)だった、と聞くと懐かしい方も多いでしょう。
学校も土曜日が休みではありませんでした。国際社会の中で、「日本人は働きすぎだ」と言われるようになったのはこのころからです。

また、日本の産業構造が長い時間を経過するうちに変化し、第三次産業従事者の割合が高くなってきたことに起因して、フレキシブルな労働時間制の採用が必要になってきたのです。

第三次産業従事者の中には、ホテル・旅館の労働者など繁閑期がはっきり分かれている業種もあれば、外交セールス・研究開発者・放送番組の企画担当など、個人の裁量に委ねられる業務に携わる方も多くなってきました。

このような業務にあたる人に対しては、適切な労働時間の算定方法を適用すべき、というように法改正がなされました。

具体的には、労働時間週40時間制に向けた各種政令等の整備、一週間単位の非定型変形労働時間制の採用、事業場外、裁量労働についての労働時間の算定に関する規定、またフレックスタイム制の採用などが認められました

平成5年~平成15年改正

その後、平成5年、平成10年、平成15年と労働基準法が改正され、段階的に労働時間の短縮や裁量労働制の拡大の措置が定められました。労働時間週40時間制は昭和62年改正では段階的な移行を示しただけでしたが、平成5年になって本格的に施行されたといえます。

平成時代に入り、さらなるグローバル化が進展し、労働時間について諸外国と比べられることが多くなったこと、日本人の労働時間は長いが、労働生産性は低い、との指摘を受けるようになったことも労働時間に対して厳しい目が向けられる要因となりました。また、情報化社会の発展、インターネットの発展も著しく、作業の効率化が今までにないスピードで進んだことも、労働法制を変えるきっかけとなっています。

平成20年改正

平成20年代に入り、労働法制の改正のポイントは諸外国との違いに目を向けた不均衡の是正ではなく、国内の人口構造の変化、および男女の労働に対する考え方の変化を要因とするものになりました。

少子高齢化により労働者人口が減っていく中で、子育て世代の男性を中心として、労働以外の時間を確保しながら働く環境をつくることが、女性の負担軽減や社会進出を後押しすることにつながるとの意見が尊重されました。

このような背景から、1か月に60時間を超える時間外労働に対する割増賃金を2倍(中小企業を除く)にし、残業を極力減らすための取り組みが随所にみられるようになりました

働き方関連法案における労働基準法の改正点

以上のように時代の流れとともに労働基準法は変遷していきましたが、平成30年ごろになって社会問題化したのが、「労働環境におけるストレスの増大」「過労死の問題」「労働者の自殺問題」です。

度重なる改正にもかかわらず、実効性に乏しい法制であった労働基準法は、「働き方改革関連法案」とともに、より強行的な法律に変化しています。

これにより、大企業や経営者のマインドも大きく変化したといっていいでしょう。
具体的には以下のような事項が各種労働法によって規定されています

・(労働法制で初めての)罰則付きの残業時間の上限規制
・年次有給休暇の確実な取得
・中小企業も1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金を50%
・勤務間インターバル制度の設置
・過剰な長時間労働を理由とする健康障害防止措置の強化
・高度プロフェッショナル制度の創設

労働基準法改正による実務への影響

これら労働基準法の改正は、人事担当者への実務的な影響は大きいです。労働基準法の変革と動向は、人事担当者が日頃から気にしておくべきことでしょう。また、勤務時間の客観的な把握については今まで以上に厳格に対応することが必要になるでしょう。

年次有給休暇の取得については、各部署の上席者と密にミーティングを開催するなど、業務に支障をきたさないことが必要になります。また、就業規則や36協定についても、新法制に適合しているか、今一度チェックする必要があります。

労働基準法は、社会問題の勃発、国際的な潮流、産業構造の変化など、いろいろな情勢を反映して改正されるものです。

労働基準法を知ることは人事担当者のプロになるための第一歩といえるでしょう。改めて労働基準法についてその内容を確認してみてはいかがでしょうか。

また、労働基準法と併せて確認しておくべき法律として、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)があります。
2020年の改正により、企業にてパワハラ防止策を講じることが必要となりました。大企業では既に2020年6月から義務付けられており、中小企業においても2022年4月から義務付けられますので改めて確認しておくことが望ましいです。
労働施策総合推進法については以下の記事で解説しています。

【解説】労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要と変遷 | 働き方改革サポ
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)とは、職場におけるパワーハラスメントを防止するための措置を企業に講じさせる法律です。2020年の改正では、企業がパワハラ防止措置を講じることが企業の義務となりました。今回の記事では、労働施策総合推進法の概要、変遷等、本法律の基本について解説いたします。
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働き方改革サポ編集部
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