退職金制度の見直し方|基本給連動型からポイント制へ移行する手順と注意点

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退職金

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賃上げのたびに退職金の見込額が膨らむ、評価や貢献が退職金に反映されない。基本給連動型の退職金制度に、こうした悩みを抱える中小企業は少なくありません。本記事では、ポイント制への移行を検討する人事責任者向けに、仕組みの違い、現状把握から規程改定までの手順、従業員の不利益変更に関する法的な注意点を整理します。

退職金制度を見直す企業の実態

厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は74.9%です。企業規模別にみると、100~299人の企業は84.7%、300~999人の企業は88.8%となっており、従業員50〜300名規模の企業の多くが何らかの退職給付制度を持っています。

制度の形態をみると、退職給付制度がある企業のうち「退職一時金制度のみ」が69.0%、「退職年金制度のみ」が9.6%、「両制度併用」が21.4%です。退職一時金制度の支払準備形態(複数回答)では、「社内準備」が56.5%、「中小企業退職金共済制度」が42.0%となっています。出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」退職給付(一時金・年金)制度。

同じ調査では、退職一時金制度について過去3年間に見直しを行った企業が7.9%、今後3年間に見直しを行う予定がある企業が6.7%でした。見直しを行った企業の見直し内容(複数回答)には、「新たに導入又は既存のものの他に設置」が30.0%、「支給率の増加」が21.3%、「算定基礎額の算出方法の変更」が17.8%などがあります。見直しに着手している企業は多数派ではありませんが、算定基礎額の算出方法という制度の根幹に手を入れる企業も一定数あることが分かります。

見直しのきっかけとして多いのは、賃上げによる退職金負担の増加、評価や役割と処遇のずれ、制度を設計した当時と現在の人員構成の違いなどです。本記事では、特に相談の多い「基本給連動型からポイント制への移行」に絞って、手順と注意点を解説します。

基本給連動型の退職金制度が抱える課題

基本給連動型の仕組み

基本給連動型は、退職時の基本給に、勤続年数ごとに定めた支給率(月数)を掛けて退職金を計算する方式です。計算式がシンプルで、従業員にも説明しやすい点が長所です。多くの中小企業で、創業期から運用が続いている方式でもあります。

賃上げが退職金に直結する

この方式では、基本給を引き上げると退職金の計算結果も連動して増えます。たとえば説明用の仮の数値として、勤続30年の支給率が25.0、退職時の基本給が30万円であれば、退職金は750万円です。基本給が2万円上がって32万円になれば800万円となり、50万円増えます。賃上げの影響は、月例給与や賞与、社会保険料だけでなく、退職金の将来負担にも及びます。

賃上げを継続する局面では、この連動が総額人件費の見通しを難しくします。賃上げを抑えたい訳ではないのに、退職金の負担を理由にベースアップの判断が慎重になる、という本末転倒も起こりえます。

在職中の貢献や役割が反映されにくい

退職時点の基本給だけで金額が決まるため、在職中にどの等級でどれだけ役割を担ったかは、直接には反映されません。また、昇給の停滞した時期が長いか短いか、役職に就いた時期が早いか遅いかによって、同じ勤続年数でも退職金に大きな差が出ることがあります。人事評価や等級制度を整備した企業ほど、退職金だけが旧来の考え方のまま残っていることに違和感を持つ傾向があります。

ポイント制退職金制度の仕組み

基本の計算式

ポイント制は、在職中に毎年(または毎月)積み上げたポイントの合計に、1ポイントあたりの金額(ポイント単価)を掛けて退職金を計算する方式です。計算式は次のとおりです。

退職金額 = 累計ポイント ×ポイント単価

ポイントは、勤続年数に応じて付与する「勤続ポイント」と、等級や役割に応じて付与する「等級(役割)ポイント」の2本立てにするのが一般的です。これに、評価結果に応じた「評価ポイント」を加える設計もあります。

ポイント設計の例

以下は、考え方を説明するための仮の数値です。実際の設計では、自社の人員構成と原資に合わせて決める必要があります。

項目 付与の考え方(仮)
勤続ポイント 勤続1年につき10ポイント
等級ポイント 等級2:年10ポイント/等級3:年15ポイント/等級4:年20ポイント
ポイント単価 1ポイント=1万円

たとえば、勤続30年で、等級2に10年、等級3に12年、等級4に8年在籍した従業員の場合を考えます。勤続ポイントは10×30=300ポイント、等級ポイントは10×10+15×12+20×8=440ポイントで、合計740ポイントです。ポイント単価が1万円なら、退職金は740万円になります。

ポイント制のメリットと注意点

メリットは、基本給の水準と退職金を切り離せることです。賃上げをしても退職金が自動的には増えないため、総額人件費の見通しを立てやすくなります。また、在職中にどの等級で役割を担ったかが退職金に反映されるため、等級制度や評価制度との整合が取りやすくなります。ポイント単価を調整することで、原資全体を管理しやすい点も特徴です。

注意点は、設計の自由度が高い分、制度が複雑になりやすいことです。ポイントの付与ルールが従業員に分かりにくいと、かえって不信感を招きます。また、等級の昇格が遅れた人ほど将来の退職金が伸びにくくなるため、昇格運用の公平性がこれまで以上に問われます。評価結果をポイントに反映する場合は、評価の納得性が前提になります。

基本給連動型からポイント制へ移行する手順

ステップ1:現状を把握し、将来負担を試算する

最初に、現行制度の規程と運用実態を確認します。退職金規程の計算式、支給率表、自己都合と会社都合の差、定年退職の扱い、中小企業退職金共済や企業年金との関係を整理します。次に、全従業員について、現行制度で将来支給される見込額を試算し、年度ごとの支給見込みを一覧にします。この試算が、見直しの規模と緊急度を判断する土台になります。

ステップ2:見直しの目的と原資の方針を決める

ポイント制への移行は手段であり、目的ではありません。「賃上げに伴う負担増を抑えたい」「等級制度との整合を取りたい」「若手・中堅の納得感を高めたい」など、目的を言葉にします。そのうえで、制度全体の原資を現行と同水準にするのか、抑制するのか、増やすのかを経営として決めます。原資を抑制する方針の場合は、後述する不利益変更の問題が大きくなります。方針は、設計に入る前に経営層で合意しておくことが重要です。

ステップ3:ポイント項目と単価を設計する

勤続ポイントと等級ポイントの比率、等級ごとの付与ポイント、上限年数の有無、評価ポイントを入れるか否かを決めます。勤続ポイントの比率を高めると長期勤続者に厚く、等級ポイントの比率を高めると役割の大きさに応じた差が出ます。自社の人事制度の考え方に沿って決めます。ポイント単価は、ステップ2で決めた原資から逆算して調整します。

ステップ4:全員分のシミュレーションを行う

新制度で全従業員の見込額を計算し、現行制度との差を一覧にします。確認する観点は、全体の総額、年齢・勤続年数別の増減、増減の大きい個人、将来の支給時期ごとの資金負担です。特に、現行制度より減る人がどの層にどれだけいるかを必ず把握します。この結果を見て、ポイントや単価を何度か調整するのが通常です。

ステップ5:経過措置を設計する

移行時の方法は、大きく二つに分けられます。一つは、移行日までの勤続分は旧制度の計算で額を確定(凍結)し、移行日以降の勤続分から新制度のポイントを積み上げる方法です。もう一つは、移行日に新制度で全期間を再計算し、旧制度との差額を調整措置で補う方法です。前者は従業員に説明しやすく、不利益の程度も抑えやすい一方、旧制度の額を算定して管理し続ける事務が発生します。減少する人が出る場合は、一定期間の下限保証や段階的な調整も検討します。

ステップ6:規程を改定し、必要な手続を踏む

新しい計算方法、ポイントの付与ルール、経過措置を退職金規程に明記します。就業規則の変更には、過半数組合または過半数代表者の意見聴取、労働基準監督署への届出、従業員への周知が必要です。労働条件の不利益な変更になる場合は、次の節で述べるとおり、手続以上の配慮が求められます。

不利益変更に関する法的な注意点

退職金規程と就業規則の関係

労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、並びに支払の時期に関する事項を就業規則に記載する必要があります。退職金制度を設けること自体は法律上の義務ではありませんが、設けた以上は規程に基づいて運用することになります。出典:e-Gov法令検索「労働基準法」。

合意なき不利益変更は原則できない

労働契約法第9条は、使用者が労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないと定めています。一方、第10条は、変更後の就業規則を周知させ、かつ、変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、変更後の就業規則によるとしています。出典:e-Gov法令検索「労働契約法」。厚生労働省も、使用者が一方的に就業規則を変更しても労働者の不利益に労働条件を変更することはできず、変更する場合は内容の合理性と周知が必要であるとしています(厚生労働省「労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)」)。

実務での対応の考え方

退職金の見込額が下がる従業員が出る見直しでは、周知と意見聴取だけで進めず、できる限り個別の同意を得ることが基本です。そのうえで、変更の必要性を数字で説明すること、経過措置などで不利益の程度を和らげること、労働組合や従業員代表との協議の記録を残すことが、合理性を判断する際の材料になります。減額を伴う場合の可否は、個別の事情で判断が分かれます。実際の設計と手続は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談しながら進めてください。

従業員への説明のポイント

制度を変える側は計算式の変更に目が向きがちですが、従業員が知りたいのは「自分の退職金はどうなるのか」です。説明では、次の点を押さえます。

  • 見直しの目的と、なぜ今なのか(会社の事情を具体的に)
  • 新制度の計算の仕組み(例示つきで)
  • 移行時の扱い(移行日までの分は保証されるのか)
  • 個人ごとの試算結果(現行制度との比較)
  • 質問の受付窓口とスケジュール

全体説明会に加えて、個人別の試算シートを配り、個別相談の機会を設けると、不安の多くは解消されます。減額となる人には、特に丁寧な個別説明が必要です。

見直しでありがちな失敗

第一に、目的が曖昧なまま計算式だけを変えてしまうことです。原資の方針が決まっていないと、シミュレーションのたびに判断がぶれます。第二に、全員分の試算をせず、モデルケースだけで判断してしまうことです。モデルケースには出てこない、特定の層への大きな影響を見落とします。第三に、ポイントの付与ルールを複雑にしすぎることです。運用できない制度は形骸化します。第四に、等級制度や評価制度の運用が整っていないまま、それらに連動する制度を導入してしまうことです。ポイントの根拠となる等級の運用に納得感がなければ、退職金への不信にもつながります。

まとめ

基本給連動型の退職金制度は分かりやすい反面、賃上げが退職金に自動的に波及し、在職中の役割が反映されにくいという課題があります。ポイント制は、基本給と切り離して原資を管理でき、等級制度との整合も取りやすい方式です。移行にあたっては、現状の将来負担の試算、目的と原資の方針決定、設計、全員分のシミュレーション、経過措置、規程改定という順に進めます。労働条件の不利益な変更になる場合は、労働契約法の定めを踏まえ、同意の取得や説明、経過措置に十分な配慮が必要です。人事制度全体の設計や退職金の見直しについては、株式会社ネクストプレナーズでも相談を受け付けています。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 退職金制度は法律で必ず設けなければなりませんか。

退職金制度を設けること自体は、労働基準法上の義務ではありません。ただし、退職手当の定めをする場合は、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法、並びに支払の時期に関する事項を就業規則に記載する必要があります(労働基準法第89条)。

Q. ポイント制にすると、退職金は減りますか。

ポイントの付与ルールとポイント単価の決め方しだいです。原資を現行と同水準に保つ設計も、抑制する設計も可能です。従業員ごとに増減が生じるため、全員分のシミュレーションで、減少する層とその程度を確認することが重要です。

Q. 退職金規程を変更するのに、従業員の同意は必要ですか。

労働契約法第9条は、使用者が労働者と合意することなく、就業規則の変更により労働者の不利益に労働条件を変更することはできないと定めています。第10条の要件(周知と、変更の合理性)を満たす場合は変更後の就業規則によるとされますが、合理性は個別の事情で判断されます。見込額が下がる従業員がいる場合は、個別の同意取得と経過措置を含めて、専門家に相談しながら進めてください。

Q. 退職金の請求権には時効がありますか。

労働基準法第115条と、当分の間の経過措置を定める同法第143条により、退職手当の請求権の時効は、請求できる時から5年とされています。

Q. ポイント制への移行と同時に、年金制度への移行も検討すべきですか。

年金制度への移行は別の論点であり、同時に検討するとかえって議論が複雑になります。まず退職金制度全体の目的と原資の方針を整理し、そのうえで必要に応じて検討してください。参考として、令和5年就労条件総合調査では、過去3年間に退職一時金制度を見直した企業のうち、全部又は一部を年金へ移行した企業は7.7%でした。

出典・参考資料

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人事ブログ編集部
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