【解説】みなし労働時間制と変形労働時間制の種類と概要|その他の類似制度との違いも解説

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デスク周り - 【解説】みなし労働時間制と変形労働時間制の種類と概要|その他の類似制度との違いも解説「みなし労働時間制」「変形労働時間制」とは、1日・1週間ごとの法定労働時間に必ずしも縛られずに柔軟に労働時間を調整できる制度です。

少し前までは、「働く」といえば、「○日間、〇時から〇時まで働いた分、〇円をもらう」というような、出勤日数及び労働時間の対価として給与を受け取るという関係をイメージする方が多かったと思います。

特に日本の正社員においては「1日8時間以内、週40時間以内の範囲で、社員みんなが毎日同じ時間に出勤し同じ時間に退勤する」という働き方が大半を占めていましたが、そのように一律で労働時間を指定・管理することがそぐわない業務等において、業務効率が下がってしまうことや不平等感が出ることがないよう対応したり、ワークライフバランスの向上を目指したりしていくべきという意識が広まったことで、働き方の多様化の一環として、1日や週毎の労働時間を調整できる「みなし労働時間制」や「変形労働時間制」等を採用する企業が増えてきました。

しかし企業によっては、「1日の労働時間や一定の期間における労働時間に幅を持たせたい」とは思っているものの、そのような形を採れる制度それぞれの違いがわからない、どの制度が自社に合っているかわからないという場合もあるようです。

そこで、今回は「みなし労働時間制」と「変形労働時間制」について、その種類と概要を解説します。併せて、それらの制度と混同しやすい「みなし残業制度」「高度プロフェッショナル制度」についても概要を紹介します。

みなし労働時間制

みなし労働時間制とは、実際の労働時間に拘らず、労使間で定めた所定労働時間分働いたものと見做して給与を支払う制度です。

実労働時間が所定労働時間未満であっても所定労働時間分の金額が支払われる一方で、実労働時間が所定労働時間を超えていても、超過分の残業代等は原則支給されません。

みなし労働時間制は事業場外のみなし労働時間制と、裁量労働制(専門業務型裁量労働制及び企画業務型裁量労働制)に大別されます。

事業場外のみなし労働時間制

概要

事業場外のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)とは、営業や取材のための外出など、事業場以外での業務時間が多く、使用者の指示・監督が及ばず労働時間を算定することが困難である職種・業務等を対象に、事業場外の労働については労使間で定めた所定労働時間労働したとみなして給与を支給する制度です。

残業代等が発生する場合

後述の要件からもわかる通り、ここでいう「所定労働時間」は事業場外(会社の外)での勤務部分のみに適用するものであり、もし他に事業場内での勤務(例えば帰社して事務作業を行うなど)も行っているのであれば、事業場内での勤務部分については所定労働時間分の給与とは別で、労働時間を算定して支払う必要があります。

また、そもそものみなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、超えた部分の時間については残業代(時間外割増賃金)が発生します(労働基準法第37条1項)。

また、法定休日に出勤した場合や深夜残業を行った場合も割増賃金を支払う必要があります(同条4項)。

要件

事業場外のみなし労働時間制は、次に紹介する裁量労働制のように対象業務には限りがありませんが、要件が法律で定められており、「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」且つ「労働時間を算定し難いとき」という2点を満たす場合に限り、適用することが可能です。

参考:厚生労働省・「次号場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために

裁量労働制

概要

裁量労働制とは、その業務の性質上、労働時間やその配分・業務の進め方等について、労働者の裁量に委ねることが望ましいと認められる業務について、実際の労働時間に拘らず、企業と労働者との間で定められた労働時間(所定労働時間)分労働したものとみなして給与が支払われる制度です。

残業代等が発生する場合

裁量労働制では所定労働時間を超えて労働をした場合であっても残業代は発生しませんが、一方でそもそもの所定労働時間が法定労働時間を超える場合には、超えた部分の時間については残業代(時間外割増賃金)が発生します(労働基準法第37条1項)。

また、法定休日に出勤した場合や深夜残業を行った場合も割増賃金を支払う必要があります(同条4項)。

要件

裁量労働制には以下の2種類があります。
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制

両者は対象業務のほか、導入手続きなどにも違いがありますが、詳細については本記事においては割愛します。

裁量労働制については以下の記事で詳しく解説していますので併せてご確認ください。
https://www.blog.nextpreneurs.com/personnel_system/discretionary-labor-system/

参考:厚生労働省・裁量労働制の概要

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)では、対象業務として具体的に19種類の業務が定められています。何れも業務の性質上、使用者側で業務の進め方や時間配分等を指示・管理することが困難であり、それらを労働者に委ねるのが適切であると認められる業務となっています。

参考:厚生労働省・専門業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制

一方、企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)では、専門業務型裁量労働制の対象業務として定められた業務以外の業務であっても、「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者」にあたる場合は裁量労働制が適用できるとしています。

但し、これも対象が無制限というわけでは勿論なく、事業の運営に影響を及ぼす事項についての業務であること、企画、立案、調査及び分析の業務且つ部署が所掌する業務ではなく個々の労働者が担当する業務であることなどを含む要件の全てを満たしている必要があります。

参考:厚生労働省・企画業務型裁量労働制

変形労働時間制

変形労働時間制とは、年・月・週などの一定の期間において、1日又は1週間の労働時間を調整する制度です。

その期間の週の平均労働時間が40時間を超えない範囲で、法定労働時間(1日8時間及び週40時間)を超えて労働させることができます。

変形労働時間制には次の3種類があります。
・1年単位の変形労働時間制
・1ヶ月単位の変形労働時間制
・1週間単位の非定型的変形労働時間制
・フレックスタイム制

1年単位の変形労働時間制

概要

1年単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の4)とは、1ヶ月を超え1年以内の一定の期間において、以下の制限の下、特定の日又は週に、法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

・1週間あたりの平均労働時間が40時間(法定労働時間)を超えない範囲であること
・1日の労働時間が10時間以内であること
・週の労働時間が52時間以内であること

年間を通して繁忙期と閑散期の差が大きい業種で多く採用されます。

残業代等が発生する場合

1年単位の変形労働時間制では、上述の通り各日・週の労働時間が法定労働時間を超えていても直ちに残業代が発生することはありませんが、以下の場合は超過した部分について残業代が発生します

・1日及び1週間の所定労働時間が法定労働時間を超える日・週において、所定労働時間を超えた場合
・1日及び1週間の所定労働時間が法定労働時間を超えない日・週において、法定労働時間を超えた場合
・変形労働制対象期間における合計労働時間が法定労働時間の上限を超えた場合

要件

1年単位の変形労働時間制の適用には、労使協定にてその対象期間や対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間などを定め、所轄の労働基準監督署長に届ける必要があります。

導入の詳細についてはここでは割愛しますが、以下厚生労働省発表の資料等が参考になります。

参考:厚生労働省・1年単位の変形労働時間制
厚生労働省・1年単位の変形労働時間制導入の手引

1ヶ月単位の変形労働時間制

概要

1ヶ月単位の変形労働時間制(労働基準法第32条の2)とは、1ヶ月以内の期間において、1週間あたりの平均労働時間が40時間を超えない範囲で、特定の日又は週に、法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

例えば月初・月末が繫忙期となるなど、1か月以内の中で繁忙期と閑散期の差が大きい業種で多く採用されます。

残業代等が発生する場合

1か月単位の変形労働時間制でも、1年単位の変形労働時間制と同様に、以下の場合は超過した部分について残業代が発生します
・1日及び1週間の所定労働時間が法定労働時間を超える日・週において、所定労働時間を超えた場合
・1日及び1週間の所定労働時間が法定労働時間を超えない日・週において、法定労働時間を超えた場合
・変形労働制対象期間における合計労働時間が法定労働時間の上限を超えた場合

要件

1ヶ月単位の変形労働時間制の適用には、労使協定若しくは就業規則等にてその期間(1か月以内)や各日・週の労働時間などを定める必要があります。

導入の詳細については厚生労働省発表の資料等が参考になります。

参考:厚生労働省・1か月単位の変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制

概要

1週間単位の非定型的変形労働時間制(労働基準法第32条の5)とは、労働者が30名以下の小売業、旅館、料理店、飲食店において、1日10時間且つ週40時間を超えない範囲で、その週の日ごとの労働時間を調整することができる制度です。

日ごとに繁閑の差が大きくなる業種で多く採用されます。

残業代等が発生する場合

1週間単位の変形労働時間制でも、他2種の制度と同様に、以下の場合は、超過した部分について残業代が発生します
・事前に通知された所定労働時間が法定労働時間を超える日において、所定労働時間を超えた場合
・事前に通知された所定労働時間が法定労働時間を超えない日において、法定労働時間を超えた場合
・週の労働時間について、法定労働時間を超えた場合

要件

1週間単位の非定型的変形労働時間制の適用には、労使協定にて所定の事項を定め届け出るほか、週の各日の労働時間を予め労働者に書面により通知しておく必要があります。

参考:厚生労働省愛知労働局・1週間単位の非定型的変形労働時間制

フレックスタイム制

概要

フレックスタイム制(労働基準法第32条の3)とは、一定の期間(清算期間)について、予め定められた総労働時間の範囲内で、日々の出退勤時間及び労働時間を労働者が自由に決めることができる制度です。

厚生労働省の制度紹介ページの構成(※)及び根拠法から、フレックスタイム制も先述の変形労働時間制の一種と解すことができます。

※参考:厚生労働省・変形労働時間制の概要

フレックスタイム制では、必ず労働する必要のある「コアタイム」を企業側が設けることができ、労働者はその前後の自由に出退勤できる時間である「フレキシブルタイム」の中で日々自由に出退勤するという形をとります。

なお、コアタイムについては企業によっては設けていない場合(スーパーフレックス制度)もあり、その場合は全ての時間がフレキシブルタイムとなり、労働者はより柔軟に労働時間を決めることができます。

残業代等が発生する場合

従業員は清算期間の中で各日や週の労働時間を自由に調整することができるため、1日8時間、週40時間を超えて労働をする場合があってもそれを以て残業代の発生にはなりません。

但し、清算期間の総労働時間を超えて労働をした場合には、その超過部分について残業代が発生します

要件

フレックスタイム制の導入には、就業規則に始業・終業時間を各労働者に委ねる旨記載する他、対象となる労働者の範囲や、清算期間、コアタイム及びフレキシブルタイム(定める場合)などを労使協定にて定め、所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

フレックスタイム制導入の詳細については以下の厚生労働省発表の資料等が参考になります。

参考:厚生労働省・効率的な働き方に向けて フレックスタイム制の導入

厚生労働省・フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き

その他の類似制度

その他、みなし労働時間制や変形労働時間制に類似する制度として、見なし残業(固定残業代制度)や高度プロフェッショナル制度があります。それぞれ概要を紹介します。

みなし残業(固定残業代・定額残業代)制度

概要

みなし残業(固定残業代・定額残業代) 制度とは、実際の残業時間に拘らず、一定の時間残業したと見做して残業代を支払う制度です

みなし残業、見込み残業、固定残業代、定額残業代…と様々な名称で呼ばれますが、何れも同様の意味を持ちます。

但し、「みなし残業」については、場合により先述の「みなし労働時間制」の所定労働時間における残業部分(法定労働時間を超えた部分)を指すこともあるようです(例えば所定労働時間が10時間である場合、法定労働時間である8時間を除いた2時間分が、みなし労働時間制上の「みなし残業」と呼ばれるようです)。

残業代等が発生する場合

みなし残業制度では、予め定められたみなし残業時間よりも実際の残業時間が少なかったり一切残業しなかったりした場合でも、みなし残業分の残業代が支払われる一方で、みなし残業時間内であれば何時間残業しても追加の残業代は支払われません。

但し、みなし残業時間を超えて労働した場合、例えば月40時間までの残業について5万円の固定残業代を支払うという契約をしている労働者が45時間残業した場合は、超過の5時間分について追加で残業代を支払う必要があります

要件

みなし残業制度を導入する際は、雇用契約書や就業規則で、みなし残業分の金額と時間を明記し、従業員に周知する必要があります。

なお、みなし残業制度は法律上で明文化されているものではなく、認められる要件等は過去のみなし残業制度に関する裁判例から推測されるものです

有名な裁判例には、テックジャパン事件(最判平24・3・8)やアクティリンク事件(東京地判平24・8・28)、日本ケミカル事件(最判平30.7.19)などがあります。

ここでは導入の詳細についての紹介は割愛しますが、導入の際は十分に確認・検討及び整備をすることが望ましいです。

高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務成果型労働制)

概要

高度プロフェッショナル制度(労働基準法第41条の2)とは、高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務成果型労働制)とは、一定の年収要件(年収1,075万円)以上を満たし、高度の専門的知識を持つ労働者を対象に、労働時間に基づいた制限を廃止する(労働時間に関し労働基準法の適用がない)制度です

労働時間から賃金の算定を行うのではなく、成果に対する評価により賃金の算定を行うため、短時間で成果を残すことができれば、短い労働時間で変わらない給与を受け取ることができますが、一方で多くの時間を要さないと成果を出すことが難しい場合は、長時間労働に繋がりかねず、また法定労働時間を超えた長時間労働や深夜残業、休日出勤等を行った場合であっても、残業代等が支給されることはありません。

残業代等が発生する場合

上記の通り、高度プロフェッショナル制度では残業代等は如何なる場合であっても発生しません。

要件

高度プロフェッショナル制度を適用するには、概要で紹介した年収要件の他に、高度で専門的な知識を有すること、業務に従事した時間と成果との関連性が高くないこと、金融商品の開発業務・アナリスト業務・コンサルタント業などの対象業務に当てはまること、長時間労働を防止する健康確保措置を講じることなどの要件もあります。

高度プロフェッショナル制度については以下の記事で詳しく解説しています。
https://www.blog.nextpreneurs.com/workstyle/high-level-professional-system/

参考:厚生労働省・「高度プロフェッショナル制度」の創設について
厚生労働省・高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説

まとめ・それぞれの制度の違い

以上、みなし労働時間制と変形労働時間制の種類とその他の混同しやすい制度について紹介してきました。

それぞれの大きな違いとして、①対象となる業務・業種等②労働時間についてどう定めるか③残業代等の発生する条件があります。

みなし労働時間制、変形労働時間制等各制度の違いb - 【解説】みなし労働時間制と変形労働時間制の種類と概要|その他の類似制度との違いも解説

みなし労働時間制、変形労働時間制、みなし残業制、高度プロフェッショナル制度の違い
※文字が小さいので拡大してご参照ください

自社で導入を検討する際には、対象業務・業種等に当てはまっているかは勿論、現状の労働時間等と照らし合わせてどの制度が自社や労働者の業務効率を向上させたり残業を削減したりするために適当か等を検討する必要があります。

法定労働時間に必ずしも縛られない働き方ということで、場合によっては企業が悪用したり労働者側との認識の擦り合わせが上手くいかずに業務が滞ったりするというトラブルが起こり兼ねない制度ではありますが、何れも正しく導入することで企業側にも従業員側にもメリットの生じる制度ですので、労働時間を定めることにより企業若しくは労働者に弊害が生じているという企業は導入を検討してみるとよいでしょう。

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働き方改革サポ編集部
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