「従業員の行動が企業の価値観に沿っているか」を評価する「バリュー評価」が注目を集めています。
今回はバリュー評価について概要とメリット・デメリットを解説すると共に、導入事例を紹介していきます。
目次
概要
バリュー評価の概要
バリュー評価とは、企業における評価手法のひとつで、従業員の行動が、企業の価値観や方針、行動基準等(=バリュー)にどれだけ合致しているかを評価することです。
バリュー評価では、従業員の行動を数字で図ることが難しく、成果主義等のように定量的な基準に照らして絶対評価を行うことは困難です。
そのため、他の従業員の行動と比較して、当該従業員の行動が、企業毎に設定した評価基準にどれだけ合致しているかを評価するという相対評価の形を採ります。
従業員間の比較の他、前回の評価時点との比較でも評価されます。
成果だけではなくそれに至る過程も評価の対象となるのもバリュー評価の特徴です。
また、従業員の行動を上司が一人で全て確認することが難しいことや、上司1人の主観的な評価になることを避けるため、多くの場合は上司に加え同僚や部下を含めた複数人が評価を行うという、多面評価の形を採ります。
バリュー評価の注目される背景
バリュー評価が注目される背景には、労働者が企業選びの際に重視する点が時代と共に変化しているという状況があります。
終身雇用制・年功序列型の企業の減少により、給与や福利厚生などの待遇は必ずしも固定という時代ではなくなっていることや、働き方の多様化、市場の急激な変化等により、昨今では企業選びの際に「社風が合うか否か」を重視する労働者が多くいます(※)。
そのため、社風を含めた「バリュー」に合致する行動か否かを評価の際に重視する評価手法が注目されています。
また同様に、急激に変化する市場の中で言われたことをこなすだけではなく、企業の価値観に沿った行動を自発的に実行してくれる人材を育成したい企業にとっても、バリュー評価は有用であることも、バリュー評価が注目を集める理由のひとつです。
※株式会社ジェイック「22卒学生の就活に関するアンケート」では、会社選びで重視することについて、「社風が合うこと」が20.8%でトップという結果が出ています。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000034.000060461.html
メリット
バリュー評価には次のようなメリットがあります。
企業の価値観を従業員に理解してもらいやすい
バリュー評価では、評価基準が「バリューに合致しているか」であるため、高い評価を得るためには、従業員が企業の価値観を理解する必要があります。
そのため、企業が評価基準を設け、従業員に伝え、評価を行っていくことで、自社の価値観を理解してもらうことにつながり、また評価を繰り返すことでその理解度はより深まっていくというメリットがあります。
企業と従業員の目指す方向性が一致する
バリュー評価では、企業の価値観に加え、方向性や方針なども基準とすべき「バリュー」とされるため、企業の目指す方向性と従業員の行動が一致していないと、高い評価を受けることはできません。
そのため、従業員は自ずと企業の目指す方向性と合致する行動を意識することとなり、生産性が上がるとともに、企業の組織力も向上します。
従業員のエンゲージメントが向上する
バリュー評価では、従業員が会社の価値観や方針を理解しそれに沿って行動するため、エンゲージメントの向上に繋がります。
エンゲージメントが向上すると、定着率(離職率の低下)にも繋がるため、企業にとってメリットとなります。
デメリット
一方で、バリュー評価のデメリットには次のような点があります。
主観的な評価になりがちで、従業員が評価に不満を持つ可能性がある
バリュー評価では、成果主義等とは異なり、数字で評価することが難しいため、主観的な評価になりがちであるというデメリットがあります。
多くの場合は前述の通り多面評価という形が採られますが、それでも最終的な判断が上司に一任されていたり、従業員の行動を正しく把握・認識できていなかったりする可能性もあり、従業員が評価に不満を持つ可能性があります。
特に、テレワーク等で対面する機会の減っている昨今においては正しい評価ができる体制を充分に整える必要があります。
導入にあたり基準を企業で準備する必要がある
バリュー評価では、企業の価値観や方針など「バリュー」にあたるものを従業員に行動規範などを用いて充分に伝える必要があります。
また、先述の通り従業員の行動を正しく把握・評価できるような体制を整える必要もあるため、企業にとっては導入までに入念に準備をする必要がある評価制度であると言えます。
導入の際のポイント
バリュー評価では従業員の行動や結果に至る過程までも評価することとなるため、導入する際には行動規範を明確化し、全従業員に浸透させる必要があります。
行動規範が曖昧であったり、全従業員にわかりやすい内容でなかったりすると、目標が曖昧なものとなってしまったり、従業員の行動も企業の期待とは異なるものとなってしまったり、それに伴い企業・従業員双方に納得のいかない評価となってしまったりするリスクがあるため、導入前に充分に検討し、策定・伝達する必要があります。
導入事例
最後に実際にバリュー評価を導入している企業を紹介します。
LINE株式会社
LINE株式会社では、多面評価と成果評価の2種類の評価制度を採用しており、そのうち多面評価の方では、自社のバリュー浸透のために策定された「LINE STYLE」に基づく指標による評価を行っています。
また、「LINE STYLE」策定2年後の2019年には、より従業員に伝わりやすい文言に修正しアップデートした「LINE STYLE2.0」を策定しています。
同社では多面評価は、成果評価のための参考と位置付けられているため、その評価が直接昇給等に反映されるものではありませんが、本人に早期に確認をしてもらうことで、自身の課題の確認やさらに強みを伸ばすことに繋げているということです。
※参考:Z HOLDINGS「従業員との約束」
https://www.z-holdings.co.jp/sustainability/stakeholder/09/
カルチャー浸透は「目的」ではない。「LINE STYLE」を策定から2年で進化させた理由
https://seleck.cc/1382
Chatwork株式会社
Chatwork株式会社では、「バリュー評価」と同時に「OKR(※2)」という評価手法も導入しています。
但し、OKRの達成率ではなく、「OKRを通してどれだけチャレンジしたか」を評価するという、バリュー評価の形を採っています。
また、同社では、OKRの目標設定でよく使われる『S.M.A.R.Tの法則』を用いることで、評価する基準が曖昧とならないよう工夫しているとのことです。
※参考1:【MEETUP#01 俺のOKR】Chatwork西尾氏「『俺のOKR』自然体で成果を出そう」
https://www.hito-link.jp/media/event/meetup-okr-01-chatwork
※参考2:【解説】最新の目標管理手法「OKR」|メリットやシステムツールまで完全解説
https://www.blog.nextpreneurs.com/workstyle/okr/
株式会社メルカリ
株式会社メルカリも、チャットワーク社と同様に、「バリュー評価」と同時に「OKR」を導入しています。
2021年2月に人事評価制度を大幅にアップデートした同社では、「成果と行動をわけて評価」する形を採っており、そのうち「行動」を評価するにあたり、「メルカリグループが定めるバリューを発揮し、実践できたどうか」を重視しています。
※参考:メンバーの活躍を“大胆に”報いる──大幅アップデートされたメルカリ人事評価制度の内容と意図
https://mercan.mercari.com/articles/27642/
まとめ
今回はバリュー評価について概要とメリット・デメリットを解説すると共に、導入事例を紹介しました。
バリュー評価は企業側で十分な準備が必要であるなど、導入・定着までにある程度のハードルがある評価手法ですが、充分に準備をし、運用していくことができれば、評価を以て企業の価値観や方針=バリューを従業員に深く理解してもらい、それに沿って自発的に行動してもらうことに繋がる制度です。
自社のバリューを体現する人材を育成したいと思っている企業は導入を検討してみてはいかがでしょうか。


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