【解説】労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要と変遷

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パワハラ防止法2 - 【解説】労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要と変遷

労働施策総合推進法とは、職場におけるパワーハラスメントを防止するための措置を企業に講じさせる法律で、その性質から「パワハラ防止法」とも呼ばれています。

2020年改正後の労働施策総合推進法では、企業がパワハラ防止措置を講じることが企業の義務となりました。

そこで今回の記事では、労働施策総合推進法の概要から変遷、本法律の齎すメリット・デメリットまで解説いたします。

パワハラを含むハラスメントの概要、種類と注意点については以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。

【解説】ハラスメントとは?概要と種類、職場でハラスメントが起きてしまった場合の注意点まで解説
「ハラスメント」とは、相手が不快に感じたり、相手に不利益を与えたりする行為を指します。近年では「パワハラ防止法」の試行など、国や地方自治体も積極的に対策に乗り出していますが、一方で、新たな種類のハラスメントも増えています。今回はハラスメントの概要と種類、そして職場でハラスメントが起きてしまった場合の注意点を解説します。

労働施策総合推進法の概要

労働施策総合推進法は、労働者の多様な事情に応じて、安定的な雇用や職業生活の充実、生産性の向上を図るための総合的な施策を課している法律です。

労働施策総合推進法の基本理念としては、
・多様な労働者が安定して働けること
・評価基準が見直されること
の2つが掲げられています。

また、2020年には、企業がパワハラ防止措置を講じることを義務とする形で法改正されています

この法改正の背景には、2018年に、いじめや嫌がらせといったパワハラに相当する行為の個別労働紛争解決制度での相談件数が過去最高を記録してしまったこと(厚生労働省・平成30年度個別労働紛争解決制度の施行状況)等が挙げられます。

改正後の労働施策総合推進法30条の2では、企業には「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」、つまりパワハラにより、従業員等が働きづらさを感じないよう、企業として相談に応じたり環境を整えたりしていく義務があることが定められています

本改正により、大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から、左記のようなパワハラ防止策を講じることが義務付けられます。

現時点(施行時点)では企業がパワハラ防止策を講じなかった場合の罰則等は規定されていませんが、必要に応じて厚生労働大臣からの助言、指導又は勧告が行われる可能性があり(労働施策総合推進法33条1項)、更に勧告にも従わなかった場合、厚生労働大臣はその旨を公表することができます(労働施策総合推進法33条2項)。

労働施策総合推進法の変遷

労働施策総合推進法は、もともと「雇用対策法」を改正して誕生した法律です。雇用対策法は、今から50年以上前の1966年に制定されました。

雇用対策法が制定された目的として、「経済発展への貢献」や「完全雇用の」達成などが挙げられます。他にも、労働力の需要と供給のバランスをはかることも目的の1つです。

その後2007年には雇用対策法の一部が改正されました。

この際の改正の主なポイントは、
・若者の能力の正当な評価並びに青少年の応募機会の増加
・年齢による応募制限の禁止の義務化
・外国人の雇用管理の改善並びに再就職の支援の努力を義務化
・雇用情報の地域格差を是正
などです。

2018年6月には雇用対策法が更に改正され、名称も「労働施策総合推進法」と改められました。

正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」で、働き方改革の推進の一環も担っています。

そして同法律は2020年の6月、パワハラ防止措置を講じることを企業に義務付ける形で改正され、「パワハラ防止法」と呼ばれるようになりました。

労働施策総合推進法の齎すメリット

では、労働施策総合推進法の施行は、企業にどのようなメリットを齎すのでしょうか。

労働施策総合推進法の一番のメリットは、「パワハラ防止法」とも言われている通り、職場におけるパワハラの防止・減少につながるという点です。

また、パワハラの防止・減少から付随する効果として、パワハラが減ることで、今までパワハラによりパフォーマンスが低下していた従業員が高いパフォーマンスを発揮できるようになり、個人ひいては社内の生産性が上がるという点もメリットとして挙げられます。

また、本法律によりパワハラの定義が明文化されたことで、パワハラを受けていると感じている従業員は勿論、自分の指示等がパワハラにあたらないか気にする必要のある上司や、どこまでがパワハラにあたるか判断する必要のある企業にとって、大きな判断基準ができたことも、メリットの一つと言えます。

労働施策総合推進法のデメリット

一方で、企業側にとっては労働施策総合推進法が一部弊害となり得る場面もあります。

先にメリットとして、「パワハラの定義が本法律により明文化されたことで、パワハラにあたる言動の範囲を判断する基準となった」ことを挙げましたが、実務に照らすとその定義は未だ曖昧で、それが原因でマネジメントが困難になっていると考えているマネージャー層や経営層も多いようです。

概要紹の章で触れた通り、パワハラにあたる範囲については同法内で「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と明文化されています。

また厚生労働省では、パワハラの定義について、以下の通り「3つの概念」と「6つの類型」を発表しています(参考:厚生労働省・パワーハラスメントの定義について)。

【パワーハラスメントの概念】
①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
②業務の適正な範囲を超えて行われること
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

【パワーハラスメントの類型】
①身体的な攻撃
②精神的な攻撃
③人間関係からの切り離し
④過大な要求
⑤過小な要求
⑥個の侵害

しかしこれらは未だ抽象的で、実務においては「実際どこまでの行為がパワハラに該当するのかわかりにくい」「結局は受け取り手の解釈の問題になってしまう」といった問題があり、「業務における指示」と「パワハラ」の線引きが難しい場面が出てくることも想定されます。上司が部下に対して行う業務改善のための注意も、一歩間違えるとパワハラだと訴えられかねません。そうなると上司も部下に注意しにくい状況が生まれ、マネジメントが困難になります。

パワーハラスメントについての裁判例

パワハラに関する紛争において争点となるのは「当該行為者(上司)の言動が違法と評価されるか(法に照らしてパワハラであると言えるか)」という点です。

上司からの叱責がパワハラにあたるか否かについての判断は、前述の通り曖昧なところがあるのが実情ですが、この点については多くの裁判例があります。

長崎・海上自衛隊員自殺事件(福岡高判平20・8・25)では、裁判所は、「他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は,原則として違法であるというべき」であるが、「その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として,違法性が阻却される場合があ」り、その違法性の判断に際しては、「平均的な心理的耐性を有する者を基準として客観的に判断されるべき」としており、原告本人の心理状態がどのようであったかは違法性判断の際に重要な要件とはならないとしています。

但し、本裁判例においては、「例外的には,行為者において,その言動を受ける者の心理的耐性が平均的な者に比較して劣ることを知り,又は知り得べきであった場合は本人を基準とすることもあり得る」とも言及しており、平均的な心理的耐性を有する者であれば過度に心理的負荷を蓄積するような行為ではない場合でも、違法性が認められる可能性があります。

原告の属性や心身の状況が違法性判断に一定の影響を与えている裁判例は多くあります。属性や心身の状況とは、例えば、原告が新人であった場合、うつ病等の精神疾患に罹患していることを被告側が知っていた場合等です。

結局のところ、違法性の判断については、一定の傾向はあるものの、個別具体的な事情に鑑み判断されることとなりますので、明確に「ここまでは業務上必要な範囲」「ここからはパワハラ」という線引きは難しい状況にあるようです。企業側としては、パワハラ防止のため、上司にあたる従業員の言動のほか、全従業員の心身の状態等にも気を配っておく必要があります。

パワハラの裁判例については労働政策研究・研修機構の分析が参考になりますのでこちらも併せてご確認ください。

独立行政法人 労働政策研究・研修機構:パワーハラスメントに関連する主な裁判例の分析

労働施策総合推進法順守と並行して企業が行うべきこと

パワハラ防止法1 - 【解説】労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の概要と変遷

前章にて、企業においてはパワハラ防止のため、上司にあたる従業員の言動や、全従業員の心身の状態等に気を配っておく必要がある旨述べましたが、そのほかにも企業として整備しておくべき環境、行っておくべき対応があります。

具体的な取り組みとしては、
①相談窓口の設置
②ハラスメント研修
③ガイドラインや規則をつくり社員に周知
などが考えられます。

① 相談窓口の設置

まずはパワハラ(他ハラスメント)に関しての相談窓口(内部通報窓口)を設置することが望ましいです。

業務上などの相談であれば上司にするのが通常ですが、上司からパワハラを受けている場合、一般社員は有効な相談先がなく、解決が難しい状況に陥ることが予想されます。

誰からの相談もフラットな立場で受け入れる形の相談窓口を設置することにより、相談者が不利益を被らない形、またプライベートを確保する形で対処する必要があります。

なお、相談窓口は、一般的に総務部、人事部や法務部などが主体となりますが、経営陣も状況の把握をする必要があります。

② ハラスメント研修

若手・古株、職種、等級に関係なく、全ての従業員にパワハラ(他ハラスメント)に関する研修を実施することで、社内にハラスメント防止の意識を浸透させていくことも必要です。

研修では、なぜハラスメントが企業の重要課題(増加している)になっているかという原因や背景などを含めてきちんと説明することから始めます。

また、ハラスメントに関する事柄は短期間で本質的に理解・改善することが困難であり、一回の研修では充分に社内に浸透しづらい傾向にあるため、定期的に受講・復習ができるようオンラインの研修コンテンツにしておくことをお勧めします。

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③ ガイドラインや規則をつくり社員に周知

また、自社にてガイドラインや罰則を含めた規則などを作成することも、ハラスメントの抑止力となります。

加えて、定期的に経営陣から、「自身の行動を客観視しパワハラにならないよう努めるように」という旨を周知することも、企業内での浸透の一助となります。

まとめ

今回は労働施策総合推進法の概要から変遷、企業にとってのメリット・デメリット、そしてより働きやすい環境づくりのために企業が取り組めることを順に紹介してきました。

労働施策総合推進法は、「多様な人材が活躍できる社会」の実現を目指しています。人事部の皆さんも今後さらに働きやすい環境を目指して、日々の業務に取り組んでいきましょう。

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働き方改革サポ編集部
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