企業において従業員の育成は不可欠であり、企業のためにも従業員のためにも、新入社員は勿論、そのほかの従業員に対しても常に成長を促していく必要があります。
一方で、教育に割けるリソースには限りがあるため、企業ではいかに低いコストで高い効果を見込める研修を行えるかが重要となっています。
この点、業務の現場で即戦力となるなどのメリットから、多くの企業で採用されている「OJT」という教育手法があります。
今回はOJTの概要、メリット・デメリットと、OJTを効果的に進めるためのポイントについて解説していきます。
OJTの概要
OJTとは
「OJT」とは、「On-the-Job Training」の略称で、新入社員や後輩が、上司や先輩と一緒に実際の業務を行う中で必要な知識やスキルを身につけられるように指導する形の教育手法です。
現場で即戦力となる従業員を育てることを目的としており、企業規模を問わず多くの企業で採られています。
OJTにおいては、上司や先輩等、教える側に回る従業員のことを「トレーナー」、新入社員や後輩など、教えてもらう側の従業員のことを「トレーニー」といいます。
OJTとOff-JT
一方、座学の研修など、実際の業務から離れて研修や指導等を行う形の教育手法を「Off-JT(Off-The-Job Training)」と呼びます。
OJTとOff-JT は「企業の方針としてどちらかを選んで実施する」という性質のものではなく、どちらも利用することでより高い教育の効果が期待できるものです。
教育内容によりOJT向きのものとOff-JT向きのものがあるため、OJTとOff-JTを組み合わせて教育を進めることで双方のデメリットを補い合ったり、より効果的・効率的に教育を進めていったりすることが可能です。
OJTのメリット
OJTには、企業にとってもトレーナーにとってもトレーニーにとってもメリットがあります。
企業側のメリット
研修コストの削減につながる
OJTでは集合研修のように会場を押さえたり日程調整をしたりする必要がないため、手配の手間や費用のようなコストの削減に繋がります。
また、実際に業務を行う場所で、その場所で業務を行う人が研修を行うため、研修会場となる場所への移動時間や手間なども削減できます。
新入社員等が即戦力となる
OJTを経た新入社員等は既に実務を覚え、ある程度の経験も積んでいるため、研修終了後に企業の即戦力となります。
トレーナー側のメリット
業務をより深く理解することができる
新入社員等に教えるにあたり、改めて業務と向き合うこととなるため、業務の目的等を再認識する機会となったり、順序立てて説明することで自身もより深く業務を理解できたりするほか、説明やトレーニーからの質問・回答などのやり取りを経て、より効率的な進め方を発見できたりする場合があります。
トレーニーへの理解が深まる
OJTを通じて新入社員等の得意不得意など知識やスキルの定着度合いの把握がしやすくなることは勿論、日々のちょっとしたコミュニケーションから性格等キャラクターについても理解が深まり、その後の信頼関係が築きやすくなります。
指導力の向上につながる
OJTを行うにあたり、上司側は常に目の前のトレーニーとコミュニケーションをとりながら、どのような教え方が相手に最も伝わりやすいかを自ら考え実践していく必要があります。
そのため、わかりやすく説明するスキルや効率的に相手を動かすスキルなどを身につけることができ、ひいては相手のキャラクターや理解度等に合わせた説明や指示を行えるようになるなど、指導力の向上につながります。
トレーニー側のメリット
業務で必要なスキルや知識を実践で身につけることができる
OJTでは業務で必要なスキルや知識を実際の仕事の流れの中で学んでいくため、知識はあるが経験のない場合に起こる可能性のある「実際の業務の流れをイメージできない」、「学んだことが実務で咄嗟には出てこない」などの状況に陥りにくいです。
研修終了後の実務に対する心配や不安等が軽減されると共に、イレギュラーやトラブル等が発生した場合にも対応する力がつきやすいです。
それぞれのペースで学ぶことができる
OJTは1対1で行われることが多く、集合研修に比べトレーナーがトレーニーの理解度を把握しやすく、十分に理解できているところはスピーディに、理解しきれていないところはじっくり教えるなど、トレーニーのペースに合わせて臨機応変に研修のスピードを調整できることや、またトレーニー側からも疑問点等があればその場で質問し解消できるという点がメリットです。
上司との信頼関係が築きやすい
先述の通り1対1で行われることの多いOJTでは、大人数で行う研修よりも信頼関係が築きやすいというメリットがあります。
OJT終了後も質問や相談等をしやすい上司がいるという、新入社員等にとって働きやすい職場環境となりやすいです。
OJTのデメリット
OJTにはこのように多くのメリットがある反面、デメリットも存在します。
以下、デメリットについても紹介します。
トレーナーの業務量が増加する
OJTでは、トレーナーは研修業務とは別に通常業務もタスクとして持っています。
そのため、OJT期間は通常業務とOJT業務を同時にこなしていく必要があり、トレーナーの負担の増加につながります。
更に、研修を専門としているわけではない従業員が通常業務を行いながら慣れない研修も同時に行うとなると、普段より効率が落ちたりすることも考えられ、結果的に業務に要する時間がOJT前と比べて大きく増加してしまい、業務時間が伸びてしまう可能性もあります。
通常業務が滞る可能性がある
上述の「トレーナーの業務量が増加する」というデメリットとも密接に関わってきますが、OJTは実務の現場で通常業務と同時並行で行われる研修です。
そのため、OJTと通常業務それぞれに割くコストをうまく調節できないと、通常業務が滞ってしまう可能性があります。
研修の効果が教える側のスキルや確保できる時間等に依存しやすい
先述の通り、OJTは1対1で行われることが多いです。そのため、研修の効果がどの程度出るかはトレーナーのスキルや確保できる時間(忙しさ)等に依存する可能性も高くなります。
OJTでは現場で実務を行う上司等が教える側に回るため、必ずしも教えることに長けているというわけではありません。
そのため、良好な人間関係を築いた上でスキル的にも十分に成長できたトレーニーがいる一方で、スキルや相性などによってはトレーニーが十分に成長できないままOJTが終了してしまったり、「わかりづらい」と感じてしまったりする可能性もあります。
また、トレーナー側が忙しくOJTに割く時間を十分に確保することが難しいと、じっくり教えることが難しく放置気味になってしまったり、トレーニーも疑問点等があっても声をかけづらいと思ってしまい疑問点が解消されなかったり、声をかけるタイミングを何度も見計らうことで時間のロスが発生してしまったりする場合もあります。
体系的に学ぶことが難しい
OJTでは、Off-JTとは異なり、実務に合わせて学んでいくため、業務を体系的に学ぶことが難しいというデメリットがあります。
実務上ではイレギュラーやトラブル、その場その場で優先順位が判断され、優先順位の高い順に臨機応変に対応していくことが多いため、業務の全体像を俯瞰的に見たり、業務に必要な知識やスキル等を網羅的に学んだりすることは難しい傾向にあります。
OJTを効果的に進めるためのポイント
では、OJT効果的に進めるためにはどのような点に留意するべきでしょうか。
ここではそのポイントについて紹介していきます。
OJTとOff-JTを使い分ける
OJTの概要の章でも軽く触れましたが、OJTとOff-JT は合わせて利用することでより高い教育の効果が期待できます。
新入社員や後輩に教えるべき内容の中には、OJTに向いている内容とOff-JTに向いている内容があります。
繰り返し行うことで経験を積んでいくような内容はOJTに、ビジネスや自社に関する基礎的・常識的な知識を習得していくような内容はOff-JTに向いています。
まずはOff-JTで業務の全体像を把握したあと、OJTでその業務の流れの中に実際に入って実践する等、Off-JTとOJTで段階を踏んだ研修を組むのも望ましいです。
PDCAを回す
OJTでは、実際に業務を行いながらトレーニーに教えていく形ですが、単に日々の業務をその場その場で教えるのみでは高い効果は見込めません。
OJT実施においてはPDCAを意識的に回し、研修を通じてトレーニーを即戦力となる人材に育てられるような研修にしていく必要があります。
例えば、PDCAの「P(Plan)」では、OJTを進めるにあたっての内容や目標、スケジュールを立て、次の「D(Do)」では、Pで決めたプランに基づき実際に実務を通じて研修を行います。「C(Check)」では、Dでの結果の評価と改善点についてトレーニーと話し合い、最後に「A(Action)」としてCで挙がった評価や改善点を基に改めて目標に向けての行動を起こしていきます(この際目標自体の見直しが必要になることもあります)。
このサイクルを回し続けることで、効果的且つ効率的にOJTを進めることができます。
なお、とりわけ「D」の部分では、OJTの前身と言われる「4段階職業指導法」にて進めていくことが望ましいです。
4段階職業指導法とは、第一次世界大戦中のアメリカを起源とする指導手順で、「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価及び指導する)」というフローで行います。
トレーナーに任せっきりにせず周囲がサポート・フォローできるよう整える
デメリットの章でもお伝えした通り、OJTはトレーナーにとって負担増となる上、トレーナーが必ずしも高度な指導ができるとは限らないという研修スタイルです。
そのため、普段よりも業務の進捗に遅れが出たり、場合によってはトラブルが発生したりする可能性もあります。
そこで、トレーナーとトレーナーの属する部署等全体の業務量を調節すると共に、常に周囲がサポート・フォローできるよう環境を整えていく必要があります。
また、万が一トレーニーがトレーナーとの関係が上手くいかないという悩みを持った際に、いつでも相談できる窓口として人事等(業務を行っている部署等ではないところ)との風通しを良くしておくことも重要です。
上手くいっていない部分をどう改善するか検討するとともに、場合によってはトレーナーの変更等も視野に入れる必要があります。
まとめ
今回はOJTの概要、メリット・デメリットと、OJTを効果的に進めるためのポイントについて解説してきました。
OJTはトレーナーもトレーニーも業務を進めながら研修ができるという点において効率的で比較的研修の時間も取りやすい手法ですが、反面、トレーナーの力量に左右されてしまったり、トレーナーがOJTと自身の業務とのバランスをとるのが難しかったりする手法でもあります。
導入の際は、メリットとデメリットを理解し、デメリットを回避しつつメリットを享受できるよう、OJTのポイントの章でお伝えしたような点に留意して導入準備やOJT実施の計画を立てることをお勧めします。
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