【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説

この記事が役立ったら、シェアをお願いします。

時計 - 【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説

裁量労働制とは、労働時間やその配分などについて、企業等から指示・管理されることなく、労働者自身で決めて働くことができる制度です。

裁量労働制には決まった出退勤時間や拘束時間にとらわれない柔軟な働き方ができるなどのメリットがあり、働き方の多様化の勢いが増す中で改めて注目されています。

しかし、裁量労働制には正しく導入・運用しないと長時間労働の助長に繋がりかねないなどの懸念点もあります。

そこで、今回は裁量労働制の概要と種類、メリット・デメリットの他、導入の際の注意点となる、残業代が発生する例外パターンまで解説します。

裁量労働制の概要

裁量労働制とは、その業務の性質上、労働時間やその配分・業務の進め方等について、労働者の裁量に委ねることが望ましいと評価される業務について、実際の労働時間に拘らず、企業と労働者との間で定められた労働時間分働いたものとみなして給与が支払われる、「みなし労働時間制」の一種です。

実際の労働時間や配分などの決定・管理については労働者の裁量に委ねられており、予め定めている労働時間より実際の労働時間が短くても定められている労働時間分の給与が支払われる反面、定めている労働時間より実際の労働時間が長くても残業代は支払われません

参考:労働基準法第38条の3、 第38条の34
厚生労働省・裁量労働制の概要

裁量労働制の種類

裁量労働制は長時間労働の助長になり兼ねない側面を持つため、労働者を保護する目的から、適用できる対象業務が限られています

対象業務は「厚生労働省令で定める業務のうち、労働者に就かせることとする業務」(労働基準法第38条の3第1項、 第38条の34第1項)とされており、大きく分けると次の2種類となります。
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)では業務の性質上、業務の進め方や時間配分等を使用者側で指示・管理することが難しく、労働者側に委ねる必要のある業務を対象業務として定められています。

専門業務型裁量労働制の対象業務

現時点における対象業務は次の19種類です。

(1)新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2)情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3)新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4)衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5)放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6)広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7)事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8)建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9)ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10)有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11)金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12)学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13)公認会計士の業務
(14)弁護士の業務
(15)建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16)不動産鑑定士の業務
(17)弁理士の業務
(18)税理士の業務
(19)中小企業診断士の業務
※引用:厚生労働省・専門業務型裁量労働制
参考:東京労働局・労働基準監督署・専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

専門業務型裁量労働制の対象事業所及び対象労働者

専門業務型裁量労働制では対象事業所及び対象労働者には特別な決まりはありません
対象業務の存在する事業所、対象業務に従事する労働者であれば専門業務型裁量労働制の対象となります。

専門業務型裁量労働制の導入手続き

専門業務型裁量労働制を導入する場合、次の事項を定めた労使協定を締結し、所定の様式にて所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。
(1)制度の対象とする業務
(2)対象となる業務遂行の手段や方法、時間配分等に関し労働者に具体的な指示をしないこと
(3)労働時間としてみなす時間
(4)対象となる労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置の具体的内容
(5)対象となる労働者からの苦情の処理のため実施する措置の具体的内容
(6)協定の有効期間(※3年以内とすることが望ましい。)
(7) (4)及び(5)に関し労働者ごとに講じた措置の記録を協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存すること
引用:厚生労働省・専門業務型裁量労働制

なお、企画業務型裁量労働制では、対象業務のほか、導入手続きもこれとは異なりますので注意が必要です(企画業務型裁量労働制導入手続きについては後述)。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)は、「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者」のような、専門業務型に定められた業務以外の裁量労働制に適している職種でも裁量労働制を適用できるよう、2000年4月に対象業務の範囲を拡大する形で施行された制度です。

また、専門業務型とは異なり、企画業務型では対象事業所及び対象労働者が定められています。

※参考:厚生労働省・企画業務型裁量労働制
東京労働局・労働基準監督署・「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために

企画業務型裁量労働制の対象業務

具体的には次の4点全てに該当する業務が対象となっています。

①事業の運営に関する事項(対象事業場の属する企業・対象事業場に係る事業の運営に影響を及ぼす事項)についての業務であること
②企画、立案、調査及び分析の業務(企画、立案、調査及び分析という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務であって、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が担当する業務)であること
③当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
④当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
※引用:東京労働局・労働基準監督署・「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために

なお、「労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」第3の1の(2)には対象業務に関する留意事項として、対象業務となり得る業務の例や対象業務となり得ない業務の例が記載されています。
※参考:厚生労働省・労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針

企画業務型裁量労働制の対象事業場及び対象労働者

企画業務型裁量労働制の対象事業場

企画業務型裁量労働制における対象事業場は、対象業務が存在し、且つ次の何れかに該当する事業所であるとされています。

①本社・本店
②当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場
③本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等
※引用:東京労働局・労働基準監督署・「企画業務型裁量労働制」の適正な導入のために

但し、以下の場合は対象事業場の対象外となります。
・個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店
・支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場
※引用:厚生労働省・企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制の対象労働者

企画業務型裁量労働制の対象労働者については、次の2点のいずれにも該当する労働者を対象とすると定められています。
①対象要務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者
②多少業務に常態として従事している者

また、企画業務型裁量労働制では、上記の対象労働者に裁量労働制を適用することについて労働者本人の同意を得る必要があるため(労働基準法第38条の4第6項)、実際に企画業務型裁量労働制を適用される労働者は、上記の対象労働者のうち当制度に同意した労働者ということになります。

企画業務型裁量労働制の導入手続き

企画業務型裁量労働制の導入手続きは専門業務型の手続きと異なりますので注意が必要です。なお、当制度は2004年に導入・運用についての要件・手続が緩和されています。

企画業務型裁量労働制では導入に際し、まずは労使委員会を設置する必要があります。
労使委員会の委員に関する要件は次の2点です。
・労働者を代表する委員と使用者を代表する委員で構成されており、労働者を代表する委員が半数以上を占めていること
・労働者を代表する委員は、1過半数組合又は過半数代表者に任期を定めて指名を受けていること

次に、設置した労使委員会で次の事項について委員の5分の4以上の多数による議決により決議する必要があります。
①対象となる業務の具体的な範囲(「経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務」など)
②対象労働者の具体的な範囲(「大学の学部を卒業して5年以上の職務経験、主任(職能資格○級)以上の労働者」など)
③労働したものとみなす時間
④使用者が対象となる労働者の勤務状況に応じて実施する健康及び福祉を確保するための措置の具体的内容(「代償休日又は特別な休暇を付与すること」など)
⑤苦情の処理のため措置の具体的内容(「対象となる労働者からの苦情の申出の窓口及び担当者、取扱う苦情の範囲」など)
⑥本制度の適用について労働者本人の同意を得なければならないこと及び不同意の労働者に対し不利益取扱いをしてはならないこと
⑦決議の有効期間(3年以内とすることが望ましいとされています)
⑧企画業務型裁量労働制の実施状況に係る記録を保存すること(決議の有効期間中及びその満了後3年間)

最後に、決議したことは所定の様式にて所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。

※参考:厚生労働省・企画業務型裁量労働制

裁量労働制のメリット

在宅勤務 - 【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説

このように対象業務等に限りのある裁量労働制ですが、裁量労働制を導入するとどのようなメリットがあるのでしょうか。
使用者側と労働者側に分けて紹介します。

裁量労働制の使用者側のメリット

残業代の負担が減る

裁量労働制が企業に齎すメリットの1つ目として、まず裁量労働制では予め定められた労働時間よりも実際の労働時間が長くてもその分の残業時間を原則として支払うことがないため、残業代の負担の削減に繋がるという点が挙げられます。

人件費が予想しやすい

また、前述の通り、裁量労働制では残業代の追加負担が原則発生しないため、年間の人件費の算出も容易になります

労務管理の負担が減る

更に、上記のふたつのメリットとも関連し、労務管理の負担が減るという点もメリットとなります。

月末などの給与計算・支給の際、従業員1人1人の残業時間を含めた労働時間とそれに基づく給与を計算し支給する手間を削減することができるため、人事の作業負担の軽減に繋がります。

業務の効率化や生産性の向上につながる

加えて、業務の進め方や時間配分等をプレイヤーである労働者に委ねることで、労働者が自身のやりやすい進め方やペースで効率的に業務を行うことができるため、業務の効率化や、労働者の生産性の向上を図ることができます

裁量労働制の労働者側のメリット

自身の進め方やペースで業務を進めることができる

裁量労働制が労働者側に齎すメリットの一つ目は、自身が効率的だと考える進め方やペースで業務を行うことができるという点です。

誰からも指示を受けることなく、また型に縛られることもなく自身のやりやすい形を採ることができるため、例えば調子が悪い日は早めに切り上げて翌日などに回すこともでき、ストレスがたまるようなことも防ぐことができます。

柔軟な働き方ができる

裁量労働制では労働時間や時間配分を自分のペースで決めることができるほか、出勤時間や退勤時間、休憩時間についても縛られることがないため、自身のスケジュールやライフスタイルに合わせて働くことができます

裁量労働制のデメリット

以上のように、使用者にも労働者にも多くのメリットのある裁量労働制ですが、使用者側にも労働者側にもデメリットとなる点がありますのでそれぞれ紹介します。

導入のための手続きが複雑

裁量労働制の使用者側のデメリットとしては、導入のための手続きが複雑である点が挙げられます。

裁量労働制は長時間労働の常態化を招く恐れがあることから、労働者を保護する必要性から、導入のための手続きが複雑で厳格となっています。

対象業務が限られている上、定めなければならない、決議しなければならない項目も多く、更に所定の様式で所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があるなど、企業にとっては手続き的な負担が大きい制度です。

長時間労働の常態化に繋がるリスクがある

裁量労働制の労働者側にとっての大きなデメリットとして、長時間労働が常態化するリスクがあるという点があります。

裁量労働制では実際の労働時間に因らず予め定めた労働時間分の給与が支払われるため、労働時間が長引いた場合でも残業代は原則発生しません。

そのため、業務が集中する期間や突発業務・トラブル等により業務量が増加し労働時間が続いた場合、ひいては長時間労働が常態化した場合、労働時間は長いものの給与には反映されないという状況に陥りますが、その調整も労働者自身で行う必要があります。

更に、長時間労働の常態化により過労などの問題につながる可能性もあり、労働者本人のみならず使用者にとってのデメリットにもなります。

実際、厚生労働省の調査では、裁量労働制を適用している人の方が、適用していない人よりも1日の平均労働時間が約20分長く、また1週間の労働時間が60時間を超えた人の割合も、適用している人が9.3%、適用していない人が5.4%と、前者の方が多い結果となっています

※発表日 :2021年6月25日
調査期間:2019年11~12月(10月時点の状況)
調査対象:1万4000余りの事業所とおよそ8万8000人の労働者

参考:NHK・裁量労働制で働く人 長時間労働の割合多い 厚労省が初調査
毎日新聞・裁量労働制、適用者の勤務時間長く 厚労省調査 制度見直しへ

裁量労働制でも残業代が発生する場合がある

テレワーク - 【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説

みなし労働時間が法定労働時間を超える場合

このように、裁量労働制はメリットが多い反面デメリットもあり、特に長時間労働常態化のリスクは労働者にとっても企業にとっても大きな問題となり兼ねないため、労働者と使用者の間でのみなし労働時間の決定の際は十分に検討する必要があります。

但し、みなし労働時間の決定にあたり注意しておくべきなのが、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合には、超えた部分の時間については残業代(時間外割増賃金)が発生するという点です。

法定労働時間は1日8時間、週40時間と定められているため(労働基準法第32条)、それを超えるみなし労働時間を設定した場合は、労働基準法第37条1項に基づき、法定を超えた時間分の割増賃金を支払う必要があります。

法定休日に出勤した場合

また、同じく労働基準法第37条1項には休日に労働をした場合も同様に割増賃金を支払う必要があることが定められており、裁量労働制においても適用されますので、法定休日である週に1日若しくは4週間を通じ4日以上(同法第35条)を超えて出勤した場合は、休日出勤となる部分について割増賃金を支払う必要があります

深夜残業を行った場合

加えて、深夜残業を行った場合も割増賃金を支払う必要があります

労働基準法第37条4項によると、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間に労働をした場合、割増賃金を支払う必要があることが規定されており、こちらも同様に裁量労働制においても適用されます。

以上3点の何れかに当たる場合は、裁量労働制であっても残業代等の割増賃金を支払う必要があります。

前章までに、「残業代については『原則』発生しない」という形で記載してきましたが、それはこのためです。

裁量労働制のメリットである残業代が発生しないという点の例外となりますので、導入・運用の際は注意しましょう。

まとめ

今回は裁量労働制概要と種類、メリット・デメリット、そして導入の際に注意すべきである残業代が発生するパターンについて解説しました。

裁量労働制は予め定める労働時間が適切に設定され、労働者自身で業務量や労働時間の管理が問題なくできるなどうまく機能すれば使用者側にも労働者側にもメリットの大きい制度ですが、うまく機能しない場合は大きなリスクや労使間のトラブルの原因となる可能性もあります。

使用者側は、裁量労働制の対象業務・対象労働者であっても、実際に裁量労働制を適用すべきか否かについては、自社・対象労働者の状況等を鑑み慎重に判断することが求められます。

また、裁量労働制と似た制度に「高度プロフェッショナル制度」があります。
高度プロフェッショナルも裁量労働制と同様に、限られた職種において、労働時間にとらわれない働き方ができる制度です。
高度プロフェッショナル制度については以下の記事で解説していますのでこちらもぜひ併せてご確認ください。

【解説】高度プロフェッショナル制度とは?概要と変遷、メリットとデメリットまで解説
高度プロフェッショナル制度は、「労働時間ではなく質で仕事を評価する」制度で、その性質から労働生産性の向上が見込めるため注目を集めています。そんな高度プロフェッショナル制度について、概要、メリット・デメリット、導入の際の注意点等を解説します。
The following two tabs change content below.
【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説 - 【解説】裁量労働制とは?メリット・デメリットと注意点について解説
働き方改革サポ編集部
ネクストプレナーズは働き方改革の様々な提案を行っております。ブログによる情報発信に加えて,セミナーも開催しておりますので是非ご参加ください。

働き方改革・人事制度に関するご相談は

  • 当社は、賃金・報酬制度、退職金・企業年金制度、社宅制度等の企業の制度設計コンサルティングだけではなく、業務改善、評価制度、社員教育、SDGs、RPA、AI-OCRなど働き方改革を支援しております。人事分野でお困りなことがございましたら、ご相談ください。

この記事が役立ったら、シェアをお願いします。