従業員のモチベーションをあげ、自社の業績向上に貢献してもらうための施策のひとつに「ストックオプション」があります。
ストックオプションは、インセンティブとして利用されるものの中のひとつで、企業の業績に応じて役員や従業員の利益に繋がる仕組みの制度です。
新型コロナウイルスの影響でテレワークとなったことで、従業員の仕事ぶりが目の前で見えない中でも意欲的に仕事をしてもらうため、業績向上への貢献度に応じてインセンティブを設けることを改めて検討している企業もあるようです。
そこで今回はストックオプションの概要と種類及びメリット・デメリットについて解説します。
目次
ストックオプションの概要
「ストックオプション」とは、新株予約権(会社法2条21号)の一種で、企業が自社の役員や従業員に対して報酬として与える、「自社株を予め定めた価格(権利行使価格)にて購入する権利」のことです。
役員や従業員は、将来自社株式の株価が権利行使価格より上昇したタイミングでその権利を行使することにより、株価との差額が利益となることに加え、株式が上昇している間に株式を売却すれば、差額分の金額を受け取ることができます。
株式を購入できる期間(権利行使期間)や数量(比率)は、価格と併せて企業が定めます。
また、ストックオプションは「購入する権利」であるため、役員や従業員は、将来仮に自社の業績が悪化するなどで株価が下がった場合は、株式を購入しなければ原則損をすることはありません(※後述の有償型は例外)。
ストックオプションの導入には、従業員自身が得られる利益を増やすため「自社の株価を上げよう・業績を上げよう」という意識を強く持つことに繋がるというメリットがあります。
そのため、付与対象はそのような意識を持ちやすく貢献度の高い(高くなることが見込まれる)役員や従業員とすることが多いです。
ストックオプションの種類
ストックオプションには発行方法や税制等により以下の種類があります。
・通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)
・株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)
・有償型ストックオプション
・信託型ストックオプション
通常型ストックオプション(税制適格ストックオプション)
通常型ストックオプションとは、権利行使価格を権利付与時の株価以上の価格に設定し、役員や従業員が権利を行使する際に株価が権利付与時よりも上昇している場合、権利行使価格と権利行使時点の株価の差額が利益となるというものです。
加えて、その後の売却時点の株価が同じく権利付与時よりも上昇している場合、権利行使価格と売却価格の差額を報酬として受け取ることができます。
ストックオプション自体は無償で付与されることが多く、最も一般的なストックオプションです。
また、税制優遇措置を受けるため一定の税制適格の条件を満たすように発行されることが多く、税制適格ストックオプションとも呼ばれます。
税制適格を満たした場合、権利行使時には課税されず、株式を売却した時点で課税される(権利行使時から株式売却時まで課税が繰り延べられる)という税制優遇措置を受けることができます。
株式報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)
株式報酬型ストックオプションとは、権利行使価格を1円等の低い価格に設定することで、権利行使時の株価が実質的な利益となる(株式自体を付与するのと同等の利益となる)形のストックオプションです。
税制適格の条件を満たさない形であるため、権利行使時と株式売却時の何れの時点においても課税されますが、一方で発行企業においては損金算入が可能です。
また、株式報酬型ストックオプションは退職金として利用されることも多く、その場合は給与課税よりも税率の低い退職金課税となります。
権利行使価格から「1円ストックオプション」とも、税制適格の条件を満たさないことから「税制非適格ストックオプション」とも呼ばれています。
有償型ストックオプション
有償型ストックオプションとは、権利付与時の時価で新株予約権を有償発行するものです。
一般的なストックオプションでは付与時に支払いは発生しませんが、有償型ストックオプションではその名の通り付与時に役員等から発行企業に対価を支払う必要があります。
通常型ストックオプションと同様に権利行使時点の株価との差額が利益となるというものですが、通常型とは異なり付与時に支払いが発生しているため、株価が下がってしまった場合には損が生じる可能性があります。
また、有償取引であるため権利行使時には課税されませんが、株式売却時には課税されます。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションとは、有償型ストックオプションを利用した新しいスキームです。
発行したストックオプションはまとめて信託に預け、役員や従業員に対してはストックオプションと交換できるポイントを付与しておき、信託の保管期間満了のタイミングでそれぞれのポイント数に応じてストックオプションを割り振るという形をとります。
ポイントを貢献度等に応じて割り振ることで、発行時点においては付与対象としていなかった従業員等を対象とすることができたり、割り当て配分を発行時点ではなく保管期間満了時点で決定することができたりするため、従来のストックオプションのように業績や貢献度が不透明なうちに付与する必要がありません。
ストックオプションの導入に向いている企業
ストックオプションの導入に向いているのは、上場を目指す未上場企業や上場企業です。
ストックオプションは権利付与時よりも権利行使時の株価が上昇している場合にメリットを生む制度であるため、近い将来業績が大きく向上する可能性のあるベンチャー企業での導入が最も適していると言えます。
既に上場している企業においても導入のメリットはありますが、成熟している上場企業の場合、短期間で業績や株価が大きく向上する可能性は高くない場合が多いため、ベンチャー企業に比べ、権利付与時と権利行使時の株価の差は大きくなりづらい傾向にあります。
一方で、株式の取引をスムーズに行うことができないと、ストックオプションを付与された側がメリットを受けづらいため、上場を目指さない企業においては、不向きであるため導入されにくいといえます。
ストックオプションのメリット
ストックオプションの導入には次のようなメリットがあります。
企業側のメリット
ストックオプションでは権利付与時点に費用を負担する必要がないため、人材確保に多額の費用をかけることなく、優秀な人材を確保しやすくなるというメリットがあります。
また、企業の業績が向上することが自身の利益につながるため、役員・従業員等の業績向上に対するモチベーションアップに繋がります。
同様の理由で、現時点で貢献度の高い役員・従業員等の離職防止にも繋がるというメリットもあります。
役員・従業員側のメリット
上述の通り、ストックオプションでは企業の業績が向上することで役員・従業員自身が受け取る利益も大きくなるため、自社への貢献が自分個人にしっかり返ってくるというメリットがあります。
また、もし株価が上がらなかった場合は権利を行使しなければよいため、役員・従業員側にリスクがないという点もメリットといえます。
ストックオプションのデメリット
企業側のデメリット
ストックオプションでは、業績が悪化したり、また社会全体の景気が悪化してしまったりすると株価が上昇せず役員・従業員が利益を得ることができないため、そのような状況が長く続くとモチベーションの低下に繋がってしまう可能性もあります。
加えて、ストックオプションの付与対象が一部に限られる場合は、付与されている役員等と付与されていない役員等の間でモチベーションに差が生まれることも考えられます。
また、メリットの項で、貢献度の高い役員等の離職防止にも繋がるという点をあげましたが、反面、権利行使後はストックオプションの効果がなくなってしまうため、権利行使後に優秀な役員等が離職してしまう可能性があります。
役員・従業員側のデメリット
ストックオプションは権利付与時点で利益が発生するものではないため、その後の経営状況が悪かったり、株価が思ったより上がらなかったりした場合には、役員・従業員側が受け取ることのできる利益がなかったり少なかったりすることがあります。
また、企業側のデメリットでも述べた通り、社会全体の景気が悪化してしまうと、自社の業績がよくても株価が上がらず利益を受けられない可能性もあります。
まとめ
以上、ストックオプションの概要と種類、及びメリット・デメリットについて解説しました。
ストックオプションについてしっかり理解すると共に、時世や自社の状況を踏まえてうまく活用することができれば企業・従業員共に大きなメリットを得られる可能性が高い精度であるため、大きく伸びる可能性のある事業を持つ上場企業や、上場予定のベンチャー・中小企業は検討してみてはいかがでしょうか。
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