
AI時代の人事課は「どこにAIを使い、どこを人が担うか」の線引きが重要です。採用・労務・育成など成果が出やすい利用領域8つを整理し、個人情報・公正採用・誤情報リスクを抑えながら90日で導入する手順を解説します。
目次
AI活用が「人事の標準業務」になりつつある背景
生成AIの普及で、人事の仕事は「文章」と「情報整理」が一気に高速化しました。一方で、個人情報や採用の公平性など、人事特有のリスクも増えています。そのため今は「使う/使わない」より、利用領域の線引きが先に必要です。国も、AIの利活用を促進しつつリスク管理を求める整理を進めています。
公的ガイドライン整備と、社内ルール化が必要な理由
経産省・総務省は、AIに関わる主体向けの統一ガイドラインを公表しています。デジタル庁も、生成AIの調達・利活用で「促進とリスク管理」を一体で示しています。人事は情報の機微性が高いので、社内ルールの有無が成果を分けます。
出典:デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」
人事課が押さえるべき“利用領域”の考え方
基本はシンプルです。
AI=準備(下書き・要約・検索)、人=判断と対話です。
この役割分担を崩すと、炎上や法務リスクが出やすくなります。
AI時代における「人事課の利用領域」とは
利用領域とは、人事業務のうち「AIに任せてよい作業範囲」のことです。対象は、定型的で再現性がある作業が中心になります。
生成AIが得意なこと/苦手なこと
AIが得意とすることは。
- 文書の下書き、言い換え、要約
- 既存ルールを踏まえた整理とフォーマット化
- 大量テキストの分類と論点抽出
AIが苦手とすることは。
- 事実の保証(もっともらしい誤りが起きます)
- 個別事情の最適判断(責任を負えません)
- バイアスの完全排除(監督が必要です)
人事での役割分担(AI=準備、人=判断と対話)
人事の価値は「合意形成」と「公平な判断」にあります。AIは“速く整える道具”として扱うのが安全です。
背景:なぜ今「利用領域の線引き」が重要か
理由は3つあります。個人情報、公正採用、誤情報です。
個人情報の観点
個人情報保護委員会は、生成AI利用での注意喚起を示しています。人事は「入れた瞬間に事故」になり得る情報を持っています。線引きがないと、現場の善意がリスクになります。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
公正採用・バイアスの観点
厚労省は、公正な採用選考の基本として「適性・能力に基づく」ことを示しています。AIの出力が、属性に関わる要素を混ぜると問題が起きます。評価項目の定義と、人の最終判断が不可欠です。
誤情報(ハルシネ)と説明責任の観点
AIは誤った条文解釈や、存在しない事実を作ることがあります。人事文書は社内影響が大きいので、根拠確認が必須です。
メリット:人事課で成果が出やすい利用領域8つ(利用領域マップ)
ここからが本題です。まずは「低リスクで効果が大きい」順に並べます。
採用(母集団形成・候補者対応・面接設計)
- 求人票の叩き台、職務要件の言語化
- スカウト文のパターン生成
- 面接質問案(評価項目に紐づけて作る)
- 候補者向けFAQの整備(問い合わせ削減)
※合否判断は人が持ちます。
人事問い合わせ(HRヘルプデスク・FAQ)
- 就業規則や社内制度の案内文生成
- よくある質問の自動生成と更新
- 申請フローのガイド文章化
「問い合わせの一次回答案」に限定すると効果が出やすいです。
労務・規程(文案作成・論点整理)
- 規程改定の論点整理
- 社内通知(制度変更、手続き)の下書き
- 労務トラブルの対応方針メモの整形
法令・社内規程の一次ソース確認を工程に入れます。
研修・育成(教材作成・要約・課題設計)
- 研修資料の要約と再構成
- ケース問題の作成
- 理解度テストの作成
- 受講者レポートの要約と傾向抽出
評価・目標(運用文書・フィードバック支援)
- 評価制度の説明文、FAQ
- フィードバック面談の台本案
- 目標設定の例文(職種別)
※処遇の決定は人の責任で行います。
人員計画・配置(スキル可視化・内部人材流動)
- スキル棚卸しの項目設計
- 職務記述書の整備
- 社内公募の文面と要件定義
- 内部人材の探索(“探せる化”の設計)
組織開発(サーベイ自由記述の分析)
- 自由記述のテーマ分類
- 部門別の論点抽出
- 改善施策案のたたき台生成
個人が特定される情報は匿名化します。
管理部門共通(稟議・議事録・レポート作成)
- 稟議の骨子、比較表の下書き
- 会議議事録の要約
- 施策のメリデメ整理
この領域は導入が最も簡単です。
事例:利用領域のイメージが掴める3ケース
Google:People Analytics(管理職研究)
GoogleはPeople Analyticsの考え方や、Project Oxygenの学びを公開しています。管理職の行動特性をデータで整理し、育成や運用に活かした事例です。
IBM:AIでスキル推定し人材可視化
IBMはAIによるスキル推定で、スキルギャップ把握や介入に活用したとされます。配置・育成の前提となる「見える化」にAIを使う好例です。
Amazon:バイアスで中止した事例(注意点)
AmazonのAI採用ツールがバイアス問題で中止に至ったと報じられています。学習データの偏り(「女性差別」の欠陥露呈)が、採用の公平性に直結する典型例です。
デメリット:人事が避けるべき領域と典型リスク
個人情報・機微情報の入力
氏名、社員番号、健康、家庭事情、評価原文は原則入力しません。
採否や処遇の自動判断
採用は適性・能力に基づくことが基本です。AI単独判断は、説明責任が立ちにくくなります。
もっともらしい誤りの混入
法令・規程・数値は、必ず一次ソースに当たります。
手順:90日で回す導入ステップ(忙しい人事向け)
Step1 低リスク領域を3つ選びます
おすすめは次です。
- 社内通知の下書き
- サーベイ自由記述の分類
- 人事FAQの叩き台
Step2 入力ルールとレビュー工程を決めます
最低限これだけ作ります。
- 用途区分(OK/要注意/禁止)
- 禁止データ(個人情報・機微情報)
- 人の最終レビュー(重要文書は上長確認)
Step3 テンプレ化とKPI設定で定着させます
- プロンプトをテンプレ化します
- 出力フォーマットも固定します
- KPIは3つに絞ります(時間削減、手戻り、問い合わせ減)
注意点:社内ルール最小セット(テンプレ)
用途区分(OK/要注意/禁止)
- OK:一般文書の下書き、要約、分類
- 要注意:社内限定情報(匿名化+レビュー必須)
- 禁止:個人情報、採否・処遇の自動判断
監査・教育・インシデント対応
- 相談窓口(人事×情シス×法務)
- ログと点検(誰が何に使ったか)
- 年1回の教育とルール改定
公的ガイドラインも更新を前提に整理されています。
まとめ:要点3つ
- 人事のAI利用領域は「準備業務」から設計すると失敗しにくいです。
- 個人情報と公正採用は、最初に線引きしてルール化します。
- 90日で小さく回し、KPIで効果が出た領域から拡張します。