労働組合が考えるべき組合員の福利厚生|3類型と設計5ステップを最新データで解説

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「福利厚生は会社が決めるもの」という前提は、すでに崩れています。厚生労働省の調査では、企業が負担する法定外福利費は常用労働者1人1か月あたり4,882円で、5年前の調査から2割以上減りました。一方で組合員の生活課題は、物価、住居費、介護、治療との両立へと広がり続けています。会社の制度だけでは埋まらない部分を誰が埋めるのか。ここに組合の役割があります。この記事では、組合責任者が来期の運動方針に落とせる水準まで、福利厚生の考え方と手順を整理します。

労働組合が担う福利厚生とは何か

福利厚生とは、賃金以外の形で提供される生活支援の総称です。法律で義務づけられた社会保険料などの法定福利と、企業や団体が任意で行う法定外福利に分かれます。組合が関わるのは主に後者ですが、組合の場合は「会社に要求して獲得するもの」と「組合が自ら組合員に提供するもの」の二層構造になる点が特徴です。この二層を意識せずに議論すると、要求項目と自主事業が混ざり、方針が曖昧になります。まずは自分たちが扱っている福利厚生がどちらなのかを切り分けることが出発点になります。

「会社の福利厚生」と「組合の福利厚生」は別物です

会社の福利厚生は、原則として就業規則や労働協約に基づき、会社が費用を負担します。対象は「従業員」であり、退職すれば適用は終わります。これに対して組合の福利厚生は、組合費や共済掛金を財源とし、対象は「組合員」です。ここから2つの実務上の違いが生まれます。1つは、会社の業績悪化で削られにくいという点です。もう1つは、組合員が対象であるため、非組合員や退職者への扱いを自分たちで設計しなければならないという点です。責任者としては、この違いを組合員に説明できる状態にしておく必要があります。

組合が関与する福利厚生の3類型

組合の関与のしかたは、次の3類型に整理できます。方針を立てる際は、どの類型でどこまで手を伸ばすのかを先に決めます。

  • 交渉型:団体交渉で会社の制度を新設・拡充させる
  • 自主事業型:組合共済や慶弔給付を組合自身が運営する
  • 連携型:共済団体や労働金庫と組んで組合員に提供する

3類型は排他的ではありません。たとえば住居支援なら、会社の住宅手当を交渉で守りつつ、住宅ローンは労働金庫と連携し、万一の保障は共済で補うという組み合わせが成り立ちます。財源も交渉型はゼロ、自主事業型は組合費、連携型は組合員個人の掛金が中心となるため、組合財政への影響も類型ごとに変わります。

なぜいま組合が福利厚生を考えなければならないのか

背景には、数字で確認できる3つの環境変化があります。いずれも組合責任者が総会や機関会議で説明できる材料になります。

会社任せでは法定外福利費が縮小している

厚生労働省の調査によると、常用労働者1人1か月平均の労働費用総額は408,140円で、うち現金給与以外の労働費用は73,296円です。その内訳は法定福利費50,283円(構成割合68.6%)、退職給付等の費用15,955円(同21.8%)、法定外福利費4,882円(同6.7%)となっています。さらに法定外福利費4,882円の内訳は、住居に関する費用2,509円(構成割合51.4%)、医療保健に関する費用729円(同14.9%)、食事に関する費用493円(同10.1%)です。注目すべきは推移で、平成28年調査の法定外福利費6,528円から令和3年調査の4,882円へと減少しています。企業規模別では1,000人以上が5,639円、30〜99人が4,414円で、規模による差も残ります。会社の任意負担に依存する構造そのものが縮小しているということです。

出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査 結果の概況(労働費用)」 

組織率は過去最低、パート組合員は過去最高

もう一つの変化は、組合そのものの構造です。厚生労働省の令和7年(2025年)調査では、労働組合数は22,244組合で前年より268組合(1.2%)減少し、推定組織率は16.0%と前年より0.1ポイント低下して過去最低となりました。一方、労働組合員数は992万7千人で前年より1万5千人(0.2%)増加しています。特に重要なのはパートタイム労働者で、労働組合員数は149万4千人(前年より3万1千人、2.1%増)と過去最高、全労働組合員数に占める割合も15.1%と過去最高になりました。組合員の6分の1近くが短時間労働者である以上、正社員のライフステージだけを前提にした福利厚生は、すでに組合員の実態と合っていません。

出典:厚生労働省「令和7年(2025年)『労働組合基礎調査』の結果を公表します」

物価上昇局面では現物給付の価値が上がる

総務省統計局によると、2026年6月の消費者物価指数(全国・総合)は2020年を100として113.6となり、前年同月比で1.7%上昇しました。生鮮食品を除く総合は113.1で1.6%の上昇です。物価が上がる局面では、賃上げは課税と社会保険料の対象になる一方、食事補助や共済の給付といった現物・現金給付は、同じ原資でも組合員の手元に残る実感が大きくなります。賃上げ交渉と福利厚生の拡充は代替関係ではなく、生活防衛の両輪として位置づけるべき局面です。責任者としては、賃上げ一本に絞らず、生活支援策を組み合わせて提示する視点が求められます。

出典:総務省統計局「2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)6月分」 

組合が福利厚生に取り組むメリットと想定すべきリスク

福利厚生の拡充は、組合にとって組織強化と直結する取り組みです。ただし財政と公平性の論点を避けて進めると、後で必ず問題になります。両面を整理しておきます。

責任者が説明できるメリット

組合員や未加入者に対して、組合の価値を具体的に示せるのが最大の利点です。説明の軸は次の3つに絞ると伝わりやすくなります。

  • 組合費の使途が目に見える形で組合員に還元される
  • 賃上げが難しい年でも組合員の生活を支えられる
  • 未加入者に対する加入メリットとして提示できる

賃金は交渉結果に左右されますが、共済や慶弔給付は組合が主体的に運営できるため、成果が読めます。特に賃上げ幅が伸びにくい年でも、組合が動いた結果を組合員に示せる点は、組織率が下がり続ける環境で無視できない価値です。

事前に潰しておくべきリスク

一方で、次の3点は方針決定前に整理しておく必要があります。

  • 組合費への負担増と、他の運動資金との配分の衝突
  • 利用者が偏り、使わない組合員から不満が出る構造
  • 制度の設計・運営を担う専従者の実務負担の増大

とくに3点目は見落とされがちです。共済の加入手続きや給付事務は継続的な業務であり、担当者が交代すると運用が止まることがあります。制度を作る段階で、事務フローと引き継ぎ資料まで設計しておくことが、制度を長持ちさせる条件になります。

組合員のための福利厚生を設計する5ステップ

方針づくりは、次の順で進めると議論が空中戦になりません。

ステップ1〜2:現状の棚卸しとニーズ調査

最初に、既存の福利厚生を「会社の制度」「組合の自主事業」「連携先のサービス」の3欄に分けて一覧化します。多くの組合では、この作業だけで重複や空白が見つかります。次に組合員へのニーズ調査を行います。ここで注意したいのは、選択肢を用意した設問だけにしないことです。年齢層や雇用形態ごとに課題は大きく異なるため、自由記述欄を必ず設け、属性別に集計できる形で回収します。回収率が低いと機関会議で「代表性がない」と指摘されますので、職場ごとの回収率も管理してください。

ニーズ調査で必ず聞くべき7項目

設問を増やしすぎると回答率が落ちます。最低限おさえるべき項目は次の7つです。

  • 住居費の負担感と住宅取得・更新の予定
  • 医療費・健康診断のオプション費用の負担感
  • 育児・介護と仕事の両立で困っている場面
  • 教育費のピーク時期と資金準備の状況
  • 既存の組合共済や会社制度の利用経験と満足度
  • 今後3年間で必要になりそうな支出
  • 雇用形態と年齢層(属性別集計用)

このうち「既存制度の利用経験」は必ず入れてください。利用率が低い制度は、必要とされていないのではなく、知られていないだけというケースが多くあります。周知不足なのか制度不備なのかを切り分けないまま新制度を作ると、同じ失敗を繰り返します。

ステップ3〜5:優先順位づけ・財源設計・利用状況の検証

調査結果が揃ったら、「困っている人数の多さ」と「1人あたりの負担額の大きさ」の2軸でマトリクスに整理し、優先順位を決めます。次に財源です。交渉型なら会社負担、自主事業型なら組合費、連携型なら組合員個人の掛金という違いを踏まえ、組合費を上げずに実現できる範囲を先に洗い出します。最後に必ず検証の仕組みを組み込みます。導入から1年後に利用件数と利用者属性を集計し、機関会議に報告するところまでを制度設計に含めてください。この検証がないと、使われない制度が固定費として残り続けます。

制度設計で押さえるべき注意点

制度は作って終わりではありません。実務で必ず問題になる2点を先に手当てします。

雇用形態による線引きを残さない

パートタイム労働者の組合員が過去最高になっている以上、正社員だけを対象にした制度設計は組合内部に不公平を持ち込むことになります。慶弔給付や共済の加入資格に勤続年数や所定労働時間の要件を置いている場合、その要件に合理的な説明ができるかを点検してください。会社側の制度についても同様です。2026春季生活闘争では、有期・短時間・契約等労働者の処遇改善として、基本給などの賃金決定ルールの整備や一時金支給といった同一労働同一賃金の実現に関する取り組みが前進したと総括されています。組合の自主事業だけが正社員前提のまま残る、という状態は避けなければなりません。

出典:日本労働組合総連合会(連合)「2026春季生活闘争 まとめ ~評価と課題~」 

「使われない制度」を作らない

制度が使われない原因は、周知不足と手続きの煩雑さにほぼ集約されます。手続きが紙の申請書と押印を前提にしていると、若い組合員は使いません。周知についても、機関紙への掲載だけでは届きません。職場委員が口頭で伝える機会、加入時のオリエンテーション、ライフイベント発生時のリマインドという3つの接点を設計してください。あわせて、給付を受けた組合員の声を匿名で機関紙に載せると、同じ状況の組合員が制度を思い出す確率が上がります。制度の価値は、設計の緻密さよりも到達率で決まります。

国内の実践事例

組合が使える仕組みは、すでに全国規模で整備されています。ゼロから作る必要はありません。

こくみん共済 coop〈全労済〉の職域共済

こくみん共済 coop〈全労済〉は、労働者の共済生活協同組合として全国規模で共済事業を運営しています。2024年度は契約件数2,893万件、契約高791兆円、受入共済掛金5,299億円、支払共済金3,175億円(支払件数199.5万件)となりました。契約者割戻金は前期比2億円増の384億円で、剰余が組合員に還元される仕組みが機能しています。組合が関わる部分としては、職域で加入する団体生命共済があり、2024年度は契約件数が前期を上回りました。実務面では、手続きのデジタル化により協力団体の事務を効率化する「セット共済WEBシステム」が2025年2月から本格展開されています。組合の事務負担を抑えながら保障を提供したい場合の選択肢になります。

出典:こくみん共済 coop〈全労済〉「2024年度 事業と経営の概況」 

ろうきん(労働金庫)による生活資金の支え

労働金庫は「はたらく人の福祉金融機関」として、労働組合や生協を会員に運営されている協同組織金融機関です。全国13労働金庫の2024年度決算では、2025年3月末時点で預金残高23兆159億円、貸出金残高15兆9,442億円、店舗数588となっています。貸出金残高は前年度末比3,726億円(2.39%)増加し、同年度の貸出金利回は1.19%でした。住宅取得や教育費といったライフイベントの資金需要に対して、組合が窓口を紹介し、団体扱いの制度を整えるだけでも組合員の選択肢は広がります。組合財政の負担を増やさずに実施できる連携型の代表例です。

出典:一般社団法人全国労働金庫協会「全国13労働金庫の2024年度決算概況について」 

2026春闘で前進した休暇・両立支援制度

交渉型の成果も具体化しています。連合の2026春季生活闘争のまとめでは、休日数の増加や所定労働時間の短縮、勤務間インターバル制度の導入といった長時間労働是正の取り組みが前進したと報告されています。数字を把握できている組合の単純平均では、年間2.5日の休日増、1日あたり11.0分の所定労働時間短縮が実現しました。さらに、人材育成と教育訓練の充実、定年年齢の引上げや70歳までの就業確保、治療と仕事の両立支援、更年期や不妊治療を対象とする特別休暇の創設といった取り組みも行われています。休暇制度は費用負担が比較的小さく、組合員の生活実感に直結するため、交渉項目として優先度を上げる価値があります。

出典:日本労働組合総連合会(連合)「2026春季生活闘争 まとめ ~評価と課題~」 

まとめ

組合員のための福利厚生を考えるうえで、責任者が押さえるべき要点は次の3つです。

  • 交渉型・自主事業型・連携型の3類型に分けて方針を立てる
  • パート組合員が過去最高である前提で対象要件を点検する
  • 導入1年後の利用件数と利用者属性の検証まで設計に含める

会社が負担する法定外福利費は月4,882円まで縮小し、組織率は16.0%と過去最低です。この2つの数字は、組合が福利厚生に主体的に関わる理由そのものです。まずは既存制度の棚卸しから着手してください。

本記事は公表統計および各団体の公開情報を基にした一般的な情報であり、共済制度の加入条件や税務上の取扱い、個別の制度設計については、所属する産業別労働組合・共済団体・専門家にご確認ください。

労働組合の福利厚生支援の詳細については「労働組合向けコンサルティングサービス」をご覧ください。

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