人事評価を定量化するとは?公的モデルで曖昧な評価をなくす3つの設計法を解説

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リファラル採用2

「評価が曖昧だ」という声は、評価制度を運用していれば必ず耳に入ります。そこで数値目標を増やしてみたものの、営業以外の職種で数字がつくれず、結果として評価者の主観に戻ってしまう。人事評価の定量化は、この行き詰まりから始まることが多いテーマです。本記事では、定量化の意味を整理したうえで、評価項目・目標・評語という3つの切り口から、実務担当者が着手できる設計法を解説します。

人事評価の「定量化」とは何を指すのか

言葉の定義がずれたまま制度をつくると、現場に混乱が生まれます。まずは「定量化」が何を指し、何を指さないのかを明確にします。ここを社内で共有できていないと、設計の途中で「営業以外は数値化できない」という壁に必ずぶつかります。経営層は数字の一覧を期待し、現場の評価者は納得感のある説明材料を求めている、というように、同じ言葉で別のものを指している場合も少なくありません。用語の整理は、制度設計の前段に置くべき工程です。

数値目標を増やすことではありません

定量化と聞くと、売上や件数のような数値目標を全職種に設定する発想になりがちです。しかし管理部門や研究開発のように、成果が数字に表れにくい職務は必ず存在します。定量化の本質は、成果を数字に置き換えることではなく、「どの状態をどの評価にするか」の判断基準を、事前に文章として確定させておくことにあります。数値は判断基準の一形態にすぎません。むしろ、無理に数値目標を割り当てると、測りやすい業務だけに関心が集まり、本来重要な業務が後回しになる副作用が出ます。定量化を「測定の対象を増やすこと」ではなく「判断の再現性を高めること」と定義し直すのが出発点です。

到達点は「誰が評価しても同じ結論になる」状態

定量化のゴールは、同じ事実を見た複数の評価者が、おおむね同じ評語にたどり着く状態です。国の人事評価では、評価の基礎となるのは「評価者が日常の業務管理を通じて把握している被評価者の行動」とされ、具体的な評価事実に基づいて評語を付与する仕組みが取られています。裏を返せば、事実の収集と当てはめのルールが決まっていない制度は、どれだけ項目を細かくしても曖昧さが残ります。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」 

絶対評価と相対評価を混同しない

国の人事評価は、他の職員との比較ではなく、評価項目や設定された目標に照らして絶対評価で行うこととされています。一方で、昇給や賞与のように配分の総額に上限がある処遇には、分布のルールが別に設けられています。評価そのものは絶対評価で行い、処遇への反映段階で分布を調整する。この二段構えを理解しておくと、「絶対評価なのに人数枠があるのはおかしい」という現場の疑問に答えられます。評価者研修では、この点を最初に説明しておくと後の混乱が減ります。逆に説明を省くと、評価者が分布を意識して事実から離れた評語をつけ始め、定量化の努力が無駄になります。

評価が曖昧になる3つの原因

原因を特定しないまま制度を作り替えると、同じ問題が新しい様式で再発します。実務でよく見られる原因は次の3つに整理できます。いずれも、設計の詰めが足りないことから生じるものです。自社の評価シートを1枚手元に置き、この3点に当てはまるかどうかを確認しながら読み進めてください。当てはまる項目が多いほど、様式の刷新よりも基準の言語化を優先すべき状態にあります。

  • 評価項目が「積極性」「協調性」など抽象語のままである
  • 目標に「いつまでに」「どの水準まで」が書かれていない
  • 評語の段階に文章の定義がなく、評価者の感覚に委ねられている

評価項目が抽象語のままになっている

「積極性」「責任感」といった項目は、評価者ごとに思い浮かべる行動が違います。ある評価者は発言量を見て、別の評価者は締切遵守を見る。同じ項目名でも判断材料が異なれば、結果がそろうはずがありません。抽象語を残したまま5段階の目盛りをつけても、目盛りの意味が人によって違うため、精度は上がりません。項目名ではなく、その項目が満たされているかを判断する材料を用意する必要があります。抽象語そのものを消す必要はありません。項目名は残したまま、その下に判断材料を並べる形にすれば、既存の評価シートを大きく作り替えずに精度を上げられます。

目標に達成水準が書かれていない

「業務改善を推進する」といった目標は、期末に達成度を判定できません。判定できない目標は、評価者が印象で埋めるしかなくなります。国の人事評価では、目標は期末にその達成状況が判定できるように、できるだけ具体的に設定することが求められており、その要素として「何を、いつまでに、どの水準まで、どのように(方法・手段)」が挙げられています。この4要素が揃っていない目標は、設定の段階で差し戻すべきものです。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」

評語の段階に定義がない

S・A・B・C・Dと段階を並べただけでは、AとBの境目がわかりません。評価者研修で「Bが標準です」と口頭で伝えても、標準の中身が言葉になっていなければ、部署ごとに解釈がずれていきます。段階を設けること自体が定量化なのではなく、各段階に「どのような状態か」を文章で定義することが定量化です。この定義がフィードバックの材料にもなります。定義があれば、面談で「今期はBでした」ではなく「Bの定義に照らすとここまで達しており、Aには何が足りないか」という会話ができます。評語の定義文は、処遇の説明資料であると同時に育成の道具でもあるのです。

設計法1:評価項目を「行動」と「着眼点」に分解する

1つ目の設計法は、抽象的な評価項目を、観察可能な行動まで下ろすことです。これは能力面の評価を安定させるための、最も効果が大きい打ち手になります。項目を増やす作業ではなく、既にある項目を分解する作業だと理解してください。項目数を増やすと評価者の負担だけが膨らみ、記入が形式化します。増やすべきなのは項目ではなく、各項目を判断するための材料です。この違いを押さえておけば、作業の方向を誤りません。まずは、国と厚生労働省が公開している枠組みを確認しておきましょう。

国の能力評価はこの構造でできています

国家公務員の能力評価は、職制上の段階と職務の種類に応じて定められた「標準職務遂行能力」を踏まえ、求められる職務行動を記載した評価項目および行動に照らして、実際にとられた行動を評価する構造になっています。さらに、職員のどのような実際の行動を見て判断すればよいかをわかりやすくするため、評価項目および行動ごとに複数の「着眼点」が示されています。つまり、能力→行動→着眼点という三段の分解が公的な設計になっているのです。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」 

厚生労働省の職業能力評価基準を土台に使う

ゼロから行動を書き出すのは骨が折れます。厚生労働省の「職業能力評価基準」は、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を業種別・職種別に整理した公的な評価基準で、業種横断的な事務系職種を含む56業種について整備されています。業界内の標準的な基準であるため、各企業でカスタマイズして使うことが想定されており、自社の評価項目を行動へ分解する際の下敷きとして活用できます。

出典:厚生労働省「職業能力評価基準」

自社で分解するときの手順

分解作業は、いきなり全職種に広げると止まります。1つの職種で型をつくり、横に展開するのが現実的です。最初の職種は、人数が多く業務内容が標準化されているものを選ぶと、レビューの意見が集まりやすくなります。次の5ステップで進めてください。

  • 対象職種を1つ選び、等級ごとに期待する役割を1文で書く
  • その役割を果たしている人が実際にとっている行動を5つ挙げる
  • 各行動について、判断材料となる着眼点を2〜3個添える
  • 現任者と上司にレビューしてもらい、表現の粒度をそろえる
  • 評価シートに落とし、他職種へ同じ手順で展開する

設計法2:目標を4要素で書き、困難度と重要度をつける

2つ目の設計法は、業績面の評価を安定させるものです。目標の書き方を統一するだけで、期末の判定のばらつきは大きく減ります。評価シートの様式を変えるより先に、目標の記載ルールを決めるほうが効果が出やすい領域です。しかも、目標の記載ルールは制度改定の手続きを踏まずに運用ルールとして導入できる場合が多く、着手のハードルが低いという利点もあります。期首の目標設定シートの記入例を差し替えるだけでも、翌期から効果が現れます。

目標に必ず入れる4つの要素

国の人事評価で示されている「何を、いつまでに、どの水準まで、どのように」の4要素は、そのまま民間企業の目標設定ルールとして使えます。たとえば「業務改善を推進する」ではなく、「請求処理のフローを、9月末までに、月次の処理工数を2割削減する水準まで、RPAの適用範囲拡大によって改善する」と書けば、期末に達成状況を判定できます。目標に加えて、チームや組織が成果を挙げるにあたって果たす役割や貢献も記載する運用が取られています。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」

困難度と重要度で重みづけする

複数の目標を立てると、難しい目標と容易な目標、業務上のウェイトが高い目標と低い目標が混在します。国の人事評価では、評価の際に考慮できるよう、それぞれの目標に困難度と重要度を設定することとされています。この重みづけがないと、簡単な目標を多く並べた人が高く評価される歪みが生じます。逆に重みづけを入れれば、目標の数ではなく中身で評価できるようになります。重みづけは、期首面談で評価者と被評価者が合意しておくことが前提です。期末に評価者が一方的に重みを変えると、納得感を大きく損ないます。

チャレンジ目標は未達成でも一律に下げない

挑戦を促す目標を入れると、未達成のリスクも上がります。国の制度では、職位における通常の目標と比べて困難度が高い「チャレンジ目標」を原則1つ以上設定し、評価の際には未達成であることのみをもって低い評価とせず、達成状況や取組状況の水準が職位にふさわしいかという観点に留意するとされています。この扱いを明文化しておかないと、挑戦した人が損をする制度になり、翌期から誰も高い目標を掲げなくなります。制度文書に一文加えるだけで防げるため、優先度の高い対応です。

設計法3:評語の段階と分布・調整の手順を固める

3つ目の設計法は、目盛りそのものの設計です。項目と目標を整えても、目盛りの定義と運用手順が曖昧なままでは、評価結果はそろいません。ここは制度の信頼性を左右する部分であり、評価者研修の内容にも直結します。設計の論点は、段階の定義、分布のルール、評価者間の調整の3つに分かれます。このうち段階の定義は人事部門で作成できますが、分布のルールは処遇原資の判断を伴うため経営層との合意が必要になり、評価者間の調整は会議体の設置という運用面の整備が求められます。着手のしやすさが異なるため、進め方も分けて考えるとよいでしょう。順に押さえていきます。

段階ごとに文章の定義を置く

国の人事評価では、評語の区分を従来の5段階から6段階に細分化し、名称と基準を刷新しています。一般職員の場合、卓越して優秀・非常に優秀・優良・良好・やや不十分・不十分の6段階で個別評語と全体評語を付与します。能力評価では「望ましい行動が基本的にとられた」が良好、「望ましい行動を上回る行動が頻繁にとられた」が非常に優秀といったように、各段階に行動の水準と頻度で定義が与えられています。自社でも、段階の数を決めるより先に、この文章定義を用意してください。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」

分布のルールを決めるかどうかを決める

評価は絶対評価で行い、処遇への反映段階で分布を設ける、という考え方が国の制度に見られます。昇給では勤務成績に基づき5段階の昇給区分が決定され、課長補佐級および係長級の職員の場合、最上位区分に決定できる職員の割合は5パーセント、次の区分は20パーセントとされています。賞与に相当する勤勉手当では、「優秀」以上の成績区分に該当する職員の分布率が30パーセント以上(うち「特に優秀」は5パーセント以上)と定められています。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」

絶対評価と分布率をどう両立させるか

両立の鍵は、評価と処遇を工程として分けることです。評価の工程では基準に照らして絶対評価で評語を付け、処遇の工程では原資の制約に応じて上位から順に配分する。国の勤勉手当では、成績区分の決定が評語の上位の者から順に行われる運用が示されています。この分離を制度文書に明記しておくと、評価者は分布を気にせず事実に基づいて評価でき、被評価者への説明も「評語」と「処遇」を切り分けて行えます。運用にあたっては、次の3点を制度文書に書き分けておくと迷いが生じません。

  • 評語は基準に照らして絶対評価で付与すること
  • 処遇への反映段階で原資に応じた配分を行うこと
  • 配分は評語の上位者から順に決定すること

評価者間の不均衡を調整する仕組みを入れる

評価者が複数いれば、甘辛の偏りは必ず生じます。国の人事評価には、評価者の上位に「調整者」を置き、事実との食い違いや甘辛の偏りがないかを審査し、必要に応じて評語の付け直しや再評価の指示を行う仕組みがあります。さらに実施権者が調整の妥当性を確認して評価を確定させる三段構成です。自社でも、一次評価・二次評価に加えて、部門横断で水準をそろえる会議体を置くと、部門間の格差を抑えられます。会議体では評語の分布だけを見るのではなく、評語の根拠として記載された事実を突き合わせることが重要です。分布だけを議題にすると、事実の検証を伴わない数合わせに流れます。

定量化を運用に落とすときの実務ポイント

制度設計が終わっても、運用の器が用意されていなければ定量化は機能しません。実務担当者として押さえておきたいのは、面談と苦情対応の2点です。どちらも様式ではなく、時間と手順の確保が要になります。評価シートを整えることは人事部門だけで完結しますが、面談の時間確保と苦情対応の体制づくりは、現場のマネージャーと経営層の協力が前提になります。制度公開のタイミングで、この2点への合意も同時に取っておくのが得策です。

面談を制度として組み込む

判断基準を文章にしても、期首にすり合わせなければ認識は共有されません。国の人事評価では期首面談と期末面談の実施が法令上義務付けられており、期首面談は1人15〜30分程度を目安に、目標の具体的な内容や達成水準、困難度・重要度の設定などを十分に話し合って目標を確定させるとされています。オンラインでの実施も可能とされていますが、映像と音声が入った形での面談が求められています。

出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《制度全般編》」

苦情への対応ルートを二層で用意する

評価に対する不満は、放置すると制度への信頼を損ないます。国の制度では、身近なところで簡易・迅速に対応する「苦情相談」と、開示された評価結果に関する苦情などを所定の手続で処理する「苦情処理」の2つの仕組みが設けられています。加えて、苦情を申し出たことや調査に協力したことを理由に不利益な取扱いを受けないよう配慮することとされています。この2点は自社の規程にもそのまま取り込む価値があります。自社で整えるべき要素は次の3つです。

  • 一次窓口として評価者の上位者や人事担当者を明示する
  • 評価結果に関する申出の受付期間と手続を定める
  • 申出や調査協力を理由とする不利益取扱いの禁止を明記する

まとめ

定量化は、評価シートを細かくする作業ではなく、判断基準を先に文章にしておく作業です。最後に、実務で押さえるべき要点を3つに絞って整理します。

  • 定量化とは数値目標を増やすことではなく、判断基準を事前に言語化すること
  • 評価項目は行動と着眼点へ分解し、目標は4要素と困難度・重要度で書く
  • 評語は段階ごとに文章定義を置き、絶対評価と処遇の分布を工程として分ける

本記事は公的機関が公開する制度資料を基にした一般的な情報であり、自社の評価制度の設計や就業規則・賃金規程への反映については、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。

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