初任給を引き上げたら既存社員と逆転した|賃金の逆転・圧縮が起きる仕組みと5つの対処法

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賃上げ

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初任給を引き上げると、入社数年目の社員の基本給を追い越したり、ほぼ同額になったりする「賃金の逆転・圧縮」が起こりやすくなります。本記事では、厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査で初任給水準の動きを確認したうえで、逆転・圧縮が起きる仕組み、現状の把握方法、対処の選択肢、総額人件費の試算、就業規則の改定と従業員への説明の進め方を、中小企業の人事担当者向けに解説します。

初任給の引き上げが、既存社員の問題にもなる理由

新卒採用の競争が続くなかで、初任給の引き上げを検討する中小企業が増えています。ところが、初任給だけを引き上げると、入社して数年たった社員の基本給が新入社員と同じか、場合によっては下回ってしまうことがあります。これが賃金の「逆転」や「圧縮」と呼ばれる問題です。

逆転や圧縮は、放置すると「頑張って勤続しても報われない」という不公平感につながりやすく、若手・中堅層のモチベーションや定着に影響するおそれがあります。一方で、既存社員の賃金を全員分見直せば、総額人件費への影響も大きくなります。

この記事では、初任給水準の動きを公的統計で確認したうえで、逆転・圧縮が起きる仕組み、自社の現状の把握方法、調整の選択肢、費用の試算、就業規則の改定と従業員への説明の進め方を順に整理します。初任給の改定を検討する人事担当者が、社内で検討を始めるための手順としてお使いください。

初任給の水準はどう動いているか(厚生労働省の統計)

厚生労働省の令和7(2025)年賃金構造基本統計調査(新規学卒者の学歴別にみた賃金)によると、新規学卒者の賃金は、男女計で次のとおりです。

学歴 賃金(千円) 対前年増減率(%)
高校 207.3 5.0
専門学校 230.7 3.5
高専・短大 235.5 5.2
大学 262.3 5.6
大学院 299.0 4.0

大学卒は前年から5.6%、高校卒は5.0%の増加となっています。この調査は毎年6月分の賃金について7月に実施されており、厚生労働省の報道発表資料によれば、今回の公表内容は10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所を集計したものです。

ここで注意したいのは、これが全国の平均値であるという点です。業種、地域、企業規模によって水準は異なりますので、自社の初任給をいくらにするかは、この平均だけでなく、同じ地域・同じ職種の求人の水準や、自社の採用状況、既存社員の賃金とのバランスも踏まえて決める必要があります。

賃金の「逆転」と「圧縮」とは

逆転:後から入った人のほうが高くなる

逆転とは、入社年次が上の社員の基本給が、新入社員の基本給を下回ってしまう状態です。たとえば、初任給を22.0万円から24.0万円に引き上げたとき、入社2年目で22.8万円の社員は、新入社員より1.2万円低くなります。

圧縮:差がほとんどなくなる

圧縮とは、逆転はしていなくても、入社年次の違いによる賃金差が極端に小さくなる状態です。上の例では、入社4年目で24.4万円の社員は、新入社員との差が0.4万円しかありません。数年分の経験や評価が賃金に反映されていないと受け取られ、不満の原因になりやすい状態です。

全国平均でも、勤続年数による賃金差は大きくない

同じ調査の勤続年数階級別の賃金(男女計・企業規模計)をみると、勤続0年が274.5千円、1~2年が285.3千円、3~4年が297.0千円、5~9年が312.5千円となっています。階級間の差は、0年と1~2年で10.8千円、1~2年と3~4年で11.7千円です。

この表は新規学卒者だけでなく全学歴・全年齢の労働者を対象としているため、先ほどの新規学卒者の賃金と単純に比較することはできません。また、勤続年数の階級には幅があるため、1年あたりの昇給額に換算することもできません。それでも、勤続0年と3~4年の差は22.5千円であり、全国平均的な賃金カーブでみると、初任給を月2万円ほど引き上げるだけで、数年目の社員の水準に近づいてしまう計算になります。若手層の賃金は、初任給の改定の影響を受けやすいと考えておくべきでしょう。

対処の第一歩:自社の現状を数字で把握する

調整の方法を考える前に、まず自社でどの層にどれだけ影響が出るのかを数字で確認します。次の手順で、1枚の比較表にまとめると議論が進めやすくなります。

  • 入社年次別・学歴別に、現在の基本給(時間外手当や通勤手当を除く)を一覧にする
  • 検討中の新しい初任給を横に並べ、年次ごとの差額を計算する
  • 差額がマイナス(逆転)の人数と、差額が小さい(圧縮)人数を数える
  • 逆転・圧縮を解消するために必要な調整額の合計を概算する

以下は説明用の仮の数字です。初任給を22.0万円から24.0万円に引き上げる場合の例を示します。

入社年次 現行の基本給(万円) 新しい初任給24.0万円との差(万円) 状態
2年目 22.8 -1.2 逆転
3年目 23.6 -0.4 逆転
4年目 24.4 +0.4 圧縮
6年目 26.0 +2.0 差が保たれている

この例では、2年目から4年目までが調整の検討対象になります。実際には、学歴や職種、評価によって基本給がばらつくため、散布図や年齢別の分布表にして、どの層が密集しているかも確認してください。

調整の5つの選択肢

1. 若手層に絞って調整する

逆転・圧縮が起きている年次だけを対象に、基本給を引き上げる方法です。総額人件費への影響を抑えられる一方、対象年次のすぐ上の層との差が詰まってしまうことがあります。調整の範囲は、逆転が起きている年次より少し上の層まで広げて検討するのが一般的です。

2. 賃金テーブル(等級・号俸)を改定して全体を底上げする

賃金テーブルを持っている会社であれば、最低号俸の水準を引き上げ、既存社員もテーブル上の位置に応じて引き上げる方法が筋の通った対応です。基準が明確になるため、従業員への説明がしやすくなります。ただし、全社員が対象になるため、費用は最も大きくなります。

3. 入社後数年間の昇給額を厚くする

初任給を上げた分、入社後数年間の昇給額を大きくして、年次差を作り直す方法です。昇給のルールを変えるため、規程の改定が必要です。年次ごとに最低でも一定額の差が付くように設計しておくと、次回以降の初任給改定でも逆転が起きにくくなります。

4. 評価による昇給で差を付ける

評価結果に応じて昇給額に差を付け、評価の高い若手・中堅から先に調整する方法です。成果を処遇に反映できる反面、評価が標準以下の社員には逆転が残ることがあります。評価制度が運用できていない場合は、この方法だけに頼らないほうが安全です。

5. 段階的に実施する

初任給の引き上げ幅や既存社員の調整を、複数の期に分けて実施する方法です。単年度の負担を抑えられますが、調整が終わるまでの間は不公平感が残るため、スケジュールを従業員に明示することが重要です。

基本給で調整するか手当で調整するかによって、賞与・退職金・時間外手当の計算にどこまで連動するかが変わります。自社の規程を確認し、連動する範囲を把握したうえで選んでください。

総額人件費の試算方法

調整にかかる費用は、次の考え方で概算します。

  • 調整額(月額)× 対象人数 × 12か月で、年間の基本給の増加額を求める
  • 賞与が基本給に連動する場合は、その増加分を加える
  • 退職金が基本給に連動する場合は、将来の負担増として別に見積もる
  • 会社負担の社会保険料など法定福利費を加える

先ほどの例で、年次差を最低でも0.4万円確保する方針をとり、2年目を24.4万円、3年目を24.8万円、4年目を25.2万円に調整するとします。各年次に2名ずついる場合の基本給の増加額は次のとおりです。

入社年次 調整額(万円/月) 人数 月額の増加(万円)
2年目 1.6 2名 3.2
3年目 1.2 2名 2.4
4年目 0.8 2名 1.6
合計 6名 7.2

月額で7.2万円、年額で86.4万円(7.2万円×12か月)の増加です。これに賞与や法定福利費の連動分が加わります。連動の割合は会社の規程や加入している保険によって異なるため、自社の数値で計算してください。なお、新入社員の初任給引き上げ分(2.0万円×人数×12か月)は、これとは別の費用です。

就業規則・賃金規程の改定と従業員への説明

基本給のルールや初任給を変更する場合は、就業規則(賃金規程)の変更が必要になることがあります。厚生労働省の事業者向けQ&Aでは、変更手続きについて次のように説明されています。

  • 過半数代表の意見を聴取し、その者の氏名を記載した意見書を添付して、労働基準監督署長に届け出る(労働基準法第89条、第90条)
  • 変更後の内容を労働者に周知する(同法第106条第1項)
  • 労働者に有利な変更は、これらの手続きを経れば可能
  • 労働者に不利な変更は、個々の労働者との合意が必要(労働契約法第9条)。例外として、周知され、変更が合理的なものである場合には、合意しない労働者も拘束される(同法第9条ただし書、第10条)

詳細は、厚生労働省の就業規則の変更に関するQ&Aで確認できます。初任給の引き上げや若手の基本給の調整は、通常は労働者に有利な変更です。しかし、調整の財源を確保するために手当を廃止したり、他の層の昇給を抑えたりする場合は、不利益な変更に当たる可能性があるため、慎重な検討が必要です。労働組合がある会社では、労使協議の場で早めに説明することも欠かせません。

従業員への説明では、次の点を押さえておくと納得を得やすくなります。

  • なぜ初任給を引き上げるのか(採用環境、賃金水準の位置づけ)
  • 誰を、どの基準で、いつ調整するのか
  • 調整の対象外となる層に対して、どのような考え方で処遇しているのか
  • 今後の改定でも逆転が起きないよう、どのようなルールを整えるのか

避けたい3つの失敗

  • 初任給だけを上げて、既存社員の状況を確認しない:後から逆転に気付き、慌てて対応すると、説明が後手に回り不信感を招きます
  • 調整額を一律に乗せて、年次差をなくす:一律の加算では、初任給との差が詰まったまま残ることがあります。年次ごとの差を意識して設計してください
  • 一時金や手当だけで埋め続ける:一時的には不満を抑えられても、翌年以降に同じ問題が繰り返されます。基本給や賃金テーブルの見直しにつなげましょう

まとめ

初任給の引き上げは、新卒採用に有効な一方、既存社員の賃金との整合性を取らないと、逆転や圧縮という別の課題を生みます。まず、入社年次別の基本給と新しい初任給を比較して影響範囲を把握し、若手層の調整、賃金テーブルの改定、昇給カーブの見直しなどから自社に合う方法を選びます。そのうえで、費用の試算と規程の改定、従業員への説明を一体で進めることが大切です。

賃金制度の設計や見直しをご検討の際は、株式会社ネクストプレナーズにご相談ください。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

よくある質問

Q. 初任給の逆転と圧縮はどう違いますか。

逆転は、入社年次が上の社員の基本給が新入社員より低くなる状態です。圧縮は、逆転はしていないものの、入社年次による賃金差が極端に小さくなっている状態を指します。どちらも、経験や勤続が賃金に反映されていないという不公平感につながりやすい状態です。

Q. 初任給の水準は、何を基準に決めればよいですか。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、令和7年の新規学卒者の賃金は男女計で大学262.3千円、高校207.3千円でしたが、これは全国平均です。自社の地域・職種の求人水準、採用状況、既存社員の賃金とのバランスを合わせて検討する必要があります。

Q. 逆転が起きたら、既存社員全員の賃金を上げる必要がありますか。

必ずしも全員を対象にする必要はありません。逆転や圧縮が起きている年次と、その上の層に絞って調整する方法や、賃金テーブルの改定、昇給額の見直しなどの選択肢があります。まず対象人数と調整額を試算し、費用と効果を比べて決めます。

Q. 調整にかかる費用は、どのように試算すればよいですか。

調整額(月額)に対象人数と12か月を掛けて年間の増加額を求め、賞与や退職金が基本給に連動する場合はその分を、さらに会社負担の社会保険料などの法定福利費を加えて概算します。連動の割合は自社の規程によって異なります。

Q. 初任給の引き上げや基本給の調整には、就業規則の変更が必要ですか。

賃金に関するルールを変更する場合は、就業規則(賃金規程)の変更が必要になることがあります。厚生労働省のQ&Aでは、過半数代表の意見聴取と労働基準監督署長への届出、変更内容の周知が必要とされています。労働者に有利な変更はこれらの手続きで行え、不利な変更は個々の労働者の合意が原則です。

出典・参考資料

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人事ブログ編集部
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