SDGs担当者を任されたら、最初にやることは、新しい活動を探すことではありません。経営者と「何のためにSDGsに取り組むのか」をそろえ、一緒に進めるメンバーを決めることです。本記事では、推進体制の作り方と、経営者への提案から始める最初の90日の進め方を解説します。根拠は、中小機構が運営するJ-Net21などの公的資料です。
SDGs担当者を任されたら、最初に何をすればよいか
SDGs担当者を任されたら、最初にやることは、経営者と「誰のために、何のために取り組むのか」をそろえることです。新しい活動の企画や、17の目標の暗記から始める必要はありません。J-Net21(中小機構)のQ&Aは、社内でSDGsの取り組みを任されたときの進め方を示しています。まず理念を理解し、そのうえで、誰のために、何のために取り組むのかを整理する、という順序です。
次の一手は、経営者から現場リーダーまでの10名弱でプロジェクトチームをつくることです。各自が大切にしたい相手と会社の未来像を持ち寄り、議論して集約します。同Q&Aが勧めているのは、新しい取り組みを始めることではなく、いま本業で行っていることの見直しです。その中から、17の目標と169のターゲットに当たる項目を探します。
担当者がまず押さえるSDGsの前提
SDGsとは、2030年までに達成をめざす国際目標のことです。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に掲げられました。国連広報センターによると、17の目標と169のターゲットからなります。
中小企業にとっての意味は、J-Net21のQ&Aが説明しています。中小企業に求められるSDGsとは、事業そのものによる社会課題の解決への取り組みです。前提は、利益を上げられる持続可能な事業運営です。単純な販促手段として捉えると、かえって逆効果になることもあるという注意も添えられています。
最初の90日の全体像
最初の90日は、3つの期間に分けると進めやすくなります。「経営者と目的をそろえる」「体制をつくって現状を棚卸しする」「計画にまとめて報告する」の3つです。この区切りは、J-Net21のQ&Aに示された進め方を、担当者が動きやすい時期ごとに並べ直した当社の整理です。公的機関が定めた期間ではありません。
| 期間 | 目的 | 主なやること | 残すもの |
|---|---|---|---|
| 1〜30日目 | 経営者と目的をそろえる | 公的資料を読む、経営者に考えを聞く、提案をまとめる | 目的と進め方を書いた1枚の提案書 |
| 31〜60日目 | 体制をつくり、現状を棚卸しする | チームを発足する、大切にしたい相手と未来像を持ち寄る、本業の取り組みを洗い出す | メンバー表、取り組み一覧、未来像のメモ |
| 61〜90日目 | 優先課題と計画をまとめ、報告する | 未来像と現状の差から目標を考える、方針を確認する、アクションプラン案を作る | 優先課題とアクションプランの案 |
1〜30日目:経営者と目的をそろえる
最初の30日は、担当者が1人で動ける期間です。資料を読み、経営者の考えを聞き、提案を1枚にまとめます。
ステップ1:公的機関の資料で全体像をつかむ
最初の1〜2週間で、公的機関の資料に目を通します。J-Net21のQ&Aが挙げる情報収集の入口は、次のとおりです。
- 中小機構「中小企業のためのSDGs活用ガイドブック」
- 各経済産業局のSDGs事例
- ジャパンSDGsアワード受賞団体
- 同業他社や業界団体のSDGs関連情報
- 自治体のSDGsプラットフォーム
ガイドブックの全国版は、中小機構のページによると2022年1月の発行です。
環境省の「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版]」もあります。企業にとっての意義、具体的な進め方、先駆的企業の事例を扱う資料です(環境省のページ)。概要版、本編、資料編の3種類があります。
すべてを読み込む必要はありません。経営者に「中小企業に求められるSDGsとは何か」と「進め方の例」を説明できる程度につかめれば足ります。
ステップ2:経営者に聞くことを決める
経営者との面談では、次の3つを聞きます。
- SDGsに取り組むのは誰のためか(従業員とその家族、お得意様、消費者、地域社会など)
- 5年後、10年後に会社をどうしたいか
- いまの経営理念や経営方針に、社会貢献の考え方が入っているか
1つ目と2つ目は、J-Net21のQ&Aが「大切にしたいステークホルダー」と「ありたい姿」と呼ぶものです。別のQ&Aによると、有効な取り組みには共通点があります。企業理念やビジョンが明確なことと、大切にしたいステークホルダーが明確なことです。3つ目を聞く理由は、後の「方針は新しくつくるべきか」で説明します。
ステップ3:経営者への提案を1枚にまとめる
面談の内容を、1枚の提案書にまとめます。次の項目を入れておけば、経営者が判断しやすくなるでしょう。
- 目的:何のために取り組むか。取引先との関係、消費者の志向、従業員の活性化などを、自社の事情に合わせて書く
- 進め方:プロジェクトチームをつくり、本業の棚卸しから始める
- 体制:参加してほしい役職と、経営者自身の関わり方
- 90日後に出すもの:優先課題とアクションプランの案
目的の根拠には、J-Net21のQ&Aの説明が使えます。取引先との関係や消費者の志向などから、SDGsは経営と切っても切れない関係にあるという説明です。同Q&Aは、小規模事業者でも従業員が活性化すると述べています。さらに、未来のありたい姿を打ち出すと、大手企業・大学・行政などと連携できる可能性が広がるとしています。
経営者から出やすい質問にどう答えるか
提案の場で出やすい質問は、次の3つです。
- 許可は要るのか。SDGsの取り組みに許可は不要です。J-Net21のQ&Aによると、SDGsは方向目標のため、自社で自由に取り組めます。ただし、SDGsロゴの使用にはガイドラインと使用条件があり、商業用途などでは事前の許可が必要です。
- うちのような中小企業でもできるのか。J-Net21のQ&Aは、地域の雇用を支える中小企業は、SDGs貢献の担い手になり得ると答えています。大企業やグローバル企業以上の担い手になり得る、という説明です。
- 販促になるのか。販促だけを目的にすると逆効果になりうる、という前述のQ&Aの説明を伝えるとよいでしょう。
31〜60日目:推進体制をつくり、本業の取り組みを棚卸しする
経営者の了解が取れたら、チームを発足します。担当者は、会議を回す事務局の役割を担います。
SDGs推進体制とは何か
SDGs推進体制とは、SDGsの取り組みを決めて進めるために、参加するメンバーと役割を社内で決めた仕組みのことです。部署を新設する必要はなく、J-Net21のQ&Aが示すのはプロジェクトチームの形です。
誰をメンバーにするか
J-Net21のQ&Aは、メンバーを各層から選ぶよう勧めています。経営トップ、経営幹部、管理職、現場リーダーなどから選ぶのが基本です。女性社員もバランスよく加わり、幅広い部署・世代・男女が参加することがポイントです。
人数の例は、別のQ&Aが10名弱としています。SDGsには基準や罰則がないため、人数は目安です。会社の規模に合わせて調整して構いません。
次の表は、当社が整理した役割分担の例です。公的機関が定めたものではありません。
| 役割 | 担う人の例 | 主な仕事 |
|---|---|---|
| 経営者 | 代表者、経営トップ | 目的の確認、方針の最終判断、チームへの参加 |
| 事務局 | 任された担当者 | 日程調整、資料づくり、記録、経営者への報告 |
| 幹部・管理職 | 各部署の責任者 | 部署の取り組みの洗い出し、部署内への共有 |
| 現場リーダー | 現場の中心になる人 | 現場で実際に行っていることの確認 |
最初の会議で行う3つのステップ
J-Net21のQ&Aに沿った最初の会議の流れは、次のとおりです。
- ステップ1:大切にしたい相手を挙げる。メンバーが1人ずつ、自分が大切にしたいステークホルダーを考え、持ち寄って集約します。
- ステップ2:5〜10年後の会社の姿を描く。各自が思い描いた姿を出し合い、議論します。
- ステップ3:自分ごととして受け止める。SDGsを、自分が大切にしたい人に喜んでもらえる未来を目指した取り組みとして位置づけます。
同Q&Aによると、この進め方は上からの指示ではなく、本業の中での自発的な取り組みにつながります。目標設定のQ&Aも、同じ考え方です。トップダウンより従業員を巻き込み、「自分ごと」として議論するほうが、全社的な取り組みに高められると説明しています。
本業の取り組みを棚卸しする
棚卸しとは、各部署がすでに行っている取り組みを書き出し、SDGsの目標に当てはめる作業のことです。J-Net21のQ&Aは、中小企業はすでに地域貢献や社会貢献につながる取り組みを実施していることも多いと述べています。地域の雇用の守り手として、知らず知らずのうちに行っているためです。
同Q&Aが勧める最初の作業は、気づかないうちに行っている取り組みを認識することです。当てはめ方の例として、パートナーシップ、サプライチェーン、BCPなど、現在の事業を目標に照らす方法も示されています。
次の表は、棚卸しの記入例です。特定の企業の実績ではありません。
| 部署 | すでに行っている取り組み | 近い目標の例 |
|---|---|---|
| 総務 | 労働時間の管理、ハラスメント防止の相談窓口 | 目標8「働きがいも経済成長も」 |
| 製造 | 端材の再利用、廃棄物の分別 | 目標12「つくる責任 つかう責任」 |
| 営業 | 地元企業からの仕入れ、地域行事への参加 | 目標11「住み続けられるまちづくりを」 |
目標との紐づけに悩んでも、難しく考える必要はありません。ゴールは互いに影響し合います。J-Net21のQ&Aは、1つの取り組みに3つ4つの目標が紐づくと考えながら整理するよう助言しています。
61〜90日目:優先課題と計画をまとめ、経営者に報告する
最後の30日は、棚卸しの結果を計画に変える期間です。90日目に、経営者へ報告します。
未来像と現状の差から優先課題を決める
J-Net21のQ&Aによると、ゴール設定の流れは次の3段階です。
- ステークホルダーとありたい姿を整理する
- 現状で取り組めていることと、取り組めていないことを幅広く整理する
- 未来のありたい姿と現状とのギャップから目標を考える
ギャップがいくつも出たら、最初は数を絞るほうが進めやすいと考えます。経営者と相談し、人手や費用の面で取りかかれるものから選びます。
方針は新しくつくるべきか
すでにある経営理念や経営方針に「社会貢献」という表現があれば、SDGsのための新しい方針を策定する必要はありません。策定する場合の参考資料は、「SDG Compass」と「環境省のSDGs活用ガイド」です。J-Net21のQ&Aが案内しています。ステップ2で経営理念を確認したのは、このためです。
アクションプランにまとめ、経営者へ報告する
J-Net21のQ&Aは、優先課題をとりまとめ、経営計画・アクションプランに落とし込む手順を示しています。その後に、宣言と社内への浸透、情報発信が続きます。
90日目の報告で、経営者に判断してもらうのは次の3点です。
- 優先課題として何を選ぶか
- 次の半年で、誰が何を行うか
- SDGs宣言や外部への発信をいつ行うか
宣言の作り方は、記事「中小企業のSDGs宣言の作り方」で解説しています。外部へ発信する前には、記事「SDGsウォッシュ対策」で表現を点検してください。
担当者がつまずきやすい点と、避けたいこと
担当者が陥りやすい点は、次のとおりです。
- 1人で決めて進める。J-Net21のQ&Aは、経営者から現場の視点まで、全社的な意見を取り入れることを求めています。
- 新しい活動を急いでつくる。先に見るのは、本業で行っていることです。
- 目標のアイコンを並べて掲げる。実質的な効果をあまり期待できない取り組みになっていないか、J-Net21のQ&Aは自問するよう求めています。
- 取引先から問われてから慌てる。棚卸しの一覧は、アンケートの回答材料としても使えます。詳しくは、記事「取引先のSDGsアンケートの答え方」をご覧ください。
相談できる窓口はあるか
中小機構は、SDGsに関する対面、電話、オンラインの経営相談窓口を設けています。中小機構のページによると、基本の受付時間は平日の午前9時から午後5時です(北海道本部は午後1時から午後5時)。経営相談チャットサービス「E-SODAN」もあります。利用条件は、問い合わせの際に確認してください。
自社だけで進めるのが難しいときの考え方も、J-Net21のQ&Aにあります。中小企業が自社単体でできることは非常に限られるので、連携も意識するというものです。
ネクストプレナーズの見解
SDGs担当者を任された方が最初に迷うのは、何を決めればよいかだと考えます。90日で成果を出そうと急ぐより、経営者の考えを文章で確認するほうが、その後の動きは安定すると考えます。各部署から1人ずつ巻き込む進め方も、同じ理由でおすすめです。よくある誤解は、担当者がSDGsに詳しくならないと始められない、というものです。公的な資料は、読み終えることより、経営者との会話に使うことが役に立ちます。まず経営者との面談を1回、設定しましょう。
監修者
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. SDGs担当を任されたら、最初に何をすればよいですか?
最初にやることは、経営者と、誰のために何のためにSDGsに取り組むのかをそろえることです。そのうえで、経営者から現場リーダーまでの10名弱でプロジェクトチームをつくります。J-Net21(中小機構)のQ&Aは、本業で行っていることの中から17の目標に当たる項目を探すよう案内しています。
Q. SDGsの推進チームは、何人で誰を入れればよいですか?
経営トップ、幹部、管理職、現場リーダーなど各層から選ぶのが基本です。J-Net21のQ&Aは、女性社員もバランスよく加わるなど、幅広い部署・世代・男女の参加をポイントに挙げています。人数の例は10名弱です。SDGsには基準や罰則がないので、会社の規模に合わせて調整して構いません。
Q. SDGsの方針は、新しく作る必要がありますか?
必ずしも必要ではありません。J-Net21のQ&Aによると、経営理念や経営方針に「社会貢献」という表現がすでにあれば、新たな策定は不要です。策定するなら、「SDG Compass」と環境省のSDGs活用ガイドが参考になると案内されています。
Q. SDGsに取り組むのに、許可や届け出は必要ですか?
許可は不要です。J-Net21のQ&Aは、SDGsは方向目標のため自社で自由に取り組めると説明しています。ただし、SDGsロゴの使用にはガイドラインと条件があります。商業用途や資金調達の目的では、国連本部の事前許可とライセンス契約が必要です。
Q. 経営者がSDGsに乗り気でない場合は、どう提案すればよいですか?
自社の事情に合わせて、取り組む理由を示してください。J-Net21のQ&Aによると、SDGsは中小企業の経営と切っても切れない関係にあります。取引先との関係や消費者の志向などが理由です。小規模事業者でも従業員が活性化し、大手企業・大学・行政と連携できる可能性が広がるとも述べています。経営者が大切にしたい相手を聞くことから始めると、話がかみ合いやすいでしょう。
Q. 最初の90日で、どこまで進めればよいですか?
目安は、優先課題とアクションプランの案を作り、経営者に報告するところまでです。この90日という区切りは当社の整理で、公的機関が定めた期間ではありません。宣言や外部への発信は、報告の場で経営者と時期を決めてから進めてください。
出典・参考資料
- 社内でSDGsの取り組みを任されたものの、どのように進めていくのがよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社内でSDGsへ取り組む際の組織のあり方について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 組織としてSDGs経営を推進し、SDGs宣言を策定するにはどうすればよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsを具体的に実践していく際に、何から取り組んだらよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- ゴールの設定方法について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 中小企業におけるSDGsへの対応の必要性について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsに取り組む必要性を感じていますが、どういったことがSDGsになるのでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 自社の取組がSDGsに適していないという指摘があったのですが、どのように取り組むのがよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsへ取り組む際に許可は必要なのでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsではどのような取組が有効なのでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 検討している事業にSDGs経営を導入するには、どうすればよいですか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsは中小企業が取り組めることでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsの取り組み方が分からないのですが、どのように情報収集を行えばよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 中小企業のためのSDGs活用ガイドブック(中小企業基盤整備機構)
- SDGsに関する相談窓口(中小企業基盤整備機構)
- 環境省のSDGs関連資料(持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド[第2版])(環境省)
- 2030アジェンダ(持続可能な開発目標)(国連広報センター)
- 人材開発支援助成金でAI研修を実施する方法|対象コース・申請の流れ・注意点(令和8年度版) - 2026年10月21日
- SDGs担当者を任されたら最初にやること|推進体制の作り方と経営者への提案から始める最初の90日 - 2026年10月20日
- 取引先のSDGsアンケートの答え方|本業の棚卸しで回答材料をそろえる5ステップ - 2026年10月13日
