育休・産休を取った社員の人事評価では、休んだ期間を評価の対象から外せます。ただし、休んだことを理由に、その期間を超えて評価・昇給・昇格を不利にすると、不利益取扱いになるおそれがあります。この記事では、育児・介護休業法第10条、男女雇用機会均等法第9条第3項と厚生労働省の指針をもとに、評価期間の区切り方、昇給・昇格の考え方、評価者が気をつける点を整理します。
結論:休業した期間は評価から外せるが、休業を理由に不利にはできない
育休・産休を取った社員の人事評価では、休んだ期間そのものは評価の対象から外せます。禁止されているのは、休んだことを理由に、休んだ期間を超えて評価・昇給・昇格を不利にすることです。根拠は、育児・介護休業法第10条と男女雇用機会均等法第9条第3項です。どちらも、育児休業や産前産後休業を取ったことを理由とする、解雇その他の不利益な取扱いを禁じています。
厚生労働省の指針は、不利益な取扱いの例として、「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」と「減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」を挙げています。評価の担当者にとっての線引きは、休んだ期間の分までは控除できるが、その先は控除できない、というものです。
この記事では、評価期間の区切り方、昇給・昇格の考え方、評価者が気をつける点を、法令と指針に沿って整理します。会社ごとの賃金規程や個別の事案で結論が変わることがあります。実際の運用では、社会保険労務士や都道府県労働局にも確認してください。
育休・産休を理由とする不利益取扱いの禁止とは
育休・産休を理由とする不利益取扱いの禁止とは、育児休業や産前産後休業を取ったことなどを理由に、事業主が解雇、降格、減給、不利益な人事評価などを行うことを禁じるルールのことです。
根拠になる法律と指針
育児休業の根拠は、育児・介護休業法第10条です。労働者が育児休業の申出をしたことや、育児休業をしたことなどを理由に、解雇その他不利益な取扱いをすることを禁じています。出生時育児休業(産後パパ育休)の申出も、同条の対象に含まれます。産前産後休業の根拠は、男女雇用機会均等法第9条第3項です。妊娠・出産したことや、労働基準法第65条の休業を請求・取得したことを理由とする不利益な取扱いを禁じています。育児休業制度そのものの内容は、育児休業制度の概要と実務で解説しています。
何が不利益な取扱いにあたるかは、厚生労働省の指針が示しています。育児休業等は平成21年厚生労働省告示第509号の指針、妊娠・出産や産前産後休業等は平成18年厚生労働省告示第614号の指針です。どちらにも、降格、減給、賞与等での不利益な算定、昇進・昇格の人事考課での不利益な評価が並んでいます。
令和7年(2025年)10月1日からは、不利益取扱いの理由にできない事由が加わりました。柔軟な働き方を実現するための措置を利用したいという申出と、妊娠・出産等の申出時と子が3歳になる前の時期に聴取した仕事と育児の両立に関する意向です。厚生労働省の「働く女性の心とからだの応援サイト」に記載があります。
「契機として」行った不利益は、原則として法違反と判断される
法違反になるのは、休業等と不利益な取扱いとの間に因果関係がある場合です。厚生労働省は、休業等を「契機として」不利益な取扱いをした場合、原則として「理由として」いる、つまり因果関係があると判断するとしています。「契機として」にあたるのは、原則として、休業等の事由の終了から1年以内に不利益がなされた場合です。
人事評価で押さえたいのは、1年を超えた場合の扱いです。人事異動や人事考課のように、実施時期が事前に決まっている措置や、ある程度定期的に行う措置もあります。これらは、事由が終わった後の最初のタイミングまでに不利益がなされれば、「契機として」と判断されます。復帰後に最初に迎える人事考課は、1年を過ぎていても対象になるということです。昇給や昇格の判定を評価と連動させている会社では、同じ点に注意が要ります。
休業期間は人事評価でどう扱うか
休業期間は「働かなかった期間」として扱える
休業した期間を賃金や賞与に反映させること自体は、禁止されていません。育児休業等の指針は、次の取扱いは不利益な取扱いに該当しないとしています。1つは、休業期間中の、実際に働かなかった時間について賃金を支払わないことです。もう1つは、賞与や退職金の算定で現に勤務した日数を考慮する場合に、休業した期間に相当する日数を、日割りで算定対象期間から控除することです。
ただし、指針は続けて、休業期間に相当する日数を超えて働かなかったものとして扱うことは、不利益な算定にあたるとしています。控除してよいのは、実際に休んだ分までです。
産前産後休業等の指針も、同じ考え方です。賃金について、妊娠・出産等で就労しなかった期間(不就労期間)の分を超えて不支給とすることは、不利益な取扱いにあたります。賞与の算定で、現に休業した期間を超えて休業したものとして扱うことも同じです。さらに、同じ期間休業した疾病等と比べて、妊娠・出産等による休業を不利に扱うことも、該当すると示されています。
評価・賃金・昇格の取扱いを表で確認する
指針に挙げられている取扱いを、人事評価の運用に引き直して整理します。
| 場面 | 指針での扱い | 運用上の考え方 |
|---|---|---|
| 休業期間中の賃金を支払わない | 不利益な取扱いに該当しない(育児休業等の指針) | 賃金規程に、休業期間は無給とする定めがあるかを確認する |
| 賞与の算定で、休業期間に相当する日数を日割りで控除する | 該当しない(同) | 控除は、休業した日数までにとどめる |
| 休業期間を超えて、働かなかったものとして扱う | 不利益な算定に該当する | 復帰後の勤務日まで欠勤扱いにしていないか、算定式を確認する |
| 休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象にしない | 不利益な評価に該当する | 復帰後は、ほかの社員と同じ基準で選考する |
| 実際には労務の不提供が生じていないのに、休業の申出をしたことだけで低く評価する | 不利益な評価に該当する | 評価は、働いた期間の成果や行動の事実で付ける |
| 産前産後休業を、同じ期間休業した疾病等より不利に扱う | 不利益な取扱いに該当する(均等法の指針) | 私傷病休職と産休で、控除の計算方法をそろえる |
評価期間と休業期間が重なるときの考え方
評価期間の途中で休業に入る場合や、休業から戻る場合の扱いは、指針に細かい定めがありません。ここでは、指針の考え方を当てはめた実務の整理を示します。休業した期間の分までは控除できるが、それを超えて不利にはできないという線です。いずれも、規程に書いて、全員に同じルールで運用することが前提です。
評価期間の一部だけ休業した場合
働いた期間の実績や行動を評価し、休業期間は評価の材料にしません。例えば、4月から9月までの半期評価で、7月から休業に入った社員は、4月から6月までの働きぶりで評価します。目標の達成度を見る制度では、休業前に決めた目標を、勤務した期間に見合う水準に見直します。見直さないまま、当初の目標に対する未達を理由にすると、休業したこと自体を低い評価につなげたと受け取られやすくなります。
評価期間のすべてが休業だった場合
評価期間の全体が休業にあたる場合は、評価を付けずに「対象外」とする設計が考えられます。指針は、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない制度を不利益としています。反対に、休業期間そのものを評価の対象外とする扱いは、指針が不利益として挙げる類型には含まれていません。
問題は、昇給や賞与の決定に評価結果が必要になる点です。対象外の期間は、直前の評価結果を引き継ぐか、標準の評価区分に置くか、ルールを決めておきます。低い評価区分に置く運用は避けてください。休業しなかった社員との差が、休業期間を超えて残るおそれがあるためです。
復帰直後や時短勤務の場合
育児休業から復帰した後は、所定労働時間の短縮措置(時短勤務)を使う社員もいます。指針は、時短勤務の適用期間中の、現に働かなかった時間について賃金を支払わないことは、不利益な取扱いにあたらないとしています。一方で、短縮された時間に相当する分を超えて、働かなかったものとして扱うことは、不利益な算定にあたります。
評価で、フルタイムの社員と同じ量の目標を課して未達を低く評価すると、短縮した時間の分を超えて不利に扱ったと受け取られるおそれがあります。目標量は、所定労働時間に応じて決めるのが無難です。
昇給・昇格は休業中と復帰後にどう扱うか
昇格:休業期間を超えて選考から外さない
昇格については、指針がはっきり示しています。育児休業または介護休業をした労働者を、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度にすることは、不利益な評価にあたります。例えば、復帰後1年間は昇格の選考対象外とする規定は、休業期間を超えているため、見直しが必要です。
昇格の要件に、在級年数や勤続年数を定めている会社もあります。休業期間を年数に算入しないことは、休業期間の分に限るのであれば、賞与の日割り控除と同じ考え方で整理できると考えられます。ただし、指針は在級年数の数え方を個別には示していません。算入しない期間が休業期間を超えていないか、規程と運用を確認してください。
昇給:休業期間を超えて据え置かない
昇給について、指針は個別の項目を設けていません。ただ、昇給は賃金の決定に関わります。そのため、指針が挙げる「減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」の考え方を当てはめて点検します。評価と昇給の連動のさせ方は、人事評価を昇給・賞与に反映する方法も参考にしてください。
点検する点は2つです。1つ目は、昇給の時期が休業中に来た場合です。休業中は実施を保留し、復職後の最初の給与から反映するなど、昇給そのものを失わせない運用にします。2つ目は、復帰後の昇給幅です。休業したことを理由に、休業期間を超えて昇給幅を小さくしたり、翌年度以降まで据え置いたりすることは避けます。不利益な取扱いと判断されるおそれがあるためです。働いた期間の評価に基づいて、ほかの社員と同じルールで決めます。
復帰後最初の評価で確認すること
復帰後最初の評価は、先ほど述べた「契機として」の対象です。低い評価をつけることが、直ちに違法になるわけではありません。問われるのは、休業等との因果関係です。そのため、評価の根拠は、働いた期間の事実で残しておきます。評価の確定前に、次の4点を確認します。
- 評価の対象に、休業期間が含まれていないか
- 評価の根拠が、働いた期間の成果や行動の事実になっているか
- 休業前の評価から大きく下がった場合に、その理由を説明できるか
- 同じ等級の休業していない社員と、同じ基準を使っているか
育休・産休者の人事評価を整える5ステップ
ステップ1:規程に休業期間の扱いを書く
評価規程と賃金規程に、休業期間の扱いを書きます。盛り込む項目は、休業期間を評価の対象外とすること、休業前後の目標の見直し、昇給時期が休業中に来た場合の扱い、昇格の年数要件への算入です。賞与の控除は、休業した日数までと明記します。
ステップ2:評価期間と休業期間の重なりを個人別に確認する
評価期間の開始前に、対象者の休業の開始日・終了日と、時短勤務の期間を一覧にします。評価期間のうち、働いた期間がどこからどこまでかを、評価者と本人で共有します。
ステップ3:評価者に、休業を評価の材料にしないことを伝える
評価者には、休業したこと自体を評価に反映しないこと、働いた期間の事実で評価することを伝えます。「復帰したばかりだから、今回は低めにしておく」という調整が、最も起こりやすい誤りです。評価者研修の事例にも加えておきます。
ステップ4:復帰後最初の評価を、人事で点検する
復帰後最初の評価は、評価者の判断だけで確定せず、人事が点検します。休業前の評価や同じ等級の社員と比べて、差の理由を説明できるかを見ます。点検の場として、評価調整会議を使う方法があります。
ステップ5:面談で説明し、記録を残す
評価の結果は、面談で本人に説明します。休業期間をどう扱ったか、昇給・昇格にどう反映したかを、あわせて伝えます。説明した内容と評価の根拠は、記録として残します。
ネクストプレナーズの見解
休業者の評価ルールが規程に書かれていないと、評価者ごとに判断がばらつくおそれがあります。まず、「休業期間は評価から外す」「復帰後は同じ基準で評価する」の2点を、評価規程や賃金規程に短く書いておくことをおすすめします。よくある誤解は、「休んだ分、評価も昇給も遅れて当然」という考え方です。遅らせてよいのは、休業した期間の分までだと考えます。
人事評価制度や賃金規程の見直しでお悩みの場合は、株式会社ネクストプレナーズにご相談ください。
まとめ
育休・産休中の人事評価では、休業した期間の分までなら評価や賃金から外せますが、その期間を超えて不利にはできません。評価期間の一部が休業なら、働いた期間の実績で評価します。全部が休業なら、対象外とするルールを決めます。昇格は、休業期間を超えて選考から外さず、昇給も、休業を理由に据え置かないようにします。まず、自社の評価規程と賃金規程に、休業期間の扱いが書かれているかを確認してください。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
よくある質問
Q. 育休中の社員の人事評価は、しなくてもよいですか?
休業していた期間については、評価の対象外とする扱いが可能と考えられます。育児休業等の指針が不利益としているのは、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象にしない制度などです。評価期間のうち働いた期間があれば、その期間の実績で評価します。対象外とする期間の扱いは、規程に定めて全員に同じルールで適用してください。
Q. 育休から復帰した社員の昇給や昇格を、1年間見送ってもよいですか?
休業を理由に、休業期間を超えて見送ることは避けてください。指針は、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることを、不利益な評価にあたるとしています。昇給は指針に個別の項目がありませんが、賃金の不利益な算定にあたらないかを、同じ考え方で点検します。
Q. 評価期間の一部だけ産休・育休だった場合、評価はどうしますか?
働いた期間の実績や行動で評価します。休業期間は評価の材料にせず、当初の目標がある場合は、勤務した期間に見合う水準に見直します。賞与の算定で控除できるのは、休業した期間に相当する日数までです。
Q. 育休明けに低い評価をつけたら、それだけで違法になりますか?
低い評価をつけただけで、直ちに違法になるわけではありません。違法かどうかは、休業等と不利益な取扱いとの間に因果関係があるかで判断されます。ただし、休業等の終了から1年以内などに不利益がなされた場合は、原則として「理由として」いると判断されます。評価の根拠は、働いた期間の事実で記録してください。
Q. 産休・育休の期間は、賞与の算定でどこまで控除できますか?
休業した期間に相当する日数までです。賞与の算定で現に勤務した日数を考慮する場合、休業期間に相当する日数を日割りで控除することは、不利益な取扱いに該当しません。休業期間を超えて控除すると該当します。産前産後休業では、同じ期間休業した疾病等と比べて不利に扱わないことも必要です。
Q. 時短勤務の社員の評価も、フルタイムと同じ目標量にしてよいですか?
同じ目標量で未達を理由に低く評価することは避けてください。指針は、時短勤務の適用により現に短縮された時間に相当する分を超えて、働かなかったものとして扱うことを、不利益な算定としています。評価でも、短縮した時間の分を超えて不利に扱ったと受け取られないよう、目標量は所定労働時間に応じて決めてください。
出典・参考資料
- 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(第10条)(e-Gov法令検索(デジタル庁))
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(第9条)(e-Gov法令検索(デジタル庁))
- 子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)(厚生労働省)
- 労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)(厚生労働省)
- 妊娠・出産等、育児・介護休業等を理由とする不利益取扱いの禁止(母性健康管理に関する用語辞典)(厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト)
- 人事評価のフィードバック面談の進め方|自己評価を先に聞く順序と、低評価の伝え方・面談記録の残し方 - 2026年10月31日
- 固定残業代が有効になる条件とは?明確区分性・対価性と就業規則・求人票の書き方 - 2026年10月30日
- 育休・産休期間の人事評価の扱い方|不利益取扱いを避ける評価期間と昇給・昇格の考え方 - 2026年10月29日
