
「うちの会社にも労働組合が必要かもしれない」と感じても、実際に何から始めればよいのか分からず足が止まってしまう従業員代表の方は少なくないと思います。労働組合の推定組織率は16.0%まで下がり、社内に相談できる先輩組合員がいないケースがほとんどです。そこで検討したくなるのが、外部の専門家に相談しながら設立を進める方法です。ただし労働組合の設立支援は、一般的な企業向けコンサルティングとは事情が異なります。本記事では、外部コンサルティング的な支援と弁護士活用、それぞれのメリットとデメリットを整理します。
労働組合の設立とは何か
労働組合法が定める「労働組合」の要件
労働組合法第2条は、労働組合を「労働者が主体となつて自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織する団体又はその連合団体」と定義しています。あわせて、次のいずれかに該当する団体は労働組合法上の労働組合として扱われないと定めています。
- 役員や人事権を持つ管理職など、使用者の利益を代表する者の参加を許すもの
- 団体運営の経費について使用者から経理上の援助を受けるもの
- 共済事業その他の福利事業のみを目的とするもの
この要件を満たさないと、労働委員会への資格審査(労働組合法第5条)を通過できず、不当労働行為の救済や労働協約の締結といった法律上の手続に参与する資格が得られません。規約には名称や役員の直接無記名投票による選出、総会の年1回開催など、法律が求める事項を定めておく必要があります。
出典:e-Gov法令検索「労働組合法(昭和二十四年法律第百七十四号)」
設立準備で使える「外部コンサルティング」の実態
企業の人事施策であれば、賃金設計や制度構築を専門とする民間コンサルティング会社が数多く存在します。ところが労働組合の設立支援については、そうした有料の民間コンサルティング事業者は一般的に見当たりません。実際に機能しているのは、連合(日本労働組合総連合会)のオルガナイザーによる無料相談、および合同労組・地域ユニオンへの個人加盟という2つの経路です。連合は「なんでも労働相談ホットライン」(フリーダイヤル0120-154-052)を設け、組合づくりの専門家であるオルガナイザーが相談に応じる体制を整えています。相談は無料で、秘密は厳守されます。
なぜ今、設立準備に外部の力を借りる人が増えているのか
推定組織率16.0%、社内にモデルとなる先例がない
厚生労働省の令和7年「労働組合基礎調査」によると、労働組合の推定組織率は16.0%と過去最低を更新しました。労働組合員数は992万7千人、労働組合数は22,244組合です。組織率が下がり続けているということは、多くの職場において「組合を作った経験がある社員」が存在しないことを意味します。設立の手続きも交渉の作法も、社内で教えてもらえる相手がいない状況が広がっているのが実情です。
連合が掲げる「組織拡大プラン2030」
連合は「日本の雇用者総数に占める労働組合員数は17%を割り、組合員数の減少に歯止めをかけ、集団的労使関係を拡大していくことがナショナルセンターとして責務である」との認識のもと、「連合組織拡大プラン2030」を掲げ、組織拡大の取り組みを進めています。これは、連合にとっても未組織の職場への支援強化が組織課題になっていることを示しており、従業員代表の側からすれば、相談すれば真剣に対応してもらえる体制が整っている時期だと捉えることができます。
外部コンサルティング(オルガナイザー支援等)を使うメリット
連合のオルガナイザーや合同労組の相談窓口を活用するメリットは、次の3点に整理できます。
- 相談が無料で、金銭的な負担なく何度でも相談できる
- 組合づくりの実務経験が豊富な専門家から、規約作成や結成大会運営の助言が得られる
- 動画講座やハンドブックなど、体系化された教材が無償で提供されている
とくに3点目は見落とされがちですが重要です。連合は組合づくり基礎講座の動画やハンドブックのサンプルを公開しており、何もない状態から手順を学べる教材が整っています。何を聞けばいいのか分からない初期段階では、こうした無償の教材で全体像をつかむことが有効です。
外部コンサルティングを使うデメリットと限界
弁護士法第72条が引く代理行為の境界線
連合のオルガナイザーや合同労組の担当者は、規約作成の助言や結成の進め方についてのアドバイスはできますが、会社との交渉や法的手続の代理人になれるわけではありません。弁護士法第72条は「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない」と定めています。違反すれば同法第77条により2年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金が科されます。
つまり、設立準備中に会社との間で法的なトラブルが生じた場合、非弁護士の相談員ではその場面を代理してもらうことはできません。相談できる範囲と代理してもらえる範囲は別物だと理解しておく必要があります。
出典:e-Gov法令検索「弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)」
民間の有料コンサルサービスという選択肢の乏しさ
企業向けの人事コンサルティングのように、費用を払えば柔軟にカスタマイズした支援を受けられる民間サービスは、労働組合の設立支援においてはほとんど確認できません。これは裏を返せば、費用をかけて手厚い専属支援を受けたいと考えても、そうした選択肢自体が限られているということです。連合や合同労組の支援は無償である分、対応のスピードや個別対応の柔軟性については、有償サービスと同じ期待をしない方が現実的です。
弁護士に相談するメリットとデメリット
不利益取扱いを受けたときに頼れる
労働組合法第7条第1号は「労働者が労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること」を不当労働行為として禁じています。設立準備中に解雇や配置転換などの不利益な扱いを受けた場合、この規定を根拠に争うことになりますが、その手続の代理は弁護士でなければ担えません。日本労働弁護団は1957年に結成され、1989年に現在の名称となった、労働者・労働組合の立場に立つ弁護士約1,700名の全国組織です。労働者・労働組合からの法律相談を業務として掲げており、設立準備段階のトラブルについても相談先の選択肢になります。
費用と心理的な敷居の高さ
弁護士への相談は、連合のオルガナイザー相談と異なり、原則として相談料や着手金といった費用が発生します。また「弁護士に相談する」という行為自体に心理的な抵抗を感じる従業員代表の方も少なくありません。実際に不利益取扱いを受けたわけではない準備段階から弁護士に相談するのは大掛かりに感じられることもあるでしょう。まずは無料のオルガナイザー相談で全体像を把握し、法的なトラブルの兆候が出てきた時点で弁護士に切り替えるという段階的な使い方が現実的です。
設立までの実務ステップ
労働組合の設立を進める際は、次の流れで進めると整理しやすくなります。
- 情報収集:連合の「労働組合をつくろう」ページや動画講座で全体像を把握する
- 相談:なんでも労働相談ホットラインでオルガナイザーに現状を相談する
- 規約作成:労働組合法第5条が求める事項を満たす規約を作成する
- 結成大会:役員を直接無記名投票で選出し、結成を正式に決議する
- 資格審査:労働委員会に規約や議事録を提出し、法律上の労働組合として認められる
このステップを踏むことで、法律上の保護を受けられる労働組合として活動を始めることができます。
注意点:結成活動中の不利益取扱いにどう備えるか
結成準備の段階から、次の点を意識しておくとリスクを減らせます。
- 結成に向けた活動の記録(日時・参加者・内容)をこまめに残しておく
- 不利益な取扱いを受けたと感じた時点で、証拠となるメールや辞令を保存する
- 一人で抱え込まず、早めに連合の相談窓口や日本労働弁護団に連絡する
労働組合法第7条第1号による保護は、あくまで事実の立証があってはじめて機能します。記録を残す習慣が、後になって最大の助けになります。
事例:連合による組合づくり支援の実績
連合は2026年の取り組みとして、2月以降、中央・地方ブロックのオルガナイザーを中心に中小規模の未組織企業を対象とした集中企業訪問を実施し、5月31日現在で1,168社を訪問しました。この間、未組織企業の従業員などから組合づくりに関する労働相談は前年の90件から120件に増加し、実際に10数件の組合づくりに向けた取り組みが進行しているとされています。この数字は、外部のオルガナイザー支援を活用して設立準備を進める従業員代表が、決して少数派ではないことを示しています。
出典:日本労働組合総連合会「2026春季生活闘争 まとめ ~評価と課題~」
まとめ
- 連合のオルガナイザーや合同労組の相談窓口は無料で使えますが、会社との交渉や法的手続の代理はできません。
- 弁護士は不利益取扱いなど法的トラブルへの対応で頼れますが、費用と心理的な敷居の高さが課題になります。
- 現実的な進め方は、無料相談で全体像を把握し、法的な兆候が出た時点で弁護士に切り替える段階的な活用です。
本記事は一般的な情報を基にしたものであり、個別の設立手続や法的対応については弁護士など専門家にご確認ください。