
検討会
「社員の基本給を一人ひとり個別に決めていて、昇給の理由をうまく説明できない」という悩みは、賃金制度が整っていない中小企業で起こりがちです。その解決策となるのが、等級ごとに基本給の金額や幅を定めた賃金テーブル(賃金表)です。本記事では、等級と号俸の基本から、初めて賃金テーブルを作るための6つのステップ、最低賃金や不利益変更などの注意点までを、厚生労働省の最新統計とあわせて解説します。
賃金テーブル(賃金表)とは
賃金テーブル(賃金表)とは、社員の等級(役割や能力の段階)ごとに、基本給の金額や幅を一覧にした表のことです。どの等級の社員にいくら支払うのか、昇給するとどこまで上がるのかを、あらかじめ決めておくための仕組みです。
賃金テーブルがない会社では、採用時の交渉や前年の金額をもとに一人ひとりの基本給が決まりがちです。その結果、同じ仕事をしている社員の間で説明のつかない差が生まれたり、昇給額が毎年の判断に左右されたりします。賃金テーブルは、こうした個別判断を「ルール」に置き換える役割を持っています。
等級と号俸の関係
賃金テーブルは「等級」と「号俸」の2つの軸で構成されるのが一般的です。等級は、社員に期待する役割や能力の段階を表すもので、たとえば一般職・主任・係長・課長といった区分に対応させます。号俸は、同じ等級の中での段階を表すもので、1号、2号と番号が大きくなるほど基本給が高くなります。
社員は、評価結果に応じて同じ等級の中で号俸が上がり(昇号)、役割が大きくなれば上の等級に移ります(昇格)。この2つの動きを分けて考えることで、「同じ役割の中での成長」と「役割そのものの拡大」を、それぞれ処遇に反映できるようになります。
賃金テーブルの主な3つの型
賃金テーブルの形にはいくつかの考え方があり、会社の規模や人事制度の方針によって向き不向きがあります。代表的なものは次の3つです。
| 型 | 仕組み | 向いているケース |
|---|---|---|
| 号俸表(積み上げ型) | 等級ごとに号俸を細かく刻み、1号ごとの金額を一覧にする | 毎年の昇給を段階的に管理したい会社 |
| 範囲給(レンジ型) | 等級ごとに上限と下限だけを決め、その範囲内で評価に応じて金額を決める | 評価に応じた昇給額に幅を持たせたい会社 |
| シングルレート(単一型) | 等級ごとに金額を1つだけ決め、昇格しない限り基本給が変わらない | 役割と賃金を厳密に対応させたい会社 |
号俸表(積み上げ型)
号俸表は、等級ごとに1号から数十号までの金額を一覧にした表です。評価に応じて「標準評価なら2号昇給、高い評価なら3号昇給」のように昇号数を決めておけば、昇給額が自動的に決まります。運用が分かりやすく、初めて賃金テーブルを作る中小企業でも取り入れやすい型です。
範囲給(レンジ型)
範囲給は、等級ごとに基本給の上限と下限だけを決める方式です。号俸のように1段ずつの金額を決めないため柔軟性が高い一方で、範囲内のどこに位置づけるかの判断基準を別に定めておかないと、結局は個別判断に戻ってしまいます。
シングルレート(単一型)
シングルレートは、等級ごとに基本給を1つの金額に固定する方式です。役割と賃金の対応は明確になりますが、同じ等級に長くとどまる社員は昇給しないため、等級の数や昇格の基準を慎重に設計する必要があります。
中小企業が賃金テーブルを整備すべき3つの理由
昇給の根拠を社員に説明できる
賃金テーブルがあれば、「あなたは3等級の5号で、今年の評価は標準だったので2号上がりました」というように、昇給の理由を具体的に説明できます。評価制度を導入していても、評価結果が基本給にどう反映されるのかが決まっていなければ、社員は評価の意味を実感できません。賃金テーブルは、評価と処遇をつなぐ部品でもあります。
就業規則に昇給のルールを書く必要がある
労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と行政官庁への届出を義務づけています。そして、就業規則に必ず記載しなければならない事項として、「賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」が定められています(厚生労働省「確かめよう労働条件」)。
つまり、基本給の決め方や昇給の仕組みは、本来、就業規則(または就業規則と一体の賃金規程)に書かれている必要があります。賃金テーブルを整備することは、この記載内容を具体的なものにすることでもあります。
世間水準と比べやすくなる
厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の賃金(6月分の所定内給与額)は男女計で340.6千円となり、前年から3.1%増えました。企業規模別にみると、常用労働者1,000人以上の大企業が385.1千円、100〜999人の中企業が326.2千円、10〜99人の小企業が305.6千円です(厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」)。
同じ調査の年齢階級別の数値では、小企業の賃金は20〜24歳で226.3千円、最も高い50〜54歳で336.6千円です。大企業は20〜24歳で258.4千円、最も高い55〜59歳で465.9千円となっており、年齢とともに上がる幅は企業規模によって大きく異なります。自社の賃金テーブルを作るときは、こうした統計と自社の等級別の金額を並べることで、採用や定着の面で不利になっていないかを確認できます。
賃金テーブルの作り方6ステップ
ここからは、初めて賃金テーブルを作る中小企業を想定して、設計の手順を6つのステップで説明します。
ステップ1 現在の賃金の分布を把握する
最初に、全社員の基本給を一覧にし、年齢や勤続年数、現在の役職と並べて散布図を作ります。同じ役職なのに基本給が大きく離れている社員や、役職が上なのに部下より基本給が低い社員がいないかを確認します。新しい賃金テーブルは、この現状から大きく離れすぎない形で作る必要があるため、出発点の把握は欠かせません。
ステップ2 等級ごとの役割を定義する
次に、等級の数と、それぞれの等級で期待する役割を決めます。等級は多すぎると違いを説明できなくなり、少なすぎると昇格の機会が減ります。社員数が数十人から数百人の会社であれば、まずは「指示を受けて担当業務を行う」「後輩を指導しながら自律的に業務を行う」「チームをまとめる」「部門の成果に責任を持つ」といった、役割の違いを言葉で説明できる数に絞るのが現実的です。
ステップ3 等級ごとの上限と下限を決める
等級ごとに、基本給の下限と上限を決めます。下限は「その等級に昇格した人が最低限受け取る金額」、上限は「その等級にとどまる限り到達できる最高額」です。下限と上限は、ステップ1で把握した現在の分布と、賃金構造基本統計調査などの世間水準を参考にしながら決めます。
ステップ4 号俸の刻み(昇給額)を決める
号俸表を使う場合は、1号あたりの金額(ピッチ)を決めます。説明のための仮の数値ですが、ある等級の下限が22万円、上限が28万円で、標準的な評価の社員が約10年で上限に届くようにしたい場合、年間の昇給額は約6,000円になります。これを標準評価で2号昇給と決めるなら、1号あたりの金額は約3,000円です。何年で上限に達するのが妥当かという考え方から逆算すると、ピッチを決めやすくなります。
ステップ5 等級間の重なり方を決める
隣り合う等級の金額の範囲をどう重ねるかも重要です。下の等級の上限が上の等級の下限より高い「重複型」にすると、昇格しなくても長く勤める社員の昇給余地が残ります。一方で、重なりが大きすぎると、昇格しても基本給がほとんど変わらず、昇格の意味が薄れます。役割の違いを処遇で示したい会社ほど、重なりを小さくする設計が向いています。
ステップ6 移行ルールを決める
新しい賃金テーブルができたら、現在の社員を等級と号俸に当てはめます。このとき、現在の基本給が新しい等級の下限を下回る社員は、段階的に引き上げるのか一度に引き上げるのかを決めます。反対に、上限を上回る社員については、超過分を「調整給」として当面支給し、数年かけて縮小する方法があります。移行によって基本給が下がる社員が出る場合は、次の章で説明する不利益変更の問題に注意が必要です。
設計で見落としやすい3つの注意点
最低賃金を下回らないか確認する
賃金テーブルの最も低い金額は、最低賃金を下回ってはいけません。月給制の場合は、「月給÷1箇月平均所定労働時間」で時間額に換算し、地域別最低賃金と比べます。このとき、通勤手当や時間外手当など、最低賃金の対象とならない賃金は除いて計算します(厚生労働省「あなたの賃金を比較チェック」)。
令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,177円となり、前年度の1,121円から56円引き上げられました。最も高い東京都は1,280円、最も低い宮崎県は1,085円で、発効日は都道府県ごとに2026年10月1日から12月2日にかけて順次となっています(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。
試算すると、1日の所定労働時間が8時間、年間所定労働日数が245日の会社の場合、1箇月平均所定労働時間は約163.3時間です。東京都の1,280円を上回るには、最低賃金の対象となる月給が約20万9,067円以上必要になります。この条件で初任給を月20万円に設定していると最低賃金を下回る計算になるため、賃金テーブルの最下限は毎年の改定に合わせて見直す必要があります。
不利益変更にあたらないか確認する
賃金テーブルの導入に伴って一部の社員の基本給が下がる場合、労働条件の不利益変更にあたります。厚生労働省の労働契約ポータルサイトでは、原則として、使用者は労働者の合意がない限り、一方的に就業規則を変更して労働者の不利益に労働条件を変更することはできないと説明しています。ただし、就業規則の変更が合理的であり、変更後の就業規則を労働者に周知させている場合には、就業規則の変更によって労働条件を変更できるとされています(労働契約法第10条)。
合理性は、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況といった事情に照らして判断されます(厚生労働省 労働契約ポータルサイト「労働条件の変更」)。調整給による段階的な移行や、社員への丁寧な説明は、不利益の程度を小さくするための手段として検討する価値があります。
評価制度とつなげる
賃金テーブルは、評価結果を受け取って初めて機能します。どの評価なら何号昇給するのか、何回続けて高い評価を取れば昇格の候補になるのかを、評価制度と同時に決めておくことが大切です。評価制度をこれから作る場合は、中小企業の人事評価制度、一から作るなら最初にやるべき3つのこともあわせてご覧ください。
まとめ
賃金テーブルは、等級ごとの基本給の金額や幅を決め、昇給のルールを目に見える形にする仕組みです。作り方は、現状の把握、等級の定義、上限・下限の設定、号俸の刻み、等級間の重なり、移行ルールの6つのステップで進めると整理しやすくなります。あわせて、最低賃金の改定、不利益変更、評価制度との接続という3つの注意点を確認しておくことで、導入後のトラブルを防ぎやすくなります。
株式会社ネクストプレナーズでは、中小企業の実情に合わせた賃金・報酬制度の設計を支援しています。賃金テーブルの作成や見直しについては、無料相談からお問い合わせください。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計や就業規則の変更手続きについては、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 賃金テーブルとは何ですか?
社員の等級ごとに基本給の金額や幅を一覧にした表です。どの等級にいくら支払い、昇給でどこまで上がるのかをあらかじめ決めておくことで、基本給の決め方を個別判断からルールに置き換えます。
Q. 号俸とは何ですか?
同じ等級の中での基本給の段階のことです。番号が大きいほど基本給が高くなり、評価結果に応じて同じ等級の中で号俸が上がることを昇号と呼びます。
Q. 社員が10人未満の会社でも賃金テーブルは必要ですか?
就業規則の作成と届出が義務づけられるのは常時10人以上の労働者を使用する場合ですが、昇給の根拠を社員に説明できるようにするという点では、人数にかかわらず整備する意味があります。
Q. 賃金テーブルの最下限はどのように決めればよいですか?
自社の現在の賃金分布と世間水準を参考に決めたうえで、最低賃金を下回っていないかを確認します。月給制では、月給を1箇月平均所定労働時間で割って時間額に換算し、地域別最低賃金と比べます。
Q. 新しい賃金テーブルで基本給が下がる社員がいる場合はどうすればよいですか?
労働条件の不利益変更にあたるため、原則として労働者の合意が必要です。就業規則の変更による場合は、変更の合理性と周知が求められます。超過分を調整給として当面支給し段階的に縮小するなど、不利益の程度を小さくする方法と丁寧な説明をあわせて検討します。
出典・参考資料
- 令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況(厚生労働省)
- 地域別最低賃金の全国一覧(厚生労働省)
- あなたの賃金を比較チェック(最低賃金制度)(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件「就業規則で、記載が必須な事項はありますか?」(厚生労働省)
- 労働契約ポータルサイト「労働条件の変更」(厚生労働省)
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