SDGsに取り組んでいても、求職者に伝わる形で発信できていない中小企業は少なくありません。本記事では、すでに行っている取組を採用に活かすための5つのステップと、公的な認定制度・データベースの活用方法を整理します。あわせて、求人情報の的確な表示義務やSDGsウォッシュなど、発信で気をつけたい注意点も、公的機関の資料を基に解説します。
SDGsを採用活動に活かすとは
SDGsを採用活動に活かすとは、自社の事業や働き方の中ですでに行っている社会・環境への取組を整理し、求職者が企業を選ぶときの判断材料として、正確に伝えることです。新しい活動を始めて目立たせることではなく、実態のある取組を分かりやすく示すことが出発点になります。
SDGsとは何か
SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月に国連本部で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中核となる目標のことです。環境省も、企業向けに取組の進め方を示した「SDGs活用ガイド」を作成しています。環境省の「持続可能な開発目標(SDGs)の推進」のページで、概要を確認できます。
環境省のガイドは、SDGsについてこれまで特段の取組を行っていない、あるいは関心を持ち何か取組を始めてみようと考えているような中小規模の企業・事業者を想定したものとされています。採用に活かす前の段階として、自社の取組を整理する際の参考になります(環境省の発行に関するお知らせ)。なお、SDGsそのものの考え方や、サステナビリティ経営との違いについては、SDGsとサステナビリティ経営の違いの記事で整理しています。
なぜ採用の場面で整理しておく必要があるのか
求職者は、給与や勤務地だけでなく、働き方や会社の姿勢も比べて応募先を選びます。そのため、自社が地域や社員に対して何を行っているかを、求職者が確認できる形で示しておくことには意味があります。ただし、取組の有無を示すだけでは不十分で、中身が具体的であること、入社後の実態と一致していることが信頼につながります。
SDGsの取組を採用に活かす5つのステップ
SDGsの取組を採用に活かすには、棚卸し、事実の確認、伝える相手の整理、発信先の選定、入社後の実態との照合の順に進めるのが基本です。ここでは、中小企業の人事担当者が一人でも進められるよう、5つのステップに分けて説明します。
ステップ1:すでに行っている取組を棚卸しする
最初に、社内で行っている取組を、SDGsという言葉にこだわらずに書き出します。中小企業では、日常の業務改善や地域との付き合いの中に、SDGsに結びつく取組がすでに含まれていることが多くあります。次の表を使って、領域ごとに洗い出してみてください。
| 領域 | 取組の例 | 採用で確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 働き方 | 有給休暇の取得、残業の削減、育児・介護との両立支援 | 制度の有無だけでなく、実際の利用実績があるか |
| 人材育成 | 研修、資格取得支援、OJTの仕組み | 対象者・内容・頻度を説明できるか |
| 多様性 | 女性・若手・シニア・外国人の活躍の場づくり | 配置や登用の実態を示せるか |
| 地域・社会 | 地域行事への参加、地元の取引先との協働、清掃活動 | 活動の時期・頻度・参加者を示せるか |
| 環境 | 省エネ、廃棄物の削減、再生材料の利用 | 取組の内容と範囲を説明できるか |
棚卸しでは、「制度はあるが使われていない」ものを区別しておくことが大切です。実績の伴わない制度を前面に出すと、入社後のギャップにつながるためです。
ステップ2:事実で説明できるものに絞り込む
棚卸しした取組のうち、いつから、誰が、何を行っているかを説明できるものに絞り込みます。数値を載せる場合は、社内の記録で確認できるものだけにし、集計期間と対象を添えます。たとえば「有給休暇の取得状況」であれば、対象期間と対象者の範囲を明記します。根拠を示せない表現は、削るか、「取り組み始めたところです」と正直に書く方が、求職者にとっては信頼できます。
ステップ3:求職者が知りたいことに合わせて伝える
同じ取組でも、伝える相手によって響くポイントが異なります。新卒の求職者には、育成の仕組みや先輩社員の経験、社会への関わり方が参考になりやすく、中途の求職者には、働き方の柔軟さや評価の仕組みが判断材料になりやすいと考えられます。取組を「SDGsのどの目標に当たるか」から説明するのではなく、「この会社で働くと、日々の仕事や生活がどう変わるか」から説明すると、求職者に伝わりやすくなります。
ステップ4:発信する場所を選ぶ
発信先は一つに絞らず、求職者が会社を調べる順に合わせて整えます。
- 求人票:働き方に関わる事実(休暇、研修、残業の目安など)を正確に書く。
- 自社サイトの採用ページ:取組の背景と具体例、担当者の声を載せる。
- 会社説明会・面接:求職者の質問に、取組の実績と課題の両方で答える。
- 公的なデータベース・認定:第三者が確認した情報として示す(次の章で説明します)。
SNSや動画で発信する場合も、求人票や採用ページの内容と食い違わないようにします。
ステップ5:入社後の実態と照合する
採用で伝えた内容が、入社後の現場で実際に行われているかを確認します。入社後の社員に、伝えた内容と実感に差がないかを聞いておくと、次の募集で修正できます。採用で期待を高く設定しすぎると、入社後に落差を感じさせ、早期の離職につながるおそれがあります。発信と実態を一致させることが、SDGsを採用に活かすうえでの土台です。
公的な認定・データベースを採用に活かす
公的な認定やデータベースを活用すると、自社の取組を第三者の基準に沿って示せるため、求職者に対して説明の根拠を持ちやすくなります。中小企業が取り組みやすい代表的なものを2つ紹介します。
ユースエール認定とは
ユースエール認定制度とは、若者の採用・育成に積極的で、若者の雇用管理の状況などが一定以上の基準を満たした優良な中小企業を、厚生労働大臣が認定する制度のことです。対象は常時雇用する労働者が300人以下の中小企業です。厚生労働省の若者雇用促進総合サイトには、主な認定基準として次の内容が示されています。
- 新規学校卒業者など若者対象の正社員を募集していること。
- 新卒採用者が入社後3年以内に離職した割合が20%以下であること(採用が3人か4人の場合は1人以下)。
- 前事業年度の正社員の月平均所定外労働時間が20時間以下で、月平均の法定時間外労働が60時間以上の正社員が1人もいないこと。
- 正社員の有給休暇の取得率が平均70%以上、または年間取得日数が平均10日以上であること。
- 直近3事業年度で、男性労働者の育児休業等取得者が1人以上、または女性労働者の育児休業等取得率が75%以上であること。
- 人材育成方針と教育訓練計画を策定していること。
認定企業は、毎年各都道府県労働局へ報告し、基準を満たさなくなった場合は認定が取り消されます。認定を受けた企業は、ハローワーク等での重点的なPR、認定企業のみが参加できる就職面接会等への参加、認定マークの使用、日本政策金融公庫による低利融資、公共調達での加点評価といった支援を受けられます(認定企業のメリット)。基準は数値で示されているため、「働きやすさ」を客観的に説明したい企業には、目標にしやすい制度です。ただし、基準を満たす必要があるため、申請を考える際は自社の数値を先に確認してください。
女性の活躍推進企業データベースとは
女性の活躍推進企業データベースとは、女性活躍推進法に基づく企業の行動計画や女性の活躍に関する情報を公表し、求職者が企業の取組を比較できるようにした、厚生労働省のサイトのことです。厚生労働省の女性活躍推進法の解説ページによると、常時雇用する労働者が101人以上の事業主には、一般事業主行動計画の策定・届出の義務があります。100人以下の事業主は努力義務です。
行動計画を届け出た企業のうち、女性の活躍推進に関する取組の実績が優れている企業は、「えるぼし」認定を申請できます。また、2024年4月1日からは、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の企業にも、男女の賃金の差異の情報公表が求められるようになっています。データベースに情報を載せておくと、求職者が自社の取組を確認する手がかりになります。
2つの制度の比較
| 項目 | ユースエール認定 | 女性の活躍推進企業データベース |
|---|---|---|
| 対象 | 常時雇用300人以下の中小企業 | 行動計画を策定・届出した企業(101人以上は義務) |
| 主な内容 | 若者の採用・育成・雇用管理が基準を満たした企業を認定 | 行動計画や女性の活躍に関する情報を公表 |
| 採用での使い方 | 認定マークの使用、ハローワークでの重点PR | 求職者が取組を確認できる情報源として案内 |
採用での発信で気をつけたい3つの注意点
SDGsの取組を採用で発信するときは、求人情報の的確な表示義務、実態を伴わない発信、説明の一貫性の3点に注意が必要です。
注意点1:求人情報は的確に表示する義務がある
求人情報の的確な表示とは、求人等に関する情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保つことを求める職業安定法上のルールのことです。厚生労働省の令和4年職業安定法の改正に関するページによると、この義務は令和4年10月1日に施行されました(一部の規定は同年4月1日施行)。対象には、求人者・募集を行う者も含まれます(大阪労働局の案内)。
採用ページや求人票に、働き方や福利厚生に関する取組を書く場合は、実際の制度と実績に基づいて書き、変更があれば更新します。SDGsに関する取組を理由に、実態以上に良く見せる表現は避けてください。
注意点2:SDGsウォッシュにならないようにする
SDGsウォッシュとは、実態が伴わないのに、SDGsに取り組んでいるかのように見せることを指して使われる言葉です。採用の場面では、ロゴやバッジを並べるだけで、具体的な取組や成果を説明できない状態が、これに当たると受け取られかねません。
避けるための基本は、次の3点です。
- 取組の内容、時期、対象範囲を具体的に書く。
- 未実施のこと、これから取り組む段階のことは、そのように明記する。
- 自社の事業とのつながりを説明できない取組は、無理に載せない。
取組の始め方に迷う場合は、取り組む場合と取り組まない場合の違いを整理した記事や、サステナビリティ経営を実践する方法も参考になります。
注意点3:説明の一貫性を保つ
求人票、採用ページ、会社説明会、面接で、説明がバラバラにならないよう、人事担当者と面接官で取組の内容を共有します。面接官が取組の中身を説明できないと、求職者に「形だけの発信」という印象を与えてしまいます。説明用の資料を1枚にまとめ、実績と課題の両方を書いておくと、誰が説明しても同じ内容を伝えられます。
ネクストプレナーズの見解
中小企業の採用では、SDGsという言葉を前面に出すよりも、「自社がすでに行っていること」を事実で丁寧に示す方が、求職者の信頼を得やすいと考えます。また、取組の数を増やすことより、入社後に社員が実感できる取組に絞ることをおすすめします。よくある誤解は、SDGsを新しい広報施策として始めてしまうことです。採用への活用は、人事制度や働き方の整備とセットで考えるのが現実的です。
採用に活かす前に確認したいチェックリスト
発信を始める前に、次の項目を確認しておくと、準備の漏れを減らせます。
- 取組の内容、時期、対象者を、社内の記録で説明できるか。
- 求人票の記載が、実際の制度・運用と一致しているか。
- 数値を載せる場合は、集計期間と対象範囲を明記したか。
- 実施していないこと、これから取り組むことを区別して書いたか。
- 面接官が取組の内容を同じ言葉で説明できるか。
- 入社後の社員から、実態に差がないか意見を聞く機会があるか。
まとめ
SDGsを採用に活かすには、すでに行っている取組を棚卸しし、事実で説明できるものに絞り、求職者の関心に合わせて、求人票・採用ページ・説明会・面接で一貫して伝えることが大切です。ユースエール認定や女性の活躍推進企業データベースのような公的な仕組みを活用すれば、自社の取組を客観的に示しやすくなります。一方で、求人情報の的確な表示義務を守り、SDGsウォッシュと受け取られない発信を心がけてください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. SDGsの取組は採用活動にどう活かせますか?
すでに行っている取組を棚卸しし、事実で説明できるものに絞って、求人票・採用ページ・説明会・面接で一貫して伝えることで活かせます。新しい活動を始めて目立たせるのではなく、実態のある取組を求職者が判断材料にできる形で示すことが基本です。
Q. SDGsに取り組んでいるとアピールするとき、何に注意すべきですか?
実態を超えた表現をしないことです。求人情報は、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示が禁じられ、正確かつ最新の内容に保つことが求められています。取組の内容・時期・対象範囲を具体的に書き、未実施のことは区別して明記してください。
Q. SDGsウォッシュとは何ですか?
SDGsウォッシュとは、実態が伴わないのに、SDGsに取り組んでいるかのように見せることを指して使われる言葉です。ロゴやバッジを並べるだけで、具体的な取組や成果を説明できない状態は、そのように受け取られるおそれがあります。
Q. ユースエール認定は従業員が少ない会社でも取れますか?
対象は常時雇用する労働者が300人以下の中小企業で、少人数でも申請できます。ただし、新卒採用者の入社後3年以内の離職割合(採用が3人か4人の場合は1人以下)、所定外労働時間、有給休暇の取得率などの基準を満たす必要があります。
Q. SDGsの取組が少ない会社は、採用で発信しない方がよいですか?
発信しないという判断は必須ではありません。取組が少ない場合は、できていることと、これから取り組むことを分けて正直に伝えるのが望ましいです。実態以上に見せる表現は避け、入社後の実態と一致する範囲で説明してください。
出典・参考資料
- 持続可能な開発目標(SDGs)の推進(環境省)
- 「持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド」の発行について(環境省)
- 令和4年職業安定法の改正について(厚生労働省)
- 職業安定法改正関係について(厚生労働省 大阪労働局)
- よくあるご質問|ユースエール認定制度のご紹介(厚生労働省)
- ユースエール認定企業のメリット(ユースエール認定制度のご紹介)(厚生労働省)
- 女性活躍推進法の概要・えるぼし認定・企業データベース(厚生労働省)
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