定年後再雇用の賃金はどこまで下げられるか|同一労働同一賃金の考え方と、中小企業の賃金設計・説明のポイント

この記事が役立ったら、シェアをお願いします。

定年後に再雇用した社員の賃金を、定年前より下げることは違法なのでしょうか。下げること自体を禁じる条文はありません。ただし、正社員との差が「不合理」と認められると、パートタイム・有期雇用労働法第8条に反します。この記事では、同一労働同一賃金の考え方、最高裁判決2件の要旨、賃金項目ごとの点検手順、2026年10月1日施行の改正点を整理します。賃金を設計して本人に説明する、中小企業の人事責任者向けの内容です。

定年後再雇用で賃金を下げるのは違法か

再雇用で賃金を下げること自体は、違法ではありません。ただし、通常の労働者(正社員)との賃金差が不合理だと認められると、パートタイム・有期雇用労働法第8条に反します。厚生労働省のQ&Aや最高裁判決の裁判要旨には、「定年時の○割まで」のような数値の基準は示されていません。判断の軸は下げ幅の大小ではなく、賃金項目ごとに、その差が不合理かどうかです。

継続雇用制度とは

継続雇用制度とは、現に雇用している高年齢者が希望するときに、その定年後も引き続いて雇用する制度のことです(高年齢者雇用安定法第9条第1項第2号)。65歳未満の定年を定めている事業主は、次のいずれかを講じなければなりません(同条第1項)。定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の定めの廃止です。65歳から70歳までの就業の確保は、同法第10条の2により、事業主の努力義務です。

制度の全体像は、当ブログの継続雇用制度の解説記事にまとめています。

賃金に関わる法令と指針の整理

再雇用後の賃金には、高年齢者雇用安定法の指針と、パートタイム・有期雇用労働法の両方が関わります。

根拠 賃金について定めていること
高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針(平成24年厚生労働省告示第560号) 継続雇用後の賃金は、継続雇用されている高年齢者の就業の実態、生活の安定等を考慮し、適切なものとなるよう努める
パートタイム・有期雇用労働法第8条 基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者との間に不合理と認められる相違を設けてはならない
同法第9条 職務の内容などが通常の労働者と同視すべき有期雇用労働者には、有期雇用であることを理由とする差別的取扱いをしてはならない
同法第14条 待遇の内容や、通常の労働者との待遇差の内容・理由について、事業主が説明しなければならない

再雇用者の賃金差が「不合理」になるのはどんなときか

不合理かどうかは、賃金項目ごとに、その待遇の性質と目的に照らして判断されます。定年後に再雇用された有期雇用労働者にも、パートタイム・有期雇用労働法が適用されます。

同一労働同一賃金とは

同一労働同一賃金とは、同じ企業の中で、正社員とパート・有期雇用の労働者との間に、不合理な待遇差を設けないという考え方のことです。働き方改革関連法の一環として、2020年4月から順次施行されました。基本的な仕組みは、同一労働同一賃金制度の解説記事も参照してください。

第8条が見る3つの要素

第8条は、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者の待遇との間に不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています。判断では、次の3つを考慮します。

  • 業務の内容と、その業務に伴う責任の程度(職務の内容)
  • 職務の内容と配置の変更の範囲
  • その他の事情のうち、その待遇の性質と目的に照らして適切と認められるもの

基本給と賞与と手当を一括りにせず、それぞれの目的で見る点が特徴です。たとえば通勤手当と賞与は、支給の目的が違うため、同じ物差しでは比べられません。

再雇用であることだけでは、差の理由にならない

厚生労働省の高年齢者雇用確保措置のQ&A(Q1-4)は、同一労働同一賃金ガイドラインについて、次のように説明しています。通常の労働者と定年後に継続雇用された有期雇用労働者との間に、職務の内容、配置の変更の範囲などの実際の相違があれば、その相違に応じた賃金の相違は許容されます。一方、定年後に継続雇用された者であることだけを理由に、直ちに待遇の相違が不合理でないと認められるわけではない、というのがガイドラインの考え方です。

つまり、「再雇用だから下げてよい」という理由だけでは、説明として足りません。

長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)

この事件は、定年後に再雇用された有期契約労働者と、無期契約労働者との間の労働条件の相違が、旧労働契約法第20条にいう不合理なものに当たるかが争われた事件です。旧第20条は、現在の労働契約法には残っておらず、同じ趣旨の規定はパートタイム・有期雇用労働法第8条にあります。

最高裁判所のウェブサイトに掲載された裁判要旨は、次の3点です。

  • 定年退職後に再雇用された者であることは、労働条件の相違が不合理かどうかの判断で、「その他の事情」として考慮される事情に当たる。
  • 賃金項目ごとの相違が不合理かどうかは、賃金の総額を比べるだけでなく、その賃金項目の趣旨を個別に考慮して判断する。
  • 乗務員の無期契約労働者に能率給と職務給を支給し、再雇用された有期契約労働者には支給せず歩合給を支給するという相違は、事案の事情の下で、不合理と認められるものに当たらない。

この判決から分かるのは、再雇用であることは判断材料の一つにとどまり、総額で何割下がったかを示すだけでは説明にならない、ということです。賃金項目ごとに、その趣旨を説明できる状態にしておく必要があります。なお3つ目の判断は、事案の個別の事情を前提にしたものです。他社の再雇用にそのまま当てはめることはできません。

名古屋自動車学校事件(最高裁令和5年7月20日判決)

自動車教習所で教習指導員として働く無期契約労働者と、定年退職後に再雇用されて同じ業務に就く有期契約労働者との間で、基本給の金額が異なる点が争われた事件です。最高裁判所は、相違の一部を不合理と認めた原審(名古屋高等裁判所)の判断に、法令の解釈適用を誤った違法があるとしました。裁判要旨が挙げる理由は、次の2点です。

  • 無期契約労働者の基本給について、一部の者の勤続年数に応じた金額の推移から年功的性格を有するとしたにとどまり、各基本給の性質や、その基本給を支給することとされた目的を十分に踏まえていない。
  • 労使交渉に関する事情を適切に考慮していない。

判決は一部破棄差戻し(一部却下)です。最高裁自身が、基本給の差を適法とも違法とも確定させたわけではありません。検討の際は、基本給が何のために支払われているのかを整理し、労使で話し合った経緯を記録に残しておくとよいでしょう。

中小企業が再雇用の賃金を設計する5つのステップ

再雇用者の賃金は、次の順に点検すると、差の理由を説明しやすくなります。

ステップ1:定年前後の仕事内容を並べる

最初に、定年前と再雇用後の仕事を比べます。見るのは、業務の内容、責任の程度(部下の人数、決裁の権限、数値目標の有無)、配置転換や転勤の範囲です。仕事内容も責任も変わらないまま賃金だけを下げる場合は、差の理由を説明する負担が大きくなります。

ステップ2:賃金項目ごとに、支給の趣旨を書き出す

次に、自社の賃金規程にある項目を一つずつ取り上げ、何のために支給しているのかを書き出します。第8条が項目ごとに待遇を見るためです。

賃金項目 点検すること
基本給 何を基準に決まっているか(年齢・勤続、職務、能力など)と、その基準が再雇用後も当てはまるか
賞与 支給の目的(業績への貢献、功労への報いなど)が、再雇用者にも当てはまるかを確認する
役職手当 役職を外れた再雇用者に、手当の目的が当てはまるかを確認する
精勤手当・皆勤手当 出勤を促す目的の手当であれば、再雇用者に同じ目的が当てはまるかを確認する
通勤手当 通勤費用の補てんが目的であれば、雇用区分で支給を変える理由を確認する
家族手当・住宅手当 2026年10月施行の改正後の同一労働同一賃金ガイドラインの記載を確認する

ステップ3:項目ごとに、差を設ける理由を文章にする

差を設ける項目については、理由を1〜2文で書いておきます。たとえば「再雇用後は部下を持たない職務に変わるため、役職手当は支給しない」のように、職務や配置の違いと結び付けて書くのが基本です。名古屋自動車学校事件の判決を踏まえると、労使で話し合った経緯もあわせて残しておくとよいでしょう。

ステップ4:手取りと、公的な給付・社会保険の取扱いを確認する

賃金額を決める前に、本人の手取りに関わる制度を確認します。ここでは3つを取り上げます。

高年齢雇用継続給付

高年齢雇用継続給付は、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける、60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者に、給付金を支給する制度です。令和7年4月1日以降の方は、各月に支払われた賃金の10%を限度として支給されます。令和7年3月31日以前の方の限度は15%でした。

継続再雇用時の社会保険の手続き

60歳以上の方を退職後に継続して再雇用する場合、使用関係が一旦中断したものとみなし、事業主が被保険者資格喪失届と被保険者資格取得届を提出する取扱いが可能です(日本年金機構)。この取扱いを行うと、再雇用された月から、再雇用後の給与に応じた標準報酬月額に決定できます。継続再雇用とは、1日も空くことなく同じ会社に再雇用されることです。添付する書類は、次のとおりです。

  • 就業規則や退職辞令の写し(退職日の確認ができるものに限る)と、雇用契約書の写し(継続して再雇用されたことが分かるものに限る)の両方
  • または、退職日と再雇用日を記載した、継続再雇用に関する事業主の証明書

在職老齢年金

令和7年年金制度改正法(令和7年法律第74号)に基づき、令和8年4月から、年金が減額になる基準額(賃金と老齢厚生年金の合計)が、月51万円から65万円に引き上げられました。従業員ごとの年金額や、減額の対象になるかどうかは、年金事務所で確認してください。

ステップ5:本人と話し合い、書面で明示する

賃金の案ができたら、本人と話し合います。厚生労働省のQ&A(Q1-7)によると、高年齢者雇用安定法が事業主に求めているのは安定した雇用を確保するための制度の導入であり、定年退職者の希望に合う労働条件での雇用を義務付けるものではありません。事業主が自社の状況などを踏まえ、合理的な裁量の範囲で条件を提示したときは、合意できずに本人が継続雇用を断ったとしても、高年齢者雇用安定法違反にはならない、というのがQ&Aの説明です。ただし同じQ&Aは、労働時間、賃金、待遇を、事業主と労働者が十分に話し合って決めるよう促しています。

説明については、パートタイム・有期雇用労働法第14条が次のように定めています。

  • 第1項:雇い入れたときに、講じている措置の内容を説明する。
  • 第2項:本人から求められたときに、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由、決定にあたって考慮した事項を説明する。
  • 第3項:説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない。

2026年10月1日施行の改正で変わること

2026年10月に、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが改正されました。厚生労働省の解説では、再雇用の賃金に関わる点が3つあります。

  • 労働条件の明示:パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れるとき(契約の更新時を含む)は、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口に加えて、「待遇の相違の内容・理由等に関する説明を求めることができる」旨も書面等で明示する必要があります。
  • ガイドラインの見直し:賞与、退職手当、各種手当、福利厚生の記載が見直されました。家族手当、住宅手当、夏季冬季休暇については、正社員と同一の扱いが求められる場合が示されました。
  • 説明の方法:待遇の相違などを説明するときは、資料を活用して口頭で説明するか、説明すべき事項を全て記載した分かりやすい資料を交付するか、いずれかの方法によります。

再雇用で有期労働契約を結ぶときや更新するときも、これらの対象になると考えられます。就業規則や労働条件通知書の様式を、早めに見直してください。個別の適用は、労働局や社会保険労務士に確認すると確実です。

ネクストプレナーズの見解

再雇用の賃金を、「定年時の○割」と一律に決める方法は、見直したほうがよいと考えます。割合で決めると、仕事内容が変わった人と変わらない人が同じ扱いになり、後者の差を説明できなくなるおそれがあるからです。

中小企業では、再雇用後も定年前と同じ仕事を続けてもらう例が少なくありません。その場合は、再雇用後の役割と職務を定義し直し、その職務に応じて賃金を決めるほうが、本人にも説明しやすいと考えます。まず、賃金項目ごとの支給の趣旨を一覧にするところから始めることをおすすめします。

よくある誤解は、高年齢雇用継続給付があるから、賃金を下げても本人の手取りはあまり減らない、という見方です。給付の限度は15%から10%に下がっています。給付をあてにしすぎず、会社として説明できる賃金額にしておくことをおすすめします。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

監修

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。

プロフィールを見る

よくある質問

Q. 定年後の再雇用で給与を下げるのは違法ですか?

下げること自体は違法ではありません。ただし、正社員との賃金差が不合理と認められると、パートタイム・有期雇用労働法第8条に反します。再雇用であることだけでは理由にならず、職務の内容や配置の変更の範囲などの実際の違いに応じた差かどうかが問われます。

Q. 再雇用の賃金は、定年前の何割まで下げられますか?

厚生労働省のQ&Aや最高裁判決の裁判要旨には、「何割まで」という数値の基準は示されていません。最高裁は、賃金項目ごとの相違が不合理かどうかを、総額の比較だけでなく、その項目の趣旨を個別に考慮して判断するとしています。割合ではなく、項目ごとに差の理由を説明できるかを確認してください。

Q. 再雇用者に賞与や手当を支給しないのは問題ですか?

賞与や手当を支給しない扱いが、そのまま認められるとは限りません。厚生労働省のQ&Aによると、定年後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに待遇の相違が不合理でないと認められるわけではないとされています。賞与や手当ごとに、支給の目的が再雇用者にも当てはまるかを点検してください。

Q. 再雇用した社員から、待遇差の理由を聞かれたらどう答えますか?

パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項により、事業主は説明しなければなりません。説明する内容は、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由、決定にあたって考慮した事項です。説明を求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることは、同条第3項で禁止されています。

Q. 再雇用の条件に本人が合意しない場合、会社は法違反になりますか?

事業主が合理的な裁量の範囲で条件を提示していれば、本人が合意せず継続雇用を断っても、高年齢者雇用安定法違反にはなりません。厚生労働省のQ&A(Q1-7)がそう説明しています。ただし同じQ&Aは、労働時間、賃金、待遇を、十分に話し合って決めるよう促しています。

Q. 高年齢雇用継続給付は、賃金の何%が支給されますか?

令和7年4月1日以降の方は、各月に支払われた賃金の10%を限度として支給されます。令和7年3月31日以前の方の限度は15%でした。対象は、60歳到達等時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働き続ける、60歳以上65歳未満の一定の雇用保険一般被保険者です。

出典・参考資料

The following two tabs change content below.
投稿者アバター
人事ブログ編集部
株式会社ネクストプレナーズの編集部です。賃金・報酬、人事評価、福利厚生、社宅、退職金・企業年金、労働組合など、人と制度に関する実務情報をお届けしています。

制度づくりのご相談

賃金・人事評価・福利厚生・社宅・退職金などの見直しについて、専門のコンサルタントにご相談いただけます。労働組合からのご相談にも対応しています。

無料相談資料請求

この記事が役立ったら、シェアをお願いします。