
中退共(中小企業退職金共済制度)から企業年金へ切り替えたいとき、積立金を資産のまま移せるのは、中小企業の範囲を超えた場合や合併等があった場合などに限られます。それ以外は、従業員の同意を得て中退共を解約し、新しい企業年金を始める形になります。この記事では、移行の2つの道筋、労使合意から就業規則の改定までの手順、従業員に説明すべき点を、中退共本部や厚生労働省の公表資料に沿って整理します。
中退共から企業年金への移行とは。積立金は移せるのか
中退共から企業年金への移行とは、中退共(中小企業退職金共済制度)への掛金の拠出をやめ、企業年金に切り替えることです。移行先は、確定給付企業年金(DB)か企業型確定拠出年金(企業型DC)です。
結論として、中退共の積立金を企業年金へ移せるのは、次のどちらかに当たる場合だけです。
- 中退共に加入している事業所が、中小企業の範囲を超えた場合
- 平成30年5月1日以降に合併等を行い、合併後の1つの中小企業に中退共と企業年金の2つの従業員グループが併存している場合
中退共本部は、どちらにも当たらない場合は資産移換ができないとしています。当てはまらない会社は、従業員の同意を得て中退共を解約し、新しく企業年金を始める形が基本です。
移行の方法は2通り:資産移換か、解約して切り替えか
2つの方法の違いは次の表のとおりです。
| 方法 | 使える場合 | 中退共の積立金の扱い |
|---|---|---|
| 資産移換 | 中小企業の範囲を超えた場合、または平成30年5月1日以降の合併等で両制度が併存する場合 | 企業年金へ移換できる(合併等の場合は、企業年金から中退共への移換も可能) |
| 解約して切り替え | 従業員の同意が得られた場合、または掛金納付の継続が困難と厚生労働大臣が認めた場合 | 解約手当金として従業員本人に直接支払われる |
方法1:資産移換(使える場合は限られる)
中退共の加入事業所が中小企業の範囲を超えたときは、中退共から企業年金へ資産を移せます。範囲の基準は、常時雇用する従業員数と資本金・出資金の両方が、次の表に該当する場合です。
| 業種 | 従業員数 | 資本金・出資金 |
|---|---|---|
| 一般業種(製造業、建設業など) | 301人以上 | 3億1円以上 |
| 卸売業 | 101人以上 | 1億1円以上 |
| サービス業 | 101人以上 | 5千万1円以上 |
| 小売業 | 51人以上 | 5千万1円以上 |
資産移換を希望する場合は、届出の時期に特例が設けられています。手続の期限は、中退共本部の案内で確認してください。
もう1つが合併等のケースです。合併等とは、会社法その他の法律による合併や分割、または従業員の労働契約上の権利義務が承継される事業譲渡等をいいます。対象は、平成30年5月1日以降に、中退共の事業所と企業年金(DBまたは企業型DC)の事業所が合併等を行ったケースです。合併後の1つの中小企業に2つの従業員グループが併存しているなら、いずれか一方への資産移換が可能です。
方法2:解約して企業年金へ切り替える
解約とは、雇用関係が続いている従業員について、事業主が従業員の同意を得て退職金共済契約を解除することです。解除できるのは、従業員の同意が得られたとき、または掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣が認めたときに限られます。
手続では、「退職金共済契約解除通知書(様式10)」を中退共本部の契約課に提出します。添付するのは、被共済者本人のフルネームの署名か、解除に同意したことが確認できる電子メールの印刷物です。解除は通知書が到着した日に効力を生じ、さかのぼることはできません。
12か月以上掛金を納付している従業員には、解約手当金が支給されます。解約手当金は、従業員本人が中退共本部に請求し、本人に直接支払われます。会社が受け取って新制度の原資に充てることはできない点に注意してください。
移行先はDBかDCか。選ぶ前に押さえる制度の違い
DBは、労使の合意で比較的柔軟に制度を設計でき、受給権が保護されている企業年金です。実施主体の違いにより、規約型と基金型があります。
企業型DCは、拠出された掛金が加入者ごとに区分され、運用益との合計額をもとに給付額が決まる制度です。運用は加入者自身の指図で行います。事業主掛金の月額拠出限度額は、55,000円からDB等の他制度の掛金相当額を控除した額とされています。中小企業向けの簡易型DCは、2026年4月1日に通常の企業型DCへ統合されました。
DBとDCの比較は、確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)の違いで詳しく整理しています。最初の論点は、将来の給付額を会社が約束する形か、運用の成果を従業員が負う形か、の選択です。
中退共から企業年金へ移行する手順6ステップ
ステップ1:現状を確認する
退職金規程を手元に置き、中退共の加入者数、従業員ごとの掛金月額と納付月数を一覧にします。解約手当金は掛金月額と納付月数に応じて決まるため、この一覧が試算の土台です。あわせて、前掲の表で自社がどの業種に当たるかも、確認が必要です。
ステップ2:移行先と制度の骨格を決める
DBにするか企業型DCにするか、対象者の範囲、掛金の水準を決めます。移行前の期間に対応する退職金を、新制度でどう扱うかも、この段階で方針を決めておきます。退職金制度そのものを見直す場合は、退職金制度の見直し方も参考にしてください。
ステップ3:労使で合意する
DBも企業型DCも、実施には同意が必要です。過半数の従業員で組織する労働組合があればその組合、なければ過半数を代表する者の同意を得ます。根拠は、確定給付企業年金法第3条第1項と確定拠出年金法第3条第1項です。
ステップ4:規約を作成し、承認などの手続を進める
DBは規約を作成し、法に定める手続を取ります。企業型DCは、規約について厚生労働大臣の承認を受けます。申請には書類が多いため、運営管理機関や信託銀行、生命保険会社などの窓口に早めに相談しておくと、進めやすいでしょう。
ステップ5:就業規則と退職金規程を改定し、従業員に説明する
退職金の制度を変えるときは、労働契約法の定めに沿って進めます。労働者と使用者は、合意により労働条件を変更できます(第8条)。合意がないまま就業規則を変更して労働者の不利益に労働条件を変えることは、原則としてできません(第9条)。例外は、変更後の就業規則を周知し、変更が合理的な場合です(第10条)。このとき、労働条件は変更後の就業規則の定めによります。合理性の判断要素は、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などです。
中退共の解約には従業員本人の同意が必要です。就業規則の改定と並行して、個別の同意も取ります。
ステップ6:中退共を解約し、新制度を開始する
解除通知書が中退共本部に到着した日に、解約の効力が生じます。さかのぼれないため、新制度の開始日と解除の日をそろえておくと、従業員の退職金の積立が途切れる期間を防げると考えられます。解約後は、解約手当金を本人が請求できるよう、請求の方法も案内してください。
従業員への説明で伝える5つのポイント
1. 解約手当金は本人に直接支払われる
解約手当金は、会社を通さず、従業員本人が中退共本部に請求して受け取ります。会社が管理するお金ではないことを、最初に伝えてください。
2. 税金の扱いが退職金と異なる
退職金は「退職手当等」とみなされます。一方、解約手当金は「一時所得」として扱われ、確定申告が必要になる場合があります。この違いは、解約を前提にした説明で特に確認されやすい点です。
3. 掛金助成を受けた人は金額が減る
掛金助成を受けた人の解約手当金は、退職金の額から、掛金助成金相当額と解約手当金額の3割のうち、少ないほうが減額されます。対象の従業員がいる場合は、個別に金額を試算して伝える必要があります。
4. 同意は本人の意思で、署名またはメールで確認する
解除には本人の同意が必要です。署名か、同意を確認できるメールのやり取りを、記録として残してください。同意しない従業員の契約は解除できません。その人たちの扱いを、事前に決めておく必要があります。
5. 新制度で将来いくらになるのかを示す
従業員が知りたいのは、切り替えたあとの給付がどうなるかです。DBなら給付の計算方法を、DCなら会社の掛金額と運用の仕組みを、具体的な数字で示します。切り替えで給付の見込みが下がる従業員には、その理由と代わりの措置を、丁寧に説明してください。
ネクストプレナーズの見解
移行の検討は、資産移換ができるかの確認から始めるべきだと考えます。移せない場合、従業員が受け取るのは、一時所得として扱われる解約手当金です。新制度の掛金にどう充てるかまで設計して初めて、説明が成り立ちます。また、全員を一度に切り替える方法のほかに、新しく入る従業員から新制度に加入し、既存の従業員は中退共に残す形もあります。同意を得る負担を抑える選択肢として、検討する価値があると考えます。
まとめ
中退共から企業年金への移行で最初に確認するのは、積立金を移せる2つの場合に当たるかどうかです。当たらなければ、従業員の同意を得て解約し、新制度を労使合意のうえで始めます。まずは、中退共の加入状況と、自社の資本金・従業員数の確認から着手してください。
ネクストプレナーズでは、退職金・企業年金の制度設計に関するご相談を受けています。詳しくはネクストプレナーズのサイトをご覧ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。プロフィールを見る
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. 中退共の積立金を企業年金にそのまま移せますか?
移せるのは2つの場合だけです。中退共の加入事業所が中小企業の範囲を超えた場合と、平成30年5月1日以降の合併等で中退共と企業年金の従業員グループが併存している場合です。どちらにも当たらないときは資産移換ができず、解約して新制度に切り替える形になります。
Q. 中退共を解約すると、解約手当金は会社に戻りますか?
会社には戻りません。解約手当金は、従業員本人が中退共本部に請求し、本人に直接支払われます。12か月以上掛金を納付している従業員が支給の対象です。
Q. 従業員の同意がなくても、会社の判断で中退共を解約できますか?
できません。事業主が契約を解除できるのは、従業員の同意が得られたとき、または掛金納付の継続が困難であると厚生労働大臣が認めたときに限られます。同意は、本人の署名か、同意を確認できる電子メールの印刷物で示します。
Q. 企業年金を始めるときも、従業員の同意が必要ですか?
必要です。DB・企業型DCとも、過半数の従業員で組織する労働組合があればその組合、なければ過半数を代表する者の同意を得て実施します。企業型DCは、規約について厚生労働大臣の承認も受けます。
Q. 解約手当金には税金がかかりますか?
かかる場合があります。解約手当金は「一時所得」として扱われ、確定申告が必要になる場合があります。退職金が「退職手当等」とみなされるのとは、税の扱いが異なります。
出典・参考資料
- 中退共と企業年金との間で資産移換はできますか?(Q&A)(中小企業退職金共済事業本部(中退共))
- 平成30年5月1日以後に合併等を行った場合に中退共と企業年金との間で資産移換ができます(お知らせ)(中小企業退職金共済事業本部(中退共))
- 中小企業者でなくなった場合はどうすればいいですか?(Q&A)(中小企業退職金共済事業本部(中退共))
- 退職金共済契約を解約したいのですがどうすればいいですか?(Q&A)(中小企業退職金共済事業本部(中退共))
- 退職金と解約手当金はどのように違うのですか?(Q&A)(中小企業退職金共済事業本部(中退共))
- 私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)(厚生労働省)
- 確定拠出年金制度の概要(厚生労働省)
- 2025年の制度改正(確定拠出年金)(厚生労働省)
- 確定給付企業年金法(厚生労働省)
- 確定拠出年金法(厚生労働省)
- 労働契約法(厚生労働省)
- 中退共から企業年金へ移行する方法|資産移換できる2つの条件と、解約して切り替える手順・従業員への説明 - 2026年10月23日
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