確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)は、どちらも会社が退職金や老後資金を支える制度です。違いは、運用の結果を誰が負うかにあります。この記事では、厚生労働省の公表資料をもとに、中小企業が比較する5つの観点と、選ぶ手順をまとめます。
DBとDCの違いは「運用の結果を誰が負うか」
DBとDCを分ける最大の違いは、運用がうまくいかなかったときの負担を、会社と従業員のどちらが負うかです。DBは給付額の算定方法があらかじめ決まっており、積立不足が出れば、会社が追加の掛金を拠出して埋めます。一方DCは、拠出する掛金が決まっていて、将来の給付額は従業員自身の運用成績しだいです。
この違いは、会社の費用の見通し、従業員への説明、導入後の運営の手間に、そのまま響きます。以下では、厚生労働省の公表資料をもとに、中小企業が比較するときの5つの観点を整理します。
確定給付企業年金(DB)とは
確定給付企業年金(DB)とは、加入期間などに基づいて、給付の算定方法があらかじめ決まっている企業年金のことです。確定給付企業年金法にもとづく制度です。会社または企業年金基金が年金資産をまとめて運用し、公的年金に上乗せして給付します。
実施の形は2種類あります。規約型は、事業主が、労使で合意した規約にもとづき信託会社や生命保険会社などと契約する方式です。年金資金は会社の外で管理・運用されます。基金型は、会社とは別の法人格をもつ企業年金基金を設立し、基金が管理・運用と給付を行う方式です。
掛金は原則として事業主が拠出し、拠出限度額はありません。加入者が同意した場合は、加入者の拠出も可能です。
企業型確定拠出年金(DC)とは
企業型確定拠出年金(DC)とは、会社が拠出した掛金と、その運用益の合計額をもとに給付額が決まる企業年金のことです。掛金は加入者ごとに区分され、運用は加入者自身の指図で行います。労使が合意した規約にもとづき、事業主が実施する制度です。
加入者は、運営管理機関(金融機関など)が示す3以上35以下の運用商品から、自分で商品を選びます。会社には、加入者への必要かつ適切な投資教育が義務づけられています。資産の中途引出しは原則できず、受け取りは60歳以降です。詳しくは、厚生労働省の確定拠出年金制度の概要で確認できます。
DBとDCを比較する5つの観点
厚生労働省の資料によると、2024年度末の加入者数は、DBが887万人、企業型DCが862万人です。規約数は、DBが近年やや減少傾向、企業型DCが増加傾向にあります。まず、両制度の違いを表にまとめます。
| 項目 | 確定給付企業年金(DB) | 企業型確定拠出年金(DC) |
|---|---|---|
| 給付の決まり方 | 給付の算定方法があらかじめ決まっている | 掛金とその運用益の合計額で決まる |
| 運用の担い手 | 実施主体(会社または基金)がまとめて運用 | 加入者が運用方法を決め、資産は個人別に管理 |
| 運用悪化のときの負担 | 積立不足は事業主が追加で拠出して埋める | 会社の追加拠出は生じない。給付額は加入者の運用次第 |
| 掛金 | 原則として事業主拠出。拠出限度額はない | 原則として事業主拠出。拠出限度額がある |
| 実施の形 | 規約型または基金型 | 企業型年金規約の承認を受けた事業主が実施 |
| 事業主掛金の税務 | 全額損金算入 | 全額損金算入 |
観点1:運用の責任を誰が負うか
DBでは、実施主体の会社や基金が運用します。運用状況が悪化して積立不足が生じたときは、事業主が追加の掛金で不足額を埋めなければなりません。従業員は給付額の見通しを立てやすい反面、会社は運用の変動リスクを抱えます。
DCでは、加入者が運用方法を決めます。会社の追加拠出は生じませんが、従業員が運用に迷えば、将来の給付額に差が出るでしょう。会社が負うのは運用の結果ではなく、投資教育を続ける責任です。会社が引き受けたいのは、費用の変動か、従業員への説明の手間か。この問いが最初の分かれ目です。
観点2:会社の費用の見通しが立てやすいか
DCの掛金は、規約で決めます。拠出限度額は、2026年10月時点で月55,000円です。DBなどを併せて実施する場合の上限は、この額から他制度掛金相当額を引いた額です。引いた額が月27,500円を下回るときは、経過措置により、27,500円までの拠出を続けられます。この措置は2024年12月1日の見直しに伴うもので、一定の場合は終了します。
DBには拠出限度額がありません。設計の自由度は高い一方、積立不足が出れば掛金が増えます。なお、事業主が拠出した掛金は、DBでもDCでも全額が損金に算入されます。税務の扱いに差はないため、判断の軸は、毎年の費用がどれだけ読めるかです。
観点3:従業員にとっての分かりやすさと持ち運び
DBは、給付の算定方法があらかじめ決まっているため、従業員が老後の生活設計を立てやすい制度です。DCは、資産を個人別に管理します。離職や転職の際は、企業型DCの資産を、転職先のDBや企業型DC、iDeCoなどへ移せる場合があります。DBへ移せるかどうかは、移換先のDB規約しだいです。
厚生労働省は、DCの創設の背景を次のように指摘しています。従来の確定給付型の企業年金は、従業員を一つの集団とする制度のため、労働移動に対応しにくかったというものです。入社や退社が比較的多い会社では、資産を持ち出せるDCは従業員に説明しやすいでしょう。
観点4:導入と運営の手間
DBもDCも、規約の承認などの手続きを経て実施します。厚生労働省は、従来の確定給付型の企業年金が中小零細企業等で十分に普及していなかった理由を、次のように整理しています。複雑な制度設計と、資産運用に係る企業のコスト負担です。DCは、こうした課題に応える制度として創設されました。
DCは、導入後も、運営管理機関の選定と従業員への投資教育が続きます。DBの場合は、給付設計や積立状況の管理も、会社や基金の仕事です。導入時の手間だけでなく、導入後に誰がどの業務を受け持つかまで見積もっておくと、運営が滞りにくくなります。
観点5:制度改正と見直しのしやすさ
2026年は、DCの制度改正が重なる年です。2026年4月1日からは、企業型DCのマッチング拠出で、加入者掛金が事業主掛金を超えられないという制限がなくなりました。マッチング拠出とは、加入者自身も掛金を拠出できる仕組みです。
2026年12月1日には、企業型DCの拠出限度額が月62,000円に引き上げられます。DB等を併せて実施する場合は、62,000円から他制度掛金相当額を引いた額です。
この改正で、掛金の枠は広がります。ただし、枠を使い切る必要はありません。掛金は、会社の費用負担と、従業員が受け取りたい水準の両面から決めるものです。改正の詳細は、厚生労働省の年金制度の仕組みと考え方 第15 私的年金(企業年金・個人年金)制度で確認できます。
中小企業が制度を選ぶための4ステップ
5つの観点を見たうえで、実際に選ぶときの手順を示します。
- ステップ1:現在の退職金制度を整理する。退職一時金、中退共、自社年金のどれを、どれだけの規模で運用しているかを洗い出します。見直しの考え方は、退職金制度の見直し方が詳しいです。
- ステップ2:会社が負える不確実さの範囲を決める。積立不足が出たときに追加の掛金を負担できるか、財務の面から確認することが出発点です。
- ステップ3:従業員の構成を見る。年齢層、勤続年数の分布、離職の多さ、運用への関心を確認します。投資教育に応じてもらえるかも見ておきたい点です。
- ステップ4:導入後の運営体制を決める。規約の改定、運営管理機関とのやり取り、従業員への説明を、誰がどの頻度で担当するかを決めておくと安心です。
会社の状況によっては、「iDeCo+(イデコプラス)」という選択肢もあります。対象は、厚生年金の被保険者が300人以下で、DB・企業型DC・厚生年金基金のいずれも実施していない会社です。従業員が加入するiDeCoの掛金に、事業主が上乗せして拠出する制度です。条件は、厚生労働省のiDeCo+のご案内で確認できます。
ネクストプレナーズの見解
DBとDCのどちらが優れているかを先に決めるのではなく、退職金で何を実現したいのかを先に決めることをおすすめします。採用で老後の安心を訴えたいのか、定着を促したいのか、退職金の積立を計画的に進めたいのか。目的によって向く制度は変わると考えます。
会社が積立不足の追加拠出を想定しにくい場合は、掛金が決まっているDCから検討するのが現実的でしょう。一方、従業員に給付額を約束したいなら、DBも検討に値します。どちらの場合も、会社の費用と、従業員が受け取る額の両方を試算して比べるとよいでしょう。DCの設計の一つである選択制は、選択制確定拠出年金とはで解説しています。
DB・DC・中退共を並べて検討したい場合の相談先として、企業年金制度のコンサルティングのご案内もあります。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。制度の内容は改正される場合があるため、導入前に最新の情報をご確認ください。
監修者
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長
よくある質問
Q. 確定給付企業年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)の一番大きな違いは何ですか。
運用の結果を誰が負うかです。DBは給付の算定方法があらかじめ決まっており、積立不足が出れば事業主が追加で掛金を拠出します。DCは掛金とその運用益の合計額で給付額が決まり、運用は加入者自身が行うため、会社に追加拠出は生じません。
Q. 中小企業は、DBとDCのどちらが導入しやすいですか。
会社の状況によるため、どちらが導入しやすいとは一概に言えません。厚生労働省は、DCを、確定給付型の企業年金を行うことが難しい中小企業の従業員などのニーズに応える制度としています。積立不足の追加拠出を負えるか、導入後の運営を誰が担うかで判断します。
Q. 企業型DCの掛金の上限はいくらですか。
2026年10月時点では月55,000円です。DBなどを併せて実施している場合は、この額から他制度掛金相当額を差し引いた額が上限です。2026年12月1日からは、基準額が月62,000円に引き上げられます。
Q. DBとDCは両方導入できますか。
両方を実施することはできます。ただし、企業型DCの拠出限度額は、DBなどの他制度掛金相当額を差し引いた額が上限です。基準額は、2026年10月時点で月55,000円、同年12月1日からは月62,000円です。DBの掛金設計と合わせて考える必要があります。
Q. 従業員が転職したとき、年金資産はどうなりますか。
企業型DCの場合、個人別に管理された資産を、転職先のDB、企業型DC、iDeCoなどへ移せる場合があります。DBへ移せるかどうかは、移換先のDB規約しだいです。移せる範囲は制度の組み合わせで異なるため、厚生労働省の表で確認してください。
出典・参考資料
- 確定拠出年金制度の概要(厚生労働省)
- 私的年金制度の概要(企業年金、個人年金)(厚生労働省)
- 年金制度の仕組みと考え方 第15 私的年金(企業年金・個人年金)制度(厚生労働省)
- 「iDeCo+」(イデコプラス)のご案内(厚生労働省)
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