等級制度を作ろうとすると、職能等級・職務等級・役割等級のどれを選ぶかで、最初につまずく会社が少なくありません。本記事では、等級制度とは何かを整理したうえで、3つの違いを厚生労働省の解説に沿って比較します。あわせて、従業員50〜300名の会社が選ぶときの判断軸と、5つのステップでの作り方、就業規則や不利益変更で注意する点を解説します。
等級制度とは
等級制度とは、社員を職能・職務・役割などの基準で段階(等級)に分け、昇格や賃金を決める土台にする仕組みのことです。
等級が決まっていない会社では、基本給も昇進も、そのときどきの判断で決まりがちです。「なぜあの人が課長で、自分は主任なのか」と聞かれたときに、基準で答えられません。等級制度は、この問いに答えるための物差しです。
等級制度・評価制度・賃金制度の関係
人事制度は、等級制度、評価制度、賃金制度の3つで組み立てるのが一般的です。等級は「どの段階にいるか」を決めます。評価は「その段階の期待にどれだけ応えたか」を測り、賃金は「その結果をいくらで処遇するか」を定めます。
3つのうち、等級制度はほかの2つの土台です。等級の定義があいまいなまま評価制度だけを作ると、評価の基準がそろいません。評価制度の作り方は中小企業の人事評価制度、一から作るなら最初にやるべき3つのこと、等級ごとの基本給の決め方は賃金テーブル(賃金表)の作り方をご覧ください。
職能等級・職務等級・役割等級の違い
3つの違いは、等級を決める基準にあります。職能等級は「人の能力」、職務等級は「仕事の内容」、役割等級は「期待される役割の大きさ」で等級を決めます。
厚生労働省は、基本給の決め方として年齢給・職能給・職務給・業績給の4つを挙げ、長所と短所も示しています(厚生労働省「スタートアップ労働条件」賃金制度のQ&A)。等級制度の呼び方は企業によって違うため、職能給を職能等級、職務給を職務等級に対応させて整理すると分かりやすくなります。
| 項目 | 職能等級 | 職務等級 | 役割等級 |
|---|---|---|---|
| 等級を決める基準 | 職務遂行能力 | 従事する職務(仕事の内容と価値) | 期待される役割の大きさ |
| 昇格の考え方 | 能力が上がったと認められたとき | 上位の職務に就いたとき | 上位の役割を担えると確認できたとき |
| 長所 | 職掌や職種を超えた人事異動がしやすく、能力開発を動機づけやすい | 仕事の価値と基本給の額が一致し、企業横断的に必要な人材を募集できる | 職務ほど細かく仕事を定義しなくても、等級ごとの違いを説明できる |
| 短所 | ポストがなくても昇格できるため人件費が上がる。運用が年功的になりやすい | 職掌や職種を超えた異動が難しい。制度の設計と維持にコストがかかる | 役割の定義を見直し続けないと、等級が実態と合わなくなる |
職能等級と職務等級の長所・短所は、厚生労働省の解説に沿った内容です。役割等級の欄は、当社の整理です。
職能等級(職能資格制度)
職能等級とは、社員が持つ職務遂行能力の段階で等級を決める制度のことです。基本給は職能給と呼ばれ、厚生労働省は、従業員の職務遂行能力を基準に決める基本給として説明しています。
長所は、担当する仕事が変わっても等級が変わらないため、職掌や職種を超えた人事異動がしやすいことです。能力開発の動機づけにもなります。ポストが足りなくても、能力が上がれば昇格できる点も特徴です。
一方で、ポストがなくても昇格できるため、高齢化が進むと人件費が上がります。運用が年功的になりやすい点も、短所とされています。能力を判定する基準があいまいだと、等級が実質的に勤続年数の順になりかねません。
職務等級
職務等級とは、担当する職務(仕事)の大きさや価値で等級を決める制度のことです。基本給は職務給と呼ばれます。厚生労働省は職務給を、仕事内容や役割の重要さに基づいて給与を決める制度と紹介しています(厚生労働省「職務給について」)。
長所は、仕事の価値と基本給の額が一致し、社外からも必要な人材を募集しやすいことです。職業能力を高めるためのコストが企業に生じない点も、長所とされています。
短所は、企業内で職掌や職種を超えた異動がしにくく、社員の能力開発を動機づけにくいことです。制度の設計と維持にコストがかかる点も、短所に含まれます。社内の職務を洗い出して大きさを比べる作業が必要になるため、人事担当者が少ない会社では負担になりやすいでしょう。
役割等級
役割等級とは、社員に期待する役割の大きさで等級を決める制度のことです。当社では、職務等級と職能等級の中間にあたる制度として整理しています。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の企業ヒアリングに、役割等級を使う企業の例があります。住友商事は、管理職に職務等級、非管理職に役割等級を導入しました(JILPT「ビジネス・レーバー・トレンド 2024年4月号」住友商事)。山梨中央銀行は、役割の大きさで等級を決めています。基本給は、等級別の定額とする役割給です(JILPT「ビジネス・レーバー・トレンド 2024年4月号」山梨中央銀行)。昇格は、年齢や勤続年数ではなく、役割を果たせると確認できた場合に行われます。
2社の事例が、そのまま中小企業に当てはまるとは限りません。ただ、1つの会社の中で階層ごとに等級の基準を使い分けてよい点は、設計の参考になるでしょう。
3つは組み合わせてもよい
等級制度は、3つのうち1つを純粋な形で選ぶ必要はありません。厚生労働省の解説によると、労働基準法には、賃金の決定や計算の方法をどうすべきかという規制がありません。賃金制度は、労使が対等の立場で話し合って決めるものです(厚生労働省「確かめよう労働条件」賃金制度のQ&A)。管理職と一般社員で基準を分ける設計や、役割等級に能力の要件を加える設計も、選択肢です。
中小企業が等級制度を選ぶときの4つの判断軸
選ぶときの判断軸は、人事異動の頻度、職務の明確さ、人材の確保方法、運用に割ける人手の4つです。それぞれ、どの等級に寄せやすいかが変わります。
| 判断軸 | こういう会社 | 寄せやすい等級 |
|---|---|---|
| 人事異動 | 部署や職種をまたぐ異動が多い | 職能等級・役割等級 |
| 職務の明確さ | 職務ごとに仕事の範囲がはっきりしている(専門職・技能職が中心) | 職務等級 |
| 人材の確保 | 外部から専門人材を採用したい | 職務等級・役割等級 |
| 運用の人手 | 人事担当者が少なく、職務の洗い出しに手が回らない | 役割等級・職能等級 |
この表は、厚生労働省が示す職能給と職務給の長所・短所をもとに、当社が整理したものです。
判断に迷うときは目的から逆算する
迷ったときは、等級制度を作る目的から逆算するのが近道です。「昇給の理由を説明できるようにしたい」のであれば、等級ごとの役割を言葉で説明できることが先決です。「専門人材を採用したい」のであれば、職務の大きさを比べられる必要があります。目的が決まらないまま制度の名前から選ぶと、運用の段階で基準が合わなくなりがちです。
等級制度の作り方5ステップ
等級制度は、次の5つのステップで作ります。最初から完成形を目指さず、いまの役職と賃金の実態から始めるのが基本です。
ステップ1:目的と現状を整理する
最初に、等級制度を作る目的を1〜2行で書き出します。次に、全社員の役職・基本給・勤続年数を一覧にして、役職と賃金の関係に矛盾がないかを確認します。
部下より基本給が低い上司や、同じ役職なのに基本給が大きく離れた社員が見つかれば、等級で解消したい課題です。
ステップ2:等級の数と、各等級の役割を定義する
等級の数は、役割の違いを言葉で説明できる範囲にとどめるのがコツです。前の等級と何が違うかを、1〜2文で書けるかを確かめてください。たとえば「指示を受けて担当業務を行う」「後輩を指導しながら自律的に業務を行う」「チームをまとめる」「部門の成果に責任を持つ」のように書き分けます。
等級が多すぎると違いを説明できなくなり、少なすぎると昇格の機会が減ります。
ステップ3:等級ごとの昇格要件を決める
等級を定義したら、上の等級へ上がる条件を決めます。要件は、評価結果、役割を担えている事実、必要な経験や資格の3つに分けると整理しやすいでしょう。職能等級に近い設計なら能力の基準を、職務等級に近い設計なら担当する職務の変化を、条件の中心に置くとよいでしょう。
昇格と昇給は、分けて考えることが大切です。同じ等級の中で賃金が上がるのは昇給、等級そのものが上がるのは昇格です。両者を区別すれば、役割は変わらないのに基本給だけ上がり続ける状態を避けやすくなります。
ステップ4:等級を賃金と評価につなぐ
等級ごとに、基本給の下限と上限(または1つの金額)を決めます。具体的な作り方は、賃金テーブル(賃金表)の作り方で6つのステップに分けて説明しました。評価結果を昇給・賞与へどう反映するかは、人事評価を昇給・賞与に反映する方法が参考になるでしょう。
この段階で、現在の基本給が新しい等級の範囲に収まらない社員が出てきます。扱いは、あらかじめ決めておく必要があります。原資を用意して引き上げるか、一定期間は据え置くかを決めます。引き下げになる場合は、次章の不利益変更の問題が関わります。
ステップ5:規程にまとめ、社員に説明して移行する
等級の定義、昇格の要件、賃金との関係は、就業規則や賃金規程に書きます。
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成を義務づけています。そのうえで、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」を必ず記載するよう定めています(厚生労働省「確かめよう労働条件」就業規則のQ&A)。
等級と賃金の対応は、この「賃金の決定」や「昇給」に関わる内容です。どこまで規程に書く必要があるかは、社会保険労務士などの専門家に確認してください。
規程を作ったら、等級の意味、自分の等級、昇格の条件を社員に説明します。説明の場では、制度の切り替えで自分の賃金がどうなるかを、一人ひとりに示せるようにしておきます。
等級制度を運用するときの注意点
賃金が下がる移行は不利益変更になる
不利益変更とは、労働者にとって不利になる形で労働条件を変えることです。等級制度の導入や見直しで一部の社員の賃金が下がる場合は、この問題が生じます。
厚生労働省の労働契約ポータルサイトによると、使用者は、労働者の合意なく労働契約を一方的に変更できません(労働契約法第8条)。就業規則の変更で労働条件を変えるには、変更に合理性があり、変更後の就業規則を労働者に周知させる必要があります。
合理性は、労働者が受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の就業規則の相当性、労働組合等との交渉の経緯などから判断されます(厚生労働省「労働契約等解説セミナー」労働条件の変更)。
同意を得る場合も、署名があれば足りるわけではありません。厚生労働省の解説は、最高裁判所の山梨県民信用組合事件判決(平成28年2月19日)を挙げています。同意の有無は、不利益の内容と程度、同意に至った経緯と態様、事前の情報提供や説明の内容などから、慎重に判断されるとしています(厚生労働省「スタートアップ労働条件」就業規則の変更に関するQ&A)。
変更の必要性と不利益になる点を具体的に説明し、説明した内容の記録も残してください。
賃金が下がる社員が出る場合は、一定期間だけ従来の水準を保つ調整を、経過措置として設ける方法があります。経過措置の設計は、個別の事情で適否が変わるため、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
等級が年功的に運用されないようにする
厚生労働省は、職能給の短所として「運用が年功的になる」ことを示しています。この傾向は、職能等級に限らず、昇格の要件があいまいな制度で起こると考えられます。役割等級でも、「3年在籍したら昇格」のような運用が続けば、等級は勤続年数の順番と変わりません。昇格の要件には、評価結果や担った役割などの事実を入れ、在籍年数だけでは決めないようにします。
等級の定義は定期的に見直す
事業の内容や組織が変わると、各等級に期待する役割も変わります。年に1回など、等級の定義と実際の運用がずれていないかを点検する機会を設けておくと安心です。見直しで定義を変えるときは、賃金に影響するかどうかを先に確認してください。影響する場合は、前項の不利益変更の考え方が再び関わるためです。
ネクストプレナーズの見解
従業員50〜300名規模の会社が初めて等級制度を作るなら、役割等級を軸に、昇格の要件へ能力の基準を加える形が現実的だと考えます。職務等級は職務の洗い出しに手間がかかり、職能等級は運用が年功的になりやすいからです。この規模では、役割を軸にするほうが設計も説明もしやすいと考えます。
よくある誤解は、等級制度を一度決めたら変えられないというものです。等級の数を絞って小さく始め、運用しながら定義を磨くほうが、社員に受け入れられやすいと考えます。
まとめ
- 等級制度とは、職能・職務・役割などの基準で社員を段階に分け、昇格や賃金を決める土台にする仕組みである
- 職能等級は能力、職務等級は仕事の内容、役割等級は役割の大きさで等級を決める。賃金制度のあり方に法律上の規制はなく、組み合わせてもよい
- 作り方は、目的と現状の整理、等級と役割の定義、昇格要件、賃金と評価への接続、規程化と説明の5ステップである
- 賃金が下がる移行は不利益変更の問題になるため、必要性と不利益の内容を説明し、専門家に確認しながら進める
次の一歩として、まず全社員の役職・基本給・勤続年数を一覧にして、役職と賃金の関係に矛盾がないかを確かめてください。当社では、人事評価制度・等級制度・賃金制度を一体で設計する支援を行っています。詳しくは人事評価制度コンサルティングのページをご覧ください。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
よくある質問
Q. 等級制度とは何ですか?
等級制度とは、社員を職能・職務・役割などの基準で段階(等級)に分け、昇格や賃金を決める土台にする仕組みのことです。評価制度は「等級の期待にどれだけ応えたか」を測り、賃金制度は「その結果をいくらで処遇するか」を定めます。そのため、等級制度は人事制度の前提です。
Q. 職能等級・職務等級・役割等級の違いは何ですか?
違いは、等級を決める基準です。職能等級は職務遂行能力、職務等級は従事する職務(仕事の内容)、役割等級は期待される役割の大きさで等級を決めます。厚生労働省は、職能給と職務給について、それぞれ長所と短所を示しています。
Q. 中小企業にはどの等級制度が向いていますか?
会社の状況によって異なります。部署や職種をまたぐ異動が多い会社は、職能等級や役割等級が寄せやすい制度です。職務の範囲が明確で、専門人材を外部から採用したい会社は、職務等級が向いています。当社は、従業員50〜300名規模で初めて作るなら、役割等級を軸に能力の基準を加える形が現実的だと考えます。
Q. 等級制度の導入で賃金が下がる社員が出ても問題ありませんか?
賃金が下がる場合は、不利益変更の問題が生じます。使用者は、労働者の合意なく労働契約を一方的に変更できません。就業規則の変更で行うには、変更の合理性と労働者への周知が必要です(労働契約法第8条・第10条)。個別の事情で判断が変わるため、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
Q. 等級制度は就業規則に書く必要がありますか?
常時10人以上の労働者を使用する会社では、必要です。賃金の決定、計算及び支払の方法、昇給に関する事項は、就業規則に必ず記載しなければなりません(労働基準法第89条)。等級と賃金の対応はこの内容に関わるため、どこまで規程に書くかを専門家に確認してください。
Q. 等級はいくつに分ければよいですか?
決まった数はありません。前の等級と何が違うかを1〜2文で説明できる数にとどめます。多すぎると違いを説明できなくなり、少なすぎると昇格の機会が減ります。
出典・参考資料
- スタートアップ労働条件 賃金制度(職能給・職務給など)のQ&A(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 賃金制度のQ&A(厚生労働省)
- 職務給について(厚生労働省)
- 確かめよう労働条件 就業規則のQ&A(必ず記載しなければならない事項)(厚生労働省)
- 労働契約等解説セミナー 労働条件の変更(厚生労働省)
- スタートアップ労働条件 就業規則の変更に労働者から同意を得る場合の注意点(厚生労働省)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2024年4月号 企業ヒアリング(住友商事)(労働政策研究・研修機構(JILPT))
- ビジネス・レーバー・トレンド 2024年4月号 企業ヒアリング(山梨中央銀行)(労働政策研究・研修機構(JILPT))
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