SDGsを社員に浸透させる出発点は、社員一人ひとりが「自分が大切にしたい人」を考える場をつくることです。J-Net21(中小機構)のQ&Aは、各部門・各層から推進チームを組み、考えを持ち寄る進め方を示しています。本記事では、研修・見える化・目標設定・評価につなぐ6つの施策を、中小企業の人事担当者向けに解説します。
SDGsの社内浸透とは何か
SDGsの社内浸透とは、社員が自社の取り組みの理由を理解し、自分の仕事と結びつけて動けている状態のことです。この定義は本記事での当社の整理で、公的機関が定めた用語ではありません。
SDGsとは、2030年までに達成をめざす国際目標のことです。2015年9月の国連サミットで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。国連広報センターによると、SDGsは17の目標と169のターゲットからなります。
浸透が進まない原因は、社員の意識の低さとは限りません。J-Net21(中小機構)のQ&A「SDGs宣言を社内へ展開・啓蒙する方法」は、現状の取り組みを皆で点検する流れを示しています。点検すると、取り組めているようで現場まで浸透していない点が見えてくるといいます。経営層や担当者が進めている活動が、現場に伝わっていないだけかもしれません。
本記事は、中小企業の人事責任者・経営者が、既存の社員にSDGsを浸透させるために使える6つの施策を紹介します。採用への活用はSDGsを採用に活かす方法の記事で扱っています。担当者の最初の動き方はSDGs担当者を任されたら最初にやることの記事にまとめました。
社内浸透の6つの施策の全体像
6つの施策は、理解してもらう、参加してもらう、続けてもらう、の順に並べています。この順序は当社の整理です。各施策の中身は、J-Net21のQ&Aなどの公的資料に基づいています。
| 施策 | やること | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 1. 経営者が目的を話す | 誰のために、何のために取り組むかを全社に伝える | J-Net21 Q&A(有効な取り組み) |
| 2. 推進チームを各層から集める | 部署・世代・男女が混ざったチームをつくる | J-Net21 Q&A(組織のあり方) |
| 3. 大切にしたい人を持ち寄る | 一人ひとりが考えた内容を集約する | J-Net21 Q&A(社内への展開) |
| 4. 基本講座・説明会を開く | チームのメンバーが各部署で説明する | J-Net21 Q&A(社内コミュニケーション) |
| 5. 日常の場で見えるようにする | ポスター、動画、勤務時間内の活動を使う | J-Net21 Q&A(社内コミュニケーション) |
| 6. 目標設定と評価につなぐ | 部門の年間目標を決め、個人の目標は本人が決める | J-Net21 Q&A・起業マニュアル(当社の整理を含む) |
施策1:経営者が「何のために取り組むか」を社員に話す
最初の施策は、経営者が、誰のために何のためにSDGsに取り組むのかを社員に話すことです。J-Net21(中小機構)のQ&Aによると、有効な取り組みには共通点があります。企業理念やビジョンが明確なことと、大切にしたいステークホルダーが明確なことです。
ステークホルダーとは、従業員とその家族、お得意様、消費者、地域社会など、会社と関わりのある相手のことです。同Q&Aは、誰を大切にしたいかによって、取り組みの内容が大きく変わると説明しています。
話す場は、全社会議や朝礼で構いません。伝える内容は、次の3点にそろえると、社員が受け取りやすくなるでしょう。
- 取り組む目的:取引先との関係、採用、従業員の活性化など、自社にとっての理由
- 会社が大切にしたい相手と、5年後、10年後の会社の姿
- 社員へのお願い:まず一人ひとりの考えを聞かせてほしい、という依頼
注意したいのは、販促の道具として話さないことです。J-Net21のQ&Aは、SDGsを単純な販促手段として捉えると、逆効果になる可能性があると注意しています。営業資料のための話に聞こえると、社員は自分の仕事と結びつけにくいでしょう。
施策2:推進チームを各層・各部署から集める
2つ目の施策は、推進チームを、部署・世代・男女が混ざる形でつくることです。J-Net21のQ&A「社内でSDGsへ取り組む際の組織のあり方」は、各層からメンバーを選ぶよう勧めています。具体的には、経営トップ、経営幹部、管理職、現場リーダーなどです。女性社員もバランスよく加わるなど、幅広い部署、世代、男女が参加することがポイントとされています。
人数の目安は、経営者から現場リーダーまでの10名弱です。経営幹部や一部の担当者だけで検討せず、最初から各部門の代表者を入れるよう、前出のQ&Aも説明しています。
チームの人選のポイント
- 各部門の代表者を1人ずつ入れる
- 幹部、中堅、若手を混ぜる
- 男女のどちらかに偏らせない
- 経営者が会議に顔を出し、目的を繰り返し伝える(当社の提案)
人事が事務局を務めると、研修や評価との接続が早く進みます。ただし、チームの主役は各部署のメンバーです。人事が方針を決めて配る形にすると、社員が受け身になりやすいと考えられます。
施策3:一人ひとりが「大切にしたい人」を考えて持ち寄る
3つ目の施策は、社員が1人ずつ考えた内容を持ち寄り、会社としてまとめることです。前出のJ-Net21のQ&Aが示す流れは、次のとおりです。
- ステップ1:大切にしたいステークホルダーを、1人ずつ考える
- ステップ2:5年後、10年後の、未来のありたい姿を1人ずつ考える
- ステップ3:それぞれの考えを持ち寄り、全員で集約する
- ステップ4:現状の取り組みを皆で点検し、現場まで届いていない点を見つける
同Q&Aによると、この流れで、若手も含めて、SDGsは大切な人に喜んでもらう会社づくりだと受け止められます。そして、自発的に取り組みたいという動きにつながっていきます。上からの指示ではなく、社員自身の考えが起点になる点が特徴です。
部署単位で進めるときは、短いワークショップの形にすると、日常の業務を止めにくくなります。
取り組みを本業と結びつける
J-Net21のQ&Aは、本業との紐づけを案内しています。いまの事業の中から、17の目標や169のターゲットに当たる項目を探す方法です(社内でSDGsの取り組みを任されたときの進め方)。
社員にとっては、自分の担当業務を振り返る作業です。「この作業は、どの目標に関わるか」と考える形にすると、自分ごとになりやすいでしょう。ゴールの設定方法のQ&Aによると、17の目標は互いに影響しあいます。そのため、1つの取り組みに3〜4つの目標が結びつくと想定して調べます。目標のタイトルだけでなく、詳細やターゲットまで見ることも勧められています。
施策4:部署ごとに基本講座・説明会を開く
4つ目の施策が、研修にあたる部分です。J-Net21のQ&A「社内でSDGsに関するコミュニケーションを加速させる方法」は、次の形を挙げています。プロジェクトチームのメンバーが主体となり、各部署でSDGs基本講座やSDGs宣言説明会を開く形です。外部講師に任せず、メンバー自身が各部署で話すやり方です。
講座の中身は、次の順にすると、社員が自分の仕事に引きつけて聞けると考えます(当社の提案)。
- SDGsとは何かを、17の目標と169のターゲットに触れながら短く説明する
- 自社が大切にしたい相手と、5年後、10年後の姿を伝える
- その部署の仕事が、どの目標に関わるかを一緒に探す
- 部署として最初に取り組むことを、1つ決める
宣言を策定中なら、記事「中小企業のSDGs宣言の作り方」もご覧ください。宣言ができた段階で説明会を開くと、策定の経緯とあわせて伝えられます。
研修で避けたいこと
17の目標の暗記を、研修の目的にしないことです。覚えているかどうかと、仕事で動けるかどうかは別の問題だからです。講座の最後に、部署として何をするかを1つ決めて終えると、研修が実際の行動につながります。
施策5:日常の場で見えるようにする
5つ目の施策は、SDGsの話題が、日々の職場で目に入る状態をつくることです。前出のJ-Net21のQ&Aは、次の3つの実例を挙げています。
- 動画:従業員と家族向けに、各自が大切にしたいSDGsの目標をホワイトボードに掲げ、15秒程度の短編動画をつくる
- 掲示:SDGsの目標でポスターをつくり、廊下や顧客の目に触れる場所に掲示する
- 社員主導のプロジェクト:SDGs推進のプロジェクトグループを複数つくり、勤務時間内に活動する
同Q&Aは、話題の対象を広げることも勧めています。対象は、現在だけでなく未来や将来に関わりたいことまで含めます。事業や業務に限らず、従業員一人ひとりの日常生活も対象です。家族との過ごし方といった個人の話題も、社内で出して構いません。
ただし、プロジェクトの活動を勤務時間内にするかどうかは、労働時間の扱いに関わります。人事労務の担当者が、事前に整理しておくとよいでしょう。
施策6:目標設定と評価につなぐ
6つ目の施策は、SDGsの取り組みを、日常の目標管理と評価の仕組みにつなぐことです。今回確認したJ-Net21のQ&Aには、SDGsを個人の人事評価に組み込む方法そのものは書かれていませんでした。そのため、この節は、公的資料にある目標管理の考え方を組み合わせた当社の整理です。
部門の年間目標と進捗確認を決める
J-Net21のQ&Aは、県の認証を取得した企業に向けて、認証後に社内の取り組みを続ける手順を示しています。各部門で単年度の目標を設定し、毎年、進捗を確認する流れです。進んでいる項目は目標を上方修正し、遅れている項目は原因を分析して対策を立てます。認証を取っていない会社にとっても、部門の目標管理の型として使えます。
個人の目標は本人に決めてもらう
個人の目標について、J-Net21の起業マニュアルは、上司が数字を与えず、本人に考えさせることを勧めています。自分で決めた目標だから、実現に向けてやる気がわくという考え方です。営業職を例にした解説ですが、SDGsの取り組みにも当てはめられると考えられます。
同マニュアルは、目標を行動目標、成果目標、結果目標の3つに分けて説明しています。それぞれを、約束目標とチャレンジ目標の2段階で設定する考え方です。SDGsの取り組みでは、最初のうちは行動目標が現実的でしょう。たとえば、自分の担当業務でSDGsに関わる改善を1つ試すことを目標にします(当社の提案)。
評価に入れるときの注意
評価に入れる場合は、結果よりも、取り組んだ過程を見る形が合います。J-Net21のQ&Aは、成果主義を導入した企業からの相談に、次のように答えています。成果に至るまでのプロセスを定義し、その達成状況を評価することです。目標は、現状から適切にストレッチした水準にします。高すぎると、社員の士気を下げるためです。
一方で、SDGsの取り組みを点数にして昇給や賞与に強く連動させると、本業の外の活動を押しつけるおそれがあります。評価に入れるときは、本業の中での改善や工夫を対象にして、評価項目の一つとして位置づけるのが無理のない形でしょう。なお、評価制度の変更は、就業規則や賃金規程の見直しを伴う場合があります。変更するときは、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
ネクストプレナーズの見解
ネクストプレナーズは、評価への組み込みを最後に回すことをおすすめします。先に評価で縛ると、社員は点数を取るための活動に向かいやすいと考えるからです。よくある誤解は、評価に入れれば浸透する、という見方です。まず施策1〜5で、社員が自分の言葉でSDGsを語れる状態をつくります。そのうえで部門の目標につなぐ順序が、中小企業の人事担当者には無理が少ないと考えます。
浸透の進み具合を点検するチェック項目
6つの施策を進めたあと、浸透の度合いを見るための項目を挙げます。これも当社の整理です。
- 経営者が、取り組む目的を社員の前で話したか
- 推進チームに、各層・各部署のメンバーが入っているか
- すべての部署で、基本講座か説明会を1回は開いたか
- 社員が、自分の仕事とSDGs目標との関わりを話せるか
- 部門ごとに、年間目標と進捗を確認する場があるか
すべてに「はい」と答えられなくても問題ありません。「いいえ」の項目が、次に取り組む施策です。
まとめ:次にやること
SDGsを社員に浸透させる施策は、次の6つです。
- 経営者が目的を話す
- 推進チームを各層から集める
- 一人ひとりの考えを持ち寄る
- 部署ごとに基本講座を開く
- 日常の場で見えるようにする
- 目標と評価につなぐ
理解、参加、継続の流れで進めると、無理なく広げられます。
次の一手は、各部署から推進メンバーの候補を1人ずつ書き出し、経営者に提案することです。
ネクストプレナーズは、人と制度の経営コンサルティングを行っています。中小企業のSDGs導入の支援として、社内の推進体制づくりも扱っています(SDGsコンサルティングの案内)。SDGsの取り組みを目標管理や評価の仕組みにどうつなぐかで迷うときは、ご相談ください。
監修者
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. SDGsを社員に浸透させるには、何から始めればよいですか?
最初は、経営者が、誰のために何のためにSDGsに取り組むのかを社員に話すことです。そのうえで、各部署・各層から推進チームをつくり、一人ひとりが大切にしたい相手と未来の姿を考えて持ち寄る流れが、J-Net21(中小機構)のQ&Aに示されています。研修や掲示は、その後で進めて構いません。
Q. 社員向けのSDGs研修は、どんな内容にすればよいですか?
17の目標の暗記ではなく、自社の本業との関わりを中心にするのがおすすめです。J-Net21のQ&Aは、プロジェクトチームのメンバーが各部署でSDGs基本講座や宣言説明会を開くことを挙げています。内容の組み立て方は当社の提案で、目標の説明、自社の方針、部署の仕事との関わり、最初の行動の順を例にしています。
Q. SDGsを人事評価に入れてもよいですか?
入れること自体は可能ですが、今回確認したJ-Net21のQ&Aに、個人の人事評価への組み込み方は書かれていません。当社は、本業の中での改善や工夫を対象にして、結果ではなく取り組んだ過程を評価する形をおすすめします。評価制度を変更するときは、就業規則や賃金規程への影響を、社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
Q. 社員がSDGsに関心を持たないときは、どうすればよいですか?
会社が用意した内容を伝えるだけでなく、社員自身の考えを聞く場をつくってください。J-Net21のQ&Aによると、一人ひとりが大切にしたい人や未来の姿を考えて持ち寄ると、自発的に取り組みたいという動きにつながります。話題を事業や業務に限らず、日常生活まで広げることも、コミュニケーションの方法として示されています。
Q. SDGsが社内に浸透しているかは、どう確認すればよいですか?
現状の取り組みを皆で点検し、現場まで届いていない点を探す方法があります。J-Net21のQ&Aは、この点検で、取り組めているようで実は浸透していない点が見えてくると説明しています。当社の整理では、経営者の発信、推進チームの構成、全部署での講座、社員の説明、部門の進捗確認の5項目で確認できます。
出典・参考資料
- SDGs宣言の策定を目指しているが、どのように社内へ展開・啓蒙すればよいか教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社内でSDGsに関するコミュニケーションを加速させるための良い方法を教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社内でSDGsへ取り組む際の組織のあり方について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社内でSDGsの取り組みを任されたものの、どのように進めていくのがよいでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGsではどのような取組が有効なのでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- ゴールの設定方法について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社内の取組をSDGsと紐付けて県の認証を取得しました。これで十分と言えるのでしょうか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 検討している事業にSDGs経営を導入するには、どうすればよいですか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 社員のやる気を高める目標設定(中小企業基盤整備機構(J-Net21 起業マニュアル))
- 評価基準の設定と運用のポイントは何ですか?(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
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