
最低賃金が上がると、月給制の会社でも賃金の見直しが必要になることがあります。判断の基準は月給の額ではなく、月給を時間額に換算した金額です。令和8年度は、全国加重平均が1,177円(改定前1,121円)、東京都は1,280円に改定されました。この記事では、月給の換算方法と賃金テーブルを点検する5つのステップを、厚生労働省の資料と法令に基づいて解説します。
最低賃金が上がったら月給の見直しは必要か
月給が最低賃金を下回っているかどうかは、月給を時間額に換算して判断します。時間額が適用される最低賃金額より低ければ、月給の引き上げが必要です。月給は据え置いていても、最低賃金が上がった結果、これまで上回っていた月給が下回るケースがあります。
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません(最低賃金法第4条第1項)。地域別最低賃金は、各都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。パートタイマー、アルバイト、臨時、嘱託など、雇用形態や呼称は問いません。正社員の月給も対象です。
令和8年度の地域別最低賃金(主な都道府県)
厚生労働省の「令和8年度地域別最低賃金全国一覧」に掲載された改定額は、次のとおりです。全国加重平均は1,177円で、改定前の1,121円から56円(5.0%)上がりました。
| 都道府県 | 改定後(円) | 改定前(円) | 引上げ額(円) | 発効日 |
|---|---|---|---|---|
| 北海道 | 1,131 | 1,075 | 56 | 令和8年10月1日 |
| 東京都 | 1,280 | 1,226 | 54 | 令和8年10月1日 |
| 愛知県 | 1,195 | 1,140 | 55 | 令和8年10月1日 |
| 大阪府 | 1,231 | 1,177 | 54 | 令和8年10月1日 |
| 福岡県 | 1,114 | 1,057 | 57 | 令和8年10月4日 |
| 全国加重平均 | 1,177 | 1,121 | 56 | - |
発効日は都道府県ごとに異なります。京都府は令和8年11月16日、熊本県は令和8年12月1日、沖縄県は令和8年12月2日です。上の表は一部の都道府県だけを抜き出したものなので、事業場のある都道府県の額と発効日は、全国一覧で確認してください。
月給の時間額への換算とは。計算式と手順
月給の時間額への換算とは、月給を1か月の平均所定労働時間で割り、1時間あたりの金額に直すことです。最低賃金法施行規則第2条第1項第3号は、月によって定められた賃金の換算方法を定めています。月給を月の所定労働時間数で割った金額が時間額で、これを最低賃金法第4条に当てはめます。月によって所定労働時間数が異なる場合は、1年間における1か月平均所定労働時間数が基準です。
月給(最低賃金の対象となる賃金)÷ 1か月平均所定労働時間 ≧ 最低賃金額(時間額)
厚生労働省の最低賃金特設サイトも、月給の場合は「月給÷1箇月平均所定労働時間」を最低賃金額と比べる形で示しています。
換算の4ステップ
- ステップ1:月給から、最低賃金の対象にならない賃金を除く
- ステップ2:1か月平均所定労働時間を求める(年間の所定労働日数×1日の所定労働時間÷12)
- ステップ3:ステップ1の金額を、ステップ2の時間数で割る
- ステップ4:事業場のある都道府県の最低賃金額と比べる
年間の所定労働日数は、365日から年間休日を引いて求めます。年間休日が120日なら245日です。1日8時間なら、1か月平均所定労働時間は245日×8時間÷12で、約163.33時間です。
計算例:東京都の事業場で月給205,000円の場合
毎月の基本給と職務手当の合計が205,000円、年間所定労働日数が245日、1日の所定労働時間が8時間とします。205,000円÷約163.33時間は約1,255円で、令和8年度の東京都の1,280円を下回ります。1,280円に163.33時間を掛けると約209,067円なので、約4,067円が足りません。改定前の1,226円なら必要額は約200,247円で、205,000円は上回っていました。
次の表は、年間所定労働日数245日・1日8時間の場合に、最低賃金を満たすために必要な月額の目安です。円未満は四捨五入しています。
| 都道府県 | 最低賃金額(円) | 必要な月額の目安(円) |
|---|---|---|
| 東京都 | 1,280 | 209,067 |
| 大阪府 | 1,231 | 201,063 |
| 愛知県 | 1,195 | 195,183 |
| 北海道 | 1,131 | 184,730 |
| 福岡県 | 1,114 | 181,953 |
所定労働時間が上の条件と違う会社では、この表は使えません。自社の所定労働時間で計算してください。たとえば1日7時間30分なら、1か月平均所定労働時間は153.125時間で、東京都の必要額は196,000円です。
月給に含める賃金と含めない賃金
最低賃金の対象になるのは、毎月支払われる基本的な賃金です。次の賃金は、最低賃金の対象に含めません(最低賃金法第4条第3項、同法施行規則第1条、厚生労働省の最低賃金特設サイト)。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの労働に対する賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
時間外労働の対価として固定残業代を支払っている場合は、その部分も除いて計算します。職務手当や役職手当のように毎月支払い、上の6つに当たらなければ、算入の対象です。
賞与を12分の1にして月給に足すことはできません。賞与は、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たるためです。年俸制でも、賞与として支払う分は対象外です。
日給・週給・年俸・出来高払いの場合
賃金の決め方が月給以外のときも、最低賃金法施行規則第2条第1項で、時間額への換算方法が決まっています。
- 時間給:そのまま最低賃金額と比べる
- 日給:日給を1日の所定労働時間数で割る(日によって異なる場合は、1週間における1日平均所定労働時間数)
- 週給:週給を週の所定労働時間数で割る(週によって異なる場合は、4週間における1週平均所定労働時間数)
- 年など月・週・日以外の期間で決めた賃金:月給の考え方に準じて算定する
- 出来高払い:賃金算定期間の出来高給の総額を、その期間の総労働時間数で割る
最低賃金の改定後に賃金テーブルを点検する5ステップ
賃金テーブルの点検とは、賃金表にある金額を時間額に直し、最低賃金を下回るものがないかを確かめることです。最低賃金に近い金額ほど改定の影響を受けるため、賃金の低い行から順に見ていきます。
ステップ1:適用される最低賃金額を確認する
地域別最低賃金は、事業場のある都道府県の額が適用されます。本社が東京都でも、大阪府の営業所で働く人に適用されるのは大阪府の額です。事業場が複数の都道府県にある会社は、事業場ごとに確認してください。
地域別と特定(産業別)の最低賃金が両方適用される労働者には、高い方の額以上を支払います(最低賃金法第6条第1項)。厚生労働省によると、特定(産業別)最低賃金は全国に223件あります(令和8年4月1日現在)。金額は、地域別より高い水準です。
ステップ2:賃金テーブルの最も低い金額を洗い出す
確認する対象は、最下位等級の初号(初任給)、パートタイマーや契約社員の時給表、試用期間中の賃金表です。拠点や部署によって所定労働時間が違う場合は、区分ごとに分けて洗い出してください。
ステップ3:対象外の賃金を除き、時間額に換算する
通勤手当や固定残業代などを除いた毎月の賃金を、それぞれの1か月平均所定労働時間で割ります。同じ月額でも、所定労働時間が短い区分ほど時間額は高くなり、長い区分ほど低くなります。次の表は、東京都(1,280円)で点検する場合の仮の例です。
| 区分 | 毎月の対象賃金(円) | 1か月平均所定労働時間 | 時間額 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 事務職の初号 | 205,000 | 約163.33時間(1日8時間) | 約1,255円 | 下回る(約4,067円不足) |
| 営業職の初号 | 215,000 | 約163.33時間(1日8時間) | 約1,316円 | 上回る |
| 短時間勤務の月給者 | 150,000 | 122.5時間(1日6時間) | 約1,224円 | 下回る(6,800円不足) |
| 1日7時間30分の部署 | 198,000 | 153.125時間 | 約1,293円 | 上回る(2,000円の余裕) |
上の表の数値は、説明のために作った仮の例です。年間所定労働日数はいずれも245日で計算しています。
ステップ4:下回る箇所と余裕の小さい箇所を調整する
下回る箇所は、最低賃金額以上になるまで引き上げます。通勤手当や家族手当は最低賃金の対象に入らないため、これらを増やしても不足は解消しません。基本給や、毎月支払う手当を調整してください。
初号を引き上げると、2号俸目以降や上位等級との差が詰まります。差が縮んだまま放置すると、勤続の長い社員と新入社員の賃金が近づいたり、逆転したりします。逆転と圧縮の対処法は、初任給の引き上げで起きる賃金の逆転・圧縮の記事を参照してください。賃金テーブルの設計手順は、賃金テーブルの作り方の記事をご覧ください。
ステップ5:周知し、規程と記録を整える
最低賃金法第8条は、最低賃金の概要を労働者に周知するよう、使用者に義務づけています。方法は、常時作業場の見やすい場所への掲示などです。最低賃金特設サイトが示す周知の内容は、適用を受ける労働者の範囲、最低賃金額、算入しない賃金、効力発生日です。
賃金規程の金額を改める場合は、就業規則の変更手続きが必要になることがあります。厚生労働省のQ&Aによると、必要なのは、過半数代表の意見聴取と労働基準監督署長への届出、変更後の内容の周知です。労働者に不利な変更は、個々の労働者の合意が原則とされています。
換算の計算表は、点検した日付と一緒に保存しておくと、次の改定のときに作業が短くなります。
最低賃金を下回るとどうなるか
最低賃金を下回る賃金を定めた労働契約は、その部分が無効です。無効となった部分は、最低賃金と同様の定めをしたものとみなされます(最低賃金法第4条第2項)。労働者本人が低い金額に同意していても、最低賃金額が契約の内容となります。
地域別最低賃金を下回る賃金を支払った使用者には、50万円以下の罰金が定められています(同法第40条)。
試用期間中の労働者や、軽易な業務に従事する労働者などには、減額の特例があります(同法第7条)。適用できるのは、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときに限られます。許可を受けずに、試用期間中だからと最低賃金より低い額を支払うことはできません。
ネクストプレナーズの見解
最低賃金の点検は、月給の平均額ではなく、賃金表で最も低い1行から始めるとよいと考えます。初号だけを毎年最低賃金に合わせていると、上位の号俸や等級との差が詰まっていくからです。その状態が続くと、賃金テーブル全体が圧縮されやすくなります。
最低賃金額の欄を差し替えるだけで全区分を点検できる計算表を、あらかじめ作っておくことをおすすめします。下回った分だけを手当で埋めると、賃金テーブルが後から複雑になりがちです。基本給の水準から見直すことも検討してください。
公的な相談先と支援制度
最低賃金特設サイトは、中小企業向けに、業務改善助成金と働き方改革推進支援センターを案内しています。業務改善助成金は、生産性向上を支援し、事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)を引き上げるための制度です。働き方改革推進支援センターは、中小企業の課題に対応するワンストップの相談窓口で、全国に開設されています。助成金の対象や要件は、最新の募集要項で確認してください。
まとめ
最低賃金が上がったら、まず時間額に換算します。判断に使うのは、月給を1か月平均所定労働時間で割った金額です。月給そのものの額では判断しません。算入するのは毎月支払う基本的な賃金で、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、割増賃金、賞与などは含めません。
まず、全国一覧で事業場のある都道府県の額と発効日を確認し、賃金テーブルの最も低い行を時間額に換算してください。下回る箇所があれば、上位の号俸との差も合わせて見直します。賃金制度の設計や見直しをご検討の際は、株式会社ネクストプレナーズにご相談ください。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
監修
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
よくある質問
Q. 月給の最低賃金はどう計算しますか。
月給(最低賃金の対象となる賃金)を1か月平均所定労働時間で割って時間額に直し、最低賃金額と比べます。1か月平均所定労働時間の計算式は、年間所定労働日数×1日の所定労働時間÷12です。年間245日・1日8時間なら約163.33時間です。
Q. 通勤手当や残業代は、最低賃金の計算に含めますか。
含めません。精皆勤手当、通勤手当、家族手当は対象外です。時間外・休日・深夜の割増賃金、賞与、臨時に支払われる賃金も除いて計算します。
Q. 賞与を月割りにして、最低賃金を満たしたことにできますか。
できません。賞与は1か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たり、最低賃金の対象に含まれないためです。年俸制でも、賞与として支払う分は除きます。
Q. 令和8年度の最低賃金は、いつから適用されますか。
発効日は都道府県ごとに異なります。東京都、大阪府、愛知県などは令和8年10月1日、京都府は同年11月16日、熊本県は同年12月1日です。事業場のある都道府県の発効日は、厚生労働省の全国一覧で確認してください。
Q. 試用期間中の賃金は、最低賃金を下回ってもよいですか。
原則として下回れません。減額した額で最低賃金を適用できるのは、使用者が都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られます(最低賃金法第7条)。
Q. 最低賃金を下回る賃金を支払うと、どうなりますか。
下回る部分の労働契約は無効となり、最低賃金額が契約の内容とみなされます(最低賃金法第4条第2項)。地域別最低賃金を下回る賃金を支払った場合は、50万円以下の罰金が定められています(同法第40条)。
出典・参考資料
- 地域別最低賃金の全国一覧(令和8年度)(厚生労働省)
- 令和8年度地域別最低賃金 全国一覧(PDF)(厚生労働省)
- あなたの賃金を比較チェック|最低賃金制度(特設サイト)(厚生労働省)
- 最低賃金の種類(厚生労働省)
- 最低賃金が適用される労働者(厚生労働省)
- 最低賃金の対象となる賃金(厚生労働省)
- 最低賃金のチェック方法(厚生労働省)
- 最低賃金の周知(厚生労働省)
- 最低賃金法(e-Gov法令検索)
- 最低賃金法施行規則(e-Gov法令検索)
- 就業規則の変更はどのように行えばよいのでしょうか(事業者・労務管理担当の方のQ&A)(厚生労働省)
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