SDGsの宣言を出したあと、取り組みの成果をどう測ればよいか迷う中小企業は少なくありません。測る物差しが決まっていないと、活動が進んでいるのかも、社内外に説明できません。この記事では、SDGsのKPI(重要業績評価指標)を設定する方法を、環境省・中小機構・SDGコンパスなどの公表資料を基に解説します。指標を5〜10個に絞る5つのステップと、四半期ごとの進捗確認の手順をまとめました。
SDGsのKPIとは?設定が必要な理由
SDGsのKPIとは、SDGsの取り組みがどこまで進んだかを、数字で測るための指標のことです。KPIは「主要業績評価指標」の略です。SDGコンパスは、KPIを、進捗を促進・モニタリングして、その状況を発信する基盤になるものと位置づけています。
なぜ数字が要るのか。環境省の「SDGs活用ガイド」は、取組の前後と過程で、記録とモニタリングを行うよう勧めています。数字で表せる分かりやすい指標があれば、誰でも取組の効果が一目で把握でき、次にもつなげやすくなる、という説明です。
中小機構近畿本部のガイドブックのQ&Aも、目標は数値(定量的なもの)で示せるとわかりやすいと答えています。同じQ&Aの記載によると、設定した目標に届かなくてもペナルティや罰則はありません。一方で、理想を掲げるだけで実行が見えないと、「SDGsウォッシュ」と批判される可能性がある、という指摘もあります。ウォッシュの点検の仕方は、SDGsウォッシュ対策の記事をご覧ください。
なお、指標を何個にするか、どのくらいの間隔で確認するかは、確認できた公表資料に決まりがありません。この記事の「5〜10個」と「四半期ごと」は、当社が中小企業の担当者に勧める目安です。社内の体制に合わせて調整してください。
SDGsのKPIを設定する5つのステップ
SDGコンパスによると、目標設定のステップは4つの項目で構成されます。「目標範囲を設定してKPIを選択する」「ベースラインを設定して目標タイプを選択する」「意欲度を設定する」「コミットメントを公表する」の4つです。次の5つのステップは、この考え方と環境省・中小機構の資料を基に、当社が中小企業向けに並べ直したものです。
- ステップ1:KPIをつける対象のゴールと課題を確認する
- ステップ2:課題ごとにKPIの候補を洗い出す
- ステップ3:候補を5〜10個に絞る
- ステップ4:基準値と目標値を決める
- ステップ5:データの集め方と担当者を決める
ステップ1:KPIをつける対象のゴールと課題を確認する
最初に、KPIをつける対象を決めます。17ゴールのすべてに指標をつけるのではなく、自社が優先して取り組むゴールと課題に絞るのがポイントです。SDGコンパスも、優先課題ごとに、影響を最もよく表すいくつかの主要指標に絞るとよいと説明しています。
優先するゴールがまだ決まっていない場合は、先にSDGsの17ゴールの選び方で、2〜3ゴールに絞る手順を確認してください。
ステップ2:課題ごとにKPIの候補を洗い出す
候補は、課題ごとに複数あげます。SDGコンパスは、次の考え方で選ぶよう示しています。
- 可能な限り、活動の影響や結果に直接対応する指標を選ぶ
- 結果を直接測れない場合は、投資する資本や実施する研修など、活動を対象とする指標を代わりに使う
- 結果を測る指標(遅行指標)と、結果を予測する指標(先行指標)のバランスを取る
- 可能な限り、一般的に使われている指標を選ぶ(他社とデータを比較しやすくなる)
たとえば、従業員の働きやすさが課題なら、「離職した人数」は結果を測る指標です。「研修の受講率」や「有給休暇の取得率」は、活動や取り組みの進み具合を測る指標として使えます。
ステップ3:候補を5〜10個に絞る
次に、候補を絞ります。当社の目安は、ゴールを2〜3つに絞ったうえで、1ゴールあたり2〜3個の指標を選び、全体で5〜10個前後にする方法です。担当者が無理なく数字を集められる数にとどめる狙いがあります。
絞る基準は、次の3つです。
- 自社の既存のデータで集められるか。SDGコンパスは、購買・販売のシステムなど現行の仕組みから取り出すほうが、新しい仕組みをつくるより効率的としています
- 測るコストに見合うか。SDGコンパスは、指標の計測コストや複雑さは、計測で得られる価値に見合うものでなければならないとしています
- 経営層や社員が、数字の意味を説明できるか
ステップ4:基準値と目標値を決める
基準値(ベースライン)とは、目標の進み具合を比べるための出発点となる数字のことです。基準値は特定の時点でも、特定の期間でも設定できる、とSDGコンパスは説明しています。期間の平均を使えば、短期的な変動の影響を除けるのが利点です。
基準値の選び方は、目標を達成できるかどうかに大きく影響します。そのため、SDGコンパスは、どの基準値を選んだか、なぜ選んだかを明らかにしておくよう勧めています。合併、買収、撤退などがあった場合は、基準値の算定し直しが必要です。
目標値の種類は、次の2つに分かれます。
| 種類 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 絶対目標 | 数値そのものを増やす・減らす(例:安全衛生事象の発生率を下げる) | 社会に与える影響を表したいとき。ただし、企業の成長や縮小は考慮されない |
| 相対目標 | 売上など、産出の単位あたりの数値で比べる(例:単位売上高あたりの温室効果ガス排出量を下げる) | 事業の規模が変わっても、達成度を正確に測りたいとき。ただし、影響の大きさは把握しきれない |
(上の表は、SDGコンパスの説明を基に当社が整理したものです。)
初年度の目標値の決め方は、中小機構のJ-Net21のQ&Aに示されています。5年後・10年後の取組目標をブレイクダウンして初年度の目標をつくり、各部門で具体的な数値目標を掲げる、という進め方です。初年度は背伸びせず、全部門が100%達成できるくらいの低いハードルでも構わないとされています。まず幅広く社員に浸透させ、参画意識を持ってもらうことが大事という考え方です。
長期の目標を置く場合は、短期・中期の目標か里程標(マイルストーン)も併せて設定します。SDGコンパスによると、時間軸が長いほど、説明責任が曖昧になりやすいためです。
ステップ5:データの集め方と担当者を決める
最後に、指標ごとに「どの資料から」「誰が」「いつ」数字を集めるかを決めます。勤怠データ、会計データ、電気料金の請求書など、すでにある資料から集められるようにしておけば、続けやすいでしょう。
SDGsと関連づける前から取り組んでいたことは、できるだけさかのぼって見るとよい、と環境省のガイドは説明しています。過去の数字があれば、基準値を決める材料に使えます。
中小企業が使いやすいSDGsのKPI例は?
自社の既存データで算出できる指標から選ぶのが、中小企業には現実的です。次の表は、公表資料に定義や考え方が載っている指標の例です。
| 分野 | KPIの例 | 算出方法・考え方 |
|---|---|---|
| 働き方 | 有給休暇取得率 | 厚生労働省の就労条件総合調査の定義は、(取得日数計÷付与日数計)×100(%) |
| ジェンダー | 管理職に占める女性の割合 | 厚生労働省の資料の計算方法は、女性の管理職数÷管理職数×100(%)。管理職は、課長級と、課長級より上位の役職(役員を除く)の合計 |
| 環境 | 電力使用量、温室効果ガス排出量 | SDGコンパスによると、炭素排出量や自然資源の使用量は、多くの企業が環境目標に設定してきた指標。測る範囲(事業所・車両など)を先に決める |
| 人材育成 | 研修の実施回数、受講率 | SDGコンパスは、実施する研修などの活動を対象とする指標を、結果の代わりの指標として使えるとしている |
| 安全衛生 | 安全衛生事象の発生率 | SDGコンパスが絶対目標の例にあげている指標。事業所ごとの件数を記録する |
同じ名前の指標でも、数え方は会社によって違います。たとえば管理職の範囲は、自社の呼称ではなく、算出方法の定義に合わせて数えます。定義を決めたら、基準値の時点と同じ数え方を続けてください。
SDGsのKPIの進捗は、四半期ごとにどう確認する?
四半期(3か月)ごとに、各KPIの実績値を基準値と目標値に照らして確認し、遅れている指標について原因と対応を決めます。確認の間隔に公表資料の定めはなく、四半期は当社の推奨です。月次では担当者の負担が重く、年1回では遅れに気づく前に年度が終わってしまうため、3か月を目安にしています。
- ステップ1:月ごとに、実績値を記録する
- ステップ2:四半期末に集計し、目標値と比べる
- ステップ3:目標より遅れている指標の原因を確認する
- ステップ4:対応策と担当者、期限を決める
- ステップ5:経営者に報告し、記録を残す
記録は、表1枚にまとめると続けやすくなります。四半期ごとの確認シートには、次の項目を入れておきます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| KPI名・算出方法 | 指標の名前と、数え方の定義 |
| 基準値・目標値 | 出発点の数字と、年度末にめざす数字 |
| 当四半期の実績値 | 3か月分の集計結果。前の四半期との差も書く |
| 状況の判断 | 順調・やや遅れ・遅れのいずれか |
| 原因と対応策 | 遅れの理由、次の3か月の対応、担当者、期限 |
環境省のガイドは、取組の過程で、後からふりかえれるように資料や写真を残しておくことを勧めています。確認シートと一緒に、取り組みの記録も保管しておくと、年度末のふりかえりや外部への説明に使えます。
目標に届かなくても、ペナルティはありません。数字が遅れていたら、目標を下げる前に、原因が事業のやり方にあるのか、データの集め方にあるのかを確認してください。指標そのものが合わなくなっていれば、年度の切り替えで見直します。SDGコンパスも、影響の評価と優先課題の決定を定期的に行って、変化を把握するよう勧めています。
SDGsのKPIを設定するときの注意点
宣言の言葉を、そのままKPIにしない
「カーボンニュートラルを達成する」のような大きな目標は、範囲や期限が決まっていなければ、それだけでは進捗を測れません。SDGコンパスは、そのような場合、期限を区切った計測可能なターゲットの基盤となるKPIを、いくつか選ぶよう勧めています。
初年度から高い目標を置かない
最初の年に高い目標を置くと、届かなかった部門のやる気を下げかねません。J-Net21のQ&Aは、全部門が100%達成できる手の届く目標を立てて、全員の参画意識を育むことも重要としています。2年目以降に、実績を見て引き上げる進め方が現実的です。
KPIを社員の評価や目標設定とつなげる
数字が現場に届かないと、記録を取ること自体が負担になりがちです。部門ごとの目標や社員の評価にどうつなげるかは、SDGsを社員に浸透させる方法の記事で解説しています。
数字だけを見せない
数字が良くなっても、実際の取り組みが見えなければ、ウォッシュと見られる可能性があります。数字には、何をしたかの説明を添えて社内外に示してください。
ネクストプレナーズの見解
KPIは、数が多いほど良いわけではないと考えます。最初は自社のデータですぐ集められる指標を5〜10個選び、四半期ごとに確認する運用を回すことをおすすめします。完璧な指標を探すより、同じ数え方で続けて、前の期との差を見るほうが、実務では役に立つでしょう。
当社も、SDGs導入の支援サービスで、マテリアリティの特定やKPI設定、ロードマップの策定などを支援しています。初回ヒアリングは無料で、全国オンラインに対応しています。
監修者
監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)
東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。
本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。
よくある質問
Q. SDGsのKPIは、何個くらい設定すればよいですか。
個数に決まりはなく、確認できた公表資料にも定めはありません。SDGコンパスは、優先課題ごとに、影響を最もよく表すいくつかの主要指標に絞るとよいと説明しています。当社の目安は、全体で5〜10個前後です。担当者が無理なく数字を集められる数に合わせてください。
Q. SDGsのKPIは、必ず数字で示さなければなりませんか。
数字で示すことが義務というわけではありません。中小機構近畿本部のガイドブックのQ&Aは、目標は数値(定量的なもの)で示せるとわかりやすいと答える一方、経営の実践に「こうでなくてはならない」という手法はなく、取り組みやすい部分から始めるのがよいとしています。
Q. SDGsのKPIの目標を達成できないと、ペナルティはありますか。
ペナルティや罰則はありません。中小機構近畿本部のガイドブックのQ&Aは、設定した目標に到達しなくてもペナルティのようなものはないと答えています。ただし、理想を掲げるだけで実行が見えないと、SDGsウォッシュと批判される可能性があるとされているため、取り組みの記録も残してください。
Q. 初年度のKPIの目標値は、どう決めればよいですか。
5年後・10年後の取組目標をブレイクダウンして、初年度の目標を決めます。J-Net21のQ&Aは、各部門で具体的な数値目標を掲げ、初年度は全部門が100%達成できるくらいの低いハードルでも構わないとしています。まず社員に幅広く浸透させ、参画意識を持ってもらうことが大事という考え方です。
Q. SDGsのKPIの進捗は、どのくらいの頻度で確認すればよいですか。
確認の頻度に、公表資料の定めはありません。当社は、四半期(3か月)ごとの確認を推奨しています。月ごとに実績値を記録しておき、四半期末に集計して目標値と比べる運用です。環境省のガイドも、取組の前後と過程で記録とモニタリングを行うよう勧めています。
Q. KPIの基準値(ベースライン)は、いつの数字にすればよいですか。
特定の時点か、特定の期間のどちらかで設定します。SDGコンパスによると、期間の平均を使うと短期的な変動の影響を除けます。どの基準値を選んだか、なぜ選んだかを明らかにしておくことも推奨されています。合併、買収、撤退などがあった場合は、基準値を算定し直します。
出典・参考資料
- SDGs活用ガイド[第2版](環境省)
- SDGの企業行動指針―SDGsを企業はどう活用するか―(SDGコンパス日本語版)(国連グローバル・コンパクト/グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン)
- 中小企業のためのSDGs活用ガイドブック(近畿本部版)(中小企業基盤整備機構 近畿本部)
- SDGs宣言に向けて、自社事業と17の目標を紐づけた後の進め方・考え方について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- SDGs宣言後の取組について教えてください。(中小企業基盤整備機構(J-Net21))
- 令和6年就労条件総合調査の概況(厚生労働省)
- 女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画を策定しましょう(厚生労働省)
- 家族手当・配偶者手当の見直し方|年収の壁を踏まえた廃止・子ども手当化の選択肢と、不利益変更で守る手順・経過措置 - 2026年11月4日
- 人事評価の評価項目の決め方|成果・能力・情意の3軸を職種と等級に合わせて配分する手順と、項目を絞る基準 - 2026年11月3日
- 賃上げ促進税制は中小企業でどう使う?令和8年度の要件・控除率・給与総額の集計方法とくるみん・えるぼしの上乗せ - 2026年11月2日
