評価者研修の進め方|寛大化・中心化傾向など評価のばらつきを減らす6つのステップ

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評価者研修とは、人事評価を行う管理職が評価の目的・基準・陥りやすい誤りを学び、評価の物差しをそろえるための研修です。評価者ごとに甘辛が違うと、社員の納得感が下がり、昇給や賞与への反映も難しくなります。本記事では、寛大化傾向・中心化傾向などの評価エラーの種類と、中小企業が6つのステップで進める研修の手順、研修後の評価調整までを、公的機関の資料をもとに解説します。

評価者研修とは?評価のばらつきを減らすために中小企業でも必要な理由

評価者研修とは、人事評価を行う管理職などの評価者が、評価の目的・評価基準・陥りやすい評価の誤りを学び、評価の物差しをそろえるための研修のことです。評価者訓練や考課者訓練と呼ばれることもあります。

評価者ごとに評価の甘辛が異なる状態を放置すると、評価制度そのものへの信頼が下がります。制度の設計が整っていても、評価する人の理解や判断が人によって違えば、同じ働きぶりでも評価が変わってしまうためです。

評価者によって評価がバラバラになると何が起きるのか

内閣人事局・人事院の「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」は、国家公務員の人事評価について評価者が行う手続を示した資料です。民間企業にそのまま適用するものではありませんが、評価者が何に気をつけるべきかを整理した資料として、中小企業が評価者研修の教材をつくる際にも参考になります。

このガイドは、評価基準に対する理解が不十分で認識にバラツキがあると、評価者が評価要素を自分なりに理解して評価することになり、評価者の思惑や個人的な感情が入りやすくなると指摘しています。その結果、被評価者に「評価者により評価がバラバラではないか」「適切に評価されていないのではないか」といった疑問や不満を抱かせることにつながると述べています。

厚生労働省の事例にみる「評価者によって評価が異なる」という課題

厚生労働省の「IT業界の働き方・休み方の推進」のサイトには、人事評価制度を見直した企業の事例が掲載されています。社員55名(2022年3月現在)の企業の事例では、現行の人事評価制度の課題として、評価方法が統一されておらず評価者によって評価が異なる場合があることなどが挙げられています。対応として、各評価項目における評価点の基準を設定し、自己評価と上長評価をすり合わせる運用に変更したと紹介されています。

社員205名(2021年11月1日現在)の企業の事例では、アンケートやヒアリングで「評価基準が個人に依存する」といった課題が挙がったとされています。対応として、基準が曖昧だった4段階評価を、役職や等級に求める期待値を基準にした、3を基準値とする5段階評価に見直したと紹介されています。

どちらの事例も、評価者個人の努力や意識に任せるのではなく、評価基準そのものを明確にする取り組みとあわせて進めている点が、評価者研修を考えるうえで示唆的です。

評価のばらつきを生む評価エラーの種類と対策

評価エラーとは、評価者の思い込みや心理的な傾向によって、実際の働きぶりと評価結果がずれてしまうことです。人事評価ガイドは、ハロー効果や寛大化傾向などを評価エラーと呼ばれるものとして取り上げ、評価者がその内容や対応策を十分に理解してから評価に臨むよう求めています。

同ガイドが整理している主な評価エラーと、対策の方向性を表にまとめます。

評価エラー どのような傾向か 対策の方向性
ハロー効果 被評価者への全体的な印象や一つの印象から、個々の特性を同じように評価してしまう 個々の特性を区別し、具体的な行動事実に基づいて評価する。一つの事実は一つの評価項目だけで評価する
寛大化傾向 ややもすると甘い評価をしてしまう 評語の解説に照らして、自分の評価の目線が甘すぎないかを確認する
厳格化傾向 評価が一般に基準以上に辛くなる(寛大化傾向と表裏をなす) 寛大化傾向と表裏の関係にあるため、評語の解説に照らして目線が辛すぎないかを確認する(本記事での整理)
中心化傾向 大部分を「普通」「平均的」と評価し、優劣の差を付けることを避ける 良し悪しを判断できるよう、被評価者についての具体的な事実を十分に知る
論理的錯誤 自分の論理を持ち込み、関連がありそうな評価要素に同じ・似た評価をしてしまう 評価要素ごとに何を評価するのかを区別して認識する
対比誤差 自分の能力を基準に評価し、得意な分野は厳しく、苦手な分野は甘くなる 被評価者に期待すべきことを確認し、自分を基準にせず客観的な事実で評価する
逆算化傾向 処遇(全体評価)から逆算して評価をつくり上げてしまう 処遇は考慮せず、具体的な行動の分析を経て評価する手順を守る

寛大化傾向と中心化傾向とは

寛大化傾向とは、実際の働きぶりよりも甘い評価をしてしまう傾向のことです。ガイドは例として、長く同じメンバーで仕事をしていると、人情から寛大になってしまうことを挙げています。

中心化傾向とは、大部分の項目を「普通」「平均的」と評価し、優劣の差を付けることを避ける傾向のことです。ガイドは、良し悪しをしっかり判断できるように、被評価者についての具体的な事実を十分に知ることを対策に挙げています。

どちらも、部下との関係を悪くしたくない、差を付けた理由を説明するのが負担、といった心理が背景にあると考えられます。評価が高めや真ん中に集まると、評価の差が昇給や賞与に反映されにくくなるため、評価者研修で最初に取り上げる意義が大きいエラーです。

ハロー効果・論理的錯誤・対比誤差とは

ハロー効果とは、被評価者への全体的な印象や、何か一つの印象から、個々の特性を同じように評価してしまう傾向のことです。ガイドは例として、明るく人付き合いが良いという印象だけで、評価項目のほとんどを高く評価してしまうことを挙げています。

論理的錯誤とは、評価する段階で自分の論理を持ち込み、関連がありそうな評価要素に同じ評価や似た評価をしてしまう傾向のことです。ガイドは例として、「積極性」と「粘り強さ」を同一視し、積極性の高い職員の「粘り強さ」も高く評価してしまうことを挙げています。

対比誤差とは、自分の能力を基準にして評価する傾向のことです。自分の得意な分野は厳しく、苦手な分野は甘く評価してしまうことがあります。

逆算化傾向と、評価期間の終盤の出来事に引きずられる誤り

逆算化傾向とは、処遇から逆算して評価をつくり上げてしまう傾向のことです。たとえば、賞与の配分を先に考えてしまい、それに合う評価を後から付けてしまう場合がこれに当たります。ガイドは、被評価者の行動の評価にあたって処遇を考慮せず、具体的な行動の分析を経て評価する手順を踏むことを求めています。

また、ガイドは、評価材料としての行動の記憶が時間の経過とともに鮮明でなくなるため、評価期日に近い時期の行動だけで部下を評価したり、事実ではなく主観や推測による評価になったりしかねないと指摘し、必要に応じて記録に留めておくことが有益だとしています。評価は、評価期間の全期間にわたる事実に基づいて行うことが必要です。

評価者研修の進め方:6つのステップ

ここからは、従業員50〜300名規模の中小企業を想定した、評価者研修の進め方の一例を紹介します。公的資料の考え方を土台にしていますが、実施の頻度や参加人数は、自社の評価者の人数や評価制度の状況に合わせて調整してください。

ステップ1:研修の目的と対象の評価者を決める

最初に、研修で何をそろえたいのかを決めます。目的が曖昧なまま実施すると、評価エラーの知識を学んで終わりになりやすいためです。目的の例は次のとおりです。

  • 評価の物差し(評価基準と各評価段階の意味)をそろえる
  • 評価の根拠となる事実を記録し、説明できるようにする
  • 自分の評価のクセ(甘辛)に気づく

対象は、評価に関わる部課長などの評価者全員です。ガイドは、人事評価は評価者の担当業務の一つであり、管理・監督者の重要な役割であるという認識を持って取り組むよう求めています。研修の冒頭で、評価は管理職の本来の仕事であることを共有しておくとよいでしょう。

ステップ2:評価基準と評価段階の意味をそろえる

評価基準が曖昧なままでは、研修で評価エラーを学んでも、評価者ごとの解釈の違いは残ります。基準や評価段階の言葉の定義を先にそろえることが重要です。

  • 各評価項目について、評価段階ごとの行動の具体例を書き出す(ガイドも、評語ごとの行動のレベル感を示すために行動事例を参照するよう案内しています)
  • 標準の評価は何段階目かを明示する(厚生労働省の事例にも、3を基準値とする5段階評価に見直した例があります)
  • 評価の対象は職務における行動と結果であることを確認する(ガイドは、勤続年数・学歴・年齢・性別などの属人的要素や、職務遂行に影響しない私的な行動は評価の対象にならないとしています)

評価基準そのものを整える方法は、人事評価を定量化するとは?公的モデルで曖昧な評価をなくす3つの設計法を解説もあわせてご覧ください。

ステップ3:評価エラーの種類と対策を学ぶ

前章の表を教材に、評価エラーの種類と対策を共有します。名前を覚えることよりも、自分がどのエラーに陥りやすいかに気づくことが目的です。

人事担当者があらかじめ、過去の評価結果を評価者ごとに集計しておくと効果的です。評価者ごとの評価の分布を並べると、全体に高めに付ける評価者(寛大化傾向の疑い)や、真ん中に集中する評価者(中心化傾向の疑い)を客観的に確認できます。個人を責める目的ではなく、傾向を知るための材料として扱ってください。

ステップ4:事例演習で同じ材料を全員が評価する

研修の中心になるのが、同じ事例を全員が評価する演習です。進め方は次のとおりです。

  1. 架空の被評価者の行動記録(業務での行動と結果)を配布する。実在の社員の情報は使わない
  2. 評価者が個別に、評価基準に沿って各項目を評価する
  3. 全員の結果を並べ、評価が分かれた項目を確認する
  4. なぜその評価にしたのかを、事実と評価基準の言葉で説明し合う
  5. 評価が分かれた原因を、評価エラーや基準の解釈の違いに照らして整理する

演習を行うと、評価基準の言葉が曖昧な箇所も見つかります。その場合は、研修後に基準の記述を修正し、次回に反映させます。

ステップ5:評価の根拠となる事実の記録の取り方を決める

評価のばらつきを減らすには、評価の根拠となる事実を日頃から残す仕組みが欠かせません。ガイドは、評価者が収集した事実がどの評価項目に該当するかを当てはめる手順を示しており、記述例として、いつ、どの業務の場面で、本人がどのような行動をとったかを具体的に書いた形式を紹介しています。

  • 記録する項目の例:日付、場面、本人の行動、その結果、該当する評価項目
  • 記録の頻度の例:月1回など、日常の業務管理の中で無理なく続けられる間隔を決める
  • 記録の保管の例:評価シートとは別に、評価者がメモを残せる共通の書式を用意する

期末だけで評価をつけようとすると、直近の出来事に引きずられやすくなります。期中の記録を使えば、評価期間の全体を見渡して評価できます。

ステップ6:評価後の調整と振り返りまでを研修の一部として設計する

評価者研修は、評価を付ける前に行う講義で終わりではありません。評価を付けた後に結果を見比べて調整し、次回の研修に生かすところまでを、一連の流れとして設計します。具体的な調整の観点は、次の章で解説します。

研修の効果を保つために:評価の調整と評価面談

評価結果を見比べて偏りを調整する

評価調整とは、評価者が付けた評価結果を別の立場の人が見比べ、不均衡や偏りがないかを確認して整える手続のことです。人事評価ガイドは、調整者が評価者の結果を審査する際の観点として、次の3点を挙げています。

  • 自分が把握している事実と、評価者の評価が大きく食い違っていないか
  • 特定の部分に重きを置きすぎた、バランスを欠く評価になっていないか
  • 全体的な水準から見て、評価の甘辛などの偏りがないか

偏りがある場合、ガイドは評価者に再評価を命じる方法を挙げています。評価を修正したり再評価を命じたりする場合は、評価者に十分その理由を説明することも求めています。評価者が理由を理解していなければ、被評価者に評価結果を説明できないためです。

調整の担当者を置く規模でない中小企業では、人事責任者や経営者が全評価者の結果を一覧で確認し、評価者と理由を話し合う形から始めるとよいでしょう。評価結果を昇給・賞与に反映する方法は、人事評価を昇給・賞与に反映する方法で解説しています。

評価面談で根拠を説明できるようにする

人事評価ガイドは、期末面談での指導・助言について、評価結果の根拠となる事実に基づいて行うこと、個別の評価項目や目標ごとにコメントすること、強みと改善点について助言することを求めています。評価者が事実と基準にもとづいて説明できる状態をつくることが、評価者研修の最終的なねらいです。

目標の立て方が曖昧だと、評価の根拠も曖昧になります。目標設定の考え方は、MBO(目標管理)とOKRの違いとは?中小企業で目標設定を機能させる方法もご覧ください。

評価者研修でよくあるつまずきと対処

  • 講義だけで終わる:知識を聞くだけでは評価のクセは変わりにくいため、ステップ4の事例演習を必ず組み込みます。
  • 評価基準が曖昧なまま実施する:評価者ごとの解釈の違いが残るため、先に評価段階ごとの行動例をそろえます。
  • 一度きりで終わる:評価者が代わったときや評価基準を改定したときに、追加で実施します。
  • 評価を管理職の本来業務と捉えていない:研修の冒頭で、評価は管理・監督者の重要な役割であることを共有します。
  • 個人の甘辛を責める場になる:評価の分布は傾向を知るための材料として扱い、評価者が率直に話せる場をつくります。

ネクストプレナーズの見解

中小企業では、評価者研修を大がかりに設計するよりも、まず評価段階ごとの行動例をそろえ、同じ事例を全員で評価する演習を一度実施することをおすすめします。評価エラーの名前を覚えることより、自分の評価が甘いのか辛いのかを客観的に知ることのほうが、行動を変える近道になると考えます。

よくある誤解は、研修さえ行えばばらつきがなくなるというものです。評価基準の明確化、期中の事実の記録、評価後の調整とセットで運用して初めて、評価のばらつきは小さくなっていくと考えます。

まとめ

  • 評価者研修とは、評価者が評価の目的・基準・評価エラーを学び、評価の物差しをそろえる研修である
  • 寛大化傾向・中心化傾向などの評価エラーは、評価者が自覚しにくいため、事例演習と評価結果の分布で確認する
  • 研修の前に、評価段階ごとの行動例など評価基準を明確にしておく
  • 評価の根拠となる事実を期中から記録し、評価後は調整と面談まで一連で設計する

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

監修

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長。

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よくある質問

Q. 評価者研修とは何をする研修ですか?

評価者研修とは、人事評価を行う管理職などが、評価の目的・評価基準・陥りやすい評価エラーを学び、評価の物差しをそろえるための研修です。知識の講義に加えて、同じ事例を全員で評価する演習や、評価の根拠となる事実の記録方法の確認を行うのが一般的な進め方です。

Q. 寛大化傾向と中心化傾向の違いは何ですか?

寛大化傾向は実際より甘い評価をしてしまう傾向、中心化傾向は大部分を「普通」「平均的」と評価して優劣の差を付けることを避ける傾向です。内閣人事局・人事院の人事評価ガイドは、中心化傾向への対策として、被評価者についての具体的な事実を十分に知ることを挙げています。

Q. 評価者が少ない小さな会社でも評価者研修は必要ですか?

評価者が少ない会社でも、評価の物差しをそろえる取り組みは必要です。評価者が数人であっても、評価基準の解釈が違えば評価はばらつきます。大がかりな研修でなくても、評価段階ごとの行動例を確認し、同じ事例を全員で評価する演習を一度行うことから始められます。

Q. 評価者研修はどのタイミングで行えばよいですか?

評価を付ける前に実施するのが基本です。評価者が代わったときや評価基準を改定したときにも、追加で実施することをおすすめします。評価後は、結果を見比べて偏りを調整し、次回の研修内容に反映させると効果が続きます。

Q. 研修を行えば評価のばらつきはなくなりますか?

研修だけでばらつきがなくなるとは言えません。評価基準の明確化、期中の事実の記録、評価後の調整とあわせて運用することで、ばらつきを小さくできます。人事評価ガイドも、評価結果の審査や再評価の手続を設けて偏りを確認する考え方を示しています。

出典・参考資料

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人事ブログ編集部
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