家族手当・配偶者手当の見直し方|年収の壁を踏まえた廃止・子ども手当化の選択肢と、不利益変更で守る手順・経過措置

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家族手当・配偶者手当の見直しは、年収の壁の基準が動く2026年11月の今、あらためて検討しやすい時期です。この記事では、収入要件の撤廃、廃止と子ども手当化、基本給への組入れといった選択肢を比べます。あわせて、労働契約法と労働基準法に沿った就業規則の変更手順と、減額の影響を和らげる経過措置の作り方を、公的資料に基づいて整理します。

家族手当・配偶者手当とは何か。なぜ今、見直しが検討されるのか

家族手当とは、扶養する家族がいる従業員に、基本給とは別に支給する手当のことです。このうち、配偶者の有無や配偶者の収入を支給条件にしたものを、配偶者手当と呼びます。法律で支給が義務づけられた手当ではなく、各社が就業規則や賃金規程で定めています。

見直しの動きが出ている理由は、就業調整です。配偶者の収入に上限がある手当が、パートタイム労働者の勤務を抑える要因になると指摘されています。働く時間を増やすと手当が出なくなるため、年末に出勤を調整する人がいます。

厚生労働省は、労使での誠実な話し合いを求めています

厚生労働省は、収入要件のある配偶者手当について、配偶者の働き方に中立なものとなるよう見直しを進める方針を示しています。令和7年5月30日には、こうした手当が短時間労働者の就業調整の一因とされていると説明しました。あわせて、事業主に誠実な労使の話し合いを促しています。

同省のページには、検討の流れを示したフローチャートやリーフレット、実務で使える資料も公表されています。自社で検討を始めるときに使えます。

国家公務員は、配偶者の扶養手当を廃止し、子の手当を引き上げました

令和6年12月には、改正給与法が成立しました。国家公務員の配偶者に係る扶養手当を廃止し、子に係る扶養手当を引き上げる内容です。

人事院の広報誌によると、廃止の理由は、配偶者手当を支給する民間企業が減り、受け取る公務員も減っていることです。子の手当は、1万円から1万3,000円に上がります。令和7年度は1万1,500円、令和8年度は1万3,000円で、2年かけて実施されます。

民間企業に同じ対応を義務づけるものではありません。ただし、廃止と増額を2年かけて進めた例は、自社の経過措置を考える参考にできます。

年収の壁は、2026年11月時点でどうなっているのか

配偶者手当の支給条件を決めるときは、税と社会保険の基準を確認します。主な基準は次のとおりです。

区分 現在の基準 手当設計への影響
配偶者控除(所得税) 令和8年分から、配偶者の合計所得金額が62万円以下です。給与収入のみなら136万円以下です。令和7年分は58万円(給与収入123万円)、令和6年分以前は48万円(給与収入103万円)でした 「103万円以下」と規程に書いている場合、税の基準と合わなくなっています
配偶者特別控除(所得税) 納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の合計所得金額が62万円超133万円以下の場合に適用されます 配偶者の収入が増えても、控除が段階的に減る仕組みです
106万円の壁(健康保険・厚生年金の加入) 週の所定労働時間が20時間以上で、学生でないことなどが要件です。賃金要件は2026年10月1日に撤廃されました。企業規模は、被保険者数51人以上が令和9年10月から36人以上になり、令和11年10月以降も段階的に拡大されます 収入の額ではなく、労働時間と企業規模で加入が決まります
130万円の壁(被扶養者の認定) 一時的に収入が増えた場合は、事業主の証明により、引き続き被扶養者として扱える仕組みが整備されています 事業主の証明が必要になる場面が生じます

手当の支給条件に「103万円以下」などの金額を書いていると、制度が変わるたびに規程が実態とずれます。「配偶者控除の対象となる範囲」のように、制度に連動した書き方にするかどうかも、見直しの論点です。

なお、配偶者控除の62万円は、国税庁の注記で令和8年12月1日に施行され、令和8年分から適用される金額とされています。年末調整の時期に、最新の案内を確認してください。

見直しの選択肢は何があるのか。4つの方法を比べる

主な選択肢は、次の4つです。

方法 内容 向いている会社 留意点
収入要件の撤廃 配偶者の収入にかかわらず、配偶者がいれば支給する 手当の総額を維持したい会社 総額は減りません。ただし、配偶者がいることを理由に支給する根拠を説明する必要があります
配偶者手当の廃止と子の手当の増額 配偶者分の原資を、子どもの手当に振り替える 子育て世帯の支援を重視する会社 配偶者だけの世帯と、子どもがいない世帯は減額になります
基本給などへの組入れ 手当をなくし、基本給や他の手当に加える 手当を整理し、賃金体系を単純にしたい会社 割増賃金の算定基礎が増える場合があります
段階的な縮小 数年かけて手当の額を下げる 一度に減額すると影響が大きい会社 移行期間は新旧の制度が並ぶため、管理が複雑になります

原資を増やすか、据え置くかを先に決めます

手当を廃止して浮いた原資を、子の手当や基本給に回すのか。それとも人件費を抑えるのか。この判断で、従業員への説明も、後述する不利益変更の合理性も変わります。総額を維持するなら、従業員から見れば「配分の変更」です。総額が減るなら、より丁寧な説明と経過措置が必要です。

人件費全体の見通しは、賃上げ・総額人件費の試算で確認できます。賃金テーブルと一緒に見直す場合は、賃金テーブルの作り方も確認してください。

基本給へ組み入れると、割増賃金の計算が変わります

労働基準法第37条第5項は、家族手当と通勤手当を、割増賃金の算定基礎から除くと定めています。手当を基本給へ組み入れると、時間外労働などの割増賃金の算定基礎が増えます。残業代の総額が増える場合があるため、試算してから決めてください。

家族手当・配偶者手当の廃止は、不利益変更になるのか

賃金が下がる従業員が出る手当の廃止や減額は、労働条件の不利益な変更です。進め方は、労働契約法が定めています。

原則は、従業員との合意です

労働契約法第8条は、労働者と使用者が合意すれば、労働契約の内容である労働条件を変更できると定めています。第9条は、使用者が労働者と合意しないまま、就業規則の変更で労働条件を不利益に変更することはできないとしています。ただし、第10条の場合は別です。

使用者が一方的に就業規則を変更して労働条件を不利益に変更することはできない、というのが厚生労働省の案内です。

合意が得られない場合は、第10条の合理性で判断されます

第10条は、次の2つを満たすときに、変更後の就業規則が労働条件になると定めています。変更後の就業規則を労働者に周知させることと、変更が合理的であることです。合理性は、次の事情などに照らして判断されます。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
  • その他の就業規則の変更に係る事情

家族手当の廃止では、次の点が判断材料になると考えます。減額の幅、代わりの手当や調整給の有無、経過措置の長さ、説明と協議の回数です。個別の事案で合理的といえるかは、事実関係で変わります。社会保険労務士や弁護士に確認してください。

賃金を下げる場合の考え方は、人事評価を理由に降給・降格する場合の記事でも整理しています。

家族手当・配偶者手当を見直す手順。6つのステップ

  • ステップ1:現状を把握する。支給対象者の人数、支給額、支給条件、年間の総額を集計します。
  • ステップ2:目的を決める。就業調整への配慮、子育て世帯の支援、賃金体系の整理のうち、何を優先するかが論点です。
  • ステップ3:案を作り、試算する。前述の4つの方法から案を選び、減額となる人数と金額、割増賃金への影響を試算します。
  • ステップ4:経過措置と代替策を設計する。調整給の期間や、子の手当の増額など、減額を和らげる方法を決めます。
  • ステップ5:従業員に説明し、意見を聴く。説明会や個別の面談で、目的と影響額を示します。労働組合や従業員の代表とも協議します。
  • ステップ6:就業規則を変更し、届け出て、周知する。施行日を決め、規程を改定します。

就業規則の変更手続きで守る3点

労働契約法第11条は、就業規則の変更の手続きについて、労働基準法第89条と第90条に定めるところによるとしています。

  • 届出(第89条):常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則と、その変更を労働基準監督署に届け出ます。賃金の決定、計算、支払の方法は、記載しなければならない事項です。
  • 意見聴取(第90条):過半数労働組合、組合がなければ過半数代表者の意見を聴き、その意見を記した書面を届出に添付します。意見を聴く義務であり、同意を得る義務ではありません。
  • 周知(第106条):常時各作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付などで、労働者に知らせます。労働契約法第10条の周知にも関わります。

常時使用する労働者が10人未満で届出義務がない会社でも、変更後の就業規則を従業員に周知する必要があります。

経過措置とは何か。減額の影響を和らげる調整給の例

経過措置とは、制度を変えるときに、従来の取扱いを一定期間残すなどして、変更の影響を和らげる措置のことです。

経過措置の期間に、法律上の決まりはありません。国家公務員の例は2年でした。自社では、減額の幅と家計への影響を見て決めます。

代表的な方法は、調整給です。廃止した手当との差額を、期間を区切って支給し、段階的に減らします。次の表は、月1万円の配偶者手当を廃止する場合の仮の例です。

時期 調整給(月額) 廃止した手当との差
変更前 なし(配偶者手当1万円を支給) なし
変更後1年目 7,000円 3,000円の減額
変更後2年目 3,000円 7,000円の減額
変更後3年目 なし 1万円の減額

この金額と期間は説明のための仮の例です。自社の手当の額と、従業員への影響に合わせて設計してください。

調整給を設けるときは、就業規則に、支給の期間、金額、終了の条件を明記します。新たに入社する従業員には、最初から新しい制度を適用する方法もあります。

見直しを始める前のチェックリスト

  • 手当の支給条件に、税や社会保険の古い金額を書いていないか
  • 支給対象者の人数と、年間の総額を把握しているか
  • 見直しの目的を一文で説明できるか
  • 原資を維持するのか、減らすのかを決めているか
  • 減額となる従業員の人数と金額を試算したか
  • 経過措置と代替策を用意したか
  • 従業員への説明と意見を聴く機会を設けたか
  • 届出、意見聴取、周知の手続きの担当者と時期を決めたか

ネクストプレナーズの見解

家族手当・配偶者手当の見直しは、まず、手当で何を実現したいのかを言葉にすることから始めるとよいと考えます。就業調整への配慮、子育て世帯の支援、賃金体系の整理のどれを優先するかで、適した選択肢が変わるためです。減額が生じる場合は、原資の扱いと経過措置を先に設計します。説明に使える資料も整えておくと、合意が進めやすくなると考えます。賃金・報酬制度の設計については、ネクストプレナーズでも支援しています。

まとめ

見直しの最初の作業は、年収の壁の最新の基準の確認です。そのうえで、廃止、子の手当への振替、基本給への組入れなどから、自社の目的に合う方法を選びます。賃金が下がる従業員が出る場合は、労働契約法第8条から第10条に沿って、合意を目指すのが基本です。就業規則の変更手続きと、経過措置も整えます。

本記事は公的機関の公表資料等を基にした一般的な情報です。個別の制度設計・手続きは専門家にご確認ください。

監修

監修:仙頭 武宏(株式会社ネクストプレナーズ 代表取締役社長)

東京工業大学(現・東京科学大学)工学部制御システム工学科卒業。日本オラクル株式会社でエンジニア、コンサルタントを経て経営企画室マネージャを務める。一橋大学大学院商学研究科(現・一橋ビジネススクール)経営学修士(MBA)修了。独立コンサルタントを経て、2012年より株式会社ネクストプレナーズ代表取締役社長

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よくある質問

Q. 配偶者手当を廃止するとき、従業員全員の同意は必要ですか。

労働契約法第8条の原則では、労働条件の変更は従業員との合意によります。合意が得られない場合でも、第10条に基づき、変更後の就業規則を周知し、変更が合理的であれば、就業規則の変更によって労働条件を変更できる場合があります。合理性は、不利益の程度や変更の必要性などで判断されます。個別の判断は、社会保険労務士や弁護士にご確認ください。

Q. 家族手当や配偶者手当は、法律で支給が義務づけられていますか。

法律上の支給義務はなく、各社が就業規則や賃金規程で定めています。支給する場合は、就業規則に支給条件を記載します。なお、労働基準法第37条第5項により、家族手当は割増賃金の算定基礎から除かれます。

Q. 手当の支給条件を「配偶者の年収103万円以下」のままにしてよいですか。

令和8年分から、配偶者控除の対象となる給与収入は136万円以下になっています。103万円と書いたままでは、税の基準と合わず、従業員が混乱するおそれがあります。基準を見直すか、制度に連動した書き方にするかを検討してください。

Q. 配偶者手当を廃止すると、従業員の手取りはどうなりますか。

廃止した手当の分だけ、給与は減ります。子の手当への振替や調整給で補う場合は、対象者ごとの増減を試算してください。配偶者の収入が増えて社会保険に加入する場合の影響は、日本年金機構や厚生労働省の案内で確認できます。

Q. 国家公務員の見直しに、民間企業も合わせる必要がありますか。

民間企業に同じ対応を義務づけるものではありません。ただし、厚生労働省は、収入要件のある配偶者手当について、配偶者の働き方に中立なものとなるよう見直しを進める方針を示しており、労使での話し合いを促しています。

Q. 経過措置は、何年にすればよいですか。

法律上の決まりはありません。国家公務員の例では、2年かけて実施されました。減額の幅が大きいほど、長めの期間や段階的な調整給が考えられます。自社の状況に合わせて決めてください。

出典・参考資料

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人事ブログ編集部
株式会社ネクストプレナーズの編集部です。賃金・報酬、人事評価、福利厚生、社宅、退職金・企業年金、労働組合など、人と制度に関する実務情報をお届けしています。

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