【解説】ワークシェアリングとは?概要とメリット・デメリット

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ワークシェアリング - 【解説】ワークシェアリングとは?概要とメリット・デメリット

2018年から改正された働き方改革関連法も先行的に大企業から施行が開始され、猶予期間をおいて中小企業でも施行され始めています。

その中で、「ワークシェアリング」という、認知度が低い働き方が少しずつ注目されています。

今回はそもそもワークシェアリングとはどのようなものなのか?という概要から、メリット・デメリット、そして注意点まで掘り下げて解説していきます。

ワークシェアリングとは?

ワークシェアリング(「ワーキングシェア」と表現されることもあります)とは、一部に集中している仕事を多くの従業員に分散させることで、一人当たりの労働時間の削減や、より多くの従業員の雇用につなげようとするものです。

ワークシェアリングにより各々の労働者が自身の労働時間を短くし、労働者の総人口を増やすことができます。
端的には仕事を分け合うというイメージであり、「社会全体としての雇用者数の増加」が目的です。

ワークシェアリングが注目を集めた背景には、リーマンショックやコロナ禍を契機とした長期間の失業者の増加があります。
何らかの雇用を創出することで、働く意思および能力があるにも関わらず無収入状態となってしまう人の増加を回避し、失業者対策につなげるということです。

また、ワークシェアリングは失業者対策に留まらず、仕事を分け合うという性質上、過重労働対策としても効果を発揮します

ワークシェアリングの種類

厚生労働省はワークシェアリングを4つのタイプに分類していますが、特に日本の現状を鑑みて速やかに取り組む必要があると考えられるワークシェアリングとして「多様就業対応型ワークシェアリング」と「緊急避難型ワークシェアリング」の2つがあります。(参考:ワークシェアリングに関する調査研究報告書

雇用維持型(緊急避難型)

一時的な景況の悪化を乗り越えるため、緊急避難措置として、従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。

雇用維持型(中高年対策型)

中高年層の雇用を確保するために、中高年層の従業員を対象に、当該従業員1人あたりの所定内労働時間を短縮し、社内でより多くの雇用を維持する。

雇用創出型

失業者に新たな就業機会を提供することを目的として、国または企業単位で労働時間を短縮し、より多くの労働者に雇用機会を与える。

多様就業対応型

正社員について、短時間勤務を導入するなど勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与える。

ワークシェアリングのメリット

企業側のワークシェアリングのメリット

ワークシェアリングによる企業側の大きなメリットは雇用維持と人件費削減です。
人件費削減は、「割増賃金」の減少により人件費が削減されるという意味です。

労働基準法第37条では原則として1日8時間、1週間で40時間を超えると通常の賃金に対して1.25倍の割増が必要であることが定められています。
これは法律で定められた最低基準であり、これを下回ることはできません。
よって、一人の労働者の労働時間が長くなるほど割増賃金を支払う可能性が高くなるということです。

また、労働時間の短縮で人件費を削減できれば、多くの雇用を維持できるようになり、経験のある従業員を定着させることができるという点でもメリットにつながります。

そして、労働時間が短くなるということは長時間労働の是正も図られ、離職者の抑止にもつながると言えます。

労働者側のワークシェアリングのメリット

労働者側のメリットは、労働時間・拘束時間の短縮によるワークライフバランスの向上です。
今まで仕事や仕事のための移動等に割いてきた時間を、自身のスキルアップや家族との時間に費やすことができます。

ワークシェアリングのデメリット

企業側のワークシェアリングのデメリット

企業側のデメリットとして、コストの増大が予想されます。

一人あたりの労働時間が減るため、残業時間のコストは経るものの、労働力が分散されるために、一つの成果に対して複数の労働者が関与することとなります。
必然的に一定の人員を確保と管理せざるを得なくなり、採用コスト、福利厚生コスト(法定福利、法定外福利ともに)、マネージメントコストが増加するということです。

当然一人の労働者を雇用する場合は給与だけでなく、社会保険料や労働保険料の負担も無視できず、単純な人件費はむしろワークシェアリングを導入した方が増加してしまったという事態にもなりかねません。

よって、導入の際には十分検証することが重要です。

労働者側のワークシェアリングのデメリット

ワークシェアリングは「(仕事を分け合うことで)一人当たりの労働時間を短縮する」というものであるため、もう少し長い時間働きたいという労働者にとっては物足りなく感じてしまう(モチベーションの低下の恐れがある)制度ともいえます
会社側からは、モチベーションの高い労働者がチャレンジを求めて流出する恐れがあります。

また、ワークシェアリングが増加すると労働者側のデメリットとして低賃金労働者が増加することとなります。
社会保険に加入している場合、受け取っている報酬に応じた保険料を支払っており、受給できる年金額も基本的には相関関係となります。

よって賃金が下がってしまうと将来受け取る年金額も終身に渡って低額となるために、貧困層が増えてします要因となります。

ワークシェアリングの注意点

ワークシェアリング2 - 【解説】ワークシェアリングとは?概要とメリット・デメリット

ワークシシェアリングに取り組む際は、労働者の同意を得ることが重要です。

労働契約法第6条には、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」と明記されています。

よって、雇用関係にある場合は、同意なしに会社側から一方的にワークシェアリングを命令する形は適切ではありません。

労働契約法には直接的な罰則は設けられていませんが、訴訟を起こされるリスクは孕んでいますので、労務管理上も同意を得ることは重要です。

ワークシェアリングによる働き方改革

日本は労働生産性の低さが指摘されています。
公益財団法人日本生産性本部の発表によると2018 年の日本の1人当たり労働生産性はイギリスやカナダを下回る水準であり、順位としてはOECD加盟36カ国中21位となっています。
(参考:公益財団法人日本生産性本部・労働生産性の国際比較 2019)

労働生産性の低さは一朝一夕に解決できるものではありませんが、何らかの施策を講じなければ現状を変えることは困難です。

また、日本は慢性的な長時間労働が指摘されており、成長力の足枷となっています。
(参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構・データブック国際労働比較2018)

特定の労働者しか知らない仕事が増えてしまうと万が一当該労働者が就労不可となった場合に引き継ぎが不十分なことも予想されます。
そうなると取引先に損害を与えてしまうことにもなりかねません。結果として自社と取引先との間の信頼関係にも亀裂が生ずる可能性があります。

ワークシェアリングにより一つの仕事を分け合うことで仕事の属人化を防ぐことができます。日本の雇用慣行は欧米のスペシャリスト型ではなく、ゼネラリスト型が一般的です。
よって、組織横断的に仕事を経験し、昇進していくこととなります。

しかし、ITツールが発達し、フェイストゥーフェイスでのコミュニケーションの必要性が乏しくなり、一日中PCの前で仕事が完了する時代となりました。

ワークシェアリングとはコミュニケーションの重要性を再認識する機会と考えるべきです。コミュニケーションが活発となると組織内の活力が醸成され、クリエイティブな発想が生まれることが期待されます。

ワークシェアリングは多くの可能性をもった働き方改革の一施策になりえるでしょう。

最後に

企業の中には、コロナ渦の影響で売上が激減したことにより従業員の稼働日を削減し雇用の維持を図る方向へ舵を切る企業もありました。
結果としてワークシェアリングをすることで、従業員の給与はノーワークノーペイの原則(働いた分は給与を払うものの働いていない分は払わない)により減少したものの、失業を免れた労働者が多数いたことでしょう。

不確実性の高い時代において、昇給と雇用の維持を同時並行に進めることは困難と言えます。
昇給により人件費が増えると雇用の維持が困難となり、雇用の維持を図るために極端に給与を下げると従業員のモチベーション維持が困難となります。

二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますが、ハイブリッド的な運用も選択肢として適切です。
「昇給幅」を少なくする代わりに雇用の維持を図ることも一施策となります。

ワークシェアリングはあくまで雇用維持のための一手段です。
絶対的な正解とまでは言えませんが、多くの企業も導入していることから検討する価値はあると言えます。

また、ワークシェアリングと併せて、ノー残業デーなどの施策を導入することにより効果的にワークライフバランスの改善を進めることができます。
ノー残業デーについては以下の記事で解説していますのでこちらも併せてご確認ください。

【解説】ノー残業デーの導入で経費削減・業務効率化を実現 | 働き方改革サポ
ノー残業デーとは、定められた日に従業員の残業を制限し、定時で退社するように促す取り組みのことです。働き方改革に向けた取り組みの一部として厚生労働省も推奨しています。今回はノー残業デーの概要及びメリット・デメリット、そして形骸化しない運用のポイントを解説します。
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働き方改革サポ編集部
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