生産労働人口が減少の一途を辿る中、優秀な人材の獲得は企業の生産性を高める上で重要且であり企業が力を入れる要素のひとつです。
しかしその一方で、コストをかけて採用・教育をした新入社員の、入社後の仕事内容・労働条件のミスマッチや人間関係などによる早期離職が課題となっている企業も多くあるようです。
そのような背景から、昨今においては新入社員の早期離職を防ぐための施策として、「オンボーディング」を実施している企業が増えてきています。
今回は「オンボーディング」の概要と目的、具体的な取り組みの例に加え、実際の取組事例も紹介します。
目次
概要
人事領域における「オンボーディング(on-boarding)」とは、新入社員ができるだけ早い段階で企業や部署に親しむと共に、十分に実力を発揮し活躍できるよう組織で受け入れ体制を整えサポートするプロセスのことです。
ここでいう「新入社員」とは新卒入社の社員に限らず、中途採用等で組織に新しく参加・所属した人材も対象です。
元々「on-boarding」とは、英語圏において、「飛行機や船に乗っている」状態を指す「on-board」から派生した言葉で、当初は新たに搭乗した乗組員が早期にその組織に慣れることができるよう既存の乗組員がサポートしていくプロセスを意味した言葉だったものが、現在では乗り物の搭乗員に限らずビジネスの場においても利用されるようになりました。
新入社員研修と同義であると解釈されることもありますが、採用直後に一斉且つ短期間で基礎を教えるような形式の研修のみを指すことが多い新入社員研修とは異なり、オンボーディングは新入社員研修に加え、入社前のフォローやコミュニケーション、各部署配属後の企業全体・部署内での各新入社員に対するサポート継続も含めたプロセス全体を指します。
そのため、新入社員研修とオンボーディングは同義というよりも、オンボーディングの一環に新入社員研修も含まれるという表現の方が適切です。
目的
オンボーディングを行う目的は、新入社員の早期戦力化と早期離職防止(定着)です。
新入社員の離職理由として多く挙げられる、コミュニケーション不足による期待値の不一致や、人間関係に対する不安・不満、思ったように成果が出せず達成感が得られない(仕事がつまらないと感じる)等の発生を、オンボーディングにより未然に防ぎます。
入社前・入社直後は勿論、その後も納得感のある評価となるように定期的なMTG等でお互い期待値を擦り合わせておくほか、早い段階で職場の人間関係や人となりを伝え合えるように努めることで新入社員が業務内容の質問先に困ることのないようにしておいたり業務外のことでも気軽に質問や会話ができるような雰囲気をつくったりすることにより、新入社員が実力を発揮し組織の戦力となるようサポートすることを目的としています。
また、それにより新入社員が早い段階で成果を挙げることができれば、それを正当に評価することで新入社員が達成感を得ることにも繋がります。
具体的な取り組み例とポイント
オンボーディングの取り組み内容については、各社・各部署・各新入社員等の状況により適切な内容や方法は様々です。
一概に「必ずこれが正解」と言うことは難しいですが、人間関係構築のための施策や、評価・賃金報酬制度の説明、企業や部署独自のルールや手順・用語の周知、スキルアップのためのサポートなどを、部署の上司やメンターなどに任せっきりにせず、企業全体で継続的に行うことが望ましいです。
例えば、下記のような取り組みがオンボーディングの一例として挙げられます。
入社前の研修やコミュニケーション
入社前から社風や方針、ビジョンや期待していることなどを予め充分に伝えておくことで、新入社員が入社後に「実際入ってみたら思ってた環境・仕事内容と違った」などの大きなギャップ・不満を感じることを防ぐことができます。
また、入社前から既存社員を紹介しておくことで、入社後に何か困ったり迷ったりした場合に「とりあえず頼る」ことができる人を作ることができるため、入社後の不安が緩和され、新入社員自身ひいては企業・部署双方のパフォーマンス向上に繋がります。
定期的な面談
入社後も定期的に面談機会を設け、人間関係の順調さや、仕事内容・評価に対する納得感、疑問や希望の有無などを確認することで、期待値の擦り合わせになると共に、新入社員が何らかの不満を持っていた場合は離職となる前に解決を図ることができます。
とりわけ仕事内容・評価においては、新入社員のうちは短期的な目標設定・評価・改善を繰り返すことが望ましく、早い段階で目標を達成してもらうことで新入社員に達成感を味わってもらいながら、PDCAをどんどん回すことで成長を促し早期戦力化を図ることができます。
ランチ会等コミュニケーション機会の提供
ランチ会など、職場の外で落ち着いて仕事以外の話ができる場を設けることで、既存社員と新入社員のコミュニケーションがより活性化し、お互いの人となりについての理解も深まり、新入社員が職場に馴染みやすくなります。
更に、毎回メンバーをシャッフルしてセッティングすることで、より多くの人と接点を持つことができ、相談先も増えるため、毎回同じメンバーで開催するよりも効果的です。
また、今後業務上で関わることのありそうなメンバーとのランチ会をセッティングし仕事で関わるよりも前に接点を作っておくことも、より新入社員にとって働きやすい職場となることに繋がります。
社内・部署内マニュアルの充実と展開
社内・部署独自のルールや手順、方法、用語など、インターネットなどでは調べることができない社内のtipsについて、マニュアルを作成し新入社員に展開することで、新入社員・既存社員双方の負担軽減に繋がります。
既存社員にとっては当たり前のことでも、新入社員にとってはわからない、しかし細かいことであるが故にわざわざ忙しそうな他の社員に聞くのは憚られるというような情報はたくさんあり、且つそれらは大抵の場合五月雨式に出てきます。
また、たくさんあるからこそ「何度も聞きづらい」とも思ってしまいがちです。
この点、社内・部署内のマニュアルによって新入社員が自身で確認できるようになれば、新入社員が迷う時間が短縮されることに加え、既存社員が新入社員に都度教える手間や伝え漏れも減らすことができ、双方の負担軽減、効率化に繋がります。
社内ポータルサイトへの情報の掲載
上記社内・部署内マニュアルと同様に、社内のtipsについて社内ポータルサイトに情報を掲載しておく方法も効果的です。
これからの雇用者層はデジタルネイティブ世代が多くを占めることになります。
ウェブ検索などに慣れ親しんでいる世代では、気になったことがあればポータルサイトから情報を探す形が一番馴染み深い可能性も高いです。
また、マニュアルだと、媒体や展開方法によってはこまめな更新が難しい場合もありますが、ポータルサイトであれば気が付いた時に都度更新がしやすいという側面もあります(運営を社外に委託している場合はマニュアルの方が更新しやすいこともあるかもしれません)。
マニュアルではあまりに情報が多くなりすぎると探しにくくなる傾向にありますので、情報量が多くなる場合はポータルサイトへ掲載しジャンルやキーワードで検索できるようにしておく形が望ましいでしょう。
事例
日本オラクル株式会社
日本オラクル株式会社では、オンボーディング施策として、社員の働きがいを高めるための専門チーム「社員エンゲージメント室」による中途採用の社員向けの「5週間研修」や、新入社員の日常的な質問に答える案内役を2名つける「バディー制度」を設けるほか、社員の相談先を5つから選べるように体制を整えるなど、新入社員の定着に繋がる取り組みを行っています。
また、同社のクラウド型人事ソリューション「Oracle Fusion Cloud Human Capital Management (HCM)」を活用し、システム上の目標管理などを行い、オンライン環境下においてもオンボーディングが形骸化しない仕組みを採用しています。
参考:株式会社タナベ経営・独自のオンボーディングで従業員エンゲージメント向上|日本オラクル
seleck・会社の印象は1ヶ月で決まる!?社員エンゲージメント85%に挑む、日本オラクルの挑戦
LAPRAS株式会社
LAPRAS株式会社では、入社してから3ヶ月間をオンボーディング期間として設定し、新入社員のオンボーディングを目的とした専用の部署を設け新入社員(内定者)のフォローやプログラムの改善を行うほか、内定メンバーにWELCOME BOXを送ったり、オンライン入社式を行ったりなどの施策を行っています。
同社は対面重視からフルリモートへの組織体制の変化に伴い、オンボーディングプログラムもオンラインに対応するようアップデートしています。
参考:LAPRAS株式会社・フルリモート用にアップデートした、LAPRASの新入社員オンボーディングを紹介します
コネヒト株式会社
コネヒト株式会社では、中途入社の社員向けに「オンボーディングツアー」と呼ばれるプログラムを実施しています。
同社では入社後90日を重視しており、入社初日から3か月に渡るツアーの中で、「クイックウィン達成」「カルチャー理解」「コミュニケーション促進」の3つに大別される、全部で約30コマのイベントを行っています。
参考:コネヒト株式会社・新入社員向け「オンボーディングツアー」のご紹介
GMOペパボ株式会社
GMOペパボ株式会社では、「ペパボカクテル」と呼ばれるエンジニア向けオンボーディングプログラムを実施しています。
日常の些細な疑問をチャットで質問すると誰かが答えてくれるシステムとなっている「カクテルチャンネル」や、取締役・執行役員などとの「1on1面談」、毎月第2金曜日に開催される約2時間の社内勉強会「ペパボテックフライデー」、そして毎週火曜日と木曜日に中途パートナーがエンジニアの中からランダムに選ばれた2人とランチに行く「ランチワゴン」など、「エンジニアの孤独さ」を解消するための様々な取り組みを行っています。
参考:HR NOTE・GMOペパボが実践するオンボーディング|3つの組織課題とその解決策を聞いてみた
まとめ
今回は「オンボーディング」の概要と目的、具体的な取り組みの例に加え、実際の取組事例まで紹介してきました。
多くの企業が優秀な人材を確保するために様々な施策を実施していると思いますが、折角コストを割いたり工夫をしたりして採用し教育した人材が、十分に実力を発揮できなかったり、組織に馴染めないことなどを理由に早期退職してしまったりする事態を避けるため、自社に合うオンボーディングプログラムを検討することが望ましいです。
また、オンボーディングなどの社員定着のための施策は福利厚生の充実と合わせるとより効果的です。
福利厚生は一度導入すればその後運用だけを継続すればいいというわけではなく、社会や企業、従業員の状況に合わせて、新入社員は勿論、既存社員の定着にも繋がる福利厚生になるよう、定期的に見直しを行う必要があります。
ネクストプレナーズでは、福利厚生の見直し、新設などのご相談を無料で承っています。
福利厚生は導入しているだけではなく、実際に社員に利用してもらうことで社員の満足度等の向上に繋がるため、オンボーディングの一環として福利厚生の存在を伝えると共に、実際の利用方法についても説明しておくことをお勧めします。
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