福利厚生は大きく「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」に分かれており、法定福利厚生は決められた内容を必ず導入する必要があるのに対し、法定外福利厚生は導入するか否かをはじめ、導入内容(種類)も企業が自由に決めることができます。
今回は福利厚生の中でも、導入が義務付けられている「法定福利厚生」の概要と変遷、種類について、詳しく解説いたします。
概要
「法定福利厚生」とは、導入が法律で義務付けられている福利厚生制度です。
従業員を一人でも雇用している企業では必ず導入しなければならない制度ということになります。
個人事業主の場合は、労災保険と雇用保険は従業員を一人でも雇用した場合は支払う必要がありますが、健康保険については従業員が5人以上雇用している場合に支払い義務が発生します。
法定福利厚生には、
・健康保険
・介護保険
・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
・こども・子育て拠出金(児童手当拠出金)
の6種類があり、それぞれ、健康保険法、労働基準法、厚生年金保険法、介護保険法、労働者災害補償保険法、雇用保険法等で定められています。
これらの保険料のうち、会社負担の部分が「法定福利厚生」であり、会計上は法定福利費として計上されます。
「法定福利厚生」とは、導入が法律で義務付けられている福利厚生制度です。
導入するか否かを企業が自由に決められる法定外福利厚生とは違い、法定福利厚生は未導入の場合、罰金などの罰則が科されます。
罰則は法定福利厚生ごとに異なりますが、例えば社会保険未加入の場合、健康保険法第208条で「六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金」が科されることが規定されています。
各種類の説明
法定福利厚生の種類は、先述の通り下記の6種類です。
以下、それぞれ具体的な内容を解説します。
・健康保険
・介護保険
・厚生年金保険
・雇用保険
・労災保険
・こども・子育て拠出金(児童手当拠出金)
健康保険
健康保険とは、従業員やその家族が私生活で病気やケガをした際に、医療費の一部が国から給付(*)されるという内容の保険です。
健康保険料は従業員と会社が折半して支払いますが、保険料率については、加入する健保組合によって異なります。
協会けんぽの保険料率においても都道府県により異なります(例:令和2年度協会けんぽ社会保険料率 東京都9.87%、北海道10.41%)。
また、自社の健保組合の場合に、会社分の負担割合を大きくしている企業もあります。
*現在は、0歳から義務教育就学前(6歳)までが2割負担で、以降70歳までは3割負担、70歳から75歳までは2割負担、75歳以上は1割負担(後期高齢者医療制度)となります。なお、子供の自己負担を肩代わりする医療制度を設けている自治体(例:東京都各区)があります。
介護保険
介護保険とは、65歳以上且つ介護認定を受けたときに介護サービスを受けられるという将来のための保険です。
介護保険料の支払いは、40歳以上の従業員は必ず必要があり、健康保険料と同様に従業員と会社が折半して支払います。
厚生年金保険
日本の年金制度は「国民年金保険」と「厚生年金保険」を併せて二階建てといわれますが、二階建てのうち二階部分にあたるのが厚生年金保険(単に「厚生年金」という方が馴染みがあります。)です。
厚生年金は、従業員が退職後の65歳からあるいは障害になったとき(障害厚生年金)や死亡した時に遺族(遺族厚生年金)が受給できます。
厚生年金保険は、企業に勤める会社員が加入する保険です。厚生年金保険料も、従業員と会社が折半して支払います。
* 日本の年金制度の詳細な解説については、以下の記事をご参照ください。
雇用保険
雇用保険は、会社都合や自己都合で退職した場合、次の就職先が見つかるまでの手当(俗に言う「失業手当」)として給付されるという保険です。
雇用保険料は、企業が3分の2、従業員が3分の1を支払います。
なお、失業手当の受給要件は、
①一般の離職の場合:離職の日以前2年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して12カ月以上あること
②特定理由(出産等)離職者の場合:離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6カ月以上あること
です。
また、失業手当の受給期間は、都合(自己都合退職か会社都合退職か)、被保険者期間並びに年齢により異なります。
自己都合であれば、90日から最大150日、会社都合であれば、90日から最大330日になります。
労災保険
健康保険は私生活での傷病に対し医療費が給付されるのに対し、労災保険は、業務中や通勤時などにケガをしてしまった場合に、給付を受けることができるという保険です。
労災保険料は従業員の負担はなく、企業が全額負担します。
こども・子育て拠出金(児童手当拠出金)
こども・子育て拠出金(旧 児童手当拠出金)とは、児童がいる家庭に給付される拠出金で、子育て支援事業にも活用される制度です。
こちらも労災保険料と同じで、全額企業が負担するものになります。
まとめ
今回は福利厚生のうち「法定福利」について解説してきました。
法定外福利厚生とは違い、法定福利厚生は導入することが法律で定められているものです。
法定福利厚生自体では、採用などの大きな差別化(一部健康保険組合では協会けんぽ以上の充実したサービスがあるところがありますので、その点は差別化になります。)にはなりませんが、企業の義務としての福利厚生になります。
法定福利厚生は、法定外福利厚生とは違い、従業員のモチベーション向上の役割を果たすというよりも、生活を守る役割を果たす内容となっています。
少子高齢化や終身雇用制度の崩壊により、企業の人材確保はこれまで以上に困難になることが予想され、各企業における各種制度の運用や理解の重要度は年々増しています。
勿論、法定福利厚生についても理解が欠かすことができません。しっかりと理解し、従業員から質問を受けた際にも確かな受け答えができるようにしておきましょう。
なお、福利厚生については、他にもテーマ別に解説していますので、併せてご確認ください。
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