企業は、経営戦略を実行するにあたり従業員を効率的に動かすため組織をつくります。
組織をつくることで、指揮命令系統の明確化、仕事の分業、情報の共有などが効率的にすすめられ、大勢の従業員が複数の拠点に分散したとしても一集合体として運営ができるためです。
企業組織は経営戦略に依存するため、業種業態の特性によりいくつかの型(組織構造)に分類されます。
具体的には、機能別組織、カンパニー制組織、事業部制組織、マトリックス組織、プロジェクト組織、ネットワーク組織などの種類があります。
今回は組織構造のなかでも、多くの大企業が採用している「カンパニー制」と「事業部制」について、2つの組織構造の概要から変遷、共通点、相違点、それぞれのメリットとデメリットをお伝えします。
カンパニー制と事業部制には、事業単位で組織を区分するため事業毎に費用や利益を管理することができるという共通点があり、また事業部制からカンパニー制へ移行する事例が多くあることからも、この2つの組織構造はよく比較されます。
目次
カンパニー制と事業部制の概要
カンパニー制
カンパニー制とは個々の事業部を社内で分社化させ(「社内カンパニー制」とも言う)、それぞれを1つの会社として扱う組織構造のことを指します。
カンパニー制は、カンパニーの経営陣(執行役員)の権限が強い分、業績の責任も負う独立採算制になります。独立した組織として扱われるので、権限委譲の程度が強く、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源も各カンパニーで管理・運用を行っていきます。
人事部や経理部などの部署をそれぞれのカンパニーが独自に持つことも特徴です。
なお、事業部制とカンパニー制ともに会社法上は、同一法人の組織であるため違いがなく、またカンパニー制の責任者である執行役員も取締役ではないため違いがありません。
事業部制
事業部制はカンパニー制ほど、各事業部に独立性がありません。
事業部制はあくまで事業部長を長としますが、その上に取締役が存在し、意向も反映されやすいため企業内での権限委譲の程度も弱いです。
企業内で、事業部ごとにボトムアップ形式のマネジメントがなされているとも言えます。あくまで企業内の部署という扱いであるのが事業部制の特徴です。
また、各企業の戦略にしたがい、
・製品別事業部制
・地域別事業部制
・顧客別事業部制
に事業部を分けることができ、各企業がそれぞれの方針により選ぶことができます。
カンパニー制と事業部制の変遷
日本におけるカンパニー制
日本においてはじめてカンパニー制が導入されたのは1994年で、ソニーが導入しています。
同社は事業部制のデメリットを解消するためにカンパニー制を導入し、赤字に陥ったソニーはこの改革により黒字に転換しています。この成功を機にカンパニー制を取り入れる大企業が増加し、みずほフィナンシャルグループ、トヨタ、シャープなどもカンパニー制を導入しています。
また、1997年の独立禁止法の改正によって、持株会社形態が解禁になったことで、将来的な持ち株会社以降の準備のためカンパニー制を導入する企業も増えました。
なお、次で事業部制の例として挙げる松下電器産業(パナソニック)も現在ではカンパニー制に移行し、7つのカンパニーが存在します。
日本における事業部制
事業部制は、1920年にアメリカのデュポンが最初に取り入れた組織です。
日本では1933年に松下電器産業が取り入れています。当初は、ラジオを第一部門、ランプ・乾電池を第二部門、そしてその他のいくつかの製品を第三部門とする製品別の事業部制でした。
松下電器産業が事業部制を取り入れた理由は、「自主責任経営の徹底」と「経営者の育成」の2つがあります。
この事業部制の導入により、事業を効率的に運用することができ、世界の松下電器産業の成長・発展の機動力になっています。
カンパニー制と事業部制のメリット
では事業部制とカンパニー制にはそれぞれどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは両者のメリットを比較で解説します。2つの組織構造の大きな差の一つは、独立性の高さです。
カンパニー制のメリット
カンパニー制は事業部制のデメリットを解消するためにグローバル企業がすすんで導入した組織構造です。具体的には以下のようなメリットがあります。
①意思決定の迅速化
カンパニー制を取り入れる最大のメリットは、巨大企業でも意思決定を迅速に行うことができる点です。
意思決定の階層が低くなることで、変化の激しい市場での日頃の意思決定も、M&Aや取引先との大型契約等の大事な局面での意思決定も、本社の判断待ちになることなく迅速に実行に移すことができることがカンパニー制の強みです。
②独立採算制による事業評価
各カンパニーが独立採算制であるため、損益だけでなく投資や資産にも責任を持たせられます。
そのため利益だけでなく資産効率などの責任を求められるため事業の評価を精確にすることができます。
③リーダー人材の育成ができる
カンパニー制の特徴は権限委譲の強さと独立採算制です。
権限委譲によって各カンパニーの責任が明確になるため、それぞれの組織のトップが本社の経営陣になる前に、経営者としての経験を積むことができます。
また、各カンパニーが独立採算制であるため、次世代の経営者候補の競争を促し、会社内での切磋琢磨が自然と生まれてきます。
重要な意思決定を迫られることも多く、そのような状況での判断力を兼ね備えた強いリーダーを輩出できるのもカンパニー制の魅力です。
事業部制のメリット
①事業の全体最適化がしやすい
事業部制は、経営者(トップ)の意見が反映されやすいのがメリットです。
トップが俯瞰できるため、事業(部)の選択と集中の判断が容易で、事業の全体最適化が容易です。
また、最終的な人事と予算権限はトップが持っているため、各事業部の投資計画や採用計画は本社の意向で行うことができます。
②経営者の意向が反映しやすい
事業部制はトップダウンであるため、メリットとして、企業全体の一体感が生まれることや会社全体で情報の共有が容易なことが挙げられます。
カンパニー制よりも、事業部制の方が権限委譲の程度が低いため、全体の意思決定の統一性が取りやすいことがメリットとなるでしょう。
③重複コストが排除できる
カンパニー制では経理部や人事部が複数存在するため、バックオフィス部門でのコストが重くなりがちです。
その点で事業部制は経理部や人事部が統括されており重複コストがかからないので、メリットと言えるでしょう。
カンパニー制と事業部制のデメリット
事業部制とカンパニー制のメリットとデメリットは表裏一体であることがあります。
ただし、どちらが優れている優れていないというわけではなく、企業の規模や業種業態など状況によって適切な組織構造は違うということです。
カンパニー制のデメリット
カンパニー制のデメリットはやはり重複部門の存在によるコスト増です。
カンパニー制の特徴は、予算権と人事権を各カンパニーごとに持つことであり、すなわち人事部や経理部を持つことです。
各カンパニーごとにそれぞれ部署を持つので、同じ部署が社内に複数存在することになります。
事業部制のデメリット
事業部制のデメリットは、カンパニー制のメリットの裏返しに近いものになります。
意思決定の迅速さは、カンパニー制と比較すると失われます。
また各事業の独立した戦略策定にも限界があるので、各事業部間の競争意識は生まれにくいと言えるでしょう。
まとめ
今回はカンパニー制と事業部制の2つの組織構造の概要から変遷、メリット・デメリットまで紹介してまいりました。
両者は企業運営の歴史から非常に近しい存在であり、またカンパニー制から移行する持株会社制(ホールディングス制)も同様に近しい存在であるといえます。
それぞれの移行経緯からメリット及びデメリットは表裏一体である場合がありますので、ポイントを抑えて組織構造を理解して頂ければと思います。
また、組織構造の見直しを図ろうしている企業には、ティール組織などの組織モデルの確認もおすすめします。
今回の事業部制とカンパニー制のように組織構造自体を変えるものではなく、従業員のマネジメント方法や指示系統などの社内構成の変更により組織モデルを変更するものです。
ティール組織については以下の記事で解説しています。
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