従業員に対する福利厚生を充実させることは、従業員の採用強化、業務に対するモチベーションアップ、企業の一体感の醸成など、様々なメリットがあります。
せっかく福利厚生費をかけて従業員のサポートをするのであれば、従業員が「あったらいいな」と思える制度、そして期待する効果がより高い支援項目を導入したいものです。
今回は法定外福利厚生について、人気の福利厚生とトレンドを徹底解説します。
他社はどんな福利厚生を用意しているのか、従業員はどのような福利厚生が望ましいと考えているのかを分析することで、自社の福利厚生の制度設計にお役立てください。
目次
法定外福利費の動向
種類等の紹介の前に、まずは近年の法定外福利厚生費の動向を見ていきましょう。
経団連では、毎年12月に前年度の「福利厚生費調査結果報告」を発表しています。
この調査では、企業の年間法定福利費、法定外福利費を企業の延べ人数で割り、従業員一人当たりの平均値を算出しています。
調査に回答している企業の規模は、中小企業から従業員5,000人以上の大企業まで様々です(2018年度は1社当たり平均従業員数 4,644 人)。
法定外福利費は増加傾向
2018 年度(2019年発表)の福利厚生費調査結果報告によると、2018年度の法定外福利費は前年度比8.2%の大幅な増加を記録し、従業員一人当たりの平均でひと月当たり25,369円となりました。
バブル崩壊以降何度かの不況を経験する中で法定外福利費は漸減傾向にありましたが、昨年度は一転増加しました。
住宅関連、医療・健康関連、ライフサポート関連(給食、育児、財産形成)などが軒並み上昇しており、従業員の健康的な生活に関する企業の大きな関心がうかがえます。
特に大企業では、文化・体育・レクリエーション費の支出が20%以上増加するという傾向がみられ、最近復活傾向にある社内運動会や社内コミュニケーション費用、社員旅行などの増加が寄与していると考えられます。
法定外福利費の構成割合
法定外福利費の構成割合は、住宅関連(家賃補助、ローン補助など)が47.8%と最も大きく、次いでライフサポート関連が24.1%、医療・健康関連12.5%となっています。
住宅関連やライフサポート関連の法定外福利費は、毎月支給の場合が多いことから、高い割合になっているものと推測されます。
人気のある法定外福利厚生の種類
では、従業員はどのような福利厚生に魅力を感じているのでしょうか。
人材サービス関連企業各社(※)が、転職者を中心に福利厚生に関するアンケートを実施し発表しています。
それによると、企業が用意する福利厚生の中でも人気のあるものとそれほど人気のないものとは、意外にはっきり分かれるようです。
(※)参考:
en転職・第33回 アンケート集計結果「福利厚生」について
マンパワーグループ・福利厚生の人気は「住宅手当・家賃補助」48.3%、「食堂、昼食補助」33.9%
DODA・福利厚生は従業員定着につながるのか?20代・30代が本当に求める制度を調査
住宅手当、健康診断、リフレッシュ休暇は不動の人気
どのアンケートでも人気がある福利厚生項目は、住宅手当、健康診断、リフレッシュ休暇です。
住宅の家賃は生活費の中でも割合が大きく、手当の金額も大きなものとなりやすいために従業員にとってはありがたい福利厚生制度でしょう。
また、会社によっては転勤が多いなどの理由で、単身赴任の場合に住宅手当がないと生活に支障が出るということもあるようです。
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加えて、年を重ねるにつれて気になってくるのが健康に関することでしょう。
検診を受けるたびに再検査項目が増えていくのを経験したことがある方は多いと思います。
健康診断のオプション費用などを会社負担とすることで、「従業員の健康を大事にしている」企業姿勢をアピールするいい機会になります。
リフレッシュ休暇も満足度の高い福利厚生の一つです。
中にはリフレッシュ休暇のために特別手当金を用意している企業もあります。
ひと頃よりもだいぶ有給休暇が取りやすい企業が増えてきましたが、未だそのような体制になっていない会社が多いなか、「リフレッシュ休暇」、「誕生日休暇」などの名目で制度上定まっていると休暇を取りやすいことが、満足度が高い理由のようです。
リフレッシュ休暇については以下の記事で解説していますので、併せてご確認ください。
不人気の福利厚生は?
逆に不人気の福利厚生制度のトップは社員旅行や飲みニケーションを促進する制度を挙げる方が多く見られます。
社員旅行は土日を含むことも多く、休みの日まで社員と顔を合わせるのはオン・オフの切り替えができない、また飲みニケーションは仕事以外の何物でもない、といった厳しい意見が聞かれます。
また、財形貯蓄や持株会制度についてもいらないという回答が多いようです。
今の時代一つの会社に定年まで勤めることがあまりなくなってきているためか、長期的な財産形成は自分でやる、という考えも一般的になってきました。
法定外福利厚生のトレンド
以前は法定外福利厚生といえば通勤手当、慶弔手当、社員旅行のほかは福利厚生代行サービスを提供する会社のパッケージを利用して終わり、というケースがほとんどだったように思います。
しかし、近年では企業独自の福利厚生プランを導入したりするなど新しい傾向がみられるようになりました。
健康を重視した福利厚生プラン
最近では、従業員の中でもメタボリックシンドローム、胃潰瘍などの内臓疾患、あるいは精神上の疾患を理由とするアルコール依存や躁うつ病などの現代的な病気を心配する声が多く聞かれるようになりました。
激務をこなす従業員であればあるほど肉体的・精神的な健康を維持することが最重要課題になってきます。
社会問題化した過労による自殺の問題も相まって、健康を重視した福利厚生プランを導入する企業が増えているようです。
具体例としては、健康診断のオプション追加や人間ドック、フィットネスクラブの優待、メンタルヘルス医の相談費用の負担などが挙げられます。
従業員の健康を維持することは、長期的には業績にも社内環境の改善にも好影響をもたらすことに気づいた経営者が増えたことがうかがえます。
カフェテリアプランも増加傾向
カフェテリアプランとは、従業員に一定のポイントを付与し定められた項目の中から従業員がポイントを振り分ける形で利用する方式の福利厚生制度です。
多くは福利厚生代行サービスを提供する会社がプランを用意しており、企業はそのプランに沿った会費を支払うことで利用します。
先ほどの経団連の発表によれば、15年前には5%前後だった導入率が2018年度では16.6%まで増加しています。
スケールメリットを生かしやすいことから、1,000以上の従業員を有する企業が8割以上を占める結果になっています。
非正規従業員への広がり
昨今の同一労働同一賃金の傾向を反映してか、法定外福利厚生を非正規従業員にも適用する企業も増加傾向にあります。特に、食事補助、社員食堂の利用、レクリエーション活動、企業内保育施設の利用など、社内に設置してある設備の利用や社内活動については広く非正規従業員にも適用されるケースがほとんどです。
このほか、慶弔手当や人間ドックの利用についても、非正規従業員にも適用する企業が増えているというデータもあります。
※参考:労働政策研究・研修機構(JILPT)・「福利厚生のトレンド」JILPT調査
従業員は意外と福利厚生に注目している
転職者のアンケートによると、福利厚生を会社選びの重要なポイントに挙げている人が7割程度いるようです。従業員は福利厚生の充実度で会社が従業員を大事にしているかどうかを探っているのかもしれません。
※参考・en転職・第33回 アンケート集計結果「福利厚生」について
最近では、会社の近くに住むと家賃補助が出る、禁煙すると健康増進手当が出る、健康診断で総合A判定が出ると健康手当が出る、キャリア休職・失恋休職・結婚記念日休職が付与されるなど、いろいろな福利厚生制度も出現しています。
福利厚生制度で企業と従業員の絆を深めるのも一つの方法かもしれません。
ぜひ、自社にあった独自の福利厚生プランを探してみてください。
なお、福利厚生については、他にもテーマ別に解説していますので、併せてご確認ください。
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