労働市場が流動的になり、個人の会社に対する価値観が変化するなかで、会社と社員とのかかわり合いを良好なものに保つことは、健全な企業経営の重要な要素です。
今回は人事領域における「エンゲージメント」について、その概要、注目される背景、エンゲージメントの向上策などについて解説します。
従業員のエンゲージメントが高い企業は業績が高いというデータもありますので、今後の人事戦略を立案するうえでの参考にしてみてください。
目次
エンゲージメント指標を活用する企業が急増
人事領域における「エンゲージメント」とは、社員が会社や組織に自発的に貢献する意思がどの程度あるかということを指標化したものです。
社員が会社の成長に貢献する一方で会社が社員の成長を手助けすることで個人も会社とともに成長できるという双方向の関係性を表しています。
具体的には、社員個人が自発的に業績向上に貢献する意欲があるか、組織やメンバーとのかかわり合いの中でコミュニケーションが活発になされ目的が共有できているか、組織文化に自分がフィットしているかなどの要素の組み合わせによってエンゲージメントが形成されていると考えられています。
「従業員満足度」、「モチベーション」との違い
よくエンゲージメントと混同されがちなのが、「従業員満足度」と「モチベーション」です。
「従業員満足度」とは従業員が会社に対して満足しているかどうかを指標化するもので、従業員が会社を総合的に判断して決定します。
単に業績や組織文化などだけではなく、福利厚生や社内環境、デスクや椅子の大きさなどの周辺設備・備品等も影響してくるでしょう。
業績との関連性はそれほど大きくはありません。
反面、エンゲージメントは会社と社員の双方向的なかかわり合いを指標化したもので、業績との連動性が高いものとされています。
また、「モチベーション」とは、社員個人の内的な動機付けをあらわした言葉です。
モチベーションは外的な環境や組織の健全性によっても左右されることはありますが、あくまで個人の動機の問題として解釈されます。
そのため、モチベーションはあるものの、行動・結果に結びつかない、業績向上に結び付かないといった事象が起こりえます。
一方、エンゲージメントは内的な感情・動機のみならず、会社に対しての貢献意欲があるか否かを指標化したものです。
個人の内心だけではなく、メンバーや組織、会社とのかかわり合いの中での自発的な意欲に目を向けます。
なぜエンゲージメントを調査するのか
それでは、近年になってなぜエンゲージメントという指標が注目されているのでしょうか。
それは、エンゲージメントの向上が社員の定着率向上に役立つこと、そして業績向上に大きく関係してくることが判明したからです。
社員の定着率向上のため
まず、エンゲージメントの向上は社員の定着率の向上につながるとされています。
アメリカの調査会社CEBのデータによると、エンゲージメントの低い社員は高い社員に比べ離職率が4倍高いそうです。
そのほかにも、エンゲージメントと離職率の高さの相関性についての研究結果やデータがたくさん示されています。
昨今では終身雇用が崩壊し、労働市場が流動的になった結果、優秀な人材が流出することに悩む企業が多くなっているため、社員の定着率を高めるためにエンゲージメント向上の施策を実行することは有益でしょう。
エンゲージメント向上と業績向上に相関性があるため
更に、エンゲージメントの向上は、企業業績の向上にもつながるということが数々のデータによって示されています。
一例では、慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)岩本研究室とモチベーション・クラウドが共同で行った調査によると、エンゲージメントスコアの高いグループは、翌年の売上高・純利益の伸長率が明らかに高いという結果がでています。
エンゲージメントの調査項目
このように社員の定着率や企業業績に大きく関係するエンゲージメントですが、これはどのように測定し、可視化されるものなのでしょうか。
エンゲージメントの調査(エンゲージメント・サーベイ)は社員に対しアンケートを実施することによって測定されます。
エンゲージメントの指標は実施する企業によって様々ですが、大きく分けて、「ワークエンゲージメント」と「組織に対するエンゲージメント」に関する項目に分けることができます。
ワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントの項目では、主に個人として仕事に主体的に取り組もうとする意欲がどの程度あるのかを指標化します。
例えば、自分の仕事にやりがいは感じられているか、成長を感じられているか、人間関係は良好か、自分の意見は尊重されているかなどの項目についてスコアリングしていきます。
組織に対するエンゲージメント
組織に対するエンゲージメントの項目では、組織との関係において自発的に組織に貢献する意欲があるのかを指標化します。
例えば、組織としてのミッションやバリューに共感しているか、職場環境は良好かといった項目についてスコアリングします。
エンゲージメント向上の施策例
エンゲージメントの向上を図るためには、前項で述べたようなワークエンゲージメントや組織に関するエンゲージメントの質問項目について高いスコアを評定する社員を増やすための施策の実行が必要です。
それではどのような施策例が考えられるのでしょうか。
実際にエンゲージメント向上に取り組んでいる会社の施策をいくつか紹介します。
ピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」
株式会社メルカリは、エンゲージメント向上策として、社員同士の感謝や賞賛の気持ちをボーナスとして贈りあうことができるピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」を設けています。
メルカリの社員は、Slackで導入されたコマンドやWeb投稿によって、相手に自分の持っているメルチップのうち一定額を贈ることで、リアルタイムに感謝の気持ちを伝えることができます。
社内アンケートでの満足度調査は87%と期待以上の数値になっているようです。
参考:メルカリ・贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。
Career Choice
Amazonは社員のキャリア教育のために、あらゆる分野の知識・能力を身につけられる仕組み「Career Choice」を導入しました。
社員は、自分が興味のある分野のスキルに関する教育のみを受けられるため、誰にも強制されることなく、自発的に学習することができます。
会社が社員の成長を願うことを形としてあらわすことで、エンゲージメントを高めようとする施策です。
参考:Amazon・Career Choice
表彰制度をたくさん設けて仕事を認め合う
株式会社フリーセルでは、月間に20回以上の表彰式と、年2回の総合表彰制度を設けて、頻繁に表彰式を開催することで、エンゲージメントアップにつなげています。
表彰されることで、自分の仕事が認められているという実感がわき、自信を持って仕事に従事できるという環境を作ることが、社内スターの排出、成長を願う社風の醸成につながっているようです。
※参考:CAPPY・フリーセル流表彰に注目!「会社は舞台、スタッフ1人1人は主役」が当たり前!
エンゲージメントを可視化して施策につなげる
エンゲージメントはわかりにくい概念ではありますが、現在では確立された質問項目があります。
質問項目の例としては、Gallup社のQ12が有名ですが、他にもエンゲージメントサーベイ会社がいくつかの項目を用意しています。
参考:Gallup・The Power of Gallup’s Q12 Employee Engagement Survey
またエンゲージメントサーベイや施策実行、その後のモニタリングについての支援サービスを行っている企業もありますので、興味があれば一度相談してみるのもよいでしょう。
Gallup社の調査では、日本企業の社員のエンゲージメントは139か国中132位と極めて低い結果が出ています。
新興国が、成熟している日本よりエンゲージメントが上位にくるのはしょうがないのですが(※)、そのことを考慮しても日本がこれだけエンゲージメントが低いのは、会社に対して不公平感や不信感を持っていることの表れと考えられます。
(※) この139か国の中には新興国が含まれており、新興国は会社の成長が早いためにエンゲージメントも高くなる傾向があるといわれています。
エンゲージメントを向上させることには、業績向上のみならず、職場の人間関係の向上や社員のモチベーションの向上などさまざまな利点が認められます。
これを機会に一度社員のエンゲージメントについて調査してみることをお勧めします。
また、社員のエンゲージメントの向上には、SDGsへの取り組みも効果的です。
特にこれからステークホルダーの中心となっていくミレニアル世代はSDGsネイティブともいわれるほどSDGsとの親和性が高いため、効率的なエンゲージメント向上策としても注目されています。
SDGsについては以下のページで説明しています。こちらも是非併せてご確認ください。
- 「戦略人事」とは?概要と実現のためのポイント - 2022年7月4日
- テレワークに適した福利厚生制度|見直しの必要性と具体例 - 2022年5月24日
- 【解説】「ジョブ・クラフティング」の概要とメリット、注意点 - 2022年4月12日