企業経営において人材開発や人材育成は、いつの時代も大きな課題です。
人材の育成に関しては、業務の効率化、業務遂行に必要な知識・スキルの強化など様々な目的があります。
しかし、最近では経営者や人事担当者の「経営戦略を遂行するための適切な人材配置と人材育成がリンクしていない」という悩みが多く聞かれるようになってきました。
今回は、「タレントマネジメント」について、その概要、導入のメリット、導入手順について紹介します。
自社の経営戦略と人事戦略の方向性を一致させるためにも、タレントマネジメントの有用性について知っておきましょう。
タレントマネジメントとは
タレントマネジメントの概要
「タレントマネジメント」とは新規社員の採用、人材配置、評価・報酬システム、リーダー育成などの人事プロセスについて、必要なスキルを有する社員の能力を見極め、経営戦略に沿った形で戦略的・総合的に改善していく取り組みのことです。
「タレマネ」と略されることもあります。
「タレント」とは能力・才能を意味し、「タレントマネジメント」は人材の配置や個人の能力開発について、より重点を置く意味合いがあります。
短期的な視野で人材教育や人材配置を考えるのではなく、長期的な視点をもって将来の目標を達成していくために行う人事システムであるといえます。
人材管理と時代背景
人材管理手法は時代と価値観の変化、ビジネスの要請に伴って変化してきました。
日本での伝統的な人材マネジメントは、「いかに業務を効率化させるか」という観点から、経営者のトップダウンによる意思決定をどのように組織で実現させるかに焦点を当てるものが多かったように思います。
人材の質としてもゼネラリストに重きが置かれ、会社組織を円滑に動かすため、そして個々の仕事を効率的に行うための人材育成が採用されていました。
しかし、バブルの崩壊とともに終身雇用で会社に奉公する時代は終焉を迎え、「実力主義」という言葉がメディアにも多く取り上げられるようになりました。
会社の個人との向き合い方や価値観が変化する中で、人材教育は、個人のスキルやキャリア形成に注目したものに変わっていきました。
タレントマネジメントは、現在のビジネス環境に適応するために、必然的に求められた人材管理手法であるといえるでしょう。
価値観の多様化、求められるスキルの多様化、ビジネス環境の急激な変化に対応しなければならないというビジネス課題に直面したことにより、社員個々の能力を最大限に活かし、長期的な視点で人材教育を行うことで企業が求める人材に近づけていくという視点が重要になってきたのです。
タレントマネジメントが注目される理由
タレントマネジメントは1990年代に初めて欧米で提唱された概念ですが、近年になって日本でも注目されるようになりました。
それは、以下のような理由があるからです。
経営戦略と人事戦略の間のギャップをなくする
経営戦略に基づいた人事戦略を実現するためには、適材適所の人材配置と長期的な能力開発の両側面からマネジメントを行う必要があります。
タレントマネジメントでは、各個人の能力・知識・スキルを「見える化」することで、部署を横断して人材マネジメントを行うことが可能となり、経営陣の視点から鳥瞰的に人事を考えることが可能となります。
リーダーの育成
タレントマネジメントを採用することで、リーダーの思考は、単に部下を使って仕事を完成させればいいという考え方から、部下が得意とする分野の能力を向上させることや隠れたスキルを引き出すことに注目するという考え方に変わります。
したがって、より組織マネジメントの質が高まるとともに、リーダー自身のマネジメント能力の向上にも繋がります。
また、人事ローテーションや新規事業開発のプロジェクト編成において、タレントマネジメントを活用することで、新しい人材を抜擢することができ、新たに将来のリーダーを育成することにも役立つという側面があります。
従業員のモチベーションアップと適性を考慮した人事評価の実現
タレントマネジメントの導入により従業員の能力が最大限発揮できるような人材配置がなされることで、従業員のモチベーションアップにつながるとともに、人材の定着率の増加にもつながります。
また、タレントマネジメントによって明らかになった能力・スキルに基づいた目標設定・評価を行うことで、納得性の高い人事評価につなげることも期待できます。
タレントマネジメント導入の手順
タレントマネジメントを導入するためには、膨大な人事情報を処理する必要があるため、計画的に導入プロジェクトに取り組む必要があります。
具体的な手順の例としては以下のようなものが考えられます。
経営戦略に沿った人事戦略の策定
タレントマネジメントの導入の最初のステップは、導入の目的を明確にし、経営戦略に基づいた人事戦略を作成することです。
具体的には、現在の経営課題を洗い出し、課題の原因が人材配置に関することなのか、能力開発に関することなのか、リーダー育成に関することなのかなどを具体的に項目立てた上で戦略を考える必要があります。
人材データの収集・整理
経営課題と人事戦略が明確になったところで、その人事戦略に必要となる能力データを収集します。
この時、やみくもにデータを集めると、データ集めで担当部署が疲弊してしまい、最も重要な施策の実行まで進まないということがよく起こりますので、どのようなデータが必要か、またどのようにデータを保管するのがベストか検討したり、場合によっては専用のシステムを利用したりして、効率的に収集・保管することが大切です。
人事施策の実行
実際にデータがそろったら、当初の人事戦略に従って人材の配置や能力開発のプログラムを設定し、実行します。
データの収集状況によっては、社内に人材がいないという結果が判明することもあるでしょう。
その場合には、採用戦略にタレントマネジメントを適用して、採用条件に必要な能力・スキルを追加したり、必要な能力を審査することができる採用プロセスを導入したりするなどの施策を実行することになるでしょう。
フィードバック・モニタリングの実施
一定期間ごとにタレントマネジメントの施策についてのフィードバックを各部署の上長から収集したり、社員アンケートを収集したりするなどして、タレントマネジメントが効果的に機能しているかモニタリングをします。
また、導入当初からすぐに効果を出すことは期待せずに、改善を繰り返しながら、長期的な視点で運用していく必要があるでしょう。
タレントマネジメントが失敗する理由
タレントマネジメントは多くの社員の協力を必要とし、人事担当者の労力も相当なものになるため、付け焼き刃で導入に踏み切ると失敗しがちです。
タレントマネジメント導入の失敗例の多くは以下の理由によるものです。
人事管理システムの延長線上で考えてしまった
タレントマネジメントは従来の人事管理システムとは異なり、人事戦略を推進し、経営課題を解決するために行うものです。
一方、従来の人事管理システムは人事情報を効率的に管理することで、主に人事評価や報酬決定に役立てることを目的としますので、両者はそもそもの目的が異なります。
タレントマネジメントと従来型の人事管理システムを混同してしまうと、単に扱うデータが多くなるだけで、効果的なマネジメントがなされません。
データ収集が効率的に行われなかった
タレントマネジメントにおいては、効果的なデータが収集できるか否かが成功を左右します。
しかし、拙速な導入によって社員の不信感を招き、社員が真面目にデータ提供に取り組まないなどの事例も見受けられます。
事前にトップから社員へタレントマネジメントの導入目的と内容を説明し、目的を共有した上で実施することが望ましいと言えます。
目的が絞り切れておらず利用方法に問題があった
タレントマネジメントは多くの人事課題に活用できますが、当初よりいくつもの目的を設定すると焦点がぼやけてしまい、結局どの目的も達成できなかったということになりがちです。
能力開発、採用強化、適正な人事評価、適正な人材配置など、最初は目的を絞って行うと効果的なマネジメントが期待できるでしょう。
人材に対する考え方の変化に対応する
昨今では、「組織の中の社員」ではなく「個々人としての社員」という考え方にスポットが当たることが多くなっています。
タレントマネジメントは、そのような価値観に適合した人材管理の方法です。
ぜひ、タレントマネジメントの概念を人事システムに取り入れてみてはいかがでしょうか。
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