老後の生活を支えるものとして、年金をあてにされている方は多いと思います。
しかし、数年前に年金の受給開始年齢が引き上げられたこともあり、自分たちがもらう際には受給開始年齢がいつなのか、金額はいくらになるのか、不安に感じている方もいるでしょう。
そこで今回は、公的年金を補完するものとして設けられた「個人型確定拠出年金(iDeCo)」について、その概要、メリット、加入の際の注意点について詳細を説明していきます。
企業型確定拠出年金を検討されている企業の担当者の方は、まず、個人型確定拠出年金の制度がどうなっているのかについて、確認することから始めるとよいと思います。
目次
個人型確定拠出年金(iDeCo)とは
「個人型確定拠出年金」とは、「iDeCo(イデコ)」とも呼ばれ、個人が自ら拠出した資金を自らの責任で運用し、老後に一時金、あるいは年金として受け取る制度です。
iDeCoの加入者数は172.4万人(2020年9月時点)まで増加しています。
確定拠出年金法が改正される直前であった2016年12月末時点の加入者数が約30万人でしたので、この4年間で約6倍になりました。
国民の老後の年金に対する関心が高まっている証左でしょう。
参考:企業年金連合会・確定拠出年金の統計
厚生労働省・iDeCoを始めとした私的年金の現状と課題
個人型確定拠出年金が制定された背景
個人型確定拠出年金は、2001年に制定された確定拠出年金法によって制度設計がなされました。
当時は、少子高齢化による現役世代の減少が叫ばれるようになり、公的年金について制度疲労を起こしている点が指摘され始めており、特に企業年金制度については、バブル崩壊に伴う株価の下落や低金利政策によって想定通りの運用が困難になっていました。
そこで公的年金を補完し、従来型の企業年金にとって代わるものして注目されたのが、いわゆる401k(企業型確定拠出年金)です。
個人型確定拠出年金は、企業型確定拠出年金が生まれたのと同時期に、企業型確定拠出年金の恩恵を受けない自営業者や中小企業の会社員のために設けられた制度だったということです。
その後、制度改正により加入者の範囲が広がったために、利用者は年々増加しています。
iDeCoの仕組み
iDeCoは取扱金融機関(銀行、信用金庫、信用組合、証券会社、保険会社など)を通じて資金の積み立てを行います。
掛金は就いている職業によって上限の違いがありますが、上限の範囲内で自ら月々の掛金を設定します(年払いも可能)。
積み立てられた資金は投資信託や債券などで運用しますが、運用方法・運用リスクについても自ら責任を負わなければなりません。
ここまでは単に証券会社の口座を通して積立投資をしているのと変わりませんが、個人型確定拠出年金では一定の期間を経過しないと拠出金を引き出せない代わりに、強力な税制優遇を用意しています。
税制優遇をすることで老後の生活資金の積み立てのインセンティブを与えた制度であるといえるでしょう。
また、企業型確定拠出年金との連携(ポータビリティ)を確立している点も特徴です。
就職先の変更により企業型確定拠出年金を採用している企業に勤務することになった場合、これまでの個人別管理資産を企業型確定拠出年金に移管することができます。
逆に、企業型確定拠出年金を採用している企業から退職したときも、個人型確定拠出年金に移管することができます。
個人型確定拠出年金3つの大きなメリット
個人型確定拠出年金は、個人に年金の拠出資金やリスクを負担させる代わりに、税制面で大きな優遇制度が設けられています。
掛金の所得控除
まず、iDeCoを利用して積み立てられた掛金については、全額が所得控除の対象となるため、所得税、住民税の節税となります。
所得税は累進課税であることから、所得が大きい方であればあるほど、節税金額も大きくなります。
運用益が非課税
また、iDeCoを活用して資金を運用したことによって得られた分配金や金融商品の値上がり益(キャピタルゲイン)については非課税となります。
一般的には、分配金や金融商品の売却益については20.315%の所得税(分離課税)・住民税が課されるのですが、iDeCoの場合は一切かかりません。
分配金を再投資すれば複利で運用できるために、運用益について非課税であることは長期的な投資を行う上で大きな武器になります。
受取時の税額軽減
iDeCoによって運用された資金は、一時金として受け取るか、年金として受け取るかを選択することができます。
1.一時金として受け取る場合
一時金として受け取る場合には、退職所得控除が利用できるため、一般の総合課税の所得税に比べて格段に税制上有利になります。
退職所得は以下のように計算されます。
退職所得=(収入金額-退職所得控除額)×1/2
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×勤続年数 ※80万円に満たない場合は80万円 |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
iDeCoの場合は「勤続年数」のところを「掛金の拠出年数」と読み替えて計算します。
一般の企業の会社員の場合、掛金の上限は年間27万6000円、退職所得控除は一年当たり少なくとも40万円であることから、iDeCoのみを考えるのであれば全額が退職所得控除の範囲内になります。
しかし、後述するように、退職金を別に受け取って退職所得控除を活用する場合には注意が必要です。
2.年金として受け取る場合
年金として受け取る場合には公的年金との合算で、年間60万円までは公的年金控除が受けられます。
65歳以上の場合は、110万円までに控除額が引き上げられます。
iDeCo加入のための3ステップ
iDeCoは加入する人の職業や務めている企業の制度によって掛金の上限が変わったり、あるいは加入できなかったりします。
iDeCo加入を検討するときには、以下の3ステップで考えてみましょう。
加入資格があるか
iDeCoは20歳以上60歳未満であれば基本的に誰もが加入することができます。
注意しなければならないのは、勤務先企業で企業型確定拠出年金に加入しており、かつ企業型確定拠出年金規約で個人型同時加入を認めていないケースです。
この場合には加入できませんので、勤め先の担当部署に確認する必要があります。
また特殊なケースですが、障害基礎年金を受給している方以外で国民年金の保険料納付を免除されている方、及び農業者年金の被保険者は加入することはできません。
掛金をいくらにするか決定する
加入資格がある方は月額の掛金をいくらにするかを決定します。
掛け金の上限は以下の表のとおりです。
職業 | 上限金額 |
公務員 | 月額1万2000円 |
会社員(企業年金あり) | 月額1万2000円もしくは2万円(注1) |
会社員(企業年金なし) | 月額2万3000円 |
専業主婦(主夫) | 月額2万3000円 |
自営業 | 月額6万8000円(注2) |
(注1) 企業年金の種類によって異なります。
(注2) 国民年金基金や付加保険料と合算した金額です。
金融機関や運用商品を選ぶ
最後に、取扱金融機関や運用商品を選択します。
金融機関を選ぶポイントは、手数料と取扱商品です。
手数料は主に加入時と運用期間中の月額費用、そして企業型確定拠出年金、個人型確定拠出年金相互の移管手数料です。
また、金融機関によって選択できる運用商品も変わってきます。
バラエティーのある商品ラインアップか、信託手数料が安い商品があるか、アグレッシブな運用(新興国通貨や新興国株)をするものだけでなく、インデックス投資などの比較的リスクの少ない商品も扱っているかなどを確認しながら決定します。
運用商品を選ぶときには迷うかもしれませんが、長期投資であるので、実績のある安定したファンドを選ぶ方が多いようです。
iDeCoを検討する際の注意点
iDeCoは非常に有益な制度ですが、iDeCoを検討する際には以下の点に注意する必要があります。
見落としがちな点でもありますので、十分な検証が必要です。
受給開始年齢に注意する
iDeCoによる運用資金を受け取るには、原則として60歳以上であること、そして10年以上の加入期間が必要です。
通算加入期間が10年未満の場合、10年に満たない年数に応じて受給開始年齢が繰り下げられます。
特に、50歳以降にiDeCoに加入しようと考える場合には、何歳から受給開始できるのか確認しましょう。
退職一時金扱いになる場合の課税
iDeCoの受給について、退職一時金として受け取る場合には、退職所得控除が本当に使えるのかについてシミュレーションしてみる必要があります。
まず、自身の勤務先に退職金の制度がない場合には、全額について退職所得控除の対象になるため問題ありません。
一方、退職金がある場合には、退職金支給と同時にiDeCoの一時金を受け取ると、合算した金額について退職所得を計算することになるために、退職所得の金額が思ったよりも大きくなる可能性があります。
別々の時期に受け取る場合には複雑で、以下のような事情で退職所得控除の適用が変わってきます。
1. iDeCoの加入期間と勤続期間がどのぐらい重なっているか
2. 退職金とiDeCoの一時金のどちらを先に受け取るのか
3. 先に受け取る金額によってどのぐらい退職所得控除を使うのか
この点について心配な方は、加入時に金融機関の担当者に相談してみることをお勧めします。
iDeCoの節税は大きな魅力
iDeCoの所得控除は大きな魅力です。例えば所得税率・住民税率を合算した税率が43%まで到達している方だと、iDeCoに拠出した1年間の投資利回りは43%ということになります(拠出した年のみ)。
しかし、受給年齢や受給方法をあらかじめ計画的に考えて活用しないと、思ったよりも受給金額の手残りが少なかった、ということにもなりかねません。
iDeCoの制度の仕組みを十分に確認して、加入を検討しましょう。
また、年金制度については、他にもテーマ別に解説していますので、併せてご確認ください。
- 「戦略人事」とは?概要と実現のためのポイント - 2022年7月4日
- テレワークに適した福利厚生制度|見直しの必要性と具体例 - 2022年5月24日
- 【解説】「ジョブ・クラフティング」の概要とメリット、注意点 - 2022年4月12日