【解説】「選択的週休3日制」とは?注目される背景、メリット・デメリットについても解説

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政府は今年6月に閣議決定された骨太の方針に「選択的週休3日制」を盛り込みました。

現在、日本企業の多くは何らかの週休2日制を採っています。

厚生労働省が公開した2020年の就労条件総合調査(※)では、
・完全週休2日制を採る企業が全体の約45%、
・完全週休2日制より休日日数が実質的に少ない制度(月1回~3回の週休2日制等)を採る企業が37.5%
・完全週休2日制より休日日数が実質的に多い制度(週休3日制当)を採る企業が8%
という結果が出ており、完全週休2日制すら普及が十分に進んでいない状況です。
※厚生労働省・令和2年就労条件総合調査 結果の概況

そんな中、今回政府が骨太の方針に盛り込んだ「選択的週休3日制」とはどのような制度で、どのようなメリットがあるのでしょうか。

本記事では「選択的週休3日制」の概要と注目される背景、メリット・デメリットについて解説します。

概要

「選択的週休3日制」とは、希望する従業員に対し、週のうち3日間休暇を付与する制度です。

「選択的」としていることからもわかる通り、週休を3日とするか従来通り2日とするかは従業員が選択することができます。

選択的週休3日制には大きく分けて3パターンあり(パターンについては後述)、導入する企業によってどのパターンを選ぶかは異なりますが、何れのパターンであっても従業員が利用するか否かを選択できるため、例えば会社側が週休3日を強いることで、望まない従業員に対しても強制的に給与を減少するなどの対応はできません。

背景

「週休3日制」については、数年前から先進国で導入が検討されており、アイスランド(※1)やスウェーデン、スペインなどで試験的に導入されるほか、日本においても日本マイクロソフトやみずほFG、ファーストリテイリングなどの大手企業が試験的に導入若しくは導入を開始しています。

日本政府はなかでも「選択的週休3日制」を推進しており、4月に行われた令和3年第4階経済財政諮問会議においては「人材への投資」に対する施策のひとつとして挙げられ(※2)、その後6月に閣議決定された「骨太の方針」にも盛り込まれました(※3)。

経済財政諮問会議では、ヒューマン・ニューディール政策(人材への投資)に関する議題の中で、「成長性の高い分野への人材の円滑な移動の促進」をはかるべく、従業員のリカレント教育・学び直し(リスキリング)への支援を強化すべきであると述べられています。

そのための施策のひとつとして、「選択的週休3日制」が挙げられており、従業員が働きながら学ぶことができるような体制を整えていくべきとされました。

冒頭で、完全週休2日制も十分に実現していない中、政府が選択的週休3日制を骨太の方針に盛り込んだと述べましたが、これは上述の通り政府がこの制度を推し進める意図が単なる休日の増加に限らないためです。

日本は現在生産労働人口が減少の一途を辿っています。特にIT人材は顕著に不足しており、2030年には45万人の人材不足になると予想されています(※4)。

不足した労働力を補うには、働き手自体を増やすような取り組みに加えて、労働者・労働自体の質を上げることで生産性を向上させていく必要があり、労働者の質を高めるためには従業員のリカレント教育が不可欠です。

そこで、希望する従業員について週あたり1日多く休みを与えることができる選択制週休3日制を普及させ、従業員に学び直してもらおうというのが政府の狙いとしてあります。

なお、既に導入している企業があることからもわかる通り、週休3日制は日本においても現行法(労働基準法など)を変更することなく導入が可能です。
※後述の3種全てのパターンにおいて共通。

※1 アイスランドで週休3日の実験…生産性の低下は見られず、幸福度が向上
    アイスランドでは、生産年齢人口の約1%を対象に4年に渡る実験を2回実施し、何れも生産性の低下は見られず、幸福度が上昇したという結果が出ている。
※2 内閣府・令和3年第4回経済財政諮問会議
※3 内閣府・経済財政運営と改革の基本方針2021
  「選択的週休3日制度について、育児・介護・ボランティアでの活用、地方兼業での活用などが考えられることから、好事例の収集・提供等により企業における導入を促し、普及を図る。」
※4 みずほ情報総研株式会社・IT 人材需給に関する調査(経済産業省委託事業)

種類

選択的週休3日制は、労働時間・給与・生産性という3点をどう変更または維持するかにより、大きく分けて以下の3種類のケースに分類されます。 

ケース①:所定労働時間自体を減らすが、給与は変更しない形
ケース②:所定労働時間自体を減らし、その分の給与を減らす形
ケース③:休日を増やすが所定労働時間は変更せず、給与も変更しない形

週休3日制種類 - 【解説】「選択的週休3日制」とは?注目される背景、メリット・デメリットについても解説

ケース①:所定労働時間自体を減らすが、給与は変更しない形

一つ目は、週休2日の場合の所定労働時間から、新たに休日とする1日分の労働時間を減らす一方で、給与自体は週休2日の際から変更しない(減額することなく支払う)という形です。

実質的に、労働時間に対する給与があがることとなりますが、裏を返せば週休2日の際と比較し業務量は減らない場合が多いと考えられますので、休日を1日増やしても仕事が終わるよう、出勤する4日間の労働生産性を向上させる必要があります。

ケース②:所定労働時間自体を減らし、その分の給与を減らす形

二つ目は、週休2日の場合の所定労働時間よりも、新たに休日とする1日分の労働時間を減らした上で、給与も1日分減額するという形です。

この場合は、労働時間に対する給与の額も変わりませんので、業務量も同様に1日分にあたる程度減らせるよう企業内で調整することができなければ、従業員のメリットにはつながらず、寧ろ残業が増えてしまうなどのデメリットを生んでしまう可能性があります。

ケース③:休日を増やすが所定労働時間は変更せず、給与も変更しない形

三つめは、1日の勤務時間を8時間から10時間に変更するなど、所定労働時間を週休2日の場合と変わらず保ち、給与も変更しないという形です。

例えば1日8時間、週40時間を労働時間と定めている企業の場合は、週休2日の際は週40時間=1日8時間×5日だった勤務形態から、1日10時間×4日にすることで、週の労働時間は変更せずに週休を増やす形です。

1日あたり2時間の時間外労働が発生することとなりますが、変形労働時間制(労働基準法第32条)を利用することで現行法下でも選択可能です。

メリット

選択的週休3日制は、前章で紹介した3つの何れのパターンであれ、「休日が増える」「週休3日とするか否かは選択できる」という点から、従業員にとってはメリットのイメージがつきやすい制度かと思いますが、具体的には次のようなメリットがあります。

従業員のスキルアップ・生産性向上につながる

週休3日とすることにより、従業員は休日を利用して学び直しに取り組んだり、プライベートを充実させたりすることができます。

自己研鑽によるスキルアップや、休日にリフレッシュすることによる出勤日の集中力の向上など、従業員一人一人の生産性の向上が見込めるため、企業にとってもメリットとなります。

ワークライフバランスの向上につながる

休日が1日増えることにより、従業員は自由に使える日が増加します。

所定労働時間を変更しないパターン③の制度では、代わりに他の勤務日の自由時間が減ることにはなりますが、丸1日空く日を作ることでできるようになることは少なくありません。

選択的週休3日制では、週休2日のままという選択もできるため、従業員は自身の生活スタイルに合わせた働き方を選ぶことができます。

働き方の選択肢を増やすことでワークライフバランスを向上させることにつながり、また、テレワークやフレックスタイム制などと併用することで更に従業員が柔軟な働き方ができるようになり、よりワークライフバランスの向上が見込めます。

離職者の減少につながる

休日が1日増えることにより、例えば育児や介護のために離職を検討していたり、定年を迎え自身の時間も確保したいと考えていたりする従業員など、週休3日であれば無理なく働けるという従業員が、離職せずに勤務を続けてくれる可能性があります。

この場合は所定労働時間を変更しないパターン③の制度では離職防止効果としては薄い可能性が高く、また生産性向上を期待する(業務量と給与を保つ)パターン①も、場合によっては残業が増えてしまう可能性などが考えられるため、業務量自体を減らすパターン②がメリットを享受しやすいかもしれません(勿論場合によりけりであり、人によっては給与が減少するのは望ましくないということもあるでしょう)。

また、ワークライフバランス向上への期待と同様、テレワークやフレックスタイム制などと併用することで離職者数の減少もより見込めます。

優秀な人材の確保につながる

冒頭でも紹介した通り、現状では完全週休2日制より休日数が実質的に多い企業は8%程度に留まるため、選択制週休3日制を採用していることを求人等で外部にアピールすることで、優秀な人材を確保しやすくなる可能性があります。

また、前項のように、現時点で既に週休2日では働き続けることが困難若しくは自身のワークライフバランスと合致しないと考えている従業員の離職を防止するほか、現在は週休2日でも問題なく働けるという従業員に対しても、柔軟な働き方を選択できる企業であるという点は離職防止となり得ます。

感染症対策につながる

とりわけ昨今の状況においては、従業員の出社日数を週5日から4日に変更可能とすることで、感染拡大のリスクを軽減することができます。

テレワークが可能な業種や業務、企業ではテレワークの選択が最善ですが、テレワークは難しいものの、選択的週休3日であれば導入可能という企業においては、導入することで感染症対策につながります。

デメリット

選択的週休3日制は以上のようにメリットの多い制度ですが、一方でデメリットとなりうる点もあるため以下の通り紹介します。

業務が停滞したり残業が増加したりする可能性がある

週休3日にする(勤務日が1日減る)ことにより、業務が今まで通り回らなくなる可能性があります。

週休3日を希望する従業員が多かったり、週休を増やした分を補うだけのパフォーマンスの向上を図れなかったりすることにより、仕事の期日超過や、勤務日の残業の増加などが発生してしまう可能性があるほか、場合によっては増員も検討する必要も出てくるかもしれません。

さらには、従業員間(特に週休3日を選択している従業員と選択していない従業員間)で負担の量に差が出てくる可能性も考えられ、実質的な待遇の差を生むことにつながり兼ねないという懸念がある点もデメリットといえます。

勤怠・給与管理が煩雑化する

選択的週休3日制を導入した場合、週休2日の従業員と3日の従業員が混在することになるため、勤怠や給与計算等の管理が煩雑化します。

企業によっては制度構築・運用・管理を行う上で多大なコストがかかってしまい人事労務等特定の担当者の負担が増加する可能性があり、この点からも部署間・従業員間の負担量の差につながる恐れがあります。

ビジネス機会の損失につながる可能性がある

週休3日とすることで、社外とのコミュニケーションが減少し、結果としてビジネス機会の損失につながる可能性があります。

特に全従業員一律で休日を設けている企業においては週の休業日が増えることになるため、スムーズな対応が求められる対外コミュニケーションにおいて大きな障害となり得るかもしれません。

種類によっては給与が減少し、それに伴い年金等も減少する

また、従業員にとってのデメリットとして、所定労働時間と共に給与も減少するパターン②の場合、給与の減少に付随して将来受け取ることのできる年金の金額も減少することになります。

パターン②の選択的週休3日制を導入する場合は、従業員に制度の内容と影響等を充分に説明してから選択してもらう必要があります。

まとめ

選択的週休3日制は、「休日の日数を従業員が選択することができる」という点ではメリットが大きく働き方改革との親和性も高い制度ですが、残業が常態化している企業においては実質的には従業員の負担が増加するだけになってしまう可能性があったり、制度の種類によっては従業員の希望に沿う形ではなく導入してみたものの利用者が全くいなかったりなど、デメリットとなり得る側面も持ち合わせている制度です。

政府も推進している選択的週休3日制ですが、政府が推進しているからと付け焼き刃的に導入を進めるのではなく、自社の業務の状況、従業員の性質や希望などを把握し、選択的週休3日制を導入すべきか(体制が整っているか)、どのパターンで導入するかなどを十分に検討してから導入することが望ましいです。

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働き方改革サポ編集部
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